魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero-   作:炎狼

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Kristall;6

 クラナガン中央第四区にある公民館のストライクアーツ練習場の中では、練習スペースを囲むように男女問わずの人垣が出来ていた。

 

 彼等の視線を追って行くと、手と足にプロテクターを着けた、赤髪の少女、ノーヴェと蒼銀髪の少女、クロエがスパーリングを行っている。

 

 一撃一撃が重く、時折ぶつかり合う拳と拳の衝突は、空気を震わせるほどだ。一挙手一投足を見逃さないように、ギャラリーの視線はしきりに動き、時折「おぉ」という歓声が上がる。

 

「フッ!」

 

 短い息の後にクロエが大きく振り上げていた踵を瞬時に落とす。だが、ノーヴェも負けてはおらず、腕をクロスさせてそれを防ぎ、今度は彼女が攻撃に転じる。

 

「ラァッ!」

 

 気合と共に打ち放たれるのは抉るような回し蹴り。空気を切り裂きながらクロエに迫る蹴りを誰もが、決まったと思っただろう。しかし、短い衝撃音の後に彼女らを見ると回し蹴りは見事に身体ギリギリで止められていた。

 

 すぐさま赤ノーヴェは足を引き戻そうとするが、足をつかんだクロエはそれを許さず、彼女の足を引っ張ると、胸元目掛けて掌打を叩き込んだ。

 

 快音が響いた後、ノーヴェは大きく飛ばされた。見ると、彼女の手は踵落としを防いだ時のようにクロスされており、先ほどの攻撃を防御していることが見て取れた。

 

 そのままクロエが追撃に持ち込むかとも思ったが、どうやら彼女らの中では十分だったようで、二人はそれぞれ戦闘態勢を解いた。すると、彼女らのスパーリングを見ていたギャラリーから拍手が上がった。

 

 二人はそれに答えつつ、壁際まで下がると、ベンチに腰掛けながら話を始めた。

 

「やっぱり腕上げてるな、クロエ」

 

「いやいや、まだ全然だよ。さっきのは偶々上手くいっただけだし、なにより戦歴でいったらノーヴェの方が勝ってるじゃん」

 

「謙遜すんなって。でもそうだなぁ、気を抜いてるとあたしも抜かれそうだ」

 

 ノーヴェは肩を竦めながらスポーツドリンクに口をつけ、クロエも笑みを浮かべた。

 

 二人が出会ったのは半年以上前のことだ。クロエの師匠である聖が不在の際、時折模擬戦やらスパーリングの相手をしてくれたのがノーヴェだ。彼女は元々聖の娘であるヴィヴィオのストライクアーツの先生なのだが、聖が言うには「年が近い方が色々やりやすいだろ」とのことだ。

 

 実際のところ彼の判断は正しかった。ノーヴェと鍛錬をするうちに分かったこともあるし、非常に参考になっている。あとノーヴェの方が年上なのだが、彼女は「さん」づけで呼ばれるのは嫌いらしく、「呼び捨てで良い」と言われたのでクロエは呼び捨てにしている。

 

「あ、そうだ」

 

 思い出したようにノーヴェが声を発した。

 

「クロエ。お前聖さんからあの話聞いてるか?」

 

「あの話? ……あぁ、それってもしかして最近頻発してるって言う傷害事件のこと?」

 

「そうだ。まぁ事件っていうには語弊があるかもだけどな。被害届は出てないみたいだし」

 

「確か勝負を吹っかけてる方は『覇王』を名乗ってるんだっけ? 古代ベルカ時代の王様の」

 

「ああ。聖さんやヴィヴィオと関係がある聖王とか、聖王教会で眠ってるイクスと関係もあったって覇王様だ」

 

 ノーヴェは呆れたように溜息をつき、やれやれと首を振った。それに反応しつつも、クロエは妙に引っかかった。

 

「でもなんで覇王なんだろうね。覇王って言った方が食いつきがいいと思ったのかな?」

 

「さぁな。意外と覇王の血統なんじゃね?」

 

「なるほどねぇ。というか実力者を狙ってるんだよねその覇王。だったら、ノーヴェも危ないんじゃないの?」

 

「まぁそうかもしれねぇけど、来たら確実にボコるな。画像を見たけどあたし達とかわらねぇ位の女だったし」

 

「その時はちゃんと手加減してあげないとダメだよ?」

 

