水没地域調査が終了し、マーカスと涼平は有休に入ります
涼平に任せてジープを走らせた先にあったのは…
「ん〜っ!!」
涼平は一足先に港に足を降ろすと、大きく背伸びをした
いつもとは少し雰囲気が違う涼平
今でさえ若いが、少し若返った気もする
そうか、涼平の故郷の近くか!!
「さっきとは雰囲気が違うなっ??」
「ここは海苔と真珠貝の養殖が盛んなんです!!」
涼平の見ている方向を見ると、第三居住区でも見た事がある、よく分からない物が海面に見えた
「海苔ってあれか??朝ごはんに付いてくる黒い奴か??」
「そうです。あそこに海苔の原料になる海藻が沢山付くんです。それを天日干しにしたりして、醤油を塗って完成です!!」
「手間かかってんだな〜…よし、次からはもうちょい感謝して食おう!!」
涼平に着いて行くと、一件の食堂の前に来た
「隊長、お腹空いてません??」
「何も食ってないからな…」
「食べましょう!!ここ、美味しいんですよ!!」
涼平に連れられ、食堂に入る
「いらっしゃい。あら!!涼平ちゃん!!」
「久し振りおばちゃん!!」
どうやらここの食堂のおばちゃんと涼平は知り合いの様子
「いつものでいいかい??」
「覚えててくれてるんだ!!それで!!」
「お連れのお兄さんはどうしますかい??」
「彼と同じ物をっ」
「"伊勢うどん"2つ〜!!タバコでも吸って待っててや!!」
おばちゃんが厨房に向かい、真ん中に置かれた灰皿を見て、タバコに火を点けた
涼平もタバコに火を点けた
「涼平」
「はい」
「高校からタバコ吸ってるのか??」
ふと思った
涼平がここを離れたのは高校の時と聞いた
涼平は長い間カプセルに入っていたので歳が止まってはいるが、食堂のおばちゃんの言う所を聞くと、どうも涼平は高校の時からタバコを吸っていたらしい
でなければ、灰皿を出さない
「いい、いや〜…自分、娯楽がなくて…悪い事とは分かってたんですが〜…」
「ふっ…いいか涼平。俺は今で言う中学の時に知った。内緒だぞ??」
「は、はいっ」
「はいっ、伊勢うどんお待ちどう!!」
「ありがとう!!いただきまーす!!」
「ありがとう」
涼平の食べ方を見て、割り箸を割り、うどんをすする
「美味いな…」
「好きなんです、これ…」
俺も涼平も、黙々と伊勢うどんをすする
太いうどんで、舌と口の上で簡単に切れるほど柔らかい
なのに、味は濃くて少し甘辛くて美味しい
少量かけられたタレは、甘辛過ぎず、少し濃い目でこれまた美味しい
たまに涼平がずいずいずっころばしでうどんをすすっているのを見るが、どうもうどんが好きみたいだ
「涼平、うどん好きか??」
「はいっ、うどん、好きですっ」
よっぽど食いたかったのか、ズルズルすする
「はぁっ!!美味しかったぁ!!」
「美味そうに食うなぁ…」
そういう俺も、いつの間にか伊勢うどんを食べ終えていた
「おっと…」
通信が入り、ポケットからタブレットを取り出す
通信の相手は横須賀だ
《調査は終わったかしら??》
「あぁ。今涼平とうどん食べ終わった所だ」
《強風は漁港に停めたの??》
「そうだな。近くに漁船が数隻あった」
《なら話が早いわ??涼平なら分かると思うんだけど、漁港の駐車場にジープを置いといたわ??》
「涼平。漁港の駐車場分かるか??」
「はいっ!!いつもそこから学校に行っていたので!!」
「すまん、助かる」
《終わったら回収するから、その駐車場の敷地内に置いといていいわ!!あ!!キーは灰皿の中にあるから!!じゃあね〜!!》
横須賀との通信が終わると、いつの間にか涼平はうどん代を払っていた
「すまん涼平!!後で何か買ってやるからな!!」
「気にしないで下さい!!おばちゃん、ごちそうさま!!」
「涼平ちゃん、また来るんだよ!!」
「今度はもっといっぱいで来るよ!!」
店を出て、涼平に着いて行く
涼平は久々に伊勢うどんを食べて腹いっぱいなのか、ずっと機嫌が良さそうだ
「あ、あれですね!!」
横須賀でいつも見るジープが置いてある
涼平は何の気無しに、フツーに運転席のドアを開けた
「いいのか??」
「付き合って貰うんですから!!」
「キーはここっ!!」
灰皿を開けると、キーが出て来た
相変わらず灰皿には、
NO SMOKE
と、シールが貼ってある
が、俺も涼平も早速タバコに火を点ける
俺達は多分、禁煙!!ではなく、タバコを吸わなければこの車には乗れない!!と思っている
「それでっ、何処に行くんだ??」
「志摩の方に水族館があるんです。ちょっとそこに行きたくて!!」
涼平に運転を任せ、久々に潮風を浴びる
