魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero-   作:炎狼

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Kristall;5

 空戦教導場の一角にて、拳がぶつかり合う重々しい音が鳴り響いていた。

 

 見ると、バリアジャケットを纏った聖とクロエが実戦形式の試合を行っていた。二人のてにはそれぞれの魔力光が煌めいており、魔力を帯びた拳で闘っていることがわかる。

 

「ハッ!」

 

 クロエは鋭い拳打を放ち、聖の肩口を狙う。けれど、聖はそれに難なく反応すると、肩口に魔力を集中させ、魔力で防御する。同時に彼は集めた魔力を瞬間的に放出する。

 

 それに気が付いたクロエは瞬時に腕を引き、距離を空けるが、聖はそれを見逃さずに足に魔力を移し変えて力強く踏み込むと、開いた距離を一気に詰め、右の拳を叩き込む。

 

 しかし、クロエも負けてはいない。今まで鍛えていた魔力運用を駆使して先ほど聖がやったように腹部に魔力を集中させてそれを防御した。だが、聖の拳はその程度では止められず、防御を貫いてきた。

 

「ッ!」

 

 叩き込まれた拳の痛みで思わず涙が出てくるが、クロエの闘争心が陰ることはない。ダメージ量で見てもまだ半分は残っている。だからこそ彼女はギチッと音がするまで歯を食いしばって震脚の要領で地面を蹴りつける。

 

 すると、右足の先、ちょうど聖の顎先の直下に魔法陣が浮かび、そこから氷柱が突き出した。

 

 ……これなら師匠だって……!

 

 氷が突き出す速度はシューターと変わらない。いくら聖が強くともこの距離で突き出す氷柱を防ぐことは出来ないはずだ。例え防いだとしても、ダメージは免れない。

 

 氷柱は真っ直ぐに聖の顎先に向かっていく。だが、直撃する直前になって氷柱が動きを止めた。何が起こったのかと、周囲を見ると、聖の足元にも魔法陣が浮かび上がり、そこから鎖状の魔力が伸びている。

 

「バインド……!」

 

「惜しかったな、クロエ。考えは面白いが、まだまだ経験不足だ」

 

 声がした瞬間、彼女は左脇腹に鈍痛が走るのを感じ、そちらを見ると黒いグリーヴに覆われた足が見えた。痛みの正体が聖の放った蹴りだと分かった時には、近くの廃ビルの壁に激突した。

 

 蹴られたわき腹を押さえつつ再び戦闘態勢を取るが、ライフポイントはレッドゾーンに突入している。それに引き換え聖のライフポイントは最初から対して変動していない。

 

 自分と聖のライフを見比べた後、クロエは静かに両手を上げて降参のポーズをとった。

 

「参りました」

 

「おう。それじゃあ昼飯がてら休憩するか。車から飯取ってくるから少し待ってな」

 

「はい」

 

 頷いて返したクロエは近場の瓦礫に腰かけ、ナックル状態になっているフリーレンに声をかける。

 

「鍛錬を始めてもう三ヶ月近くになるけど、一向に師匠にダメージを与えることが出来ないんだけど」

 

〈まぁ相手が相手ですからねぇ。ですが、クロエ様の魔力運用と、戦闘経験は上がってきていると思いますよ。先ほどの氷柱による攻撃など咄嗟にしてはよく出来ていました〉

 

「だったらいいんだけどなぁ。来週には訓練校も卒業だし、本格的な鍛練も始まるけど師匠に追い付けるかな?」

 

〈さすがに一年で追いつくのは無理でしょうが、何年も修行すればそれも出来るでしょう。相当な努力が必要となるでしょうが〉

 

「ダヨネー……」

 

 フリーレンの言葉に大きく溜息をついたクロエは口元に指を当てて考え込む。

 

「いっそのこと裏をかく戦法なんて……」

 

「そんなもん考えるだけ無駄だからやめとけ」

 

「うわぁ!?」

 

