艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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ヴィンセントの、最初で最期のワガママ


316話 Even if you are reborn, beside you again… (Wander Stranger Side)

「よいしょっ…」

 

「よっ、と」

 

タイムトラベルにも慣れた二人

 

着地にも慣れて来た

 

「どこだここは‼」

 

「…ユニオンスクエアだ」

 

リチャードの地元から少し離れた街に降りた

 

この街の何処かにヴィンセントがいるはずだ

 

「マズい…何の手掛かりもない…」

 

リチャード自身、何度もここに来た事があるが、ここには身内がいない

 

つまり、手掛りがない

 

「片っ端から行くっきゃねーだろ‼」

 

「…そうだなっ‼」

 

リチャードはリチャードで、朝霜の背中を見て思う

 

誰かを救おうとする意志は、息子譲りなのだ、と…

 

 

 

 

「どこいんだ~‼」

 

「ったく…」

 

本通りから外れた住宅街まで来た

 

この街はかなり広い

 

もしかすると、たまたまここに来ただけで、ヴィンセントは違う所にいるのではないかと疑い始める

 

「ま…待て朝霜…ちょっと休憩だ…」

 

「そ、そだな…」

 

これだけ動き回れば流石に喉も乾く

 

手押し車タイプの露店でジュースを2本買い、近くの公園のベンチで休む

 

「…ぷは‼綺麗な公園だな‼」

 

二人がいたのは緑溢れる公園

 

辺りには家族連れやカップルが大勢いる

 

「カップルも家族も、ここで憩いの時間を過ごすんだ」

 

「未来にはあんのか??」

 

「どうだろう…このままとは行かないだろうが、残ってはいるだろうな…」

 

今、目の前の光景は、リチャード曰くアメリカの絶頂期の姿

 

人も街も経済も活気に溢れていた時代

 

今のアメリカも大好きなリチャードだが、やっぱりちょっと昔のアメリカが好きだと朝霜に語る

 

そんな時代だからこそ、ヴィンセントはこの時代、この街に何かを忘れていったのだ…と

 

「おっしゃ行くか‼」

 

「よしっ、行こう‼」

 

ジュースの瓶を捨て、ヴィンセントの捜索に戻る

 

朝霜とリチャードの捜索は夕方まで続いた

 

「ダメだ…見つかんないな…」

 

先程の公園に戻り、芝生の上で二人大の字になる

 

「腹も減ったな…どうだ朝霜、この辺で一旦そこのレストランで飯でも」

 

「名案だな‼」

 

立ち上がろうとした時、何処からかうっすらとレコードが流れて来た

 

距離が空いているのか音は小さいが、リチャードの青春時代の曲だ

 

「…朝霜」

 

「なんだ??」

 

リチャードの目線が、一つの家の窓際に集中する

 

「あっ‼」

 

窓際で女性と踊るヴィンセントがいた

 

「近付くぞ…静かにな…」

 

「あかった…」

 

ヴィンセントがいる家に、こっそりと近付く…

 

 

 

 

「…」

 

「あぁっ…」

 

家に近付き、ヴィンセントの表情が見えた

 

朝霜はため息を吐き、リチャードは真剣な顔でヴィンセントを見つめる…

 

「あんな穏やかな顔をしたアイツ…初めて見た…」

 

「よっぽど嬉しいんだろな…んで、どうす…」

 

朝霜も初めて見た

 

普段明るく振る舞っている印象しかない自分の祖父が、声もなく、ただ涙を流している姿を…

 

「アタイが行って…」

 

朝霜が動こうとした体を、リチャードは手を前に出して止める

 

「…なぁ、朝霜」

 

「ん…」

 

「…」

 

涙で震えた声を出すのを堪えているのか、リチャードは一瞬黙った後、言った

 

「…放って置いてやろう」

 

「ななな何いってんだ…」

 

「奴が…ヴィンセントが"還る場所"は、元からここだったんだ…」

 

朝霜はヴィンセントと女性を見直す

 

愛おしそうに女性を抱き締め、ホッとした顔をするヴィンセント

 

それに答えるかのように、顔を近付けて甘える女性

 

それを見て"あぁ…なんて美しい恋愛なのだろう…"と、朝霜も胸を締め付けられ、祖父と同じ様に涙を零す

 

「疲れたんだよ…ヴィンセントは。戦いに、疲れたんだ…もう休ませてやろう…」

 

「うぅっ…」

 

