魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero-   作:炎狼

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Kristall;18

 クロエの特訓が始まったのと時を同じくして、ヴィヴィオ達の特訓も始まっていた。

 

 ヴィヴィオにはノーヴェ、コロナにはオットー、リオにはディードがコーチとしてつく形で、内容としては特技を強化するという鍛錬だ。

 

 だが、ただ特訓をするというわけではなく、彼女達の特訓には魔力負荷という、魔力を伸ばすための基礎固めも盛り込まれていた。

 

 アインハルトはと言うと八神家の面々に作ってもらった愛機であるアスティオンを携えて、ミカヤとのスパーリングを行っていた。

 

 そして特訓が始まった日の休憩時間、ノーヴェがヴィヴィオに問うた。

 

「なぁ、ヴィヴィオ。クロエのコーチってシグナムさんと、リインらしいけど、あいつどんな様子だ?」

 

「うーん、いつもとは変わらない様子だけど。なんていうか、すごい傷だらけの時があるよ。絆創膏とかテーピングとか包帯も巻いてたし」

 

「それだけ聞くと体壊しそうな感じもするが。あいつ自身は辛そうではないんだろ?」

 

「うん。特訓が終わった後もうちの庭でその日のうちに復習をしてるし、私とのトレーニングも付き合ってくれるよ。あと、すごい楽しそう」

 

「ならよかった。まぁでもシグナムさんがコーチしてくれるんだから、間違いはないだろうな」

 

「あ、それパパも言ってたよー」

 

 二人は休憩時間中にそんな他愛のないことを話しながら過ごしていた。

 

 

 

 

 

 所変わってクロエとシグナムの鍛錬場では……。

 

「ハッ!!」

 

「くぅ……!?」

 

 シグナムの斬撃を真正面から受け止め、大きく後退させられたクロエが苦しげな声を上げる。

 

 ……あぶなかったぁ。あと数瞬判断が遅れてたら防御の上から崩されてた。

 

 背筋を伝う冷や汗に体を震わせるクロエであるが、シグナムはそんなことお構いなしに攻め込んでくる。

 

「考え込むなクロエ。まだ終わりではないぞ」

 

「ッ!」

 

 冷徹な声が聞こえ、クロエがそちらに目を向けると、シグナムが背後に移動しており、レヴァンティンが顔面に向けて迫っていた。

 

 瞬間的に判断し、クロエは自分の腕の周りを瞬時に凍結させ、レヴァンティンの刃を氷の上を滑らせるようにして回避した。

 

 ガリガリと氷を削りながらレヴァンティンが振りぬかれる。何とか身体へのダメージを免れたと思ったのも束の間、圧倒的な威圧感、もとい殺気が飛んできた。

 

 そして次の瞬間、クロエの腹部に鈍痛が走った。

 

 視線だけを向けると、へその位置にシグナムの足が叩き込まれていた。見えたのは一瞬で、クロエの体は浮き上がり空中で一回転した。

 

 かなりのダメージであったはずだが、クロエの瞳に宿った闘志は消えていない。鈍痛に顔を歪ませながらも空中で態勢を整える。

 

 腕と足を使って着地時にブレーキをかけると、今度は魔力を込めて一気にダッシュ。

 

 ……今の私じゃシグナムさんとの差は歴然。私の方がはるかに劣ってる。

 

 分かりきっていることだ。あちらは現職の管理局の局員。そしてヴォルケンリッターの烈火の将だ。

 

 けれど、クロエは諦めない。もう迷いはないし、不安もない。あるのは、相手に勝つというただその一つの感情のみ。

 

 ……劣っているなら全霊を持って喰らいつけ! 持てる全ての力をかき集めろ!

 

絶零之(アブソリュート)……!!」

 

 自分を内側から鼓舞しながら、クロエは腕に魔力を溜める。今行っているのは、別に負けてもいい鍛錬であり、特訓だ。負けたところでシグナムや聖だって文句を言ったり、責めたりはしない。

 

 けれど、たかが訓練、たかが鍛錬と考えたくはなかった。クロエにとってこれは純然たる勝負なのだ。

 

 だからクロエは負けたくない。

 

宝拳(フラガラッハ)ッ!!」

 

 クロエは全力で、シグナムに向かって拳を放った。

 

 

 

 こちらに迫るクロエの様子を見ながらシグナムは内心で笑みを浮かべていた。

 

「蹴りが入る瞬間、殺気を感じ取って薄いながらもシールドを張ったか」

 

 シグナムはクロエが着実に成長していることを感じていた。ヴィヴィオ達よりも早く始めたこの特訓であるが、クロエは明らかに成長している。

 