 唐突に声をかけられて思わず飛び上がってしまったが、背後を見るとバスケットを持った聖がいた。

 

「ず、随分早かったですね……」

 

「そんな離れてないからな。そんで、フリーレンと一緒に俺を倒す算段でもたててたのか?」

 

 バスケットを置いた聖が質問してきたのでクロエは苦笑いを浮かべた。

 

「別に気にしちゃいないさ。弟子として師匠を越えようと思うのは大切なことだ。でも、さっきの裏をかく戦法はあんましオススメしないな」

 

「え?」

 

「戦いなんてのは最終的には意志が強い方が勝つんだよ。相手を倒してみせるっていう意志の強さでな。勿論状況によってはそういう戦法もありだろうけど、そればっかり考えてちゃ簡単に打ち負かされる。だから、お前は勝つことだけ真っ直ぐに考えてればいいのさ」

 

「なるほど……」

 

 クロエは言われてなんとなくだが理解は出来た。確か父親であるエドワルドも似たようなことを言っていた気がする。

 

「わかりました。それでやってみます」

 

「分かってくれたようで何よりだ。まぁ多少脳筋の考え方かもしれんけど、そういうのも大切ってことを分かってくれればいいさ。さて、落ち着いたところで昼飯にしよう。今日はなのはが作ってくれたからうまいぞー」

 

 嬉しげに瞳を輝かせながら言う聖に続いて、クロエも苦笑しながらバスケットの中を覗き込んだ。バスケットの上段にはサンドイッチが綺麗に並べられ、下段にはおにぎりとおかずの類が詰められていた。

 

「そんじゃ、いただきます」

 

「いただきます」

 

 聖に続いて手を合わせて挨拶をした後、クロエもサンドイッチに手をのばして昼食を取り始めた。

 

 

 

 昼食を終えてお腹休めのティータイムに入っていると、「あ、忘れてた」と聖が思い出したように手を叩いた。

 

「クロエ。お前の鍛錬プランだけど、そろそろ魔力運用から本格的な武術関連に入って行こうと思ってる」

 

「武術ですか?」

 

「ああ。お前には俺が使ってる白雲流烈拳術を伝授する。学校を卒業したらだけどな」

 

 聖がそう告げたことにクロエは内心で感情が高ぶるのを感じた。なにせ憧れの対象である師匠があつかう武術を体得できるのだ。これ以上うれしいことはない。

 

「でもこれだけは覚えとけよ。鍛錬はこれからさらに過激になって行くから、きつい時は無理せずに言えよ」

 

「わかりました。それで、師匠! 師匠の使ってる武術が扱えれば大会でも勝ち進めますか?」

 

 緩みそうになる頬を引き締めながら問うと、聖は眉間に皺を寄せて難しい顔をした。

 

「さすがにその辺は個人の努力次第ってとこだな。でも、しっかりやれば今年よりは上に行けると思うぜ。だから、一緒にがんばっていこう」

 

 聖が言いながら拳を出してきたので、クロエもそれに答えるように彼の拳に自身の拳を合わせた。

 

「はい! これからもよろしくお願いします!!」

 

 彼女の元気な言葉に、聖も小さく笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 そして時は過ぎて一週間後、無事に第四陸士訓練校の卒業を迎えたクロエは寮の部屋で自分の荷物を纏めていた。

 

「あーあ、今日でクロエとお別れかー。また一人になっちゃうなぁ」

 

 椅子に座りながら言うのはルームメイトのアリーシャだ。けれど、その声に寂しさは見えない。

 

「お別れって言ってもいつでも連絡取り合えるじゃない。休日には遊べるでしょ?」

 

「そうだけどねぇ。ルームメイトとしては色々思うところがあるんですよこれが」

 

「ふぅん。そんなものなのかしらね。……よしっと。これで荷物は整理完了」

 

 キャリーバッグを閉めた後、自分が使っていた机とベッドを見やる。そこには既に何も残っていないが、これでこの部屋とお別れだと思うと感慨深いものがある。

 