普段はこんなに穏やかな気持ちで潮風を浴びる事はない
「そういえば隊長。隊長はいつも革ジャンですね??」
「本当は横須賀から支給された軍服があるんだがな…昇進しない代わりに、これを着させて貰ってる」
涼平は涼平でいつも横須賀支給の軍服を着ている
作業するのも、何処へ行くのも軍服だ
他のサンダースの連中は私服を着る事も多い
特に園崎はタンクトップ一丁でいたり、ロードワーク用のジャージを着ている
「涼平は着ないのか??」
「ある事はあるんですが…中々着る機会が無くて…隊長は革ジャンの方が良いです。隊長だってすぐ分かるので!!」
「そう言ってくれると助かるよ」
「この前深海の子が言ってたんです。「アノカワジャンヲキテルヒトガ、オイシャサンダヨ」と」
「待て。目印になってるのか!?」
「はい。なので、着ていて貰った方が助かるんです。緊急時すぐ分かるので!!」
後日、横須賀に頼んで艦娘にアンケートを取って貰ったが
"困ったら革ジャンを目印に行くと大体解決してくれる"
"逆に着ないと大尉が何処にいるか分からず、治療の際困る"
との結果が出た…
「着きまし…た…」
涼平が運転席でゲートを見ている横で、俺はジープから降りる
「ここにマンボウのモニュメントがあったんですが…」
「閉館したのか…」
閉館が信じられない涼平もジープから降り、ゲートに近付く
「シュリさんと来る約束をしていたんです…」
「…」
涼平が背中で語るのをよそに、タブレットを見る…
「閉館していたとは…隊長、ごめんなさい…」
「涼平。中に入った事は??」
「何度かは…」
「どれっ、涼平君に案内を任せようじゃない、かっ!!」
ゲートを飛び越え、水族館の境内へと入る
「隊長!?」
「年に一回位ワルしとけ!!ほら!!行くぞっ!!」
「は、はい!!とうっ!!」
涼平もゲートを飛び越え、いざ水族館に入る…
「中に生体反応があるんだ…閉館しているなら、この反応はおかしい」
タブレットを見ていたのは、閉館したはずの水族館内から幾つかの生体反応が出たからだ
それも、人と別に何かがいる…
「なるほどっ…任務としてなら!!」
「任務じゃない、デートの下見さっ。いいな??案内頼むぞ??」
「はいっ!!」
「ここにペンギンがいっぱいいたんです!!」
「こっちはシオマネキとか、ハゼとかいました!!」
案内役を始めた涼平は、第三居住区で見せる笑顔を見せながら、俺の3歩先を行く
表にあったのはペンギンの水槽と、干潟にいる生物がいたであろう場所
俺もにこやかに涼平の後を歩く
「入り口です」
「案内頼むぞ。今みたいにな??」
館内に入ると、マンボウのデカフィギュアのお出迎え
どうやらここはマンボウがいた水族館だったみたいだ
「そこにはウミガメがいました。今は空ですが…」
館内に入ってすぐ、左右に分かれた道の真ん中
見下げる形で水槽があった
今は空だが、カメがいたらしい
「左行くぞ」
どうやら左は一旦行き止まり
此方から回った方が良さそうだ
「ここは昔、古代魚とか、化石の展示があったんです」
そのコーナーの真ん中には培養槽の様な水槽が数個あり、壁際には古代魚の展示物があったらしい
培養槽の様な水槽の中は何も入っていないが、内部からぶち破った形跡もない
…こういう水槽を見ると、内部からぶち破って来るとの考えは改めないといけないな
「これは??」
「カブトガニが飼育されてた水槽です。何かいますね…」
手で触れる範疇に水槽があり、そこに敷かれた砂が何やら動いている
バシャバシャ!!と、一気に手を突っ込み、動いている生物を捕まえる
「捕まえたっ‼」
「カニですね」
俺の手には、小振りのカニがいた
こんな小振りじゃ食えないな…
「誰かいるのか…??」
「先に進んで見ましょう!!」
涼平に着いて行くと、右のルートに入った
「そっちが正規ルートか??」
「えぇ。熱帯魚やこの辺の近海の魚が展示されてました」
コツン…コツン…と、二人の足音だけが、トンネル状の館内に響く…
「栄えてたんだろうな…分かるよ…」
「楽しかったですよ…良い場所でした」
魚が展示されていた水槽は皆空になっていた
ただ、名札と少しばかりの説明は、未だ客を待っている
それを見て、あぁ、ここにはこいつがいたのか…と、空の水槽を眺める
「隊長。そこの水槽に触れてみて下さい」
「どれ…冷たっ!!」
突き当りにある水槽に触れてみると、異常に冷たく、すぐに手を離す
「ふふっ、そこは冷たい海で採れた魚や甲殻類の水槽です」
「未だにクーラーが機能してるって事は、何かいんのか…」
コンコンと水槽を軽く叩く
涼平も指でツンツンする
ガボ!!
