魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero-   作:炎狼

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Kristall;7

 ミッドチルダ、首都クラナガンの一角にあるマンションの一室で、クロエはモニタを展開して高町家にいるなのはに連絡を取っていた。

 

「……なので、今晩はこのままスバルさんのところでお世話になることになりました」

 

『うん、わかった。聖くんには私から伝えておくね』

 

「よろしくお願いします。それじゃあ、おやすみなさい」

 

『おやすみー。あんまり夜更かししちゃだめだよー』

 

 なのはは笑顔で手を振ってきた。クロエもそれに答えたあと、モニタの電源を落として一息つくと、部屋の中に置かれているソファにゆっくりと腰を下ろした。

 

 扉の開く音が聞こえそちらに目を向けると、燃えるような赤髪と黄色い瞳の少女、ノーヴェが出てきたところだった。

 

「あの子、大丈夫?」

 

「ああ、別に大した怪我なんかしちゃいねーよ。ただ、日頃の疲れもあったんだろうな。今はよく眠ってる」

 

「日頃の疲れってやっぱりあれだよね。ストリートファイト」

 

「だろうな。それに加えて学校も通ってんだから結構疲れてたんだろうさ」

 

 隣に座った彼女は若干不満げに溜息をついた。その表情から読み取れるように、ノーヴェは今、あからさまに不機嫌である。

 

 恐らくであるが、その理由としては二つ原因があるだろう。

 

 一つは、手加減していたとはいえあの少女に負けたこと。これは彼女自身のプライドが傷つけられたことだろう。また、勝負の際に結構痛めつけられたらしく、未だに身体中が痛むらしい。

 

 もう一つは、試合中に少女が言っていた言葉にあるようで、あの少女が通り魔染みたストリートファイトをするようになったのは、自分の強さを知りたいが為だという。そして彼女は聖王と冥王を打倒するということが、彼女の大まかな目標である。

 

「あの子、聖王と冥王を倒した言ってことはさ。ヴィヴィオとイクスを倒したいってことなのかな?」

 

「さぁな、言葉通りならそうなるけど……。実際のところはまだわかんネ。まっ、目が覚めたら聞いてみりゃあ良いだろ」

 

「だね。でもそうなるとあの子、師匠とも戦うことになるのかな? 師匠だって聖王のクローンでしょ?」

 

「あー……その可能性もあるっちゃあるのか? けどそうなったらアイツボロ負けするだろ」

 

「師匠容赦しないだろうからねぇ。『俺の娘に手を出すことは死を意味するッ!』とか本気で言いそう」

 

 二人はなんともいえない表情を浮かべた。

 

 とりあえず彼女の本心はさて置いて、

 

「そういえばさっきからずっとあの子あの子言ってるけど、彼女の名前って?」

 

「えーっと、あたしと試合する時はハイディ・E・S・イングヴァルトって言ってたけど――」

 

「――あの子の名前はアインハルト・ストラトスだって」

 

 ノーヴェの声に上乗せするように響いた声に視線を向けると、廊下とリビングをつなぐ扉の前に、濃い青色の髪をノーヴェのように短めに切り揃えた女性が立っていた。

 

 彼女の名はスバル・ナカジマ。ノーヴェの姉である。ノーヴェとは瓜二つ、とまでは行かないが似ている。ただ、目元はスバルの方が優しげな感じだ。

 

 そして彼女の隣にはオレンジ色の髪をストレートに伸ばした女性、ティアナ・ランスターが荷物を持って立っていた。どうやらあの荷物は、アインハルトが倒れていた近くにあった、コインロッカーの中に入っていたもののようだ。

 

 二人はかつて聖達が隊長を務めていた部隊、機動六課の隊員であり、親友と言う間柄だ。クロエが二人に出会ったのは、聖の紹介で知り合った。以来、二人にはとても懇意にしてもらっている。

 

「おかえりなさい。スバルさん、ティアナさん」

 