 初日では受けきれなかった攻撃も今では難なく受けきるようになったし、先ほどの防御の判断も見事だった。

 

 ……これが聖の言っていたクロエの異常な成長速度か。

 

 特訓の話を聖から承諾する際、シグナムはクロエの成長の速さを彼から知らされていた。最初は半信半疑であったが、この数日の間の鍛錬でそれは確信へと変わった。

 

 クロエは確かに成長している。それも常人の何倍もの速さでだ。戦闘中でさえもそれは同じで、戦闘しながらも学習し、成長を続ける。

 

 だが、去年会った時はここまでではなかった。恐らくオフトレツアーで自分の力に自信が着いたのだろう。そして零王の力も自分のものとするため、彼女は恐怖や不安を投げ捨てた。

 

 戦闘中でもわかるが、戦闘中の彼女からは「不安」や「恐怖」という負の感情ではなく、相手に「勝つ」という純粋な気持ちが伝わってくる。

 

「なればこそ、私も全力で答えてやるのが筋か……!」

 

 眼前のクロエは拳に魔力を溜めている。シグナムもレヴァンティンを一度鞘に納めると、小さく息をつく。

 

「絶零之宝拳ッ!!」

 

 放たれた拳には絶対零度の冷気が宿り、全てを凍てつかせようとしている。だからシグナムもそれに答える、凍結ではなく、炎熱という炎の力で。

 

「紫電一閃ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 午後八時、ノーヴェとの特訓を終えたヴィヴィオは、疲れきった様子で帰宅した。

 

「た……だいまぁ…………」

 

「おかえりー。あらら、ヴィヴィオもまた随分とお疲れのご様子で」

 

 夕食の準備をしていたであろうなのはが出てきた。

 

「う、うん。ちょっと特訓で……。あれママ、今「も」って言ってたけど」

 

「あぁ、それはね」

 

 ヴィヴィオはなのはに招かれ、リビングへと足を運ぶ。なのはが口の前で人差し指を立てたので静かに移動すると、リビングのソファで寝間着姿のクロエがゆっくりと寝息を立てていた。

 

「一時間くらい前に帰ってきてね。お風呂から上がってきたら、十分もしないうちに寝ちゃったんだ。今日の鍛錬は特に大変だったみたい」

 

「シグナムさんとの特訓って一体どんな風なのかな」

 

「聖くんが言うにはほぼ実戦だって言ってたよ。けど、大変そうに見えるけどクロエの顔見てみて」

 

 なのはにいわれ、ヴィヴィオがクロエの顔を覗き込むと、彼女は眠りながらも微笑を浮かべていた。楽しげとも取れるし、満足げともとれる笑顔だった。

 

「どんなに疲れても、叩きのめされてもクロエは楽しいみたいだね。自分がどんどん強くなっていくのが」

 

「強くなっていく……」

 

「うん。だからヴィヴィオも頑張ってね。ボヤボヤしてると、クロエに置いて行かれちゃうぞー」

 

「うん、頑張る!」

 

 なのはに言われヴィヴィオは思わず大きな声を出してしまった。すると、それで目が覚めたのかクロエが目を擦りながら大きく伸びをした。

 

「くぁ~……ッ!? あ、足つった!」

 

 寝ぼけ声を上げたのも束の間、クロエは悲鳴にも似た声を上げた。

 

「いだだだだだだ!! な、なのはさん、助けてくださ……あ、ヴィヴィオおかえりィィィィィィ!?」

 

「は、はい。ただいまです。ってそれどころじゃないですよクロエさん! 大丈夫ですか!」

 

「へ、へーきへーき。ちょっとふくらはぎに激痛が走ってるだけだからァァァァァァ!?」

 

「全然平気そうに見えないです! なのはママー!」

 

「えっと足がつったときの対処法は確か……お兄ちゃんが言ってたのはこう!」

 

「アガアアアアアアア!? なのはさん、ちょっとなんか違う気がします! 痛みが強くなってますってば!」

 

「あれ、こっちじゃなかったかな……」

 

 足がつったクロエはその後なのはに対処してもらったが、元に戻るには二分ほどかかった。

 

 

 

「っていうことがさっきあったんですよ。アインハルトさん」

 

『なるほど……クロエさんも大変でしたね』

 

 バスルームにてヴィヴィオはサウンドオンリーの状態で、アインハルト、コロナ、リオと話していた。

 

『でも帰ってきたらすぐ寝ちゃうような特訓ってすごいなぁ』

 

『クロエさん、相当頑張ってるみたいだねぇ。これは私たちも負けてられないよ!』

 