「うっ…」
「何です…これ…」
気泡が現れ、中に何かがあるのが見えた
「艤装だ。深海のな…」
拘束された深海の艤装がそこに居た
…あれは拘束か??
俺達で言う、ギプスじゃないだろうか…
…誰かがここにいて、艤装の修理をしているのか??
「隊長。少し写真を撮っていいですか??」
涼平はリュックからカメラを取り出していた
「格好良く撮ってくれよ??」
「こっちですっ!!」
「冗談だよ!!」
涼平は、甲殻類エリアにあった説明を写真に収める
今、第三居住区で飼育されているエビの資料を集めているのだろう
「次はあまえびか??」
「隊長、何か食べたいのあります??」
パシャパシャとシャッターボタンを押しながら、フラッシュが光る
水槽の中にいた生体艤装が、ギプスを嵌めていない方の手でピースサインをしていたのは、現像してから気付く事になる…
「この地域に、酒でエビ酔わせて食う奴あったろ??」
「あっ、はい‼あります!!」
「いつでもいい。やれそうか??」
「帰ったら第三居住区で食べましょうよ!!」
「そりゃあいいな!!」
「これでよしっ、行きましょう!!」
コツン…コツン…
また足音が綺麗に響く通路を歩く
独特の空間、独特の匂い…
少しだけ、まだ磯の香りが残っている…
「ここはアマゾンとか、淡水熱帯魚のエリアです」
「朝霜みたいな魚がいるぞ!!」
「怒られますよっ」
水槽の中にはもういないが、写真が残っていたその魚
朝霜の様なギザ歯を持ったアマゾンの魚、ピラニアだ
「世界は広いな…世の中には、知らない鳥も魚も、こんなにいる…」
大淀と逃避行をしたバスの窓から見た、見た事のない白い鳥…
そして、今パネルの中にいる熱帯魚達…
俺の知らない世界が、まだそこにある
「えぇ。まだ発見されていない魚だって沢山います」
「いつか新種でも見つけるか??」
「その時は自分の名前を付けます」
この何気ない会話は、ずっとずっと先で現実の物となる…
「隊長。次は自分が一番好きなエリア何です!!」
「楽しみだな」
「こっちです!!」
俺も涼平も、螺旋階段を登る
涼平のはしゃぎ具合を見る所、余程好きなエリアみたいだ
「わぁ…」
「おっと…」
360°、ぐるりと見回せる水槽が、そこにはあった
「ここは回遊魚が飼育されてたんです」
「小さい駆逐が泳いでるな…」
水槽の中では、回遊魚の代わりに何百もの深海駆逐が泳いでいた
「あっ…」
水槽の中に一人の女性が入った
「あれがアマサンか??」
「そうです…大丈夫なんですかね??」
「いっぱい寄って行ってるぞ…」
俺も涼平もアマサンに寄る
「大丈夫みたいですね??」
「どうやって手懐けたんだ…」
「あ、こっち見てます」
「…」
アマサンが俺達に気付き、手を振ってくれた
俺達も振り返すと、アマサンは指の形を変えた
「プチョヘンザ!!してますね…」
「陽気な人だ…しかしまぁ…涼平が好きなのも分かるな…」
パノラマ水槽の前に備えられた長椅子に、俺も涼平も腰を降ろす
「海中にいるみたいだ…」
360°見回しても水槽
よく作ったと思う…
「遠足も、デートもここでした」
「…」
「ホントはあの後、シュリさんとここに来ようと思ってたんです」
「…ここに置いてきたんだな、青春を」
「隊長にもありますか??青春を置いてきた場所…」
「大阪に置いてきた。いつか帰ろうと思ってる」
「自分もいつか、この街に戻って…」
「その第一歩を今から調査再開だ。頼むぞ??」
「はいっ!!」
螺旋階段を降りると、涼平は一角に入っていった
「隊長!!ここ凄いです!!」
「ここは??」
「ここは昔、イベント会場でした。魚に触ってみたりとか、展示物があった所です」
「…そっかっ!!」
そこには、お祭りで金魚すくいをするプラスチックの桶を大きくした様な物の中に横たわった深海駆逐の子が居た
隣には研究員らしき若い女性がバインダーを持って立っている
「触っても大丈夫ですか??」
「大丈夫ですよ。今、鎮静剤を打った所です」
「良い子…」
涼平は膝を曲げ、イーサンを撫でる時と同じ様に、ツルツルの頭部を撫でる…
「状況は??」
「数日前に定置網に引っ掛かって怪我をしていたんです…地元の漁師さんから連絡を受けてここに搬送されて来ました」
「どうして定置網の近くに行っちゃったんだ??