 すると、フリーレンがメールの到着を知らせてきた。モニタを表示すると聖からだ。既に訓練校の正門に到着しているらしい。

 

「高町執務官から?」

 

「うん。もう校門前にいるって。それじゃあ待たせちゃ悪いからそろそろ行くわね」

 

 アリーシャに返答しつつ、キャリーバッグを持ちながら部屋を出ようとすると、アリーシャもついてきた。

 

「どうしたの? なんか言い残したことがある?」

 

「え、そういう反応!? 普通友達がこうして出てきたら見送りでしょ!?」

 

「冗談だってば」

 

 詰め寄ってくるアリーシャを宥めると、アリーシャも呆れた様子で小さく溜息をついた。

 

「まぁクロらしいと言えばらしいからいいけどさ。それじゃあ正門まで送っていくよ」

 

「ありがとう。アリサ」

 

 アリーシャに礼を言いながら歩き始めるものの、二人の間に会話は見られない。決して話すことがないわけではない。ましてや仲が悪いわけでもない。ただ、妙に会話が続かないのだ。

 

 そんなやり取りをしながら歩いていると、すぐに正門前にやってきてしまった。

 

「着いちゃったねぇ」

 

「そうね。もっと話が盛り上がるかなぁとも思ったけど……」

 

 肩を竦めながら言うと、アリーシャも同じだったようで、二人はどちらかともなく笑った。

 

「まぁそんな暗いお別れじゃないしね」

 

「だね。と言うわけで、クロ。今日までありがとう」

 

「こちらこそ。色々ありがとうね、アリサ」

 

 二人は互いに手を出すとごくごく自然な動きで握手した。それぞれの目には涙はなく、表情はとても明るい。

 

「私も残りのプログラムを一生懸命進めるから、クロもがんばってね」

 

「うん。来年のインターミドルまでにはもっと強くなって見せるわ!」

 

「その意気だね! 来年は私も見に行くから、成長した姿、見させてもらうよ?」

 

「いいわよ。アリサを驚かせてあげるからね」

 

 二人は互いを激励した後、握手していた手を離して、別れのハイタッチを交わし、クロエは聖の車に乗り込み、アリーシャは振り向かずに寮へと戻っていった。

 

「もっと話さなくてよかったのか?」

 

「いいんです。お互い伝えたいことは伝えましたし、何より二人ともしめっぽいのは嫌いなんです」

 

 そう言うと聖も納得したのか薄く笑みを浮かべて、車を発進させた。

 

 段々と小さくなる第四陸士訓練校を見やりながら、クロエは小さく頭を下げた。

 

 

 

 

 

 第四陸士訓練校から自宅に戻ってきた聖は玄関の前で小さく溜息をついた。

 

「そんなにガチゴチにならなくたって大丈夫だっての」

 

 そういう彼の視線の先には緊張で身体を硬直させ、まるでブリキの人形のような動きをしているクロエの姿があった。

 

「い、いえ。高町教導官とテスタロッサ執務官にお会いするのは初めてなので……」

 

「はやての時もそうだったけど、お前年上には結構弱いよね」

 

「上官に当たる人のご自宅に居候しようとしてるんですから、これぐらい当然れひゅ!」

 

 どうやら最後のほうで舌を噛んだらしく、クロエは口元を押さえた。そんな愛弟子の様子にやや呆れながらも聖は玄関を開ける。すると、クロエが瞬時に反応して一気に隣までやって来た。

 

「ただいまっと」

 

「おかえりー」

 

「パパおかえりー」

 

 聖の声に答えたのはなのはとヴィヴィオだ。それに頷いたあと、聖はクロエに手を向けた。

 

「この子が弟子のクロエだ。仲良くしてやってくれ、二人とも」

 

「く、クロエ・コキルトス二等陸士です! 高町執務官の弟子をさせてもらっています! これからよろしくお願いします!!」

 

 ガチガチになりながらもクロエはなんとか自己紹介を終えた。そんな彼女に対し、なのはは柔和な声音で答える。

 