「うん! 私たちもしっかり特訓で鍛えて、皆を驚かせちゃおう! あ、そういえばアインハルトさんはスパーをやってるって聞きましたけどどうでした?」

 

『悔しいですが、こちらもだいぶボロボロにされてしまいました』

 

『にゃーん』

 

 ヴィヴィオは「うん?」と思った。アインハルトの声に続いて猫のような声が聞こえたような気がしたのだ。

 

『え、相手の方ってそんなに強いんですか?』

 

『はい。なんといってもあのミカヤさんでしからね。実戦であれば今日だけで二十回は死んでいます。けれど、音を上げて入られません。ミカヤさん以外にもスパーリングをたくさん組んでいただいているので』

 

『にゃ!』

 

 やはり聞き間違いではない。明らかにアインハルトの回線から猫の声が聞こえる。

 

『やっぱりアインハルトさんもあのリストバンドしてるんですか?』

 

『ええ、なかなか大変ですが……』

 

『にゃーん』

 

「あのぅ、アインハルトさん? さっきから猫の声が……」

 

 ヴィヴィオが思い切って聞いてみると、アインハルトの少し焦ったような声が返ってくる。

 

『ああ、これはその……詳しい話は明日の練習会でお話します』

 

 と、アインハルトに言われたので、ヴィヴィオもそれ以上は追及せずに話題を変えた。

 

 三人との通信を切ってから風呂から上がると、食卓には料理が並べられていた。クロエがなのはを手伝っていたらしい。

 

 それぞれの席の前に料理が置かれたところで、なのはが満足げに頷いた。

 

「よし。それじゃあママ特製「疲労回復 明日も頑張ろう!」メニューを食べて、エネルギーを補給!」

 

「わーい!」

 

「いつ見てもなのはさんの料理は美味しそうですよねぇ。それじゃあ、いただきまーす」

 

「いただきまーす!」

 

 クロエに続いてヴィヴィオも手を合わせてから夕食を食べ始める。しばらくは自分の特訓のことばかりをクロエやなのはに話していたヴィヴィオであるが、クロエの特訓のことも聞いてみることにした。

 

「クロエさんの特訓はどんな感じなんですか? ママからはちょっと聞きましたけど」

 

「うーん、なのはさんから聞いたとおりそのまんまだよ。シグナムさんとひたすら戦いまくるんだよ。勿論休憩を挟みながらだけど、ここをこうしたらいいっていうのは自分で見つけ出す感じ」

 

「なるほど。普通のスパーリングとは違うんですよね?」

 

「そそ。限り無く実戦に近いね。もしアレが本気の戦いだったら、今日だけで三十回……いや、四十五回近くは死んでるねー。防げたとしてもシールドの上から切り崩されるし、炎を凍らせようとしても今の私じゃ技量不足……まだまだ課題はあるね。でも、やってて楽しいよ。それにリインとも相談して新しい魔法も作り始めてるし」

 

「へー! 新しい魔法ってどんなのですか?」

 

「それはヒミツー。出した時のお楽しみってヤツだよ」

 

 クロエはフフンと笑みを浮かべる。その表情はどこか自信に満ちている。が、そこで思い出したように「あ、そうだ」と声を上げた。

 

「特訓の休憩中になのはさんとシグナムさんの試合の映像見ましたよ!」

 

「ぶっ!?」

 

 クロエの一言になのはが食べかけていたご飯を吹きそうになっていた。何度か咳ごんだあと、なのはは恐る恐るという感じで問うた。

 

「え、えっとクロエ。それってもしかして本局の……」

 

「はい。本局の戦技披露会で二人が戦ったやつです。すごかったですねぇ、あれ。二人とも表情が鬼気迫ってましたし……まさに血戦ってやつ」

 

「はいクロエーちょっと待とうかー!」

 

 なのはがクロエの言葉を途中で切った。言われたくない事でもあるのだろうか。

 

「どうしたのなのはママ」

 

「うーうん! なんでも、なんでもないよー。ただちょっとヴィヴィオには早いか持って思っただけだから!」

 

 アハハハと渇いた笑いを漏らしながらなのはは「さ、早く食べないと冷めちゃうよー」と夕食を食べるように促した。

 

 若干釈然としない気もしたが、せっかくなのはが作ってくれたのだから、暖かいうちに食べないといけないと思い、ヴィヴィオは食事を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新暦89年度。

 

 第27回インターミドルチャンピオンシップ参加申請締め切り終了。

 