」
「リョーシサンノオテツダイシテタラ、グルグルーッテナッタ!!」
「頑張り屋さんなんです、この子。地元の漁師さんからも愛されてます!!」
「はっはっは!!手伝ってくれてたのか!!そうかそうか!!どれっ、見せてみな??」
俺も膝を曲げて治療に当たる
深海駆逐の子は、体をぐるんを回転させ、俺に腹部を見せる
定置網に絡まった時に擦ったのか、少し擦り傷がある
「擦ったんだな…ジッとしてろよ…」
ポケットから塗り薬を出し、フタを開ける
「ソレナァニ??」
「塗り薬ですよ!!」
涼平の顔を見ている隙に、深海駆逐の子の腹部に塗り薬を塗る
「ギモヂイイ〜」
「頑張り屋さんはな、報われなきゃ駄目なんだぞ??」
「モシカシテ、マーカスサン??」
「俺も有名になったな??」
「ミンナ、マーカスサンシッテルヨ。オイシャサンダッテ!!」
「そうかいそうかい!!よ〜し、よく頑張った!!後はこのお姉さんの言う事聞くんだぞ??」
「アリガトウゴザイマシタ!!」
「ありがとうございます!!助かりました!!」
「腹部の装甲がまだ成長しきっていない。2日3日怪我の具合を見て、傷が治ってる様なら、海に返してやってくれ」
「おまかせ下さい!!」
涼平と一緒に立ち上がり、一旦外に出て来た
「外だ!!」
「ここはゲームコーナーでした。あ、ほら、そこに名残が」
涼平の言うとおり、年代物のゲームの筐体が隅に置いてある
スロットマシンに、UFOキャッチャーがある
「どれ、ちょっと動かしてみるか」
「動かせるんですか??」
「女より単純さっ!!」
10分後…
「これでっ…」
スイッチを入れるとUFOキャッチャーが動き始めた
「凄いです!!ちょっとやっていいですか!?」
「景品あるのか!?」
「はい!!」
「取れるまでこのスイッチを押すんだぞ??」
「分かりました!!」
基盤を元に戻し、数回スイッチを入れるとクレジットが入り、涼平はUFOキャッチャーをやり始める
「俺はスロットを…」
基盤の切れた部分をタバコで一瞬焼き、瞬時に繋げて、またタバコで焼く
「どれ…」
スロットが動き始めた
10分後…
「取れました!!」
涼平の手には、古いオイルライターがあった
この水族館のオリジナルの物だろうか、マンボウの柄が彫ってある
「そろそろ行くか!!」
「はいっ」
俺達は別館に足を踏み入れる…
「ここはマンボウが飼育されていた水槽です」
「深海の潜水艦がいるな…」
水槽を掃除しているのは、深海の潜水艦の子だ
それも二人いる
涼平は手を振ってみた
潜水艦の子は涼平に気付き、手を振り返してくれている
コツコツ…
「ん??」
俺の所にも一人来た
ベチャ、ベチャと、水槽の向こう側で胸を押し付けてこっちに見せ付けてくれている!!
「そうだ!!もっとおっぱいを押し付けろ!!そう!!
」
聞こえたのか、もう少し力を入れて押し付けてくれた
「うーむ。これだけでも来た価値が…」
ふと、視線に気付く
涼平と、もう一人の潜水艦の子がこっちを見ている…
二人共まるで"何してるんですか…"とでも言いたそうな顔で!!