 苦笑いを浮かべながら言うと、ノーヴェは「善処しとくよ」と笑みを浮かべながら答えた。けれど、本当にノーヴェが狙われ、彼女が倒されてしまうとなると、その自称覇王はかなりの手馴れだろう。まぁ今までも名のある実力者を倒しているのだから当たり前のなのだが。

 

「つか、そういうお前だって気をつけとけよ? 夜道とか急に来るかも分からねぇぜ」

 

「私はないでしょー。狙われるとしたらやっぱりノーヴェだって……って、そろそろ帰らないと」

 

「なんか用事でもあんのか?」

 

「うん。今日ヴィヴィオがデバイスを持つんだってさ。だからちょっと速く帰って見ようかなって。あと師匠とも鍛錬があるから」

 

「ふぅん。わかった、そんじゃあまた今度な。次ン時はヴィヴィオとコロナも一緒にやることになってるからな」

 

「それとヴィヴィオの新しい友達でしょ。分かってるって。それじゃあねノーヴェ」

 

 軽く手を振りながらクロエは更衣室へ向かい、手早くシャワーで汗を流すと、私服に着替え、喫茶店のアルバイトの給料で買った自転車に跨ると自身の相棒であるフリーレンに問うた。

 

「フリーレン、今までの最短時間はどれくらいだっけ?」

 

〈最短で十五分三十六秒ですね〉

 

「よぉし、だったら今日は記録更新するよ!」

 

 気合を入れたクロエはペダルをグッと踏み込んで家路につく。

 

 

 

 

 

 

 公民館から出発して十四分四十三秒後、クロエは居候先の高町邸に到着した。見事に記録は更新されたようだ。

 

 内心でそれに喜びつつ、玄関の戸に手をかける。

 

「ただいま戻りましたー」

 

「はーい、おかえりー」

 

 玄関を開けて中に入ると、金色の髪と深紅の瞳が特徴的な女性、フェイトがエプロン姿で現れた。

 

「あれ、フェイトさん? 今日はお仕事は……?」

 

「あぁ、それなら大丈夫。艦の整備で明日の午後までお休みなんだよ。今はおやつを作ってるところ」

 

 フェイトの言葉通り、キッチンからは甘い匂いが漂っている。

 

「そうだったんですか。あ、ヴィヴィオの新しいデバイスってどんなのですか?」

 

「ふふ、それは見てのお楽しみかな。でも最新式ってことだけは確かだよ」

 

「なるほど。そうだ、私もおやつ作り手伝ってもいいですか?」

 

「うん、いいよ。一緒に作ろう、クロエ」

 

 クロエは靴を脱いだ後自室へ向かい、荷物を放り投げると洗面台で手を洗ってうがいをしてからキッチンへと向かった。

 

 キッチンでは既にフェイトがオーブンからカップケーキを取り出しているところだった。

 

「お待たせしました。何をやれば良いですか?」

 

「じゃあこのケーキの上に乗せるトッピングをお願いしていいかな。私はお茶の準備をするから」

 

「了解です」

 

 クロエは頷くとボウルに作ってあった生クリームとフルーツをケーキにのせていく。しばらく二人は軽く談笑していたが、そこでふとフェイトが問うてきた。

 

「ねぇクロエ、ご家族とは連絡取ってるの?」

 

「はい。お父さんと弟とは取ってます。母さんは……相変わらずです」

 

 苦笑交じりに答えると、返ってきたのは真剣な声音での返答だった。

 

「クロエ、おせっかいだとは思うんだけど、聞いてね。私は今のままじゃいけないと思うんだ。もし今のままクロエが管理局に入ったとしても、きっと後悔すると思う」

 

「後悔、ですか?」

 

「うん。お母さんともっと話しておくべきだったって後悔がね。心残りはいつまでも付きまとっちゃうものだから……かく言う私もそうなんだけどね」

 

 彼女は薄く笑みを浮かべていたが、その笑みはどこか悲しみが見られた。

 

 フェイトは本当にこちらのことを心配してくれているのだろう。彼女の過去は彼女自身から聞かされたので、きっとクロエと過去の自分を照らし合わせているから悲しげな顔をしているのだ。

 

「分かりました。フェイトさん。努力してみます」

 

「そう。がんばってね、クロエ」

 

 最後にフェイトはクロエの頭を撫でた。それは彼女の娘であるヴィヴィオにするのと同じように、優しく、暖かいものだった。

 

「たっだいまー」

 