 選手達の今年を決める地区予選開始まであと僅か――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インターミドルの参加申請が締め切られてからしばらくして、地区予選の組み合わせの発表がそれぞれの選手へ向けて配られた。

 

 ダールグリュン邸でも、ヴィクトーリアの執事であるエドガーが、トレーニングをしている彼女にそれを知らせていた。

 

「お嬢様は地区予選6組、エリートシード枠第1枠となります」

 

「そう。ジークは出ているの? あとあの不良娘とクロエは?」

 

「ジークリンデ様は去年途中欠場されていますから、エクストラシードではありませんが、予選1組の第1枠でしたよ」

 

「今年もちゃんと出るのならいいわ。あの子はあの子で色々と心配だったから」

 

 ジークリンデの名前を聞いたヴィクトーリアは頬を綻ばせて柔らかい表情を見せた。

 

「ハリー選手は5組となっていますね」

 

「よぉし、ちゃんと出てるのね! あのポンコツ不良娘との決着は都市本戦でつけるわよ!」

 

「勝ち抜かなければ行けませんねぇ」

 

 グッと拳に力を入れるヴィクトーリアは、続けてエドガーに問うた。

 

「それでクロエはどうなの?」

 

「クロエ様は3組ですね。ただ、クロエ様の場合選考会もありますので、まだどうなるかはわかりません」

 

「そう。あの家出娘がどれほどの実力なのか、この目で見極めて差し上げますわ」

 

「あまり怖がらせないようにしてくださいね。しばらく会っていないのですし」

 

「わかってますわ」

 

 ヴィクトーリアはスポーツドリンクで水分を補給してから再びトレーニングに入った。

 

 

 

 

 

「ふあっくしょい!」

 

「わひゃ! 大丈夫ですか、クロエさん」

 

 いつもの鍛錬上でクロエは大きなくしゃみをした。それを間近で聞いていたのは、シグナムではなくリインだ。

 

 今日の特訓はシグナムとの実戦鍛錬ではなく、リインとの魔法鍛錬であるためだ。

 

「大丈夫です。それで私は何組でしたっけ」

 

「はい、3組ですね。チームナカジマの子達やミウラとは当たることはないです。順当に進むことが出来れば、都市本戦も夢じゃないですよ!」

 

「だといいんですけどねぇ」

 

 ややホッとした様子のクロエは、胸を撫で下ろす。リインに渡された紙を見ても、3組は他と比べると激戦区というわけではなさそうだ。

 

「あぁ、コロナとアインハルトが同じ組なんだ。同門対決ですね」

 

「はい。それに1組にはエレミア選手もいますし、かなりの激戦区になりそうです。ミウラは4組なのでヴィヴィオと当たっちゃいますね」

 

「なるほど。まぁでも都市本戦を目指すならこういうことはありますよね。けど、気を抜かずに引き締めないと。あ、そうだ。リインさん、ヴィクトーリア・ダールグリュンは何組ですか?」

 

「ヴィクトーリア選手ですか? 予選6組のエリートシード第1枠ですね。ヴィクトーリア選手といえば雷帝のダールグリュンの血族とのことですが……クロエさん、なにか気になることでも?」

 

「すこしですけどね。そっか、ヴィクターは6組か……」

 

 リインにも聞こえない声でクロエは呟く。その様子は先ほどよりも更に安堵した様子だった。

 

 ……できれば会いたくないなぁ。絶対なんか言われる。

 

 虚空を見上げるクロエはなんともいえない表情をしていた。

 

「さて、予選の組み分けも分かったことですし。午前中は明日の選考会に向けて魔法鍛錬をしっかりやって、午後からのシグナムとの戦技鍛錬もがんばっていきましょう!」

 

「了解です! よろしくお願いします」

 

 クロエは先ほどの空気を振り払ってリインとの魔法鍛錬に向けて気を引き締めた。明日はいよいよ選考会だ。予選ではないものの、しっかりと実力を出さなければならない。

 

 その後、クロエはリイン指導の下、氷結の力で自身がまだ理解できていなかったことを再確認し、氷の魔法に磨きをかけて行った。

 

 午後からはシグナムも合流し、明日の選考会へ向けた追い込みが始まった。とは言っても、予選開始まではまだ時間があるので、最後というわけではないのだが。

 

 

 

 

 夕刻、普段は夜まで行うシグナムによる特訓は早めに切り上げられた。

 

「明日は選考会だ。今日はここまでにして、ゆっくり休むようにな」

 

「はい。ありがとうございます、シグナムさん」

 

 頭を下げると、シグナムは被りを振った。

 