「うん。ただいまー。それでアインハルトはもうぐっすり?」

 

「ぐっすりもぐっすりだ。こっちは体中痛いってのに」

 

「まぁ二人とも大きな怪我もなかったしいいんじゃない? それにクロエが近くにいてくれたおかげでアインハルトの発見も早かったんだし」

 

 因みに、アインハルトをここまで運んだのはクロエで、ノーヴェを運んだのはスバルである。その後、クロエはスバルにコインロッカーの鍵を渡し、彼女はティアナと合流して今戻ってきたというわけだ。

 

「そんで、他にアイツについてなんか分かったことあったのか? ティアナ」

 

「バッグの中に入ってた制服と、学生証をみると、彼女はヴィヴィオと同じSt.ヒルデ魔法学院の生徒みたいね。ただ、初等科じゃなくて中等科ね。クロエとは1歳違いかしらね」

 

「中学生で通り魔紛いって言うのも中々すごいですね」

 

「完全に通り魔って呼んじゃうのも難しいけどね。被害者は全員被害届は出していないわけだし」

 

「だから明確な事件にはならないかもね。明日話を聞かせてもらって、問題がなさそうだったら警防署に行くってことでいいんじゃないかな?」

 

「そうしましょう。ノーヴェもそれでいい?」

 

 ティアナの問いにノーヴェは素直に頷いた。どうやら話は纏ったようだ。

 

 すると、スバルが「じゃあ」と言いながらガラステーブルの下から数枚のチラシを取り出した。

 

「今日はもう遅いし、アインハルトを一人にしておくわけにもいかないので、デリバリーを取ろう! お金は食べた分割りね!」

 

 言いながら彼女はテーブルの上にチラシを乗せた。チラシの中にはピザやらハンバーガーやらチキンやら……ジャンクフード系がこれでもかと並んでいた。

 

「まったく、スバルってば本当に泊まりになるとデリバリー好きよねぇ。イクスの時だって私が泊まりに来たらデリバリー取ったし」

 

「いいじゃん、大勢で食べた方が楽しいってば。クロエもそれでいい?」

 

「はい。私もお金持ってるので大丈夫です」

 

 彼女は財布を取り出して頷いた。アルバイトをしているので、これでも懐は潤っている方だ。あとは実家の父から送られてくる仕送りもあるが。

 

 その後、四人がそれぞれ何を食べるかを決めて、インターネットで注文し、お泊り会的なものが始まったのであった。

 

 

 

 

 

 四人で食事を済ませた後、ノーヴェはシャワーを済ませてスバルから借りた寝間着に着替えた。けれど、シャツに袖を通す際、身体に痛みが走った。

 

「いっ。……あぁくそ、まだ痛みやがる。こりゃ、明日まで響くかな」

 

 ぼやきつつリビングの扉を開けると、途端にひんやりとした空気が、シャワーで火照った身体を心地よく撫でていった。しかし、冷やしすぎな気がしなくもない。

 

「おい、スバル。ちょっと冷房聞かせすぎじゃねぇのか?」

 

「んー? 冷房はつけてないよー」

 

「嘘つけよ。つけてないでなんでこんなに冷えるわけないだろ」

 

「ノーヴェ、冷えてる原因は冷房じゃなくて、あの子」

 

 ソファにゆったりと座っていたティアナが指を指す方向を見ると、窓際でクロエが座り込んでいた。

 

 彼女の下には蒼色の魔法陣が展開しており、ゆっくりと回転していた。座ったままの彼女の手からは時折蒼く煌めく粒子と共に、白い冷気が流れていた。

 

「なるほどな。そういやクロエは魔力変換持ちだったか」

 

「今は氷で造形しているらしいわよ。あれで魔力運用を鍛えるんだって」

 

「真面目だねぇ。つか、流石に冷えすぎだな。おい、クロエ! そろそろやめて風呂入って来い」

 