「高町なのはです。こちらこそよろしくね、クロエちゃん。あぁそうだ、呼び方は好きにしていいからね。なのはさんでもいいよ」

 

「い、いえそんな……」

 

「本人がいいって言ってんだから気にすんな。それになのは的には階級呼びよりもそっちの方がいいんだろ?」

 

「うん。堅苦しすぎるのも疲れちゃうしね。だから、クロエちゃんが呼びやすい様に呼んでいいよ」

 

 優しい笑みを向けられたクロエは少しだけ緊張が解れたようで、なのはに向き合うと頭を下げた。

 

「では、これからよろしくお願いします。なのはさん」

 

「うん。こちらこそね。そしてこの子が娘のヴィヴィオです」

 

 なのはがヴィヴィオのほうに手を向けると、それに反応したヴィヴィオがかしこまった様子で頭を下げる。

 

「はじめまして、クロエさん。高町ヴィヴィオです! いつもパパがお世話になってます」

 

「あ、いえいえお世話になってるのは私の方なんで、本当に」

 

 ヴィヴィオの挨拶にクロエも小さく頭を下げる。そんな彼女の頭を聖は軽く小突いた。

 

「別にヴィヴィオにまで謙らなくてもいいんだっての」

 

「今のはなんていうかその、流れ的に……」

 

「私はクロエさんよりも三つくらい年下なので、敬語なんて使わなくて大丈夫ですよー」

 

 ヴィヴィオに言われ、クロエも納得したのか軽く頷いた後右手を出して握手を求めた。

 

「じゃ、よろしくね。ヴィヴィオちゃん」

 

「こちらこそ。よろしくお願いします。クロエさん!」

 

 二人は握手を交わすとそれぞれ笑みを浮かべた。どうやら両者共に仲良く慣れそうな雰囲気だ。

 

「それじゃ、挨拶も終わったことだし早速クロエちゃんのお部屋に案内するね。ついて来て」

 

「はい。お世話になります!」

 

 キャリーバッグを持ち上げてなのはの後についていくクロエを見送っていると、ヴィヴィオが声をかけてきた。

 

「クロエさん、いい人だね」

 

「ああ。選手としての礼儀は絶対に忘れないやつさ。ライバルになるけど仲良くしてやってくれな」

 

「もちろん! 家にいるときは二人でスパーリングできたらいいなぁ」

 

「後で聞いてみな。まぁアイツなら普通に付き合ってくれるだろ。俺がいない時なんかはノーヴェんとこで一緒に鍛錬するのもいいと思うぜ」

 

「そっか。じゃあ誘ってみるね!」

 

 嬉しげな笑みを浮かべながらクロエの部屋にかけていくヴィヴィオに、聖も満足げな笑みを浮かべた。クロエが馴染めるかそれなりに心配はあったものの、なのはとヴィヴィオの性格上そんなことは杞憂だった。夜に帰ってくるフェイトとも仲良くやれれるだろう。

 

「さてっと、明日は一日鍛錬だからしっかりとプランたてとかねぇとな」

 

 明日の鍛錬のスケジュールを考えながら聖は自室へと戻っていった。

 

 その夜、私用で出ていたフェイトも戻り、クロエは再びガチガチになりながら挨拶を交わした。けれど二人と同じく特に問題なく終わったので、クロエのこれからの生活はうまくいきそうだった。

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。

 

 聖とクロエはジャージ姿で区民公園にいた。二人は既にランニングを終えた後で、少しだけ呼吸が上がっている様子だ。

 

「今日から本格的な武術を鍛え始めるぞ。でも魔法の方も同時に鍛えるから、どっちかに偏るなんてことはない。ついて来れるな?」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

「いい返事だ。じゃ、まずは俺のを見て体の動きを観察してな」

 

 そういうと彼はクロエから距離を取って腰を落とし、いつもの戦闘態勢を取る。

 

「最初に教えるのは、何回か見たことはあると思うが。これだ」

 