「なに、感謝されるほどのことはしていないよ。それと明日は私もリインも仕事が入ってしまっているからついて行くことはできない。ノーヴェにはもう話してあるから、明日は彼女達と一緒に行動するといい。セコンドはいないが大丈夫か?」

 

「はい。大丈夫です。そうだ、二人に見せたいものがあるんですけど、見てもらっても良いですか? あと、このことは師匠にも誰にも言わないでください。驚かせたいんで」

 

 クロエの言葉にリインとシグナムはそれぞれ顔を見合わせたが、すぐに頷いた。二人の反応を見たクロエは、少し距離を取ってからフリーレンに告げた。

 

「それじゃあやるよ、フリーレン」

 

〈了解しました〉

 

 フリーレンが一度光ると、クロエを中心に魔法陣が展開。既にバリアジャケットを纏っている状態なので、シグナムとリインは新しい魔法でも披露するのかと思っていた。しかし、魔法が放たれることはなく、クロエの体が光に包まれた。

 

 全身を覆う蒼銀の光はやがて球体になりクロエの体を覆い隠した。そしてクロエの体が完全に包まれた瞬間、光がはじけてクロエの姿が露になる。

 

 同時に強い冷気が飛んできた。二人はそれに顔をしかめながらもクロエの姿を見る。

 

「シグナム、これは……」

 

「ああ。これは流石に予想していなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、クロエ達はインターミドルチャンピオンシップ、ミッドチルダ地区選考会第一会場へやってきた。

 

 会場には既に多くの選手を含め、観客の姿も見受けられ、選手達はアリーナでストレッチ運動などもしている。

 

「相変わらずすごい人。去年よりも増えてるかも」

 

「これ全部選手なんですよね、クロエさん」

 

「うん。リングの近くでストレッチしてるのは言わずもがなだけど、観客席にもいるだろうね。ほかにもエリートクラスの選手が見に来てることもあるんだよー」

 

「それじゃあ上位選手と会えたりもするんですか?」

 

「もちろん」

 

「まぁ上位選手もルーキーがいないか探りに来てるんだろうな。っと、そろそろ参加セレモニーが始まるから、整列しとけよ」

 

「私たちは席にいるからねー」

 

 ディエチとノーヴェが戻ったところで、クロエ達はセレモニーに参加するためにアリーナに設置されているリングの上に整列した。

 

 そして集まった選手に対し、去年の都市本戦ベスト10選手である、エルス・タスミンが選手全員に激励の言葉を贈った。

 

 セレモニーが終わると、いよいよ選考試合が始まった。各リングでは試合が始まっているところもある。

 

 そんな中、クロエはノーヴェと歩きながら観客席をきょろきょろと見回していた。

 

「誰か探してんのか? 聖さんはまだ帰って来てないだろ」

 

「うん。もう少しかかるって言ってたからね。私が探してるのは別の人。まぁいないならいないでいいんだけどさ……」

 

「なんだそりゃ」

 

 ノーヴェが呆れていると、不意に彼女の名を呼ぶ人物が先に見えた。

 

 声のしたほうを見ると、八神家の一人であり、ヴォルケンリッターのザフィーラがいた。

 

 二人で彼の下へいくと、ザフィーラはいつもの落ち着いた様子で告げてきた。

 

「いよいよ選考会も始まったな」

 

「ああ、ホントに」

 

「クロエも準備はできているのか? シグナムとリインから聞いた話では、かなり強くなったと聞いたが」

 

「もちろん、準備万端だよ。ザフィーラ」

 

 ちなみに、クロエがザフィーラのことを呼びすてにしているのは、彼が敬語はいらないといってくれたからだ。

 

 すると、背後からヴィヴィオの声が聞こえた。後ろを見ると、ザフィーラに気が付いた様子で、小走りに駆けてくる彼女の姿があった。

 

「ザフィーラ、久しぶりー!」

 

「ああ。ちょうどいい、ヴィヴィオにはまだミウラを正式に紹介したことはなかったな。ミウラ!」

 

 ザフィーラが振り返りながら呼ぶと、荷物を整理していた星のマークが入ったジャージ姿の少女、ミウラ・リナルディが返事をしてから駆けてきた。

 

 途中でクロエの姿にも気がついたようで、頬を綻ばせる。

 

「クロエさん。しばらくですー」

 

「やっほー、ミウラ。元気そうだねー」

 

「はい。あ、すみません。ヴィヴィオさんですよね。はじめまして、ミウラ・リナルディですー」

 

「はじめまして。お噂はザフィーラやクロエさんからも聞いてますー」

 