「見ないでくれ!!」
コツコツ…
涼平が何かを言おうとした瞬間、涼平の方にいた潜水艦の子が水槽を軽く叩く
「あ、はい」
ベチャ…ヌリヌリ…と、俺の前で起こっている光景と同じ事が起こる
「隊長…」
「生きてて良かったろ??」
「はいっ!!あの、シュリさんには内緒に…」
「俺達二人の内緒だ…」
ジーッ…っと、深海の潜水艦の子は俺達を見続けている
余程客が不思議らしい
フリフリと手を振られたので、俺達も振り返し、巨大な水槽を後にする
「ここは深海魚のエリアです」
「ノコギリエイ…か…」
今は空っぽだが、ここにはノコギリエイがいたらしい
エイと聞くと、どうしても反応してしまう…
「あれ、砂の中掘るためらしいですよ??」
「どう考えてもチェインソーなのにな??」
「ノコギリエイからチェインソーの発想が産まれたみたいです」
※諸説あります
「そいつは初耳だ。ちょっと実物見てみたくなったな」
さっきの巨大な水槽が終わると、また少し長い廊下が来る
「ホントは、ここにリュウグウノツカイと足がたくさんあるタコの展示物があったんです」
涼平曰く、ここには展示物があったらしい
「リュウグウノツカイか… 」
「見たら不吉の予兆らしいですよ??」
「俺がコーヒー淹れるのとどっちがヤバい??」
涼平はカメラを降ろし、水槽の中を見ながら答える
「リュウグウノツカイです。隊長はいつだって跳ね除けて来ましたが、リュウグウノツカイは天変地異です」
「そういや、ゴーヤが見たことあるって言ってたな??」
「いつか飼育できる日が来るんですかね??」
そんな話をしながら歩くと、とうとう終わりが見えて来た…
「ここで終わりか…」
外に出てすぐ、涼平は別の方向を見ている
「隊長、ちょっとこっちに」
涼平と一緒に、横にあった階段を登る
「綺麗だな…」
涼平が連れてきてくれた展望台
人と海が密接して暮らしている風景が、そこから見えた
「おっ、あれは第三居住区にもあるな!?」
「アワビとかアコヤ貝の養殖いけすです!!」
「あれはなんだ!!」
「あれは定置網です!!その向こうにあるのは海苔です!!」
俺の質問にも、涼平はカメラを構えながらすぐに答える
余程、この場所…
いや…"一度目の青春を過ごした街"を愛している証拠だ…
「はぁ〜…凄いもんだな…」
「お土産コーナーに行きましょう!!」
「何か買って帰ろう!!」
俺達の水族館探検はここで一旦終わりを迎える
涼平は涼平で館内のデータや、当時の展示物の名残を撮れて満足そうだ
「ふーっ…涼しい…」
「連絡を受けました!!マーカスさんと綾辻さんですね!?ご協力、ありがとうございます!!」
入店した俺達に気付き、店員…もとい職員が来た
「涼平…お土産コーナーは??」
「当時のお土産コーナーを改装して、今はこうして事務所になってます」
と、職員が説明してくれたが、納得が行かない涼平
「ないんですか」
「…はい」
「ほら、あれだ!!水族館やら動物園にあるぬいぐるみ位はあるだろ!!」
「ないです…」
「お魚の形したお土産のクッキーは」
「…ないです」
「さ、帰ろう」
「そうですね!!お土産コーナーには用はありましたが、皆さんに買おうと思ってましたが、別の所にしましょう!!」
「ちょちょちょちょ‼アイスコーヒーでも!!」
お土産コーナーが無いと分かると、すぐに踵を返した俺達をすぐに職員が止めた
「やったぜ!!」
「そういえば喉乾きましたね!!」
せっかくなのでアイスコーヒーを頂いて行く事にした
「ここは数ヶ月前からジェミニさんが買い取って、深海の子達の療養所になっているんです」
「それでパノラマ水槽にいっぱいいたんですね!!」
「…」
涼平は職員と話し、俺は棚にあった記録を見る
「何か気になる事があれば仰って下さいね??」
「あの水槽にいた潜水艦の子のバストサイズでも聞こうか??」
「私も当人達に聞いた訳ではありませんが、計測によると…結構ありますね??」
「よし涼平!!もっかい見に行くぞ!!」
すぐにファイルを閉じ、もう一回あの水槽に行こうとする
「後でブロマイドを差し上げますよ!!」
「自分も頂けますかっ!!」
「も、勿論ですよ!!少々お待ちを!!」
「…」
涼平は大人しく待ち、俺は再びファイルを開ける
「姫級…」
ファイルの中には"姫級"の文字がある
そして、もう一つ気になる文字が…
「鬼…」
成人女性に非常に近い深海の治療記録がそこにあった
どうやらここで簡易な義足を造って貰ったみたいだ
「ありましたありました!!どうぞ!!」
「隊長っ!!」
「どれどれ…」
指でページを抑え、持って来てくれたブロマイドに目をやる
「幾らだ」
「差し上げますよ??」
「本当にいいのか??」
「えぇ」
こんな素晴らしいブロマイド、とてもとてもジェミニ様には見せられない逸品だ
秋雲が実に捗りそうなブロマイドだ!!