 言った直後、拳を前に突き出し、空気を切る音が響く。それに続いて第二撃、第三撃と拳や肘での打撃を放ち、全てを打ち終わった後に静かに深呼吸をした。

 

「今のは白雲流烈拳術拳之壱『波雲』だ。ここから派生していく技もあるから、これをしっかり覚えていこう。技の難易度は段々と上がっていくから覚悟はしとけ」

 

「わかりました」

 

「じゃ、さっそく今のをためしでやってみな。アレぐらいだったら割と早いうちに出来るだろうからな」

 

 クロエはそれに頷くと聖がやったような構えをとって、小さく深呼吸をした後、落ち着いた様子で拳を放っていく。その動きは聖のものと大差ない。

 

 元から彼女はかなり動ける方だ。だから、この結果も必然と言えるだろう。

 

「どうでしたか、師匠」

 

「うん、やっぱり期待通りだな。さっきも言ったけど、これは技の中では簡単なほうだから、すぐに出来るとは思ってた。まぁそれでも一回でってのはすごいけどな」

 

「それじゃあ早速次の段階に!」

 

 瞳を爛々と輝かせるクロエに対し、聖は肩を竦めたあと彼女の頭にチョップを降ろした。

 

「バカタレ。出来たって言ったってまだ荒削りだ。隙が大きいから強いヤツが相手ならすぐにつけこまれる。だから一回荒削りで出来たら実戦形式で練習して技の精度を上げていくぞ。こういうのは反復練習だからな」

 

「なるほど。じゃあ、続きをお願いします!」

 

 クロエは腰を落として聖に向き合う。彼もそれに小さく笑みを浮かべると、同じように戦闘態勢をとった。

 

 やがて区民公園では重々しい拳の音が鳴り響くこととなった。

 

 

 

 

 

 一日の鍛錬を終え、高町邸で与えてもらった自分の部屋で、クロエはベッドに寝転がりながらフリーレンと話をしていた。

 

「今日の鍛錬……今まで以上にきつかったね」

 

〈聖様も厳しくいくぞって言ってましたし、そのあたりはしょうがないでしょう。それとも嫌になりましたか?〉

 

「冗談。そんなわけないでしょ。ただ、今までの師匠ってかなり手加減してくれてたんだって痛感したわけよ」

 

〈さようですか。まぁ心が折れていなければわたくしはそれで結構です。あとは努力してください〉

 

 相変わらず労ってくれない手厳しい相棒である。けれど、クロエからするとその言葉が結構励みとなる。決してマゾヒストではない。

 

〈気になったのですが。聖様がいないときの鍛錬はどうするのですか?〉

 

「基本的には師匠が考えてくれた鍛錬メニューをこなしていくけど、師匠が言うにはヴィヴィオちゃんの師匠のノーヴェさんって人が偶に相手してくれることもあるみたいだよ」

 

〈なるほど。ヴィヴィオ様の師匠であって、聖様の推薦ならば相当強いでしょうから、鍛錬には心して臨まれますように〉

 

「わかってるってば」

 

 肩を竦めながら答えると廊下から「クロエちゃーん、ご飯だよー」というなのはの優しげな声が聞こえた。

 

 それに返答してクロエはダイニングへ向かった。

 

 

 

 

 

 夜中、聖はなのはとフェイトと共にベッドの上に座り込んでいた。さらに三人の中央にはモニタが展開され、その中には眼鏡をかけたブロンド髪の青年の姿が見える。

 

 彼の名前はユーノ・スクライアという。なのはやフェイト、はやてとは幼い頃からの中で、聖の友人でもある。そして本局の無限書庫の総合司書長だ。

 

「それで聖。ユーノも入れる話って結構込みいったことなの?」

 

「まぁ込み入ったというか、二人には知っておいて貰った方がいいって話なんだ。クロエの先祖についての話だ。ユーノ、調べてあるか?」

 

『もちろん。でも探すのには結構骨が折れたよ。何せ『未整理区画』まで出向いて調べたから……』

 