 二人は子供らしからぬ挨拶を交わしている。子供が「お噂は」とかいうのだろうか。まぁ真面目なヴィヴィオだからと言ってしまえばそれで落ち着くのだろうが。

 

 二人のやり取りをそばで見ていると「クロ!」と観客席から自分のあだ名を呼ぶ声が聞こえた。見あげると、そこには陸士訓練校時代にルームメイトだったアリーシャが手を振っていた。

 

「アリサ!」

 

「おひさー。まだ選考試合始まってないの?」

 

「うん。これからだよー」

 

「よかったー間に合って。ちょうど今日お休みだったから、クロなら来てるだろうなって思って応援に来たよー」

 

「そうなんだ。ありがと、アリサ」

 

「いいっていいって。じゃあ私、この辺りで見てるから、終わったら久々にどっか食べに行かない?」

 

「あー……えっとぉ……」

 

 クロエが言いよどんでいると、ノーヴェが軽く背中を押して肩を竦めた。

 

「行って来いよ。なのはさんやフェイトさんにはあたしが言っといてやっから」

 

「ノーヴェ……。うん、ありがと! それじゃあアリサ、終わったら正面入り口で待ってて!」

 

「はいはーい。それじゃあまたね」

 

 アリーシャはヒラヒラと手を振ってから観客席へと戻っていった。すると、先ほどまで話していたヴィヴィオが問うてきた。

 

「今の人ってクロエさんが陸士訓練生だったころのお友達ですか?」

 

「うん。アリーシャ・ヴァイセンっていうの。本人はアリーシャってよばれるよりもアリサって呼ばれる方が好きなんだ。選考会が終わったら改めて紹介するよ」

 

「今はなにをされてるんですか?」

 

「確かミッドの陸士部隊に入隊してるはずだよ。どこだったかは覚えてないけどね」

 

 そこまで言ったところでアナウンスが入った。

 

『ゼッケン367・554の選手Cリングに向かってください』

 

 ゼッケン367はミウラだ。ついに呼ばれたことで、ミウラは緊張した様子を見せる。

 

「よ、呼ばれちゃいました。緊張してきました!」

 

「ミウラさんなら大丈夫ですよー」

 

「そうそう、肩の力を抜いて行けばミウラなら行けるって」

 

 などと言っていると再びアナウンスが入った。

 

『続いてゼッケン1066・1084の選手Eリングに向かってください』

 

「お、今度はヴィヴィオが呼ばれたね」

 

「ああ。それじゃあ行くぞ、ヴィヴィオ」

 

「はーい」

 

 ヴィヴィオはノーヴェと、ミウラはザフィーラと共にそれぞれ呼ばれたリングへと向かう。クロエは二人を見送った後どちらかについて行くべきだったかと思ったが、選考試合へ向けてストレッチをして体を解しておくことにした。

 

 しばらく体を曲げたり足を伸ばしたりしていると、『Eリング選考終了、勝者ゼッケン1066!』というアナウンスが聞こえてきた。

 

「お、ヴィヴィオ勝ったね。まぁ妥当だよねぇ」

 

 ストレッチを続けながらいると、ちょうどヴィヴィオがこちらに気が付いて駆けてきた。

 

「クロエさーん、勝ちました!」

 

「うん。聞いてたよ。勝利おめでとう」

 

 一度寝転がった後、体のバネだけで飛び起きたクロエは、彼女の頭を優しく撫でる。特にダメージもないようだったので、危なげのない勝利だったようだ。

 

『Eリングの準備が整いました。ゼッケン769・988の選手、リングへ向かってください』

 

「お、いよいよ私だ。それじゃあ行って来るよ」

 

「はい! 頑張ってください」

 

「落ち着いていけよー」

 

「わかってるって。おっと、忘れてた。ノーヴェ、フリーレン持ってて」

 

 Eリングへと向かいながらクロエはノーヴェにフリーレンを投げた。選考試合は魔法やデバイスを使ってはいけない決まりとなっている。持ち込めば失格もありうるので、ちゃんと渡しておかねば。

 

 リング近くまでやってきたクロエは、床を強めに蹴って階段を無視ししてリングに上がった。

 

「よっと」

 

 ちょうどその時、対戦相手であるゼッケン988の選手も上がってきた。武器を持っていないことからクロエと同じくインファイターであることがわかった。

 

 選手が出揃ったところで、再びアナウンスが入る。

 

『Eリング。スタンバイ・セット』

 

 アナウンスと同時にクロエと相手選手は同時に頭を下げる。そして二人が構えを取ってから数秒後……。

 

『レディ・ゴー』

 

 開始の宣言と共にゴングが鳴り響いた。

 