 その声にクロエは一瞬驚いたような素振りを見せたが、すぐに頷いて魔法陣の展開を終了した。

 

「いやー、ついつい熱が入っちゃって。作ってたのは氷のものだけど」

 

「かなり集中してたみたいだもんな。で、どんなモン作ってんだ?」

 

 クロエの背後を覗き込んでみると、そこには氷で造形された大剣、長槍などの武器の類。動物を象った小さめの氷像が数体並んでいた。その作品も細かいところまで作られており、芸術品としても通じるのではないだろうか。

 

「器用なものねぇ。こういう溝とかはどういう風にしてるの?」

 

「えっとですね。まずは頭の中に大まかな形を想像して、その後に後付けと言うか削りだして行くと言うか、そんな感じです」

 

「氷結の力ならではって感じだね。これを毎日やってるの?」

 

「いえ、毎日はやってません。師匠からは『あんまりやりすぎるとバテる』って言われました。あと、以前師匠の後輩さんが無理をしすぎた結果なのはさんにこっぴどくしかられたそうなので、結構間を置いてやっています」

 

「あー……」

 

「……」

 

 クロエの言葉にスバルは苦笑いを浮かべ、ティアナはそっぽを向いた。それぞれの顔には何故か汗が一滴伝っていた。

 

「それじゃあお先にお風呂頂いちゃいますね。氷は軽く砕いてシンクに置いて大丈夫ですか? 自然に融けるので」

 

「氷の処理は私がやっておくから、クロエは入ってきなよ。今日は色々あって疲れてるだろうし」

 

 スバルに言われ、クロエは一瞬氷を見て迷ったようだったが、やがて「ではお言葉に甘えて」と律儀にお辞儀をしてバスルームへ向かった。

 

 彼女が部屋を出て行くと、スバルは氷を一つにまとめ始めた。ノーヴェも彼女を手伝いために氷を纏め始めたが、剣を持ったところで呟いた。

 

「にしても、本当によく出来てるな。この剣とか普通に斬れるんじゃねぇ?」

 

 刃の部分を軽くなで上げてみると、ひんやりとした感触以外とともに刃物独特の鋭利さも伝わってきた。

 

「多分斬れるんじゃないかな。なんなら冷蔵庫にオレンジがあるから斬ってみる?」

 

「おう。ちょっと持ってきてくれ」

 

「ん、了解。この槍を折ったら持ってくるね」

 

 スバルは持っていた長槍を軽く力を込めてへし折った。その際、折れた面から仄かに蒼い光の粒子が零れた。

 

 改めて自分の持っている氷の剣を見ると、やはり普段自分達が扱っている氷ではないと気付かされる。よく中を見れば、先ほど見えた蒼い粒子がキラキラと光っている。

 

 しばらく見ているとその美麗さにひかれ、見蕩れてしまったが背後からの声で我に返る。

 

「はい、ノーヴェ」

 

「お、おう。サンキュ」

 

 渡されたオレンジを受け取り、軽く上に放り投げ、ノーヴェは剣を縦に薙いだ。

 

 確かな手ごたえが腕に伝わってくる。今のは物を斬ったという感触だ。見ると、床の上には真っ二つになったオレンジが転がっていた。その断面を見てみると、非常に鋭利な斬り口であることがよく分かる。

 

「やっぱり斬れるのか。つか、こんな綺麗に切れるとか、軽く凶器製造してんじゃん」

 

「とは言っても氷だからすぐに駄目になりそうだけどね。ホラ」

 

 ティアナが氷の剣を指差したので見てみると、確かに切先のあたりが融け出していた。

 

「ようは術者が近くにいないと長くはもたねぇってことか。人に渡すのには向いてないってわけだ」

 

「そうだね。それにクロエなら力を変な風には使わないよ。仮にそんなことに使ったらホラ……聖さんとなのはさんのキツーイおしおきが待ってるし」

 