 玄関の開く音と共にヴィヴィオの声が聞こえた。どうやら学校から帰ってきたようだ。

 

「ヴィヴィオも帰ってきたみたいだし、三人でお茶にしようか」

 

「はい」

 

 クロエは答えて出来上がったカップケーキを食卓に並べ、フェイトはヴィヴィオを出迎えに行った。

 

 その後、ヴィヴィオを含めた三人でお茶を取ったあと、クロエは高町邸の庭でヴィヴィオと軽いスパーリングを行っていると、なのはと聖が仕事を終えて帰って来た。

 

 そのままなのはとフェイトが夕食の準備に取り掛かったので、クロエとヴィヴィオは聖指導の下、庭でスパーの続きを行った。

 

 そして夕焼けも段々となくなってきた頃、五人で夕食をとると、ようやく待ちに待ったヴィヴィオへデバイスが贈呈されることとなった。

 

「ヴィヴィオも四年生だし、魔法の基礎もしっかりできて来たからそろそろいいと思ってね。と言うわけでフェイトちゃん?」

 

「うん。私が今日マリーさんから預かってきました」

 

 そう言う彼女の手には白い小包があった。ヴィヴィオはそれを嬉しそうな笑みを浮かべながら受け取ると、少しだけ興奮した様子で箱をゆっくりと開けた。

 

 クロエもその中身がどんなデバイスなのか気になったようで、ヴィヴィオの背後から箱の中を覗き込む。が、箱が開けられたときの二人の反応は疑問であった。

 

「「うさぎ?」」

 

 二人はほぼ同時に首をかしげた。それもそのはず、小包の中に納まっていたのは小さなウサギのぬいぐるみだったのだ。二人がそれぞれ疑問符を浮かべていると、聖が答えるように補足する。

 

「そのウサギは外装みたいなもんだ。中には確かクリスタル状の本体があるんだよ」

 

 彼の説明に二人が納得したように頷いていると、小包の中に納まっていたウサギがよじよじと包みのを這い上がって、ヴィヴィオの前にふわりと浮かび上がり、まるで挨拶をするように片腕を上げた。

 

「「動いたぁ!?」」

 

「あぁ、それは確かマリーさんがおまけでつけてくれたんだよ」

 

 突然の出来事にクロエとヴィヴィオは殆ど同じ動きでなのはとフェイトの後ろに引っ込んだ。それを見ていた聖はと言うと、「何を今更」と言うような顔で呆れている。

 

「君達ね少し考えてみたまえよ。なのはのレイジングハートやフェイトのバルディッシュ、俺のシュトラルスだって浮いたり光ったりしてるだろ? つか、クロエ、お前は驚くこともないだろうよ」

 

「いやいやだって、めっちゃ精密に動きましたよ!? フリーレンなんて光るくらいしか出来ないですよ!」

 

〈失敬な。飛ぶことだって出来ますが?〉

 

 クロエの一言が気に食わなかったのか、フリーレンは若干起こった様子で彼女の前に浮かび上がった。

 

 すると、浮かび上がったウサギは心配そうにヴィヴィオの元にゆっくりと近寄っていく。ヴィヴィオも自分の愛機となる存在がどのようなものなのか理解したようで、ウサギを自身の手の中に収めた。

 

「いろいろとリサーチしてヴィヴィオにあわせた最新式ではあるんだけど、中身はまっさらな状態なんだ」

 

「名前もないからつけてあげてね」

 

 なのはとフェイトに言われ、ヴィヴィオは少しだけ得意げな笑みを見せる。

 

「えへへ、実はもう名前も愛称もきまってたりして……あ、そうだパパ、ママ! リサーチしてくれたってことはアレできるんだよね、アレ!」

 

「おう。出来たよな、なのは」

 

「うん。マリーさんも言ってたし」

 

「……?」

 

 二人は頷いたが、ただ一人、フェイトだけは笑みを見せてはいたが何処となく疑問符が浮かんでいるように見えた。

 

 ヴィヴィオはそのまま窓から庭に出ると、デバイスのマスター認証を行い始めた。

 

「――マスター認証、高町ヴィヴィオ。術式はベルカ主体のミッド混合ハイブリット。私の愛機(デバイス)に個体名称を登録。愛称(マスコットネーム)は「クリス」。正式名称『セイクリッド・ハート』」

 

 淡々とマスター認証を済ませていくヴィヴィオを家の中で見守る四人。そしてヴィヴィオがいよいよセットアップに入った時、クロエは聖に問うた。

 