 瞬間、クロエが動き出す。態勢を低くした状態のままダッシュし、一気に相手に肉薄する。

 

 相手選手は一息の間に迫ってきたクロエにギョッとしながらも、カウンターを放ってきた。けれど残念ながらその速度は、シグナムと戦ってきたクロエの瞳には遅く写ってる。落ち着き払った状態で息をつくと、カウンターを避けきる。

 

 同時にカウンターの隙間をぬって、力をこめた右の拳を相手選手の顔面に叩き込んだ。

 

 相手選手はそのまま戦闘続行不可能となり、試合終了のゴングがなった。

 

『イ、Eリング選考終了。勝者……ゼッケン769』

 

「ありがとうございました」

 

 クロエはアナウンスを聞き終えたあと、対戦相手に頭を下げてから彼女の下に駆け寄って手を差し伸べて、彼女を立たせてからリングから降りた。

 

 リングから降りてノーヴェ達の下に戻ると、アインハルト達も合流しているところだった。

 

「おつかれー。皆終わったの?」

 

「はい! クロエさんも勝ってましたよね」

 

「うん。その様子だと、他の三人も勝ったみたいだね」

 

 クロエが言うと、アインハルトが頷き、リオとコロナは元気良く返事をした。

 

 選考試合が終わったので、五人はそれぞれ選考結果を待つこととなった。

 

 

 

 

 

「よーし、チームナカジマ全員とクロエの選考結果が出たぞー」

 

 選考試合から数十分後、未だ選考試合が行われている会場の端で、ノーヴェが黒江達の前に立った。

 

「喜んで良いぞー。四人纏めてスーパーノービスからのスタートだ」

 

「てことは一回勝てばエリートクラス行き!」

 

「いえーい! 凄い凄い!」

 

 四人はそれぞれ嬉しそうな様子で、アインハルトも表情が柔らかくなっている。

 

「初参加ならこれより上からのスタートはないから、最良のスタートを切った感じだな。んで、クロエは……」

 

 ノーヴェはクロエに向き直って真剣な表情になった。それを見たヴィヴィオ達も先ほどまでの表情が打って変って気を引き締めた表情を見せる。

 

 すると、ノーヴェがニッと笑みを見せてから告げてきた。

 

「クロエはエリートクラスからのスタートだ」

 

「エリートクラス……」

 

 クロエはノーヴェの言葉を繰り返すように呟いた。エリートクラスからのスタートと言うことにクロエは内心ではかなり喜んでいたが、驚きのほうが勝ってしまって表情には出せなかった。

 

 すると、そんな彼女の感情を代弁するように、ヴィヴィオ達が喜びをあらわにした。

 

「凄いですよ、クロエさん! 去年も出場したことを含めても、二回目の出場でエリートクラスにまであがれるなんて!」

 

「そうですよ! 凄いなぁ」

 

「そ、そういわれると照れちゃうなぁ。でもそうか、エリートクラスからスタートか……」

 

 感慨深げにクロエは呟く。

 

 思い返してみれば、一年前初参加したインターミドルかつては三回戦で止まってしまった。けれどクロエは聖と出会い、彼の弟子となってこの一年間、格闘戦技を学んできた。

 

 自身が零王という古代ベルカ時代を生きた王の末裔ということを知ったりもしたが、その力が覚醒したことによって、さらに力を伸ばすこともできた。

 

 だからクロエは改めてここで決意する。絶対に勝ち進んで、都市本戦に進むと。

 

「エリートクラス。絶対に勝ち進んで、都市本戦まで上がるよ」

 

「私たちも、クロエさんに負けないように頑張ります!」

 

「ええ。自分の力がどこまで通用するのか、私も頑張ります」

 

 ヴィヴィオとアインハルトの言葉に、クロエも頷くが、不意に彼女達の上、観客席から「ああっ! チャンピオン!?」という声が聞こえてきた。

 

 チャンピオンという言葉に、近くにいたクロエは勿論、そのほかの選手達も反応した。

 

「あ、ホントだ! 二階席のあそこ!」

 

 チームナカジマ内で最初にチャンピオンの姿に気付いたのが、コロナだった。彼女が指差した方向を見やると、そこには長い黒髪をツインテールにした少女がいた。

 

 彼女こそが現状時空世界で最強の十代女子を言われている、ジークリンデ・エレミアその人だ。

 

「しかもエレミア選手以外にも去年の都市本戦の三位、五位、八位の上位選手が揃ってるよ!」

 

「でも、なんでハリー選手達はバインドをされてるのかな?」

 

 ヴィヴィオは疑問を浮かべているものの、クロエはそれどころではなかった。ハリーと同じようにバインドをされている金髪の少女、ヴィクトーリア・ダールグリュンを見た瞬間、彼女は背筋が強張るのが感じた。

 

「クロエさん? どうかしましたか?」

 

 クロエの様子がおかしいことに気が付いたのか、アインハルトが小首をかしげる。

 

「い、いやぁちょっとお腹がいたくなったというか……気分が悪くなったといいましょうか……」

 

 だらだらと汗を流すクロエは、ゆっくりと後ずさる。

 

 ……じょ、冗談じゃないよ! なんでヴィクターがここにいるわけ!? ヴィクターは6組でしょ!