「そうねぇ、うん、そう。桃色の閃光が襲ってくるのが目に浮かぶわねぇ……」

 

 二人はそれぞれ虚空を見上げて遠い目をしていた。特にティアナは重傷のようだ。過去に何かあったのだろうか。

 

「まぁアイツの氷の造形がすごいのは置いといて……くぁ……。あたしはそろそろ眠かったから寝るわー」

 

「一応怪我人なんだからベッドで寝るんだよー。アインハルトを起さないようにねー」

 

「わーってるよ。ったく」

 

 スバルの声に軽く返しながらリビングを出てアインハルトが眠る寝室に入ると、先ほどまでの騒がしさがすぐに遠くなった。

 

 室内にはアインハルトの寝息が静かに聞こえており、その寝息から深く眠りについていることが分かる。彼女を起さないようにベッドに潜り込み、枕に頭を埋めながら隣で眠るアインハルトを見やる。

 

「ガキの癖にいろんなモン背負い込みやがって」

 

 軽い溜息をついた後、ノーヴェはアインハルトの額を軽く弾いた。彼女は少しだけ眉間に皺を寄せたが、起きることはなかった。

 

 ノーヴェは仰向けになると、そのまま目を閉じた。

 

 ……明日はしっかりと話を聞かせてもらうからな。

 

 

 

 

 

 翌日、無事目を覚ましたアインハルトは最初こそ困惑した様子であったが、やがて彼女がどうして強さを証明したいのか、そして聖王と冥王を倒したいのか、その真意を四人に打ち明けた。

 

 曰く、彼女はただ単に聖王と冥王を倒したいのは彼等に恨みがあるわけではなく、ただ、覇王の身が強くあることを証明したかっただけらしい。

 

 それを聞いてスバルは安心した様子だった。それもそうだ、彼女はヴィヴィオの友人であると共に、冥王であるイクスとは親友と言っても過言ではない間柄だ。だからアインハルトが悪意を持って彼女らに接したいという真実を聞いて安心したのだろう。

 

 まぁそれはクロエも同じであったが、彼女はアインハルトをみて妙なデジャヴを感じていた。どうにもアインハルトのことを初めて会った気になれなかったのだ。いや、昨晩見たというのもあるのだろうが、それを抜きにしても、彼女とはかつてどこかで合ったような感覚を持っていた。

 

 しかし、その子とに対しては余り考えず、すぐに振り払うことにした。

 

 スバルの家で大まかな事情を聞いた後、一行は近くにある警防署に向かった。

 

 警防署ではアインハルトが注意勧告をされ、ノーヴェはノーヴェで何か書類を書いていたため、スバルとティアナ、クロエの三人は待合室で待つことになった。

 

「アインハルト、結構思いつめてた感じでしたね」

 

「うん。だからこのまま放ってはおけないかも」

 

「確かに。でもさ、その前にアンタのかわいい妹が一肌脱いでくれそうじゃない?」

 

 ティアナの言葉にスバルは「そうだね」と笑みを浮かべて頷いた。

 

「クロエはどうなの? アインハルトとは、仲良くなれそう?」

 

「そのあたりは問題はないと思います。どっちもストライクアーツをやっているので、そっち関連でもいい感じになれればいいとは思ってます」

 

「クロエなら歳も近いしすぐに仲良くなれそうだよね。私達は仕事上あんまり接する機会がないけど、ノーヴェと二人で仲良くなってあげてね。いろんなことを相談できる友達がいることってすごく助かることだからさ」

 

「はい!」

 

 スバルの頼みにクロエは笑顔を見せて頷いた。

 

 そのまましばらく待合室で二人の帰りを待ってみたが、いまいち帰りが遅いので三人で彼女らの様子を見に行くと、待合室はまた別にある奥まった空間のベンチに二人は隣り合って座りながらなにやら話しこんでいた。

 

 どうやら先ほどティアナが言っていたことが現実になっているようだ。まぁノーヴェの性格からしてアインハルトを放って置く様なことはしないだろう。

 

