艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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白露とフミーの生活がようやく安定したのも束の間

マーカスは"行きたくなかった"場所へと足を向ける羽目になります


319話 ゆりかごを持った死神

「いいか白露!!ジッとしてるんダズル!!」

 

「フミーも大人しくしてるニム〜!!」

 

この日、白露とフミーは第3居住区に預けられていた

 

第3居住区にいれば、横井や涼平が相手をしてくれる

 

…そう思っていた

 

「二人共、今日はこっちかい??」

 

白露は横井の声に気付き、ハイハイで寄る

 

フミーは座ってジッと横井の顔を見る

 

「朝ごはんは食べ、アダダダダ!!」

 

満面の笑みで横井の足に噛み付き、歯を立てる

 

「わ!!分かった!!ご飯にしような‼」

 

預かっていた離乳食は2食分

 

朝ごはんとお昼ごはんだ

 

夕ご飯は単冠湾で食べるので無い

 

「何か悲鳴聞こえましたよ!?」

 

「すまん涼平!!剥がしてくれ!!」

 

「白露ちゃん!!僕と遊ぼっか!!」

 

悲鳴を聞き付けて駆け付けた涼平に、白露を剥がして貰う

 

「まるでピラニアだな…いったた…」

 

「歩けますか??」

 

「こんなの傷の内に入らないさ…ちょっと任せていいか??」

 

「了解です‼」

 

横井が離乳食を作っている間、二人は涼平に任せられる事になった

 

「フミーちゃんは何持ってるのかな??」

 

フミーの手には榛名に買ってもらったぬいぐるみが抱かれている

 

「白露ちゃんはどれが好きかな??」

 

第3居住区にあるおもちゃ箱をいじる涼平

 

その背後に忍び寄る白露

 

そして…

 

「白露ちゃん、危な…ぎゃぁぁぁあ!!」

 

背中によじ登ったと思った次の瞬間には、涼平のつむじに歯を立てる白露

 

「涼平‼大丈夫か‼白露!!ご飯出来たぞ‼ほら‼」

 

ご飯に気付き、白露はつむじから歯を離す

 

フミーもご飯に気付き、横井の近くに寄る

 

「涼平…その…」

 

「は、はい…」

 

「つむじから血が出てる…」

 

「どんな感じですか…」

 

「噴水みたいに…」

 

「ははは…」

 

「涼平!!誰かーっ!!」

 

満面の笑みで涼平は貧血を起こし、その場に倒れた…

 

 

 

 

「リョーチャン、ダイジョーブ??」

 

「末代まで言われそうです…」

 

「ツムジカラチガ、ピョロロロー‼ッテデテタ!!」

 

治療が済んだ涼平は、シュリさんに抱えられて医務室から出て来た

 

「涼平‼すまなかったダズル‼」

 

「申し訳ないニム‼」

 

医務室から出て来た瞬間、榛名とニムが頭を下げた

 

「気にしてませんよ!!頭上げて下さい!!」

 

「リョーチャン、ダイジョーブダッタヨ!!」

 

「榛名達の教育の致す所ダズル…」

 

「一生の不覚ニム…」

 

「あ、そうだ榛名さん、ニムさん。ならちょっとお願いがあるんです!!」

 

「スケベな事ダズルか!!」

 

「大体の事はするニム‼」

 

「行きましょう!!」

 

「キテ!!」

 

榛名とニムはシュリと涼平の後ろを着いて行く…

 

 

 

 

「ウメェダズルな??」

 

「甘くて美味しいニム!!」

 

涼平とシュリが連れて来たのは、第3居住区の繁華街に作られている途中の喫茶店

 

「潮がお試しに来てイる」

 

「今日はラグーンの方は任せてあるの。ゆっくりして行ってね??」

 

扶桑と潮が出張に来ていた

 

「ど、どうです…」

 

「中々ウメェコーヒーダズルな」

 

「いちごミルクも美味しいニム!!」

 

その後、涼平は二人に聞いた事をしっかりとノートにまとめて行く

 

その横でシュリさんは涼平の横顔を見ていた…

 

 

 

 

「ご飯食べたら、お昼寝しような??」

 

フミーは食べて背中を叩いて貰った後、すぐに寝た

 

問題は目の前にいるピラニア、もとい白露

 