 無限書庫は管理局の創設以前から存在する巨大な書庫だ。内部は無重力になっていて、その中には数多の世界で発行された無数とも言える書籍の数々が並んでいる。記録によれば、その中で一番古いとされているのが6500年も前の本だとのことだ。

 

 そんな無限書庫の中にはまだまだ整理されていない書物が山のように存在する。それらが眠っている区画が先ほどユーノが言った未整理区画だ。中にはどこかの王家の書庫が丸々入っている区画もあるらしい。

 

 若干ユーノがやつれたように見えるのはそのせいだろう。

 

「でも、クロエちゃんの先祖ってそんなに有名なの?」

 

「コキルトス家は私達が小さい頃から聞いてた名前だけど、未整理区画まで調べにいくほど?」

 

 二人の疑問は最もだ。そもそもコキルトスと言う名が広まったのは、記録によるとつい最近、ほんの二十年前とかそのあたりだ。

 

「確かに二人がそう思うのは仕方ない。でも、俺は見たんだ。フリーレンの記録をな。アイツは今から遙か昔、そうベルカ諸王時代に作られたデバイスだ。そしてアイツの元の主は聖王オリヴィエと友人関係だったらしい」

 

「じゃあクロエは王家の末裔ってことなんだね」

 

「ああ。だから今回ユーノに調べ物を頼んだんだ。それでユーノ。コキルトスについて分かったことは?」

 

 聖が問うと、ユーノは一度頷いて空中に浮かぶ書物の幾つかをめくって行き、あるところでページを捲るのをとめた。

 

『断片的になっちゃうけど、とりあえず調べられたものを纏めると、クロエはほぼ間違いなく古代ベルカの王の血筋で間違いないと思う。ベルカ諸王時代には三王がいたよね。冥王イクスヴェリア、覇王イングヴァルト、そして聖王オリヴィエ。この三人がベルカ諸王時代において最も名前が知れ渡ってるんだけど、もう一人、彼等に匹敵する実力者の記述があったんだ』

 

 ユーノは淡々を調べたことを述べ、また別の本を開いた。

 

『ベルカにはシュネイっていう北方の雪国があったんだ。そこの王室がコキルトスって名前だったんだよ。けど、オリヴィエがゆりかごに搭乗した辺りから段々と勢力が縮小してしまって、最終的には自然消滅したって記述もあったんだけど、どうやら血脈は続いていたみたいだね』

 

「歴史なんてのはあいまいな部分も多いからな。それで、三王と肩を並べられたかもしれない実力を持ってた王様の名前は?」

 

『うん。その人の名前は『セラフィリア・スクラディーネ・コキルトス』。ベルカ三王みたいに言うなら、零王セラフィリア。でもどちらかと言うと彼女はこう呼ばれてたみたいだよ。『氷零の皇女』ってね。とりあえず調べられたのはこれくらいかな』

 

 周囲に展開していた本を閉じて全て重ねながらユーノは話を終えた。彼の話を聞き終えた聖は小さく頷く。

 

「ありがとなユーノ。とりあえずコキルトスっていう王族がいるってしれただけでも十分な収穫だ。もし暇があったら偶に調べといてくれ。俺もなんとか調べてみる」

 

『了解。それじゃあもう遅いから今日はこれくらいにしようか。おやすみ、三人とも』

 

 それだけ告げると彼はモニタの電源を落とした。聖も展開していたモニタを閉じて改めて二人に向き合う。

 

「って感じだ。クロエが王族の末裔であることはほぼ証明されたな」

 

「それはそうだけど、これってクロエに言わなくてもいいの? 本人が一番知りたいことだと思うんだけど」

 

「フリーレンが言うなってはやてに言ったんだってよ。ちょっと前に俺もあいつに聞いてみたけど、『来るべき時が来たら話します』って言ってたし」

 

「なら私達が余計なことを言わない方がいいかもね。かえってクロエちゃんの気持ちを乱しちゃいそうだし。しばらくは伏せておいたほうがいいかも」

 