「これはもう少し待ってた方がいいかもね」

 

「出て行っても余計ややこしくなっちゃいそうですもんね」

 

 二人には特に話しかけず、三人は待合室へと戻っていった。

 

 やがて二人は戻ってきたが、どうやらある程度話はついたようで、今日学校が終わったらヴィヴィオとアインハルトが軽いスパーリングをすることになった。

 

 警防署から出た後は、アインハルトを学校に送り届け、クロエ達四人は行きつけのカフェで時間を潰すことにした。その際、ノーヴェがチンクに連絡を取っていたので、クロエも聖に連絡をとった。

 

『うーい、なんだークロエー』

 

「お疲れ様です。師匠、今日はお仕事はどれくらいで終わりになりますか?」

 

『えーっと今日は順当に行けば三時半前後には上がれると思う。昨日は帰ってからも仕事してたから今日は楽なんだ。なんかあったか?』

 

「はい。実は、今日ヴィヴィオと、昨日の覇王の子、アインハルトって言うんですけど、その子が区民センターのスポーツコートでスパーをすることになったんです。だから、師匠も来てくれた方がいいのかなって思いまして」

 

『なるほどな。覇王か……うん、わかった多分いけると思う。ノーヴェとかにも言って置いてくれ』

 

「分かりました。では、また」

 

 クロエは通信を終えてモニタを落とした。

 

 

 

 

 

 

「覇王……か」

 

 クロエとの通信を切った聖は仕事の手を休めて背もたれに寄りかかりながら息をついた。

 

 そのまま天井を仰ぎ見て目を閉じると、瞼の裏にとあるビジョンが浮かび上がってくる。

 

 移ったビジョンは戦場の光景。赤き炎が揺らめく戦火の中で、二人の男女が向き合っていた。一人は碧銀の髪で紺と青の瞳を持つ青年。もう一人はブロンドの髪に翠と紅の瞳の女性。

 

 これは一年ほど前からたびたび見るようになった夢の映像だ。最初はどのような夢だったかも覚えていなかったが、見るうちに覚えて行ってしまった。

 

 夢の中で青年は女性を「オリヴィエ」と呼び、女性は青年を「クラウス」と呼んでいた。この情報と彼等のいる場所、そして聖自身の境遇を考えれば、あの二人が誰かは簡単に察しがついた。

 

 女性は聖やヴィヴィオのオリジナルといえるべき存在の聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。そして彼女の前で片足をついていた青年は覇王、クラウス・G・S・イングヴァルトだ。

 

 彼等の夢をなぜ自分が見るようになったのか。その原因は未だに分かっていない。ヴィヴィオにも見抜かれないように聞いてみたものの、彼女は自分と同じ夢を見ていないようだった。

 

「聖王の力は捨てたってぇのに、なんであんな夢を見るようになったんだか」

 

 再び瞼を開け、跳ね起きるように椅子から立ち上がる。そのまま大きく伸びをすると、しばらく座っていたためか背骨がグキグキと鳴った。

 

「まぁ今となっちゃ過去の話だし、気にしなくてもいいと思うけど……覇王っ娘か。気にはなるな。よし、そんじゃさっさと仕事終わりにしてクロエ達と合流しますかね」

 

 気を取り直して椅子に座ると、再び案件の整理を始めていった。

 

 

 

 

 

 クロエがヴィヴィオ達と合流したのは午後四時ごろであった。それに少しだけ遅れてアインハルトもやってきた。ヴィヴィオとアインハルトの挨拶はややぎこちないものであったが、どちらも嫌悪感は抱いていないようだった。

 

「とりあえず揃ったけど、聖さんはなんか言ってたか?」

 

「先に区民センターに行ってろだって。師匠は今日は車らしいから」

 

「わかった。そんじゃあ先に行くか。あっちに着いた位には合流できるだろ。じゃあ行くぞ、皆」

 