横井は自身の膝を軽く叩き、白露を誘導する

 

「白露、おいで。いだーーーっ!!」

 

今度は差し出された手に満面の笑みで齧り付く白露

 

「白露っ!!離しなさい!!いだだだだ‼」

 

「だーっ!!これ白露!!何してんダズル‼」

 

「大丈夫ニム!?」

 

榛名が来て、何とか白露を引き剥がす

 

「これが俗に言う噛み癖か…」

 

「白露の歯はヤバいダズル…ほれ、イーしてみるダズル」

 

榛名が歯を見せると、白露は笑ったまま歯を見せる

 

「ギッザギザだな…」

 

「噛まれたらイテェはずダズル…」

 

白露の歯は朝霜以上にギッザギザ

 

そんなものに涼平や横井は齧り付かれていた

 

痛いに決まっている…

 

「こうなりゃ艦娘の医者に見せるダズル」

 

「マーカスにか??」

 

「呼んで見るニム」

 

 

 

一時間後…

 

「被害が二人、と」

 

「見るダズルこの歯!!」

 

榛名は膝の上に置いた白露の口を、後ろから指で端を軽く開けた

 

「これは凄いな…」

 

朝霜以上にギザギザ感が増している歯がミッシリ生えている

 

「どれ、見せてみな…あーん、だぞ〜‼」

 

俺が口を開けると白露は笑顔で口を開けたので、舌圧子で中を見ようと頬の内側に置いた

 

「そんなモン突っ込んだらダメダズル!!」

 

「何!?」

 

バキン!!と音がしたと同時に、折れた舌圧子が引き抜かれた

 

「し、白露!!ペッしなさい!!」

 

「ペッ!!するんダズル!!」

 

榛名が白露の前に手を出すと、白露は折れた舌圧子を吐き出した

 

「このままじゃピラニアダズル」

 

「しかも噛み癖もあると」

 

「その内フミーも噛んじゃいそうダズル」

 

白露が榛名の膝から離れた

 

俺と榛名は白露を目で追う

 

「「フミー‼」」

 

行ったのはフミーの所

 

フミーはお昼寝をしている

 

そのフミーの左腕に、今にも歯を立てようとしている

 

そして…

 

「痛い痛いダズルな??」

 

「びっくりしたな??」

 

ほんの一瞬の出来事だった

 

いざ白露が噛もうとした瞬間、フミーは右手で白露のつむじにゲンコツを落とした

 

白露は満面の笑みでつむじを抑えて痛がっている

 

「フミーはフミーで強いダズルな…」

 

「ちょっと気になる事が出来た」

 

「何ダズル??」

 

「白露が嫌いなものってあるか??」

 

「しいたけをあんま食べないダズルな」

 

「丁度いい。今日のここの昼飯はしいたけのお味噌汁が出た。余ってるなら持って来る」

 

数分後、しいたけのお味噌汁を片手に戻って来た

 

「そーら白露!!お味噌汁だぞ〜!!」

 

大根やにんじん、さといもはバクバク食べる

 

豚肉もバクバク食べる

 

問題のしいたけを口に持って行く…

 

「食わないな…」

 

どれだけ口に持って行こうとしても、笑顔のまま顔を左右に動かして食べようとしない

 

「白露、ほ〜らさといもだ!!」

 

さといもはバクバク食べた

 

大体分かって来たぞ…

 

「白露の嫌いなおもちゃあるか??」

 

「あのヘビのガチャガチャ言うやつダズル」

 

どうもヘビが嫌なのか、おもちゃを嫌がるらしい

 

まずはぬいぐるみを試してみる

 

「これは白露のぬいぐるみか??」

 

白露の前で振って見せるとすぐに手に取り、抱っこしながら齧り始める

 

「これは白露のか??」

 

白露にヘビのおもちゃを見せると、榛名に体を寄せる

 

「なるほど…これで大体分かった。白露の噛み癖は愛情表現じゃないか??」

 

「嫌いなものは噛まないダズルな」

 

「何かコミュニケーションが取れると良いんだがな…」

 

 

 

 

数日後、横須賀保育部…

 

「今日はひとみといよもいるのか??」

 

「そっ‼時々お手伝いに来てくれるのよ??」

 

