艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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ふと思い付いたので、もう一話タイムトラベルのお話を

周りの皆が過去を取り戻して行く最中、ある人物が過去を取り戻したくなります


316話 Even if you are reborn, beside you again… (Past Stranger Side)

「最近ヴィンセントの様子がおかしい??」

 

「そうなのよ。何かあったのかしら…」

 

ある日の夜のキッチンでイントレピッドが切り出したその言葉は、女であるからこそ分かった、小さな男の変化

 

リチャードから見たらヴィンセントの変化は特に無い

 

「リチャード、止めなくて良いから原因を調べて欲しいの」

 

「分かった。奴がいなくなると暇になるからな」

 

「何を話してたんだ??」

 

当の本人がコーヒー片手に前に座る

 

「ヴィンセントがイケメンになったなって思ってな!!」

 

「最近イキイキしてるわ!!」

 

「そうだろう!!そろそろアンチエイジングしないとな!!」

 

「でだ、ヴィンセント君。どれ!!」

 

リチャードは右手を三叉の槍の様な形にし、ヴィンセントの前に出す

 

「おやすみ、リチャード??」

 

ヴィンセントはリチャードの指を手で隠し、いつもの笑顔を見せ、執務室に戻った

 

「うーむ…」

 

「何か様子変わったでしょ??」

 

「いつも通りといえばいつも通りなんだがなぁ…」

 

イントレピッドの頼みな故、リチャードは断る事も出来ず、ヴィンセントの様子を伺う事にする

 

 

 

 

午前0時を知らせる時計が鳴る

 

ヴィンセントは仕事を終え、座ったまま伸びをする

 

そして、何かを見た後立ち上がり、何処かへ向かう…

 

その顔はいつもの凛々しいヴィンセントの顔ではなかった

 

イントレピッドが言っていた予感は当たっていたのだ

 

 

 

 

ヴィンセントは工廠に来た

 

ジュラルミンのケースを開け、ため息を吐き、手を合わせた後、何かを握る

 

カリカリ…と、何かを回す音がする

 

しばらくするとその音が止まり、また先程の様な顔を見せる

 

そして、ヴィンセントの姿は消えてしまう

 

が、数十秒後には戻って来た

 

楽しいのか、悲しいのか…

 

どちらも混ざった様な、優しい顔をしていた…

 

 

 

 

 

ヴィンセントは時折夜中に居なくなり、同じ様な事を繰り返した

 

帰って来た時に目を閉じ、深く息を吐く時もあれば

 

目の周りを赤くして帰って来る時もあった

 

「ね…ヴィンセント泣いてなかった??」

 

「奴にも抱えるモンが多いかんな…」

 

それは次第に、私生活にも少しだけ影響が出始める

 

イントレピッドが気付いた様に、次の日の朝まで目を赤くしていたり

 

執務が終わって、誰かが声を掛けるまでボーッとする事が増えた

 

「びんせんとさ」

 

執務室でボーッとしていると、ワシントンが遊びに来た

 

「あぁ…ワシントンか‼遊びに来たのかい??」

 

「おさんぽっぽ、いこ」

 

「よし!!行こう行こう‼」

 

ヴィンセントがワシントンに連れられて外に出た

 

「良かった‼ワシントンが連れ出してくれて‼」

 

「ははっ、奴も子供には負けるさっ!!」

 

食事を食べる場所で煙草を吸いながら新聞を見ていたリチャードは、ヴィンセントが一瞬見せた横顔から目を離さなかった…

 

 

 

 

「美味いか??」

 

「おいすぃ」

 

ヴィンセントとワシントンは間宮に行き、チーズバーガープレートを頬張る

 

親子の様な光景を周りに見せながら、ワシントンはヴィンセントの前で口の周りを汚しながら美味しそうにチーズバーガーを頬張る

 

「ぽてぃと」

 

「覚えたのか??」

 

「ぽてぃと、ちーずばがー」

 

「ふふっ…」

 

ワシントンがいつもの様に少し笑うと、ヴィンセントは優しい顔を見せる

 

そのヴィンセントの姿は"何かをやり直している"様にも見えた

 

間宮を出て、ヴィンセントはワシントンを執務室に送る 

 

「びんせんとさ」

 

「どうした??」

 

「だっこ」

 

「よしよし…よいしょっ‼」

 

すっかり治った抱っこの仕方で、ワシントンを抱き上げる

 

それと同時に、ヴィンセントはワシントンの前髪をかき上げ、額に軽く唇を当てる

 

ワシントンはご飯を食べて眠たくなったのか、抱っこされてすぐにヴィンセントの胸に頭を置いて眠ってしまった

 

ワシントンを抱っこしたまま、執務室のドアをノックする

 

「ヴィンセント・マクレガーです」

 

「どうぞ、開いてます」

 

ヴィンセントが執務室に入る

 

「あらワシントン!!ごめんなさい!!」

 

「本そこまで起きていたのですが…一緒に散歩して疲れたのでしょう…」

 

「そうでしたか…ワシントン、起きて」

 

「ん…まみ〜」

 

ワシントンはヴィンセントの手から横須賀の手に移る

 

その時のヴィンセントの顔を、そこに居た朝霜は見逃さなかった…

 

 

 

 

その日、ヴィンセントは珍しく午前0時になっても工廠に行かずにいた

 

執務室の椅子で煙草を吹かしながら天井を見つめ、時折何かを見てはまた天井を見つめる

 