「師匠。さっきヴィヴィオが言ってたアレってアレですよね?」

 

「ああ。大人モードのことだな」

 

 大人モードと言うのはヴィヴィオが魔法の鍛錬や武術の鍛錬においてその方が便利だから、という理由で練習して体得したものらしい。まぁ彼女は聖王のクローンなので、その方が勝手がよかったと言うことなのだろう。

 

 クロエも最初はヴィヴィオがあの聖王のクローンだということには驚いた。それ以上に聖も彼女と同じ存在だという時は卒倒しかけたが、今では特に気にすることもなくなっていた。大人モードも練習で見慣れている。

 

「あ、やべ」

 

「師匠?」

 

 ふと聖が固まり、フェイトとセットアップを進めていくヴィヴィオを見やった。ヴィヴィオの方はどんどんとバリアジャケットを装着していくと共に体つきも少女のそれから、大人の女性のものへと変化している。

 

 そして完全にバリアジャケットを纏ったヴィヴィオが現れると、フェイトが今までに見たこともないような驚愕の表情を見せた。そんな彼女の様子を見たクロエは「もしや」と思い、聖に声をかけた。

 

「まさか、師匠……」

 

「うむ。フェイトには大人モードのことを説明していなかった」

 

「おぉう……」

 

 腕を組みながらきっぱりと言う彼は妙に男らしくはあるものの、言っていることはただの説明不足なので大して格好良くはない。

 

 そして庭で喜びをあらわにするヴィヴィオとは裏腹に、フェイトはへなへなと力なく崩れ落ちてフローリングの床にペタンと腰を下ろしてしまった。

 

「ふ、フェイト? 大丈夫だ、ヴィヴィオのアレは……」

 

 聖が説明を入れようとしたが、もう遅かった。フェイトは聖となのはの袖をガッチリと握ると涙目になりながら声を上げた。

 

「なのは、聖……ヴィヴィオがヴィヴィオがぁぁー!!」

 

「お、落ち着いてフェイトちゃん! これには色々とふかーい事情が……」

 

「そうそう落ち着けフェイト。ホラ、ヴィヴィオだって特に変わってないぜ? ちょっと背が大きくなって胸も大きくなって髪をサイドアップにしただけだって! 人間誰だってこういうことあるよねぇうん。ある日起きたら30cmくらい背が伸びてるとかザラだよ、うん」

 

「そんなことないよパパー! というか、二人ともフェイトママに説明してなかったのー!?」

 

「いやー俺は俺で満足しちゃってたからなぁ。ついうっかり」

 

「同じく私もうっかり……」

 

「うっかりってー!!」

 

 フェイトの同様にてんてこ舞いになる三人を見ながらクロエは微笑を浮かべながらやれやれと頭を振った。

 

 

 

 

 

 

「いやーまさかフェイトがあそこまで取り乱すとはなぁ……」

 

 聖は半笑いになりながらクロエと共に夜道を走っていた。現在二人はいつものランニングコースを走っている最中だ。

 

 あの後、半泣きになりながら訴えてくるフェイトを宥めながら、大人モードの説明を彼女にした。フェイトは若干渋っていた様子だったが、ヴィヴィオが娘の力のようなものを発動したらなんとか納得したようだった。

 

「今度から大事なことは言っておかないとダメだな」

 

「というか、普通に説明しておきましょうよ」

 

「俺だってアレだぞ? もうなのはが説明してるもんだと思ってたんだよ」

 

「でもさっきは「フェイトに説明し忘れた」って言ってませんでした?」

 

 痛いところを疲れたのか聖は眉間に皺を寄せて押し黙ると、走る歩幅を大きくして一度大きなため息をついた後やけくそ気味にいいはなった。

 

「あーそうですよ! 忘れてましたよ! 見事に頭からすっ飛んでましたよごめんなさいでしたー!!」

 

「夜に叫ばないでくださいよ! というか、別に私に謝ってもしょうがないでしょう」

 

 呆れ声をもらすクロエに言われ、聖は今一度大きなため息をつく。

 

「まぁフェイトはフェイトで納得したみたいだからもうその話はいいや」

 

「水に流すのはや!」

 

「男は過去のことはいつまでも引き摺らないんだゼ!」

 

「あー、さいですかー」

 

 クロエはもうどうにでもなれーという感じなのかこれ以上返答してくることもなかった。

 

