艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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314話に続き、もう1話タイムスリップのお話です

バットの話を聞き、リチャードは一つだけ後悔をしていると言います

果たしてその後悔とは…


315話 40年後の告白

パースの一件からしばらくした日…

 

「ほほ〜、これがそのタイムマシンか!!」

 

「ちょちょちょちょ!!あんまやっとすぐ飛ぶって!!」

 

リチャードは朝霜にコーヒーを淹れて貰いながら、改良途中のバットを手に取る

 

「私も一つ、後悔してるんだがな…」

 

リチャードは一瞬、バットの底を見て真剣な顔になった

 

「…戦争の最中に行くのはダメだぜ。色んな人の生き死にがあって、アタイ達は生かされてんだ」

 

「良い事言うじゃないか!!流石は私の孫だ!!がっはっはっは!!…ほれっ!!」

 

いつの間にか時間を合わせ、床を小突いたリチャード

 

「だーっ!!やっぱじゃねーか!!」

 

「クソデカエテ公の映画の公開日だよーん!!」

 

「ったく…事前告知があっただけマシか…」

 

朝霜は思い出した

 

この親子は一瞬たりとも目を離しちゃいかんって、母さんが言ってた…

 

 

 

「イダッ!!」

 

ざわつく街の中心に着いた

 

街の人間の服装が少し古い

 

「ホントに来たのか…??」

 

目の前には映画館がある

 

映画館の表にはデカいゴリラのポスター

 

朝霜に言った、クソデカエテ公の映画の封切り日だ

 

「どうもマジだな…こりゃあ…」

 

リチャードがどうしてもこの時代に来たかった理由はここにあった

 

映画が始まるまでまだ時間がある

 

「大人一枚だ」

 

チケットを買い、一旦その場を離れる

 

「さてと…おっ…」

 

リチャードの目に入ったのはレコードショップ

 

店頭のポスターには、女性二人のボーカルグループとロックバンドグループのポスターが貼ってある

 

どちらも新曲を出した、その販促だ

 

「…」

 

レコードショップに吸い込まれる様に入り、ポスターのレコードを探す

 

「私こっちが聞きたい!!」

 

「俺はこっちだ!!」

 

カップルがどちらのレコードを買うか、ちょっと揉めている

 

彼女は女性ボーカルグループの"ダンシング・プリンセス"

 

彼氏はロックバンドグループの"ホテル・グランドキャニオン"

 

私は二人に見つからない様、微笑ましい光景を時折眺める

 

「あったっ…」

 

2枚ともレコードを見付け、紙袋に入れてもらって外に出て来た

 

そろそろ映画の時間だ…

 

 

 

「ポップコーン、如何ですか??」

 

一番後ろの、真ん中の席に座ると、黒髪の女性にポップコーンを勧められた

 

「一つ貰おうか」

 

ポップコーンを手渡されると、女性は私の耳に口を近付けた

 

「お気を付けて…おじい様…」

 

「はっ…」

 

黒髪の女性は私の口を人差し指で止める

 

「ありがとう、ございました」

 

言わぬが吉の様だな…

 

電気がゆっくりと暗くなり、スクリーンに映画が投写される

 

「始まってる始まってる…」

 

「早く早く…」

 

私の前に、先程のカップルが座る

 

ポップコーン片手に一瞬だけカップルを見た後、少しだけ口を上に上げ、スクリーンに目を戻す

 

映画の最中、時折カップルの背中を見る

 

女性が男の肩に頭を寄せながら映画を見ては、時折男の横顔を覗き込む

 

映画を見ているのか、最愛の人を見ているのか分からぬまま、大きなゴリラはビルの上に登る

 

男はそのシーンを見て、目を輝かせる

 

スクリーンに目を戻すと、複葉戦闘機である"ヘルダイバー"が出演していた

 

それを見る男の目はまるで、空に思いを馳せる少年の様な目をしている

 

女性はその目を見るのが堪らなく好きなのだろう…

 

映画が終わり、私はポップコーンの容器をゴミ箱に捨て、紙袋を持ってカップルの後ろを着いて映画館を出た

 

「う〜ん…」

 

映画館を出た私は、タバコを吸いながら再びレコードショップのポスターを見る彼女を横目で見る

 

「次の給料日に買おっか。なっ??」

 

「そうしましょう!!私、お料理して待ってますから、時間を置いて来て下さいね??」

 

「ゲーセンにでも行って時間潰して来るよ!!」

 

彼女と彼氏は、真逆の道を行く

 

こちらに来たのは彼氏の方

 

「一緒にいた方がいいぞ」

 

「なんだよ…彼女が手料理作ってくれんだよ!!」

 

すれ違いざまについ、声を掛けてしまった

 

「そうか、すまなかった…」

 

彼氏はそのまま行ってしまった

 