「ヴィンセント!!たまにはお夜食しましょ‼」

 

「差し入れしに来てやったぞ!!」

 

「あぁっ…ありがとうっ!!」

 

ヴィンセントはすぐに姿勢を直し、長机の所に来た

 

イントレピッドが持って来てくれたポテトとオレンジジュースを三人で摘む

 

「…」

 

「…やっぱおかしいな」

 

「…ボーッとしてるわ」

 

「聞こえてるぞ」

 

「あ!!嫌だヴィンセント!!そういう事ね!?」

 

「心配して損したぞ!!」

 

いつもの冷静なヴィンセントに戻っていた

 

リチャードとイントレピッドはヴィンセントの左右に座り直し、ポテトを頬張る

 

「…なぁ」

 

「ん??」

 

「ろうひた??」

 

「私は疲れてるのか??」

 

ヴィンセントのまさかの問い掛けに、二人は口を開ける

 

「そ、そうよヴィンセント‼ずっと頑張って来たもの‼疲れてるのよきっと‼」

 

「どうしたんだお前らしくない!!」

 

すると、ヴィンセントは急にポロポロと涙を流し始めた

 

「お、おい…」

 

「ヴィンセント…??」

 

「駄目だ…分かってるんだ…でも、もう…」

 

「よしよし!!」

 

「よく頑張ったっ!!なっ⁉」

 

イントレピッドもリチャードも、ガッシリとヴィンセントに抱き着き、背中を擦る

 

「うっ…ぐっうっ…」

 

こんなに弱ったヴィンセントは、二人でも初めての事

 

きっと、何かあったに違いない

 

イントレピッドの予感は当たっていた

 

イントレピッド"の"予感は…

 

 

 

 

次の日、ヴィンセントは休憩

 

朝早くからヴィンセントはいない

 

イントレピッドとリチャードは、何とか解決策を探そうとしていた

 

「やっぱり疲れちゃったのかしら…」

 

「…なんとなくだが」

 

「ん??」

 

「なんとなくだが…奴は何かやり直そうとしてるんじゃないか??」

 

「おじいちゃん!!」

 

「おぉ!!朝霜!!朝飯食ったか!?」

 

二人で話していると朝霜が来た

 

「何の話してんだ!!」

 

「リチャード。隠し事は良くないわ」

 

「…最近、ヴィンセントの様子が変なんだ」

 

「それはアタイも思った」

 

朝霜がそう言うと、二人は目線を朝霜に向ける

 

「その…なんてんだ??大した事じゃないな〜とは思うんだけどさ??ワシントンを抱っこしてて、母さんに返したんだ。その時、ほんの一瞬見せたヴィンセントさんの顔…いつもの堅気なヴィンセントじゃなかった」

 

「やっぱりな…」

 

3人の予感は一致する

 

昨日、二人にしか見せてはいないが、あれ程の涙を流したのには訳があるのだろう

 

「…それで何だけどさ??」

 

「うん??」

 

「アタイの予想だけで言っちゃ悪いんだけどさ…今日ここに来たのは、誰かタイムマシンいじってないかなって…」

 

リチャードの顔が本気のリチャードに戻る

 

「飛んだのか、奴も」

 

「あぁ。それもここ何日かずっとだ。一定の場所と時間に間隔を開けて飛んでる」

 

「何かヒントがあるかも知れない。朝霜、一緒に行ってくれるか??一つ気になる事がある」

 

「その気になる事を言ったらいいぜ‼」

 

「朝からヴィンセントがいない。つまりだ…奴は…」

 

リチャードの言葉を聞き、朝霜は青ざめた

 

「いいい行くぜ‼」

 

「すまん、長旅になりそうだ‼」

 

「リチャード‼」

 

イントレピッドの呼び掛けに、リチャードは振り返る

 

「いいリチャード??貴方が帰る場所はここよ??ちゃんと帰って来るの。いい??」

 

「分かった。行って来る、ここは任せたぞイントレ」

 

「アサシモちゃん‼リチャードをお願いね‼」

 

「あかった‼」

 

リチャードと朝霜は工廠に走る…

 

 

 

「開けんぜ…」

 

タイムマシンバットが入っているジュラルミンのケースを開ける…

 

「やっぱりだ…」

 

そこにバットは無かった

 

代わりに、名前のない置き手紙が一枚

 

 

 

"1960年、7月

 

私は大きな間違いを犯してしまった

 

皆を見て、羨ましくなってしまった

 

私の人生で最初で最後のワガママを、どうか放っておいて欲しい

 

そっとしておいてくれ"

 

 

 

 

「…」

 

手紙を読むリチャードの顔を、朝霜は下から覗く様に見る

 

その顔は怒る訳では決してなく、何処か悲しげな顔をしている

 

心を許した親友から出た最初で最後のワガママを、リチャードはどうして良いか分からないでいた

 

「…行こう」

 

「あぁ‼」

 

リチャードは内ポケットに手紙を仕舞い、朝霜が持って来たスペアのタイムマシンバットで床を小突いた…

 

一つだけ、確かな事がある

 

それは、現代にヴィンセントが帰って来ていない事

 

タイムトラベルは向こうでどれだけ過ごしても、飛んで来た時間に合わせれば元の時間に戻れるからだ

 

それなのに、ヴィンセントは帰って来ていない

 

その事実は、ヴィンセントが"未来を捨てた"と、リチャードと朝霜だけが分かった…

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