 そのまま二人はしばらく無言のままランニングを続け、市民公園内に幾つか点在する公共魔法練習場に向かった。

 

 練習場は夜でも利用する人のために常に照明が点灯しており、非常に練習がしやすくなっている。

 

「さてと、今日は少し遅くなってるから。余り新しいことはせずに無難な練習をしていくぞ」

 

「はい」

 

 聖の言葉に返答したクロエはフリーレンを拳にだけ纏わせた。それに対し聖も同じようにシュトラルスを部分展開する。

 

 そしてクロエが態勢を低くして一気に聖にまで迫る。その動きは数ヶ月前までとは比べ物にならないほどに洗練されていて、流れるような動きだった。

 

「シッ!」

 

 小さな息の後、顔面を目掛けるような痛烈な左フックが放たれた。が、それは聖によって難なく止められる。

 

 だがこの程度はまだまだ挨拶代わりにもなっていない。鍛錬はこれからが本番なのだ。防がれた左拳を戻し、防御の態勢を取ると、ほぼ同時に聖による拳打のラッシュがとんでくる。

 

 数ヶ月前であればこの攻撃の殆どを喰らってしまっていただろうが、今ではそうは行かない。クロエは飛んでくる拳の一つ一つを全て避けきると、隙を見定める。

 

「そういえば明日は公民館でなんかやるんだっけか?」

 

「はい。午後からノーヴェやヴィヴィオの友達も交えて鍛錬をします。ウェンディも来るって言ってました」

 

「確かヴィヴィオに聞いた話だと新しい友達が来るんだってな。名前はリオ・ウェズリーったっけか」

 

「そうですね。その子も武術をやっているみたいです、よッ!」

 

 クロエはラッシュの合間の一瞬の隙を見定めて、すばやい拳打を聖の脇腹に叩き込もうとした。が、彼女は当たる直前に腕を引いてそのまま何歩か後ろに後退する。

 

「いい判断だ。今の、見えたか?」

 

「少しだけ見えました。ごく少量の魔力を固めてシールド張ってましたよね?」

 

「ご明察。もしあのままぶち込んできたら魔力で跳ね返してやろうと思ってたが、やっぱりバレたか」

 

「隙の作り方が結構わざとらしかったって言うのもありましたからね」

 

「いい感じに見極めが出来てきてるじゃねぇの。よし、その調子でもう一時間ぐらいやってくぞ!」

 

「はい!」

 

 クロエは元気よく答えると、再び聖の攻撃に備えて構えを取った。

 

 

 

 

 

 翌日の昼過ぎ、クロエは喫茶店でのアルバイトを終えて待ち合わせ場所の公民館へ向かっていた。時間を見ると少々遅れてしまっているようだ。

 

「ちょっと遅刻かなぁ」

 

 ぼやきながら駐輪場に自転車を止めて正面玄関に急ぐと、既にノーヴェ達が待っているところだった。向こうもこちらの登場に気が付いたようで、軽く手を挙げてきた。

 

「クロエさーん! こっちですこっちー!」

 

 ヴィヴィオが大きく手を振りながら言ってきたので、それに答えながらクロエも彼女達に合流する。

 

「ごめん、ちょっとバイトが忙しくなっちゃって」

 

「遅いっスよ、クロー! 待ちくたびれちゃったっス!」

 

 ぶーぶーと声を上げるのは、ノーヴェの妹であるウェンディだ。ナカジマ家の姉妹の中では一番歳が近い少女だ。

 

「ものの五分くらいだろ、ウェンディ。お前は待てなさ過ぎだ」

 

「そんなことないッスよー。これでもカップ麺を待つことぐらいは出来るっス!」

 

「それ三分ぐらいじゃねぇか!」

 

 姉妹のやり取りを横目で流しつつ、クロエはヴィヴィオに声をかける。

 

「遅れてごめんね、ヴィヴィオ」

 

「全然大丈夫ですよー」

 

「ありがとう。コロナも元気そうだね」

 

「はい。クロエさんもお元気そうで何よりです」

 

 答えたのはベージュ色の髪をツインテールにした少女、コロナ・ティミルだ。ヴィヴィオとは一年生の頃からの付き合いで、クロエとは数ヶ月前に知り合った。礼儀正しく、優しい少女だ。

 

「それで、そっちの子が新しいお友達?」

 

「うん。リオ、この人がクロエさん」

 

