久しぶりの休みを趣味で満喫していると朝早くからも、家の電話が鳴り響いた。
「莉瑚は高町さんのところに行ってるのかな」
電話を取りにくるまでにふと考える。
「はい、菊池です。おや、すずかちゃん。どうしたんだい?」
相手は娘が、いや娘に、かな。すごく懐いている娘より一つ上に女の子だ。
「実はちょっとご相談がありまして。黒のオーブメントについてなのですけど」
「おや、ゴスペルに手を出したのかい。僕も昨年から手を出したけどあれは難解だね」
莉瑚ではなく、私にすずかちゃんが連絡してくるのはこの2年で珍しいことではない。
同じ導力技術者として、切磋琢磨の間柄なのだ。
「どのくらいできています?」
「そうだねー・・・7,8割くらいかな」
「まぁ、本当ですか。え、えと私のほうは5割強ってところなのですが」
「やっぱり小型化かい?」
「はい・・・作るだけならいつでもできますけど、大型になってしまって」
「うんうん、わかるよ。莉瑚の参考設計図を見る限りどう見ても拳大だものね」
莉瑚の話だとAMF、アンチマギリンクフィールドって言う魔力結合を無効にする魔法があるらしいけど、動力技術でいうとそれが一番近いものになるとのことだ。
「あ、あの透小父様。ゴスペルについて共同研究しませんか?」
「おや、遠慮することはないよ。1年以上導力技術に携わり、SCオーブメントも一人で作ったのだろう?それだけの技術者なら大歓迎だよ」
ピンポーン!
「おや、お客様?ちょっと待ってね。すずかちゃん」
こんな朝早くから誰だろう?
電話を保留にして扉を開ける・・・あ、あれ?
「えと、さっそく来ました」
先程まで電話先にいた、すずかちゃんが来ていた。
「いやいや、びっくりししたよ。ほら、上がって」
何度も来たことがある彼女は、勝手知ったる様子でそのまま莉瑚の部屋まで荷物を置きに行く。
「そうそう、すずかちゃん。最近莉瑚がお気に入りの下着がないってぼやいてたから注意してね」
僕が言うと、すずかちゃんは莉瑚の部屋を開けようとした瞬間そのまま固まってしまい、ソローッとこっちを見る。
「えと、気づいてました?」
「僕はね。でも莉瑚は気づいてないみたいだよ。まぁ、僕も男だから気持ちわからなくもないし、莉瑚のこと大切にしてくれているので深くは追及しないけど」
「えと、ありがとうございます」
やっぱり後ろ暗かったのか、ひきつった顔のまま莉瑚の部屋に入っていった。
ちょっといじめすぎたかな?
莉瑚の部屋の隣の部屋を開ける。
最初は莉瑚のために用意してあげたのだけど、今では僕のほうがよく使うようになってしまった。
けしてこの世界の技術者には見せられない、工房なのだ。
引っ越してから少し広めの部屋にしたつもりだったけど、手狭になったかな。
棚から僕の作った3つの設計図を取り出す。
せっかく莉瑚以外で共有できるのだ。
僕も相談しようかな。
「お待たせしました」
「戦利品はあったかい?」
「はい、ばっちりです!」
割り切ったのか、こちらに微笑んで、いつも莉瑚が座る椅子に座る。
莉瑚といいこの子といい、最近の小学生はすごく大人びているな。
「おや、これは?」
ちょうど取り出した3つの設計書を手に取る。
「うん、僕が設計したものなんだけど、せっかくだからすずかちゃんに見てもらおうと思ってね」
「ゴスペルと情報タブレット、それから足場を形成するユニットですか」
「そう、ゴスペル以外は、僕のオリジナルになるんだ。情報タブレットは、情報のクオーツから読み取ったものを視覚化、データベース化するだけだから、それほど難しくないんだけどね」
情報のクオーツでどの情報を取得するかちゃんと制御する必要があるけどね。
身体測定しかり、相手の戦闘能力を数値化、物体の大きさだって即数値化可能だ。
その分情報のクオーツは貴重らしいけどね。
セピスから作るのは難しいからと、莉瑚が1日1回生産できるレアスキルでいくつか作ってるみたいだけどね。