 ノーヴェが言うと集まった全員が返事をした。因みに、ノーヴェがチンクだけに連絡を入れたところ、ウェンディにディエチ、さらには話を聞きつけたディードやオットーまでやってきたのだ。

 

 なので基本に集まっていた四人に加わってかなり大所帯となってしまっている。

 

 ウェンディたちも邪魔をしに来たわけではないので無碍には出来ないが、クロエ自身少々集まりすぎではないかと思っている。

 

「あの、クロエさん」

 

 名前を呼ばれたのでそちらを見ると、アインハルトがこちらを見上げていた。

 

「なに? アインハルト」

 

「えっと、先ほど言っていた師匠と言うのは、クロエさんのストライクアーツの師匠なのですよね?」

 

「そうだよー。すっごく強くて私の目標でもある人だよ。あと――」

 

「――あとひじりんはヴィヴィオのパパでもあるッス。怒らしたらめっちゃ怖いんで、怒らしちゃだめッスよー」

 

 クロエの言葉を遮るようにウェンディが割って入ってきた。だが、ウェンディはチンクに軽く脇腹を小突かれた。

 

「こら、ウェンディ。あまりアインハルトを不安がらせるな。ただでさえ初対面の人間が多いのだからな」

 

「違うんスよチンク姉。あたしはただアインハルトの緊張をほぐそうと思ってー」

 

「逆効果だばか者。すまんな、アインハルト。妹の粗相を許して欲しい」

 

「い、いえ。気にしてはいませんので大丈夫です。でも、どうしてヴィヴィオさんのお父様が?」

 

 彼女の質問も最もだろう。けれどさすがに本人がいないのにベラベラとしゃべるわけにもいかないので、

 

「えっと、それは師匠から直接聞いた方がいいかなー。私からも話しておくから。ねぇ、チンクさん。その方がいいですよね?」

 

「うむ、人のプライベートを話すのは人間としてしてはいけないことだからな」

 

 チンクもクロエの意図をくんで頷いたが、その背後で再び動き出すウェンディ。

 

「あ、ひじりんはヴィヴィオと同じせいお、もがッ!?」

 

「はいはい、ウェンディはもう少しおとなしくしとこうねー」

 

 今度は言い終わる前にディエチに口をふさがれ連行されていった。流石にもう話には入ってこないだろう。

 

 

 

 区民センターが視界に入った時、アインハルトは視線の先にある人物を捉えた。性別は男性、歳は二十代前半から中盤だろうか。髪は漆黒で瞳は鮮やかな紅だ。服装はかなりラフな格好で、黒のジーンズにシャツといった出で立ちだ。

 

 けれどアインハルトは彼から発せられる威圧感というか、オーラというか、そういう類のものを感じていた。

 

 ……あの方、相当の使い手ですね。

 

 思わず身構えてしまいそうになったが、そこで前を歩いていたヴィヴィオが男性に向かって駆け出した。

 

 駆け寄った彼女を見ると笑顔を見せていたので、あの男性がヴィヴィオの関係者であることはわかった。なので、彼女の関係者で先ほどの話から察すると、

 

「あの方がヴィヴィオさんのお父様?」

 

「そうだ。そんでクロエの師匠で管理局の執務官ってわけ」

 

 ノーヴェの言葉に頷いて再び視線の先にいるヴィヴィオの父を見やる。

 

 彼は今駆け寄ってきたヴィヴィオの頭を撫でてなにやら話しているようだった。その光景から見ても、ヴィヴィオが本当に明るい環境で育ってきたのだということが見て取れた。

 

 ふとヴィヴィオがこちらを指差してきた。どうやらこちらのことを紹介しているようだ。

 

 そのまま歩いて彼の元にやってくると、ノーヴェが挨拶した。

 

「ども、聖さん。急にきてもらってすんません」

 

「気にすんな。今日は早上がりだったし、大した問題はねぇよ。そんで、そっちが?」

 