横須賀はエプロンを着て、吹雪達の相手に向かう

 

今日は白露とフミーもいるが、二人は持って来たぬいぐるみを抱っこしたり噛んだりしている

 

「こんにちあ!!」

 

「おはよ〜ごじゃいあすっ!!」

 

白露とフミーの前にひとみといよが行く

 

それに反応したのは白露の方

 

「くるる…くる、くるる…」

 

白露は笑顔のままぬいぐるみを噛みつつ、低くうなる様に声を出した

 

「うぁう〜、あ〜うぁ〜…」

 

工廠で作業をしようと思っていたが、ひとみが反応を示し始めたので、悪いとは思いつつ立ち聞きを始める

 

「くる、くるる…くるるる…」

 

「うぁう、うぁ〜、あぅあ〜…」

 

「おや、セイレーン・システムで会話かね」

 

ドア付近で立ち聞きしていた俺の横に来たのは大淀博士

 

両手に大きめの機械を持っており、それを床に降ろした

 

「それは??」

 

「セイレーン・システムの翻訳機を作ってみたんだ‼ちょっと試していいかい??」

 

屈んで翻訳機を弄り始めたので、俺は大淀博士の後ろに移動する

 

「どれどれ…」

 

 

 

白汁

朝早いはクリーム小麦とOrange飲み物です

 

目はとうもろこし粉末でした

 

白汁

これを食べる事を私は出来ますか

 

いけません。それはCatです。ぬいぐるみです。目が何か食べ物を探します。空腹

 

白汁

死竹だけは食べられないです。体が本能的にそれを求めません

 

由来先師に聞いてきます

 

 

 

「なーんか、そのー…」

 

「あはは‼起動実験だからね‼翻訳ソフトがまだオネムなんだ‼」

 

大淀博士のセイレーン・システム翻訳機の翻訳は、どことなく狂ってはいるが、本質は掴めている内容の翻訳

 

「ゆあしぇんしぇ〜!!しあつうしゃん、はあぺこれすお〜いってう!!」

 

「分かりました。ひとみさん、これを渡してくれますか??」

 

「わかいあちた‼」

 

ひとみは由良から3枚クッキーを渡してもらい、白露の所に戻って来た

 

再び翻訳が始まる…

 

 

 

 

白月

これは食べられますか

 

仁美

食べられます。美味しいCookieです

 

白月

このCatは何も食べる事がありません。死ですか

 

仁美

ぬいぐるみは愛を食べます。愛される事をすると満腹になります。撫で。どうぞ

 

白月

ありがとうサンキュー

 

仁美

美味しいですか

 

白月

美味しいです。ありがとう仁美

 

仁美

どういたしました

 

 

 

「ふっ…」

 

「仁美かぁ…う〜ん、レイ君、ちょっとやってみてよ!!やり方教えるから!!」

 

大淀博士に代わり、俺が翻訳機の前に屈み、イヤホンを着ける

 

「あむあむ、あむ」

 

「あぅ〜、うぁう〜」

 

「今度はいよちゃんの方だ。そのレバーでレーダーを向けて…」

 

「こうか??」

 

「そっ‼そしたら、その調整ツマミで翻訳の精度を調整するんだ!!」

 

「オーケー…」

 

 

 

異様

踏みはどんな食用を好みますか

 

踏み

隣国が好みです。真っ赤な果物

 

異様

それはなんですか

 

踏み

これはシラツを倒す為のスネクです

 

異様

スネクは好きですか

 

踏み

長芋のは好きです。異様はどんな動く物が好きですか

 

異様

異様はいるかが好きです。PP

 

踏み

いるかを見た事がありません

 

異様

これはいるかの小さな模型です

 

踏み

キュートです

 

異様

PP泣く動く物です。PP

 

踏み

もっと教えて下さい異様

 

 

 

「ちゃんと会話してるんだな…」

 

「PPかぁ…調整がいるねぇ…」

 

大淀博士が後ろで顎に手を当てて考えにふける中、今度はひとみの方を翻訳してみる

 

 

 

ひふみ

喉は乾燥していませんか

 

白汁

喉が乾燥しています

 

ひふみ

ひふみとteaを飲みますか

 

白汁

飲みますありがとう

 

 

 

「ふふ…」

 