「最初は飛行ユニットかなって思ったんだけど、莉瑚は剣術もやってるし、足場形成ユニットの設計を考えてみたんだ」
以前、極めた御神の戦士は、たぶん飛ぶより走ったほうが速いし、強いって言ってたしね。
「これは・・・風・時・空の属性ですか」
「そうそう、やっぱり力場を形成するのは基本だけど、持続時間の変動や空だと風とかもすごそうだしね」
「うーん、風はオンオフ切り替えられるといいかもしれませんよ。優れた戦士は肌でいろんなことを感じるそうですが、それを阻害してしまう可能性もあるので」
「ほほぅ、なるほど、確かに」
「あと形成する方向とかも考えると面白そうですね。莉瑚に以前見せてもらいましたけど、短時間なら壁を蹴って移動できるので。形成方向を思考制御できるといいですけど」
「なるほど、形成方向か。必ずしも重力方向に足をつくわけじゃないってことだね」
結構頭が固かったかな。
若い子は発想力が違うといえばいいのか、僕が歳を取ったといえばいいのか。
「うん、いいこと教えてもらったよ。来年度までにできるかわからないけどね。そしてこっちがゴスペルだけど、やっぱり強度かな」
「強度ですか・・・あっ、でもこの部分、私はクリアしてますよ」
そう言ってすずかちゃんが持ってきた設計書を見せてもらう。
「なるほど、この部品の発想はなかった。流石だね、すずかちゃん」
「いえ、透小父様もすごいです。こことここの回路のつなげ方はシンプルできれいですし、ここの強度私の倍以上ありますよ」
しかし、本当にすごいなー・・・本当に小学2年生?
「あっ、透小父様!検証は必要ですが、私たちの設計合わせると9割9分できそうじゃないですか?」
「おぉ、ほんとだ。まさかここ1ヶ月くすぶっていた研究が!」
「あら、小父様、ここをこうすると出力範囲が広がりません?」
「いやいや、その場合効果が極端に下がる。むしろこっちを・・・」
「こっちのほうが・・・」
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「ただいまー。あれ、この靴って」
んっ、玄関のほうから莉瑚の声が?
「あー、やっぱり。すずか姉様も」
「あっ、莉瑚。お帰りっ!」
「お帰りじゃないですよ!今何時だと思ってるんですか」
「「えっ!」」
慌てて室内の壁時計を見ると20時になっている。
「いくら夏休みだからと言って、ハメを外しすぎですよ」
そう言って莉瑚は携帯を取り出してどこかへとかけだした。
「・・・あ、莉瑚です。やっぱりうちにいました。父様と一緒に集中して電話に気付かなかったみたいですよ。・・・えぇ、今日はこちらに。・・・いえいえ、お互い様ですよ」
電話をしながら、リビングのほう戻っていった。
「えと・・・忍ちゃんから電話があったんじゃない?」
すずかちゃんは、部屋の隅にあるバッグまで行き、携帯を取り出すと案の定だったようだ。
「さっきの電話からすると泊まっていくようだね。まだまだ話足りないけど、お昼ご飯も食べてないんだ。夕食の準備をしよう」
「あっ、大丈夫、私がやります。二人はそのままやってていいですよ。桃子小母様にお惣菜もらったので、それを夕食にしますね」
電話が終わった莉瑚に止められる。
「とはいうけど、すずかちゃん。莉瑚を手伝ってもらっていいかい?」
「はい」
研究も楽しいけど、すずかちゃんからすると莉瑚との会話も大事だろうね。
台所に立つ仲のいい二人を一瞬見て、お風呂の準備をしに風呂場へと向かう。
「あれっ、父様。楽しいことありました?」
振り返った莉瑚が聞いてきた。
莉瑚が幼いころに母を亡くして、男親で育てたり、莉瑚のびっくり裏話もあったりと最初は大変だったけど、辛いと思ったことは一度もない。
それに、ここに引っ越してきてからの数年は本当に楽しい。
「そうですね。いつも通り楽しく過ごせていますよ」
「えっ?」
あまり見ることない莉瑚の呆けた顔を横目に、苦笑しながら風呂場へと向かった。