「初めまして、クロエさん! リオ・ウェズリーって言います。去年の学期末にヴィヴィオさんとお友達になりました」

 

「初めまして。クロエ・コキルトスです。これからよろしくね、リオちゃんでいいのかな?」

 

「あ、私のことも呼び捨てで良いですよ。……あれ、今コキルトスって……」

 

 リオはクロエのファミリーネームに気が付いたようで、見る見るうちに顔を驚愕の色に染めていく。

 

「コキルトスって、あの超有名なコキルトスグルームガ!?」

 

「リオ、ストーップ! それ以上は言っちゃダメー!」

 

 途中まで言いかけたリオの口をヴィヴィオが慌てた様子で塞いだ。すぐに手は放されたが、リオは未だに驚きが隠せていないようだった。

 

 だからクロエはリオに視線を合わせて彼女の前で人差し指を立てて、少しだけ声のトーンを下げるように求めた。

 

「ごめんね、リオ。貴女の予想通り、私はコキルトスグループの長女なんだけど、あまりそのことは外で言わないでもらえるかな?」

 

「それってやっぱり人目につくからですか?」

 

「うん。まぁそうなんだけどね。今はちょっと実家と喧嘩してるって言うかそんな感じだから」

 

 苦笑交じりに言うと、リオも納得してくれたようで「わかりました」と笑顔を見せた。

 

「自己紹介は終わったか?」

 

「うん」

 

 ウェンディとのやり取りを終えたノーヴェが問うてきたのでそれに頷くと、彼女もそれに頷いて返してきた。

 

「よし、それじゃあ鍛錬を始めるか」

 

 ノーヴェに続き、五人は公民館のへと入っていった。

 

 

 公民館での鍛錬は基本的に組み手やノーヴェの指導の下で行われたが、やはり一番注目を集めたのはクロエとノーヴェの組み手だった。その前のヴィヴィオとの組み手でもかなりのギャラリーが集まったものだが、後になるともっとギャラリーが増えた。

 

 人垣の間からこちらを見るリオやコロナの瞳は妙に輝いて見えたし、ウェンディでさえも興奮しているようだった。

 

 そして全ての鍛錬を終えた頃には、空はすでに暗くなっており、街は街灯やビル明りで照らされ始めた。

 

 

 

「今日は勝てなかったなー」

 

 自転車を押しながらクロエが悔しげに言うと、隣を歩いていたノーヴェが得意げな笑みを浮かべた。

 

「そう何度も負けてられるかっての。お前とはまだまだ実戦経験が違うんだからな」

 

「だよねぇ」

 

 彼女の言葉に苦笑いをしながら答えると、前を行くヴィヴィオ達が振り返った。

 

「でもすごかったですよクロエさん! ヴィヴィオもすごかったですけど、クロエさんはすごくかっこよかったです!」

 

「ありがとね、リオ。そういってもらえると私も嬉しいかな」

 

 クロエは満足げな笑みを見せると、リオの頭を撫でた。すると、そこで背後のノーヴェが声をかけてきた。

 

「ワリィ、クロエ、ウェンディ。チビ達家まで送ってやってくれるか?」

 

「了解っスー」

 

「いいけど、なんか用事でも出来たの?」

 

「ちょっと救助隊のほうで装備調整がな。じゃあ頼んだぜ」

 

「おつかれさまでしたー!」

 

 ノーヴェが踵を返して逆方向に歩いていくのを見て、ヴィヴィオ達も彼女に頭を下げる。

 

「それじゃあアタシらはさっさと帰っちゃいますかねぇ。子供をいつまでも夜歩かせられないっスから」

 

「だね」

 

 ウェンディに答えつつ、クロエは自転車を押しながら子供達と共に家路についていく。

 

 

 

 家路につきながらコロナとリオを送り届けた後、ウェンディと別れたヴィヴィオとクロエは高町邸に到着した。が、クロエはそこで何かを思い出したのか声を上げた。

 

「あ、バイト先に忘れ物した」

 

「え、大丈夫ですか?」

 

「うーん……。ごめん、ヴィヴィオちょっとバイト先行って取りに行ってくるから、師匠に言っておいてもらえる?」

 

「わかりました。でも気をつけてくださいね」

 

「分かってるよ。じゃあ、行ってきます」

 

 クロエは自転車に跨ると、バイト先である喫茶店に向かった。

 

 その途中、フリーレンが問いを投げかけてくる。

 

〈なにをお忘れになったのですか?〉

 