「ありがたく頂戴する」
「自分もっ!!」
「マーカスさん…貴方は医者だと伺っております」
「俺は医者だが…どうした??」
「実は折り入ってお願いがありまして…」
職員が立ち上がり、ペンギンがいたプールに案内される
「おーい!!出してあげてー!!」
「了解ですー!!」
職員と共に出てきたのは、一体の深海の子…
もとい、姫級の艤装だ
その子を見て、すぐに駆け寄りたくなる
「中に入りたい!!」
「此方へ!!」
ペンギンプールの中に案内され、その子に触れる…
「よーしよし…痛かったな…」
「イデェ…オレヂマッダ…」
低い声だが、今、確実に折れたと言った
「俺が治してやる!!誰か医療キットあるか!!」
「すぐお持ちします!!」
「いい子ですね…」
涼平に撫でられ、深海の子は呼吸を落ち着かせる…
「どうしちゃったんだ??」
「ジエーダイ…イッバイウッデギダ…オレ…ミンナマモッダ…」
「その子は漁師の船を護ってくれたんです。此方を!!」
医療キットを受け取り、手術の準備を始める
「そっかっ!!よしっ、俺が治してやるから、心配するな!!」
「ズマネェ…アリガド…」
一時間後…
「これでっ…よしっ!!良く頑張ったな!!」
涼平を助手に付け、なんとかその場で手術を終えた
「オォ〜…ズゲェ。ウデ、ウゴイダ!!」
深海の子は動いた腕で、俺と涼平の頭を撫でる
「ふふっ…最後に鎮痛剤と高速修復剤を打っておいた。一週間したらギプス外して、しばらくは無理をしない様に動いてくれよ??」
「アリガド、マーガズザン!!リョーベーグン!!」
「ありがとな、護ってくれて」
胸が痛い…
人としての心を持っているのは、果たして何方なのか…
確かにこの子達は異形で、攻撃もした
人が許せないのも十二分に分かる
ただ…ここに来てそんな子ばかりを見た
人を護って傷を負った
人を愛して傷を負った
潜水艦の子達だって、誰かに酷い扱いを受け、そして誰かに救われた
ここに連れて来てくれる様な愛してくれる奴もいれば、見ただけで攻撃する奴もいる
強風の中で涼平に言った自分の言葉が、胸に刺さる…
終わらせられるのか…
「ダイジョーブ。オレノヂリョー、オワッダ。イヅガゴノダダガイモオワル!!」
心を読まれたかっ…
「…そうだなっ!!」
「自分達が必ず終わらせますよっ!!」
「アーッ!!ワタシノペット!!」
甲高い声がした方向に、俺達は振り向く
「グーボズイギヂャン!!」
「はっ…!!」
ファイルにあった子だ…
この子が空母水鬼…
足からカン、カンと金属がぶつかる音を出しながら、自身の艤装に走り寄る
「ヨカッタァ〜!!ナオシテモラッタノネ!!アリガトウハイッタ??」
「アリガド!!マーガズザン、リョーベーグン!!」
「羨ましいからそこを代わって欲しい!!」
「よ、良かったですね!!ねぇ!!隊長!!」
「ン〜!!イイコ!!チュッチュッ!!」
空母水鬼は自身の艤装の顎の下を撫で、頬にキスをしている
「今すぐそこを代われ!!俺もチュッチュされたい!!」
「ダーメーでーすーっ!!隊長ーっ!!」
深海の子に歩み寄った俺を、涼平がなんとか羽交い締めにして抑える
「だぁぁあーーー!!離せーーーっ!!チュッチュされたいーーー!!」
「チョットマッテテネ…」
空母水鬼がこっちに寄って来た
「オナマエハ??」
「マーカスだっ!!チュッチュしろ!!」
「アナタハ??」
「涼平ですっ!!」
「マーカスッ、アリガトッ!!」
頭を軽く抑えられ、額にキスされる
「リョーヘーモッ、アリガトッ!!」
涼平の額にもキスを施される
「いつでも言ってくれ!!」
「あっ、は、はひっ…」
「アレ…チョットゴメンネ??」
空母水鬼は突然涼平の額に自身の額を合わせる
涼平の目の前にはそれはそれは大きなおちちが来る
「どどどどうされたんですか!?」
「ウ、ウソ…シュリサンノ!?」
額を外してすぐに空母水鬼は怯え始める
「お知り合いですか??」
「ゴゴゴゴメンナサイ!!チョーシニノッテ!!」
「大丈夫ですよっ!!」
「シュリサンノカレシトハシリマセンデシタ!!」
空母水鬼はすぐに膝を落とし、床に頭を落とす
「涼平、あれだな??キスに免じて黙っときます、だな??」