ひとみは白露の分と自分の分の2つ、お茶を入れたコップを持って来ている

 

「レイ君!!大淀さん、もう一つ試したい事があるんだ‼ひとみちゃーん‼」

 

大淀博士がひとみを呼ぶとすぐに気付き、こっちに来た

 

「あいっ、なんれすか??」

 

「一つお願いがあるんだ‼」

 

大淀博士はひとみと話しながら、ポケットから500円玉を出し、ひとみの手に載せた

 

「あにすう??」

 

「あそこに赤ちゃんがいるでしょ??ちょっとお話してあげてほしいんだ‼」

 

大淀博士の目線の先には、見知らぬ赤ちゃんがいた

 

「何処の子だ??」

 

「分かんない…今日から入ったみたいなんだけど、由良ちゃんとかが付きっきりで面倒見てるのを見ると、産まれたてじゃないかな??」

 

「いってきあす‼」

 

ひとみが向かい、俺と大淀博士は翻訳機の前に座る

 

「こんにちあ‼」

 

「あうあうあ…」

 

「うぁう〜…」

 

「あうあ…」

 

 

 

ひとみ

こんにちは

 

玉波

お姉さん誰??

 

ひとみ

私はひとみだよ。君は何てお名前かな??

 

玉波

たまなみ

 

 

 

「通じてる…」

 

「オッケーオッケー…」

 

先程とは違い、翻訳機が普通に翻訳機をしている

 

「うぁう〜うぁう〜あぅ〜…」

 

「あう…あうあ…う〜…」

 

「あぅ〜うぁう〜、うぁ〜う…」

 

「う〜うっうっ‼えーん‼」

 

 

 

ひとみ

たまなみちゃんはお腹減ってないかな??

 

玉波

お腹減ってる…お母さんが来てくれないの…

 

ひとみ

ひとみが何か持ってきてあげるから、一緒に食べよう‼

 

玉波

ヤダヤダ‼おっぱい飲みたい!!えーん‼

 

 

 

「なかちてちまいまちた」

 

物凄く反省した顔のひとみが戻って来た

 

「大丈夫、ありがとな??」

 

「おっぱいのみたいお〜いってた!!」

 

「ちょっと待ってくれるか??」

 

園児部に入り、冷蔵庫と簡易コンロの前に立つ

 

「あっ、大尉…」

 

「なんだ??」

 

冷蔵庫からパックされた母乳を出し、コンロで温めている中、由良が来た

 

「少しだけ明石さんと大淀さんにお任せしました」

 

「どうした??」

 

「あの子、玉波さんと言います」

 

ひとみが相手しに戻った赤ちゃん、玉波

 

誰の子かも未だに不明だ

 

「今朝、捨てられていたんです。基地の隣の広場に…」

 

「そうか」

 

「親も分からず、この置き手紙だけ…」

 

由良から手渡された手紙を、火を前にしながら見る…

 

 

 

この子を拾ってくれた心優しい人へ

 

この子は玉波と言います

 

私はどうしてもこの子を置いて行かなければならない理由があります

 

どうか、この子を育ててあげてください

 

 

 

 

「見た」

 

由良に手紙を返す

 

「どう、思いますか??」

 

「どう思うも何も、答えは出てるだろ」

 

由良の表情を見る事はないが、息遣いで伝わってくる、荒く、焦った息

 

「大尉さ…」

 

「俺に構ってる暇があったら、玉波の相手を頼む」

 

「はい、大尉」

 

由良が子供達の所に戻った後に、横目で由良を見る

 

此方を何度か見ている

 

しばらくして、人肌に冷めた母乳を入れた哺乳瓶を玉波の所に持って来た

 

「ちょっとごめんな…よいしょ」

 

玉波は空腹なのか、寂しさなのか、俺に抱かれてもグズっている

 

「お腹空いたな。ほーら、お乳だぞ」

 

哺乳瓶を口に持って行くと、玉波は泣き止み、母乳を飲み始めた

 

「おいち〜おいち〜いってう」

 

俺の肩に登り、肩から玉波の様子を伺うひとみ

 

「うぁ〜…」

 

肩から音波を使い、玉波の感情を読むひとみ

 

「何て言ってる??」

 

「うんちち〜もれたいってう」

 