 

「ノ、ノーヴェ。私ちょっとトイレ行ってくるね。すぐ戻ってくるから」

 

「ん、おう」

 

「大丈夫ですか? 私も付き添った方が……」

 

「大丈夫大丈夫! しばらくすれば治るからさ」

 

 アインハルトの心配を振り切って、クロエはその場を離れ始めた。

 

 

 

 観客席でハリーと騒ぎを起してしまったヴィクトーリアは、エルスにバインドをかけられてしまった。

 

 自分達に大勢の視線が集まったこともわかってはいた。

 

 ……なるべく騒ぎを大きくしない方が良いかもしれないわね。

 

 ヴィクトーリアはエレミアのこともあるので、騒ぎを大きくしないようにバインドを千切ろうとした。

 

 が、その瞬間、彼女は自身の視線の端に見覚えのある人影が写ったのに気が付いた。

 

「まさか……」

 

「ヴィクター? どないしたん?」

 

 傍らにいるエレミアがヴィクトーリアの変化に気が付いて声をかけてきたが、彼女はそれに気が付かず、視界の端で動いた人影を視線で追った。

 

 そして、人影が確実に視界に入った瞬間、ヴィクトーリアはバインドを破って声を上げた。

 

「待ちなさい! クロエ・コキルトス!!」

 

 肺いっぱいに空気を吸い込んでから張り上げられた凛とした声に、その場にいた全員が固まった。

 

 同時にヴィクトーリアの視線の先で、蒼銀の髪の少女、クロエがビクゥッ! と体を震わせて立ち止まった。

 

 クロエが立ち止まったことを確認したヴィクトーリアは、そのまま観客席から飛び降りてアリーナに降立った。

 

「ちょ、ヴィクター!?」

 

「おいおいどうした、ヘンテコお嬢様! おかしくなっちまったのか?」

 

「黙っていなさい、ポンコツ不良娘。ジーク、私が戻るまではそこを動かないように」

 

「は、はいなー」

 

 妙な威圧感のヴィクトーリアに、エレミアは若干気圧されながらも従った。

 

 いきなりヴィクトーリアがアリーナに立ったことで、周囲の選手達が驚いた様子を見せるが、彼女はそんなこを一切気にせずに視線の先でゆっくりと振り返っているクロエの眼前にまで詰め寄った。

 

 ヴィクトーリアが目の前に立ったことで、クロエの全身からは汗が流れている。背丈的には年上であるヴィクトーリアの方が高い。

 

「ひ、久しぶり……ヴィクター……。げ、元気そうだねぇ」

 

 若干怯えた様子で言うクロエに対し、ヴィクトーリアは大きな溜息をついた。

 

「ええ、元気よ。でもわたしが元気がどうかはどうでもいいのよ。貴女には聞かないといけないことがたくさんあるのだから。さぁ、場所を変えてゆっくりとお話しましょうか。クロエ」

 

 ヴィクトーリアは固まっているクロエの背後に回ると、彼女の首根っこを掴んでズルズルと引き摺っていった。クロエは特に抵抗することもなく引き摺られていく。

 

 クロエを引き摺っていくヴィクトーリアの表情は怒っている様でもあったが、口元を見るとどこか嬉しげに笑っているようにも見える。




はい、お疲れ様です。
今回はやや駆け足気味でしたが、選考会の終わりまで書いてみました。

クロエはエリートクラスからのすたーとです。
シグナムとリインとの特訓が効きましたね。
というか、シグナムとの特訓がどう考えても殺し合いにしか見えない件について……。
ま、まぁ戦いながら学べってシグナム姐さん言ってましたからね。

クロエの新魔法的ななにかは地区予選三回戦とか四回戦とかで出せればと思います。

ヴィクターとクロエのやり取りはまた次回ですね。
過去も明かせていければと思います。ヴィクターはお姉さん気質というかオカン気質なので、面倒見が良さそうです。
恐らく子供の頃になんかあったんですよ……。
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