 なのはの意見には聖も同意権だ。妙に彼女の過去を教えて気持ちに整理がつかなくなって、鍛錬に身が入らなくなったら元も子もない。

 

「じゃあこの話は俺達大人組の秘密ってことで」

 

「わかった」

 

「了解」

 

 二人の返答を聞き、聖はベッドに横になり二人と共に眠りについた。

 

 

 

 

 

 その頃クロエもベッドに入っていた。しかし彼女は眠れないのか右へ左へ寝返りを打っていた。それでも結局眠れなかったのか、彼女はガバッと状態を起した。

 

「うぅ……なんか妙に眠れない。疲れてるはずなのに……」

 

 実際眠いことは眠いのだ。だが、妙に落ち着かないというか胸の辺りがざわつくのだ。

 

「仕方ない。少しだけ魔力運用の鍛錬をしてみよう。もしかしたら落ち着くかもしれないし」

 

 よし、と思いクロエはベッドから這い出すと床に座って右手を前に掲げる。そして目を閉じて静かに精神を集中させる。

 

「造形開始」

 

 その言葉と共に彼女の手から氷が生成され、段々と形を成していく。今回は剣ではなく、クロエが自分自身で考えた十字架のようなものを象る。剣より大きさは劣るものの、装飾は剣の比ではない。

 

 だが既に何百回もやっていることなので、簡単に造形は進んで行った。が、あと少しで完成と言うところで、クロエの脳裏に妙なノイズが奔った。

 

 やがてノイズは収まったが、手の中に合った十字架は魔力の粒子となって空中に消えてしまっていた。

 

「あー失敗かー。でも今のなんだったんだろう……。なんか映像みたいなのが見えた気がしたんだけど」

 

 口元に手を当てて悩むものの、結局鮮明には思い出せなかった。だが、僅かに思い出せた映像は、雪国のような映像だった。そこでふとクロエは大きな欠伸をした。そして段々と瞼が重くなってくるのも感じた。

 

「あ、なんかいまならいい感じに眠れそうな気がする……」

 

 クロエはふらふらと立ち上がると、そのままベッドにダイブし、布団に包まって眠りについた。その表情はとても穏やかで先ほどのノイズのことなど全然気にしていない様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数ヵ月後、クラナガンの格闘家達が襲われるという連続傷害事件紛いのものが発生し始めていた。紛いと言うのは被害届が出ていないからであるが、なぜ届が出ないのかと言うと、被害にあった格闘家たちは皆了承して勝負に挑んだのだ。なので、皆届けを出すことなど考えていないのだろう。負けたから被害届を出すなどある意味恥である。

 

 事件の概要はギンガ経由から聖の耳にも入ってきており、彼女が言うには「クロエちゃんにも気をつけるように言って下さい」とのことだった。しかし、聖はそのストリートファイトを起している者の名前に非常に興味が湧いた。

 

 ストリートファイトを申し込んだ相手は監視カメラの映像からして、十代後半から二十代前半の女で、目元にはバイザーをしていた。問題なのは彼女が名乗った自身の名前で、彼女は自身のことをこう名乗っていたという。

 

『覇王イングヴァルト』と。




はい。これにて原作までのつなぎの話しは終了ですお疲れ様でした。
今回はどうしたことか文章がへったくそですみません。
次回からはいよいよ原作に介入していきます。
段々とクロエの過去も明らかになってまいりました……もうね、諸王時代とか言うんだからもっと王がいても良いと思うんですよ。雷帝だっていることですし……。
今更ですけど聖はなのはとフェイトと同じベッドです。なんてうらやま……じゃなかったけしからん。

原作の話に入るに当たって、クロエもかなりパワーアップします。新しいモードとか造っちゃってますが、そのあたりは合宿とか地区予選あたりでお披露目ですね。
そして覇王娘とも会いますし、がんばらなければいけません。

ではでは、感想などありましたらよろしくお願いします。
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