「歴史はまた動き出す。違うか??」

 

「そうっ…だけどっ、さっ…」

 

リチャードは無言で朝霜の頭を撫でる

 

「誰も咎めちゃならん…アイツの…最初で最期のワガママだ」

 

「…うんっ」

 

リチャード以上に泣いてしまった朝霜を、何とか宥めて、いざ現代に戻ろうとバットを出した

 

 

 

 

 

「嬉しいわヴィンセント…」

 

「私もだ…」

 

互いに穏やかな顔をし、ダンスは続く…

 

ヴィンセントがここに来て、もうどれだけ経ったのかも分からない

 

長い時間が経ったのかもしれない…

 

もしかすると、たった数時間なのかもしれない…

 

でも…ここに来て良かった…

 

時間なんて、どうでも良かった

 

彼女といれば、それだけで幸せだった…

 

ずっと一緒にいたい…

 

そうだ、居ればいいんだ…

 

もうずっと、ここに…

 

「ヴィンセント、お友達みたいよ??」

 

「いいんだ…もう…」

 

「そっかっ…」

 

何もかもを失い、そして今、何もかもを捨てた男

 

そして、それを全て拾い上げ、一人の男の止り木となった女

 

リチャードの言った通り、誰も咎めてはならない愛が、カーテンの向こうで揺れる…

 

「ヴィンセント…未来の私達は結婚してるの??」

 

「…何も言わないでくれ」

 

「んっ…」

 

「そうだ、プレゼントのペンダントがあるんだ…」

 

「結婚したら受け取ってあげるわ??」

 

「…それもそうだな」

 

「あら…ちょっと眠たくなって来たわ…」

 

「今日は休もう…」

 

ヴィンセントは女性を抱き上げ、ベッドへと降ろす

 

「おやすみなさい…ヴィンセント…また踊ってね…」

 

「勿論さ」

 

「愛してるわ…ヴィンセント…」

 

「私もだよ…ずっと、この先もずっと…」

 

女性の前髪をかき上げ、額にキスをする…

 

彼女の手に数度頬擦りをし、寝顔を見た後、手離した…

 

 

 

 

ヴィンセントは物悲しそうに、家を出て来た

 

「いいのか、お前はそれで…」

 

木陰で後ろ姿のリチャードが待っていた

 

「これでいい…楽しかったよ…」

 

「お前を置いて帰る道もあった」

 

「いいんだ…酷い事をしたんだ…あの日、帰って来たら彼女はいなかった…病気でな…」

 

「…お前の本来の人生だ。今引き返すなら、私は止めない。背中を押す」

 

「ありがとう…充分だ…」

 

「帰ればまた、戦いの最中だ」

 

「この時代も同じだ…ベトナムで戦争があった」

 

「お前の為に泣くのは…これで最後にしてくれ…」

 

「分かった…ありがとう、待っていてくれて」

 

「泣くな。また来ればいい。誰も来れないなんて言ってないだろ。いつだって、辛くなれば戻ればいい。その時は、俺が見送ってやる」

 

「…そうだなっ‼」

 

リチャードは木陰からバットを持った手を出す

 

「お前の手で、俺も帰らせてくれ。道を見失ったからな」

 

「操舵手はいつも私かっ…」

 

「そういう事だ」

 

「ふっ…了解っ」

 

ヴィンセントはバットを持つ

 

時代を現代に合わせ、いざ帰ろうとした

 

「ヴィンセント!!」

 

「待て‼」

 

リチャードがすぐにタイムドライブを止める

 

彼女が走って来たと同時に、ヴィンセントに飛び付くように抱き着く

 

「ありがとう‼ありがとうヴィンセント…とっても楽しかったよ…」

 

「すまない…すまないすまないすまない!!」

 

互いに想い切り抱き締め合う

 

こんなに涙を流して…

 

こんなに叫ぶ親友を初めて見た…

 

あぁ…そうか…お前、人生をここに置いてきたんだな…

 

「ヴィンセント…生まれ変わっても、また貴方の傍に行くわ…」

 

「私も必ず行く…その時にペンダントを渡すよ‼受け取ってくれるか!?」

 

「えぇ‼忘れないわ‼死んでも忘れない‼」

 

彼女に抱かれながら…

 

一人の男は、幸せなまま、未来へと戻る…

 

「ありがとうっ…私の最愛の人…さようならっ…」

 

 

 

 

 

