艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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309話 憧れの恋、ため息一つ(3)

「な…」

 

「ふふっ、どうです⁇」

 

「参りましたね…まさか一撃で負けるとは…」

 

そこはパイロットの教官

 

偏差射撃や角度計算を瞬時に行わなければならない職業

 

カトリからすれば、ビリヤードの角度計算なんて戦闘機の機銃を当てるより遥かに簡単

 

「ではボウリングを」

 

「分かりましたっ‼︎」

 

いざボウリングが始まる…

 

が…

 

「そこっ‼︎」

 

「おぉ…」

 

「えいっ‼︎」

 

「…」

 

後半、ヴィンセントはただただカトリのプレイに魅入る

 

ちょっと前に敗北は分かっていたので、既に勝負は捨てた

 

「ど、どうやってそんなカーブを…」

 

「戦闘機のミサイルをイメージするのです」

 

「教えて頂けますか⁇」

 

「此方へ」

 

カトリは気付いていない

 

いつもの教官である自分に戻っている事を‼︎

 

「球を構えて、前だけを見てください…」

 

カトリはいつも教えている様に、体を密着させ、手首を握りながらヴィンセントに体幹を教える

 

「はっ‼︎ご、ごめんなさい‼︎いつもの癖で‼︎あのっ‼︎」

 

ここでようやく気付く

 

自然と肌に触れ、挙句胸を背中に置いていた事を

 

「それっ‼︎」

 

ヴィンセントが投げた球は少しカーブを描き、ストライクを取る

 

「お、お上手です‼︎」

 

「流石は教官です」

 

カトリは顔が真っ赤になっている

 

ふと、時計が目に入る

 

「嘘…もうこんな時間⁉︎」

 

もう夕方だ

 

自分が如何に楽しい時間を過ごしたかよく分かった

 

「少し早めに夕食にしましょうか」

 

「あ、は、はい‼︎」

 

カトリは再びヴィンセントと腕を組み、最初に行こうとしていた間宮に来た

 

「いらっしゃいませー‼︎」

 

「二人です」

 

「お好きな席にどうぞ‼︎」

 

伊良湖に言われ、入って右の列の一番奥に座る

 

「此方、オススメのディナーセットのメニューになります」

 

伊良湖が置いたのは新しく始めたディナーセット

 

メインはステーキ、後はポテトやライスが付いている

 

「なら、私はこれで」

 

「私もこれで‼︎」

 

「畏まりました‼︎」

 

伊良湖が厨房に向かい、カトリは気になる事を聞いた

 

「あの…ヴィンセントのワガママとは…」

 

「ディナーの後で、です。御心配なく、何かを求める訳ではありません」

 

「分かりましたっ」

 

どうやら何か考えてくれているらしい

 

しばらくすると、伊良湖がディナーセットを運んで来た

 

「ディナーセット二つです‼︎お熱いのでお気を付け下さい‼︎」

 

「「ありがとうございます」」

 

熱々のステーキを二人は頂く

 

「あら、美味しい…」

 

「良い味ですね…」

 

ステーキは中々に美味しい

 

付いているデミグラスソースととても良く合う

 

柔らか過ぎず、固過ぎず、絶妙に噛み応えがある

 

「ヴィンセントは向こうでステーキ食べてました⁇」

 

「えぇ。これと良く似た物を。いやしかし、これは美味しい…」

 

「ホントですね…」

 

日中来た時に脱脂粉乳を出していた店と同じと思えない

 

普段マナーを守って食べるカトリが、ナイフとフォークを動かす手が早くなるレベル

 

ヴィンセントが舌鼓を打つのには理由がある

 

実はこのステーキ、園崎がアメリカに渡った際にヴィンセントに食べさせて貰ったあのステーキを模した物

 

園崎はその味が忘れられず、どうしても食べたくなった為、間宮に頭を下げて何とか作って貰った

 

それを間宮がディナー限定セットにした所、非常に人気が出た

 

そう、脱脂粉乳さえ出さなければ間宮は非常に腕利きなのだ

 

「お腹いっぱい…美味しく頂けました…」

 

あっと言う間にペロリと平らげたのはカトリの方

 

ヴィンセントは半分程食べた所で、自分の地元のあのレストランの味を思い出し、噛み締めていた

 

「美味しそうに食べますね⁇」

 

「懐かしい味です…」

 

ここでもカトリは気付く

 

誰かの食べている顔を見るのが好きな事を

 

今までだって、振り返ればそうだ

 

特に大尉二人

 

あの二人がマナーガン無視、私が教えたテーブルマナーの一つも聞かないでパン一個取り合っているあの光景…

 

あぁ、何で注意しなかったか分かった…

 

もっと見ていたいからだ…

 

好きなんだ、私。あのうるさい光景が…

 

カトリは深く息を吐きながら微笑む

 

「何か思い出しましたか⁇」

 

いつの間にかヴィンセントは食べ終えており、机に肘をつきながらカトリの顔を見ていた

 

「あっ、いえ‼︎」

 

「少し飲みましょうか」

 

「はいっ‼︎」

 

ヴィンセントはいつもの癖なのか、伝票の上に代金を置いた

 

「私出します‼︎今日付き合わせっぱなしなので‼︎」

 

「構いませんよ。行きましょう」

 

「ありがとうございましたー‼︎またのお越しをー‼︎」

 

「「ご馳走様でした」」

 

間宮を出て、二人はバーを目指す…

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