「あぁ、クロエからも聞いたと思うけど、例の覇王っ娘だ」

 

 二人の視線が注がれたので、アインハルトはピッと背筋を伸ばして頭を下げた。

 

「アインハルト・ストラトスです。よろしくお願いします」

 

「高町・H・聖だ。よろしくな、アインハルト」

 

 聖は小さく笑って手を差し出してきた。それに答えて握手を交わすと、彼が静かに頷いているのが見えた。

 

「あの、なにか?」

 

「ん、あぁいや、しっかり鍛えられてんなって思ってよ。こりゃあお前もうかうかしてらんねぇな、クロエ」

 

「うっ。で、でも私だって師匠の超スパルタ鍛錬受けてますし! アインハルトと勝負したって負けません! たぶん……おそらく……きっと……」

 

「最後のほう自信なさ過ぎだろ。まぁしっかり鍛えてやってるし善戦するとは思うぜ? 確実に勝てるって保証はしねぇけど」

 

「そこはもっとオブラートに包んでくださいよ師匠ー!」

 

 クロエはぽかぽかと音がしそうな軽いパンチを聖に繰り出していたが、全て受け止められていた。

 

「驚いたか?」

 

「あ、はい。ヴィヴィオさんのお父様なのでもっとこう……」

 

「お堅いって思ってた?」

 

 ディエチの問いに控えめ気味に頷いてみると、彼女は苦笑しながら答えた。

 

「それは確かに思ったとしても無理はないよねぇ。ヴィヴィオが真面目だから、お父さんも真面目で厳格だと思われるけど、実際会ってみると聖さんはかなりフランクだし」

 

「でもでも、怒らせるとめっちゃ怖いんスよ。目なんかこーんな風に吊りあがって――」

 

「――だーれが怖いってぇ? ちょっと向こうでオハナシしようぜ。ウェンディちゃーん」

 

「ぎゃー! チンク姉ー助けてくださいッスー! 殺されるー!」

 

「自業自得だろうウェンディ。姉に頼らず自分で何とかしろ」

 

 ウェンディはまたしても連行されていった。人は違うが。

 

 皆はそれに呆れたような表情を浮かべていたが、表情から見るに彼女が聖に怒られるのはいつものことなのだろう。

 

「もー、パパー、ウェンディ! 遊んでないで行くよー! アインハルトさんだって待ってるんだから!」

 

「おー、わるいわるい。ホレ、ウェンディいつまでのびてんだ。置いてくぞー」

 

「ひじりんがオハナシしたせいでこうなってるんスよ! 連れてってくださいッス!」

 

「しゃーねぇな」

 

 ウェンディの物言いに対し、彼女を抱き上げるかと思いきや、聖はウェンディの首根っこを掴んで引き摺ってきた。

 

「よし、これで行こう。待たせてわるかったな」

 

「ちょ、流石に乱雑すぎッスよね!?」

 

「あーはいはい」

 

 彼は適当な返事をしながら先に区民センターに入っていった。最初はウェンディも暴れていたが、段々と諦めがついたようで最終的にただ引き摺られるだけとなった。

 

「すみません、アインハルトさん。変な父で……」

 

「いえ、面白い方でいいと思いますよ」

 

 ヴィヴィオが申し訳なさげに頭を下げてきたのでそれに答える。それに安心したのか、彼女はほっとしたようだった。




お待たせして申し訳ない。

とりあえず今回でアインハルトと初がらみ……。
いろいろ薄い! 浅い! 総評、最悪!
ただ、いろんな人の視点でみた方がいいと思ったので、色々視点が跳んで申し分けない。
次回はスパーやって埠頭での本気バトルまでもっていければと思います。
そして次回はクロエに変化があります。まぁもうどんな変化かはお解かりかもしれませんがw

次回は明日明後日には投稿したいと思います。
では、感想などありましたらよろしくお願いします。
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