「お父さんがくれたネックレス。うちってバイト中はアクセサリ系禁止だから、そのままロッカーに入れっぱなしになってたみたい」

 

〈なるほど。ですが、公民館で着替えるときには気付かなかったのですか?〉

 

「あの時は特に気にしてなかったからね。まぁ今から行っても店長居ると思うし、大丈夫だよ」

 

 ペダルを強く踏み込むと、クロエは夜の街を自転車で駆けていく。

 

 

 

 

 

 バイト先に到着した時、案の定まだ店長はおり、売り上げの計算をしているところだった。

 

 彼女に許可を取った後、ロッカールームまで行くと、自身のロッカーを開けて中を確認した。そこには自分が置いてきてしまったネックレスがあり、ひとまず安心することが出来た。

 

「忘れ物はあった?」

 

「はい。大丈夫でした。お世話かけました、店長」

 

「私はなにもしてないってば。じゃあそろそろ鍵閉めちゃうから帰りなさいな。次のシフトもよろしくねん」

 

 彼女は軽くウインクした後、店の戸締りを確認するため鍵を回しながら店内へ戻っていった。

 

 それを見送りながらクロエは裏口から出ると、自転車に跨って今度こそ家路につこうとしたが、そこでふとピリッとした感覚とかすかな魔法の反応を感じ取った。

 

 ……なんだろう。最初のピリッとしたのは殺気……? 誰かが街中で戦ってるのかな?

 

「まさか噂の『自称覇王』?」

 

 クロエは先日聖から聞かされ、昨日はノーヴェとも話した例の覇王のことを思い出した。

 

「ちょっと行ってみようかな」

 

〈クロエ様。行くのは構いませんが、くれぐれもお気をつけて〉

 

「分かってるって。多分、こっちかな」

 

 彼女は半信半疑ながらも魔法とかすかな殺気が下方向に自転車を向け、反応のした方向へ向かった。

 

 

 

 

 

 しばらく自転車で走っていると、視界の端にフェンスに囲まれた開けた場所が見えた。確かあそこは魔法練習場だった気がする。

 

「この辺だったと思うんだけど……」

 

 自転車を折りながら練習場の中を覗き込むと、中心のあたりに誰かが倒れているのが見えた。よく見ると、見覚えのある髪色と服装だ。

 

「あれは、ノーヴェ!?」

 

 クロエは倒れているのがノーヴェだと気が付き、練習場の中に駆け込む。

 

 近くまで走っていくと、彼女は首だけを動かしてこちらを見やった。

 

「あれ、クロエ? お前こんなとこで何してんだ?」

 

「私はバイト先に忘れ物を取りに行ったんだよ。そういうノーヴェこそなんでこんなところに倒れてんの!? まさか、例の覇王?」

 

「ん、あぁ正解だ。ちっとばかし喧嘩売られたからな。それを買ったらこのザマってわけだ」

 

「ノーヴェを倒すって……」

 

 クロエは素直に驚いた。ノーヴェはかなりの実力者だ。それもそんじょそこらの武芸者では太刀打ちできないほどの。そんな彼女が負けたということは例の覇王は彼女よりも強いことになる。

 

「まぁ実際のところ狙ったのは倒すことじゃなくて、センサーくっ付けることだったんだけどな。ダメージもキッチリ入れたから今頃どっかでのびてるだろうさ」

 

「あ、じゃあ本気じゃなかったんだ」

 

「当たり前だろ。誰があんなガキ相手に本気出すかってんだ。それに、アイツには聞きたいこともあるからな」

 

 ノーヴェは真剣な面持ちで言うと何とか体を起き上がらせて首をコキコキと鳴らした。

 

「とりあえずスバルには連絡してあっから、クロエ、お前はセンサー辿って自称覇王を保護してやってくれるか? 多分ティアナも向かってると思う」

 

「わかった。それじゃあ行ってくるね」

 

 ノーヴェからセンサーの探知場所を教えられ、クロエは再び自転車に跨って覇王の保護へ向かった。




はい、お待たせいたしました。

今回は特に原作と違ったことは余りありませんでしたね。強いて言うなら、ノーヴェがアインハルトのことをちょっと早く知っていた程度でしょうか。

次回はアインハルトとクロエが絡みます。ようやくですねw
そのうち聖とも絡ませますが。
あぁ、はやく予選編が書きたい……

では、感想などありましたらよろしくお願いします。
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