何も分かっていないな…

 

いや…分かるはずなんざ、ないんだ…

 

これは"私の"後悔

 

"お前の"後悔じゃない

 

彼氏がゲーセンに入ったのを見て、私は走った

 

 

 

 

「よい、しょっ…」

 

小さい体で紙袋を抱える彼女が見えた

 

今から自宅で彼氏の為に手料理を振る舞うのだろう

 

…今から自分の身に、何が起こるかも知らずに

 

彼女は信号を待っている

 

信号が青に変わり、いざ横断歩道を渡ろうとした

 

「あっ…」

 

横断歩道を渡ろうとした寸前で、彼女を抱き寄せた

 

その瞬間、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来た

 

「ありがとうございます…えと…」

 

「何も言うな…お願いだ…」

 

「…」

 

「すまない…君の後ろに回るまで、40年も掛かった…」

 

「もう…さっきそこで別れたばっかりでしょ??大丈夫??」

 

「そうだな…そうだったな…」

 

彼女の頭に、二粒涙が落ちる

 

「振り返るな…この先の人生、前だけを見てくれ。お願いだ…」

 

「分かったわ…」

 

「愛してる…"ブレンダ"…」

 

「私もよ…」

 

彼女から手を離す

 

彼女はそのまま前を見て横断歩道を渡り、渡りきった後、先程の所を振り返る

 

そこにはもう、私はいなかった…

 

 

 

 

「よしっ…戻ったぞ!!」

 

「おかえり。映画は楽しめたか??」

 

戻った直後、マーカスがいた

 

未来は結局、代わり映えしないか…

 

「何買って来たんだよ。見せてくれ」

 

「やーだねー!!ちょっと用事があるからバイビー!!あ、マーカス!!」

 

「なんだ!?」

 

「朝霜に礼を言っといてくれ!!」

 

「分かった!!」

 

私は紙袋と共に、再び走る…

 

「おかえりなさいリチャード!!」

 

パイロット寮の玄関を掃いていたイントレピッドが迎えてくれた

 

「ただいま。リビングの蓄音器って、まだ使えたよな??」

 

「使えるわよ??レコードでも買ったの??」

 

「懐かしいの見つけてな!!」

 

「あんまりおっきな音出しちゃダメよ!!」

 

「分かってるって!!」

 

心臓が鼓動を速める…

 

生きていてこの鼓動を感じるのは…

 

後にも先にも、あの日と今日だけだ

 

手洗いうがいをし、冷たい水で顔を洗って鏡を見る

 

「しっかりしろ、リチャード…」

 

鏡の中の自分に言い聞かせ、リビングに向かう…

 

 

 

リビングの蓄音器にレコードをセットする

 

ポスターの女性ボーカルグループの曲が流れるまでに、キッチンに入る

 

"ダンシング・プリンセス"と言う、一世を風靡した曲が流れ始めると同時に、キッチンにいた女性を背後からゆっくり抱き締める…

 

抱き締めた瞬間、女性は肩を上げた

 

「本当に40年掛かりましたね…」

 

彼女はこの日が来るのを知っていたかの様に、おたまを置いて私の腕に手を重ね、愛おしそうに頭を置く

 

「すまない…遅刻してしまった…」

 

「ふふっ…やっぱり貴方だったのね…リチャード…」

 

「ブレンダ…許してくれ…」

 

「覚えてくれていたのですね…もう、忘れられたのかと思ってました…」

 

「忘れる訳ないさ…あの後君がいなくなって、私は荒れに荒れた。酒に溺れて罪を犯した…」

 

「振り返らないで…この先の人生は、前だけを見ていて下さい。お願いです」

 

あの日彼女に当てた言葉を、丸々返された

 

40年、互いに片時も忘れていなかった…

 

「踊りましょう!!リチャード!!」

 

「よしっ!!」

 

私は踊る

 

あの日に戻ったかの様に、リビングの空気が変わって行く…

 

私は20歳の時に…

 

彼女は"17歳"の時に…

 

 

 

その日の夜、私は彼女と一緒に自室であのでかいゴリラの映画を見た

 

あの日、私の前にいたカップルは私達自身

 

レコードショップの時も、映画の時も、私は過去の私の後ろで青春の影となっていた

 

映画が終わり、彼女は私の横で眠っていた

 

タオルケットを掛け、前髪をかき上げ、キスをする

 

「おやすみ…"フレッチャー"…」

 

私もその横で眠りについた…

 

その日、私達は夢を見た

 

あの日の続き…彼女の手料理を食べる夢だった…




ダンシング・プリンセス
一世を風靡した女性ボーカルグループの名曲

最近久方振りにアルバムを出した



ホテル・グランドキャニオン
ダンシング・プリンセスとほぼ同時期に流行ったロックバンドの曲

サビの入り方がメチャかっこいい
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