「そうですっ!!とっても良かったです!!」
「シュリサンハネ…トッテモツヨイノ…ワタシタチジャ、ヒャクニンアツマッテモカテッコナイノ…」
「確かに自分はシュリさんとお付き合いさせて頂いてます」
涼平は空母水鬼の前に屈む
「シュリさんは優しいですよっ。自分が毎日一つずつ、またシュリさんの好きな所が増えて行っている位ですからっ!!」
「シュリサン、ヤサシイ??」
「えぇ!!とっても!!」
「シュリサン、イマナニシテルノ??」
「聞いてみましょうか!!」
涼平はタブレットを取り出し、第三居住区に繋げる
《第三居住区、横井だ。涼平か。どうだ、調査は進んでるか??》
テレビ電話に出たのは横井だ
「今志摩にいます!!シュリさんいますか??」
《ちょっと待ってな…おーい!!シュリさーん!!》
数秒するとシュリさんの顔が映る
《ア!!リョーチャン!!》
「シュリさん、今何してますか??」
《イマ??イマハネ、オセンベーヤイテルヨ!!ホラ!!》
シュリさんがタブレットを持ち上げ、別方向に向けると横井が映る
深海の駆逐達に囲まれ、焼き上がったおせんべいを口に放り込んでいる
「ナニココ!!スッゴイ!!」
《クーボスイキチャン??》
「ハッ、ハヒィ!!」
空母水鬼はすぐに前屈みの体制から直立不動になる
《リョーチャントッタラヤダヨ??》
シュリさんは何かを感じたのか、ヤバいオーラを出している…
「トリマセントリマセン!!」
《マタアソビニキテネ!!》
通信が終わる…
「コ、コンド…アソビニイカサセテイタダキマスゥ…」
「その時はごちそうを準備してます!!」
空母水鬼はカチコチの動きのまま、ペンギンプールから出て行った…
「さてっ、俺達も行くかっ!!」
「はいっ!!」
ペンギンプールから出て、ジープに乗る
「あの!!またいつでも来て下さい!!」
「次はもうちょい水槽に魚入れといてくれ!!」
「また再建する日を楽しみにしてます!!」
研究員とも挨拶を交わし、先に駐車場にいた空母水鬼が手を振っているのが見え、俺達も振り返す
「アリガトー!!マタアオウねー!!」
「「はっ…」」
俺も涼平も振り返る…
一瞬聞こえた、空母水鬼の声変わり…
「愛されてる証拠だっ…」
「いつか、彼女も艦娘になるのですかね…」
涼平の運転で、水族館を後にする…
涼平はしばらく車を走らせる
「おっ…何か雰囲気良い場所だな??」
駅があり、ちょっとノスタルジックな場所に出る
右向きゃ整備された観光地
左向きゃ昭和が残っている
「ここは鳥羽です。まだ施設が残ってると良いのですが…」
涼平は運転しながらキョロキョロしている
「あっ!!まだやってます!!」
涼平は吸い込まれる様に駐車場に入り、ジープを停める
「隊長、お土産買って帰りましょう!!」
「さっき買えなかったからな!!」
ジープを降り、施設の中に入る…
「す〜…は〜…」
施設に入ってすぐに涼平は深呼吸する
涼平を見て、俺も深めに息を吸う
何だろう…古い匂いがする…
嫌な匂いじゃない、何なら好きな位だ
店にある電化製品…
地元の名産品や懐かしさを感じる商品…
電球と天井…
欠けた床…
くすんだ色合いの壁、シワシワポスター…
絶妙に昭和の匂いだ…
あまり嗅いだ事もないのに、何故か懐かしい…
「こういった所の空気、何だか良いですよね…」
「懐かしい気持ちになるな…」
涼平の後ろを歩き、連ねられた土産物屋を物色する…
「隊長隊長、これ美味しいですよ!!」
「どれっ…」
涼平に試食品を口に突っ込んで貰う
サザエのなんかだ
「これは櫻井さんに買って帰りましょう!!後は、え〜と…」
涼平はサンダースの皆のお土産を買っている
俺は何にしようか…
「何だこいつは…」
俺の目線の下には、鳥のおもちゃ…もといぬいぐるみ
問題は頭の所に"押す"とシールが貼ってある
涼平を見ると、今度はお菓子のコーナーに行っている
どうしよう…凄く気になるな…
恐る恐る、鳥のぬいぐるみの頭を指で押して見る…
「グァ」
ツンツン…
「グァ、グァ」
「ふっ…」
頭を押す度に鳥の鳴き声が出る
どうやら歌を歌ってるみたいだ
ツンツンツンツン…
「グァグァグァグァ」
こいつにしよう、気に入った!!