「くっ…ひとみ、横須賀には内緒だぞ??」

 

「あかった!!」

 

何故俺が赤ちゃんを抱くと、赤ちゃんはウンコするのか…

 

哺乳瓶が空になり、玉波の背中を軽く叩く

 

「げぶっ…」

 

「えっぷちまちた」

 

「よしよし…オムツ替えような??」

 

「あいっ‼」

 

いよがオムツ替えのセット一式を持って来てくれた

 

「みててい??」

 

「いいぞ。二人共覚えておこうな??」

 

「あかった‼」

 

「みてあす‼」

 

ひとみといよ、そしていつの間にか見ていた大淀博士の前で、玉波のオムツ交換をする

 

「こうやって、優しく拭いてあげるんだ。そしたら、新しいのに替えて、よしっ」

 

「あむあう…」

 

「すっきいちまちたいってう‼」

 

「ふふっ…」

 

玉波はハイハイは出来るみたいだ

 

オムツを替えた直後、ハイハイでひとみに抱き着きに行った

 

「かあい〜かあい〜たあないしゃん‼」

 

「ねんねちましぉ‼」

 

ひとみといよが玉波を寝かせ、子守唄を歌い始める…

 

それを見た後立ち上がり、園児部を出た

 

「レイ君」

 

「どうした??」

 

「上手く言えないけど…大淀さんと赤ちゃん作るかい??」

 

「上手く言えてるよ…腹減ったな、昼飯でも食うか??」

 

「そうしよう‼あ、大淀さん、間宮のオムライスにしよっかな‼」

 

 

 

死んでも言えなかった…

 

この世で一番愛した彼が、あんなに悲しい背中をしながら赤ん坊の世話をしていたなんて…

 

それを隠しきれていない彼を見るのも、女はまた好きになって行っている事を…

 

 

 

 

「話は聞いてるわ」

 

昼食を終え、横須賀の所に来た

 

「一人増えた所で変わんないわよ??」

 

「そうか」

 

「レイ」

 

「なんだ」

 

「玉波の検査をお願いしたいの。いいかしら??」

 

「言われなくても」

 

俺は執務室を出た

 

「あっちゃ〜…」

 

「…」

 

執務室に取り残された大淀は、出て行った男の背中を見ていた

 

「レイはまた背負うわね…」

 

「あんな顔するんだ、レイ君…」

 

「大淀さん。少し話しませんか??」

 

「いいよ。何話そっか」

 

横須賀は、過去にレイに言われた事を大淀に話す…

 

「レイは私にこう思ってるの。赤ん坊を抱かせてやれなくてすまない。その事でずっと後悔してるって…」

 

「そっか…産まれて来る子は成長が早いからね…」

 

「レイもきっとそうなのよ。本当は赤ん坊を抱っこしたり、お世話したりしたいのよ」

 

大淀は無言で頷く

 

「だからこそ、玉波の親が許せないのよ…自分が小さい時に親が傍に居なかったのも、今自分の赤ん坊を抱っこ出来ないのも…」

 

「ごめん…返す言葉がないよ…」

 

「貴方にも、色々背負わせてしまうかも知れない…」

 

「いいよ。大淀さん、レイ君のためだったらなんだってする。あ、レイ君のお嫁さんに言う言葉じゃないか!!」

 

「ありがとう、大淀さん」

 

「ありがとう、ジェミニちゃん。大淀さん、レイ君の"帰り道の傍に行って来る"ね??」

 

その言葉を聞いて、横須賀はハッとする

 

いつか自分が言った言葉を思い出した

 

あの子は時々、帰り道を見失う

 

その道案内を今、この問題に直面して、先導ではなく傍を歩けるのは

 

彼の殆どを知った妻ではなく、彼の全てを知り尽くした一人の女だと気付いた…

 

 

 

 

「ほ〜ら玉波、あ〜んだ…」

 

工廠の横の医務室で玉波の検査をする

 

玉波はビックリする程言う事を聞く

 

俺が口を開ければ、同じ様に口を開ける

 

検査もスムーズに済んでいく…

 

「ここにねんねしような」

 

診察台に寝かせ、服を捲って聴診器を当てる…

 

「…」

 

少し消化不良を起こしてる位か…

 