ヴィンセントは彼女を抱いた状態の姿勢のまま、現代に戻って来た

 

「ありがとう…何もかもが夢のようだったよ…」

 

「2つ程、聞いていいか??」

 

先に戻っていたリチャードが淹れたコーヒーを受け取り、それを口にしながら、工廠の冷めた椅子に座る…

 

「何だ??」

 

「お前は罪を犯してない。大丈夫だ」

 

「…黙っててくれるのか??」

 

「いかんせんっ、人間って生き物は隠し事が多いらしい。俺も…お前もな??」

 

いつものリチャードらしく、冗談をほのめかす語りでヴィンセントに"全てを話すな"と言う

 

「すまん…」

 

「もう一つ、聞いていいか??」

 

ヴィンセントはリチャードの方を向き直す

 

「お前が今流してる涙…拭けるのはガンビアさんじゃないな??」

 

ヴィンセントはしばらく時間を開けた後、無言で、ほんの小さく数度頷いた

 

「良かったな。行ったのが口の固い私と朝霜で」

 

「ヴィンセント‼おかえりなさい!!来て‼今日はみんなでパーティーよ‼」

 

「ほら行くぞ‼みんなお前の帰りを待ってたんだ‼」

 

リチャードが差し伸べた手を"いつもの様に"受け取るヴィンセント

 

「行こう‼」

 

「んーっ、男の顔に戻った‼」

 

パイロット寮の前でバーベキューをしているのがパーティー会場

 

「おかえりなさいヴィンセント‼」

 

「おかえり、ヴィンセント‼」

 

「おかえり、パパ‼」

 

「…ただいま戻りました‼」

 

「さ‼食べましょ‼」

 

ジェミニ、ガンビア、アレンに迎えられ、ヴィンセントは会場に足を踏み入れる

 

ヴィンセントはガンビアに抱き着かれ、嬉しそうに背中をポンポンと叩き、皆の輪に入る

 

「お疲れさんだな、おじいちゃん」

 

「これで良かったんだろうか…」

 

「どうだろな…」

 

「びんせんとさ」

 

ワシントンがヴィンセントの所へとバーベキューを持って来た

 

その様子を、リチャードと朝霜は嬉しそうに見つめる…

 

「はい。わしんとんやいた」

 

「おっ‼ありがとうワシント…」

 

2つ持っていた串を一つヴィンセントに渡した後のワシントンの行動で、ヴィンセントの時間が止まる…

 

朝霜は開いた口が塞がらずにいたが、リチャードは何かを察して、傍観者の一人でいる事にした

 

ワシントンが、ヴィンセントの目元に残っていた涙を親指で拭ったのだ

 

それは、ガンビアでさえ分からなかった、小さな小さな涙の一滴…

 

その行動が、全ての答えだった

 

「ただいま、ワシントン…」

 

「おかえり、びんせんとさ」

 

ヴィンセントはワシントンをギュッと抱き締める…

 

そしてワシントンもまた、ヴィンセントをギュッと抱き締める…

 

誰も咎めてはならない愛が、今度はバーベキューの煙の向こうで揺れていた…

 

「こっからまた始まんのかな??」

 

「年の差婚って、いい響きじゃないか??」

 

「開き過…いんや‼野暮だなっ‼」

 

「うーむ、流石は私の孫‼物分りが早い‼」

 

たった3人しか知らない、幻の様な恋模様

 

あの日、カーテンの向こうで踊っていた"銀色の髪"

 

その物語の続きが、また始まろうとしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前…

 

「後はDNAのベースがあれば素体が出来上がる…」

 

「これではダメか」

 

「ヴィンセント中将…これは…毛髪ですか??」

 

「恋人の毛髪だ。ここからDNAのベースは採取出来ないか」

 

「か、畏まりました‼」

 

………

 

……

 

 

「素体が構築されたぞ‼」

 

「…」

 

「ヴィンセント中将‼ありがとうございました‼」

 

「いいんだ…私は…罪を犯したな…」

 

「名前はどうします??」

 

「"ワシントン"だ」

 

「ワシントン…良い名前です!!」

 

「彼女の出身地だ…」

 

「ヴィンセント。その子を頼んだぞ」

 

「はっ、レクター元帥」

 

「リチャードではなく、貴様に懐くといいな??」

 

「彼女が答えてくれるのを待ちます」

 

「それは??」

 

「いつか…彼女が大きくなったらプレゼントしようかと」

 

「ん、良いペンダントだ」

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