聴診器で聞いている限り、目立って悪い所は無さそうだ

 

「もうすぐ終わるからな??」

 

そういうと、玉波は突然俺の手を握って来た

 

聴診器を当てたまま玉波の顔を見ると、口をモゴモゴ言わせながら笑っていた

 

その顔を見て、俺も笑顔を返す

 

「よ〜し、終わったぞ。いい子ちゃんにしてたな??」

 

服を戻し、玉波を抱き上げる

 

「キャッキャッ!!」

 

抱き上げると、玉波は嬉しそうにする

 

「憎いだろう…捨てられたんだぞ…」

 

「キャッキャッ!!うー!!」

 

「心配するな…俺が艦娘にしてやる。もう誰にも…捨てられない様にな…」

 

俺は玉波を抱いたまま、カプセルの前に立った

 

「お前は俺みたいになるな…誰も憎むな…憎む位なら…消してしまえばいいんだ」

 

カプセルを開け、玉波を溶液に浸そうとした

 

「はっ‼」

 

溶液に映る、自分の顔

 

その顔はいつの日か、人を殺める時に窓ガラスに映った時の顔をしていた

 

あぁ…イーサンの時か…

 

そうだ…そうだったな…

 

「レ〜イ君っ!!」

 

「お…大淀…」

 

横から大淀が出て来て、俺の手から玉波を取った

 

「今、また少し分かったよ…AIの子達が、何故君を護ろうとするのか」

 

「俺は…」

 

玉波を抱く大淀もまた、母親の顔をしている

 

「涙を流すからだよ。君はいつだって、誰かの為に涙を流す…AIの子達は、君が涙を流すのが許せないんだ」

 

「…」

 

「大丈夫。大丈夫だよ…レイ君」

 

「つかまえた」

 

「良い子だ赤城!!」

 

赤城の声がしたので、声のした方に顔を向ける

 

赤城は男女をヘッドロックで捕まえていた

 

「レイ君の前に離したげて‼」

 

「ぽい、ぽい」

 

ドサドサと床に落ちる男女

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

「玉波は私達の子供です!!」

 

「ゆるすまじ」

 

どうやら二人は玉波の親だ

 

「何故…玉波を捨てた…」

 

「こうするしかなかったんです…」

 

「私が誘拐されて…旦那は私を探す為に…」

 

「本当だろうな」

 

「本当です。拾って頂いて、嘘をつくなんて…」

 

「信じて下さい!!」

 

「どんな奴だ」

 

「軍人でした…妻が北海道に連れて行かれると聞いて…」

 

「どうする気だい、レイ君」

 

「嘘だったら玉波を貰う。それだけだ。アンタ達、しばらくここにいろ。赤城、この人達をお母さんの所に連れて行ってくれるか??」

 

「こいあほ」

 

赤城は玉波の両親を抱えて連れて行った…

 

「赤城も同じさ。君が涙を流すのが許せないんだ」

 

「いいだろう分かったよ…貴様等はどうしても…俺を空に返したいんだな…怒らせたのは貴様等の方だからな…」

 

「レイ君、もういいよ。君がやらなくても」

 

「なら誰がやるんだ!!」

 

大淀は優しく、不敵に微笑んだ

 

「大淀さんもね…レイ君が涙を見せるのが許せないんだ…うふふっ…」

 

「…」

 

悪寒が走った

 

「クラーケン!!クラーケン聞こえるかクラーケン!!」

 

《どうしたの??》

 

「広域レーダーを見ろ!!早く!!」

 

《クラーケンを展開して!!》

 

数秒後、横須賀から連絡が入る

 

《特に何も無いわよ??》

 

「北海道上空だ!!網走!!網走だ!!」

 

《北海道上空にレーダー照準!!範囲索敵開始!!》

 

数秒後、また連絡が入る

 

《上空に反応は無いわ??》

 

「地上は‼」

 

《あるわよ??》

 

「良かった…」

 

肩と膝を同時に落とす

 

大淀博士が「こんなトコいらなーい!!バイバーイ!!」と言って、スナック感覚でえげつない威力のミサイルでも撃ったと思った…

 

「レイ君、どうして網走なんだい??」

 

「あそこは…あそこには、大勢実験で連れ去られた人がいる…北海道で動いているなら、網走しかない」

 

「どうして知ってるんだい??」

 

「…」

 

言いたくなかった

 

あの日を思い出してしまうからだ

 

「レイ君が傷付くなら、大淀さんは聞かないでおこう!!」

 

「…貴子さんが実験体になった場所だからだ」

 

「そっか。貴子ちゃんが…それが聞けて良かったよレイ君」

 

「あそこは潰すな。罪のない人が大勢いる」

 

「潰さないよ??今はね??ただ、大淀さんが潰さなくても、別の誰かが潰すんじゃないかな??ま〜結果的に大淀さんのスッゴ〜イミサイルでボッカーン!!すると思うよ??」

 

「助け出してからだ!!今からでも行く!!」

 

準備に入ろうとした俺を、大淀博士は玉波を抱いたまま、俺の胸に手を置いて止めた

 

「君がしなくてもいいよ、今日くらい良いじゃん」

 

「止めてどうする気だ」

 

「君の部下は本当に優秀だね」

 

「何??」

 

「手が塞がってるんだ。大淀さんのタブレット、取って欲しいな」

 

大淀の尻にあるポーチからタブレットを取り出す

 

《博士!!ビンゴです!!やはり刑務所跡地を利用して実験施設になっていました!!》

 

タブレットの向こうに居たのは高垣

 

「高垣!!今どこにいる!!」

 

《隊長!?申し訳ありません、勝手な行動を…》

 

「そんな事はいい!!大丈夫なのか!!」

 

《大丈夫です!!丁度良かった隊長、ここに多数のカプセルがあります》

 

「違法に鹵獲されたカプセルだ。全部ぶっ壊せ!!」

 

《良いんですか、貴方の研究の成果では…》

 

「二度と悪事に利用されない様に、壊す事が手向けだ」

 

《了解です。あぁ、少し代わります》

 

「言ったでしょ??君がやる必要はないって」

 

「高垣を巻き込むな…バカ」

 

大淀はようやく笑顔を見せてくれた

 

《大尉、お久し振りです》

 

「矢崎か!!」

 

今度は矢崎が顔を見せた

 

《少しだけ場所を変えます》

 

矢崎が歩き、適当な個室に入った

 

《高垣少尉は、元自衛官とご存知ですか??》

 

「知ってる」

 

《実は、しばらく自衛隊と横須賀を行き来していたのです》

 

「スパイって事だよ、レイ君」

 

《自衛隊は少尉を自衛隊側のスパイとして横須賀に送っていましたが、少尉は有村大佐と出会って、横須賀からのスパイになったんです》

 

「トラックさんが…??」

 

《有村大佐は元々戦車乗りなのはご存知で??》

 

「それは知ってる」

 

《反攻作戦の時、孤立した有村大佐の部隊を命令違反を犯してまで退路を築いたのが高垣少尉です》

 

「そんな事聞いてないぞ…」

 

《高垣少尉は一度、墜落事故を起こした事がありまして…その際に救助に来たのが有村大佐だったと記録されています。それから少尉は、大佐だけは必ず護ると》

 

「そうだったのか…」

 

《とにかく安心して下さい。落ち着き次第、視察をお願い出来ますか??》

 

「了解した!!」

 

通信が終わり、居ても立っても居られないので、準備を始める

 

「レイ君はホント忙しい男だ…カプセル、破壊しちゃうのかい??」

 

「また造ればいい。今度はっ、平和に利用してくれる奴にやる事にする。奴等が使ったカプセルは、まとめて破壊したい。じゃなきゃ、また誰かが悪用する」

 

「一つお願いがあるんだけど、いいかい??」

 

「何だ??」

 

「破壊する前に、カプセルからデータを抜き出せるかい??そしたら、大淀さんが解析してあげよう‼」

 

「何かに使うのか??」

 

「悪い事には使わないよ。言ったでしょ、大淀さんは、レイ君が悲しむのが一番嫌なんだ」

 

この大淀の目は本気だ

 

「一つ、確かめたい事があるんだ…」

 

「何も言うな。分かったよ、ありがとう」

 

「玉波ちゃんは大淀さんに任せて‼ちゃんと両親に返してあげる‼」

 

大淀に見送られ、ジュラルミンケースを持ち、基地を発つ…

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