ひとみといよ辺りが連打しそうだ…
…念の為2つ買っておこう
ぶっ壊しそうだしな…
後は涼平が言ってたお魚ビスケットやら、おまんじゅうを買ってレジに持って行く
「いやぁ〜、たまにはいいですね!!」
「そうだなっ!!たまには横須賀以外で買い物もっ!!いいもんだなっ!!」
ジープの後部座席に荷物を乗せ、一旦一服する
「あれは何だ??」
ふと目に入ったフェリー乗り場
看板にはイルカのマークが描かれている
「あれはイルカ島に行く為のフェリーです。帰りにちょっと上飛んで見ましょう!!」
「もう一つは何だ??」
「もう一つは真珠島に行く為のフェリーです。ここの名産品なんです!!」
「落ち着いたらもう一度来たいな…良い場所だ…」
「今度はもっと案内します!!」
俺達は帰路に着く…
「さてっ!!帰りますか!!」
荷物を詰め込み、強風が出る
「あれは何だ??」
眼下に見えた、離島に建っているそこそこ巨大な建物
ビーチがあるようにも見える…
「あそこにはホテルがあったんです。良いホテルでしたよ…廃業してから、ずっとそのままなんです」
「ジェミニが買い取りそうな感じがする…」
「ははは!!もしそうなら、自分が最初のお客さんになりますよ!!あ、ほら隊長!!イルカ島ですよ!!」
涼平に言われ、また眼下を眺める
イルカがピョンピョン跳ねているのが見える
見送ってくれているのだろうか…
また来よう、この街に…
「調査報告書だ」
横須賀に帰り、報告書を出す
「ありがとっ。どうだった??」
「楽しかったよ、久々に」
「あら、何それ」
横須賀は俺の腰に掛かっているチェーンを見ている
「深海の子に貰ったんだ。そこに書いてある」
横須賀は報告書をめくる…
「そう…人がいたのね、水没地区に…」
「一般人だったが、武装していた」
「ん、分かったわ!!で、これ食べて良いわけ??」
「食えよ…」
報告書より、ずっと真珠のおまんじゅうに目が行ってる横須賀
「いただきまーす!!」
「ちったぁ真面目に報告書見ろよ!!」
「見ふぇるはよ!!ひふれーな!!」
「ぐっ…!!」
そんなモグモグさせて見られても嬉しかねぇ!!
「お土産があるから、今日は基地に戻る」
「ありがとね、レイ」
「何がだ??」
「ちゃんと涼平連れて帰ってくれて。行ってからちょっと思ってたのよ…もしかしたら帰って来ないんじゃないかって…」
「大丈夫さっ。涼平は今、第二の人生を楽しんでる」
「なら良かった!!これおいひ〜わね!!」
「人が真面目に話してんのにコイツは…」
口ではそう言うが、お土産に満足してくれて良かった…
「ただいま!!」
「おかえりなさい!!もうすぐ晩御飯出来るからね!!」
手洗いうがいをしてから、子供達がいるテレビの前に座る
「おかえりすてぃんぐれい!!」
「ただいま!!これ、みんなにお土産だ!!」
あの頭シールの鳥のぬいぐるみをカーペットの上に置く
「みて、かわいい!!」
「といしゃん!!」
ひとみといよも抱っこしたり眺めたりしている
俺の予想は当たるのか…
「おすってかいてあう」
いよがシールを発見して、口元がニヤつく
「おりぁ!!」
「グァ」
「くぁいった!!」
「たいほ〜しゃんも!!」
「つんつんつんつん!!」
「グァグァ、ゲグァ」
「「「あっ」」」
俺の予想は外れた
ぶっ壊すのは当たっていたが、タイミング悪くたいほうがぶっ壊した!!
「がーがーさんつんつん!!」
「ゲ、グェ」
「も、もう一つ買って来たんだ…」
ひとみといよにもう一つのぬいぐるみを渡す
「おりぁおりぁおりぁおりぁ!!」
「グァグァグァグァバ」
「ひとみもすう!!」
いよに持ってもらい、ひとみも頭を押す
「いーこいーこ!!」
とは言うが、結構な力で頭を押す
「グァプペァ」
「ぷぺぁいった!!」
やはりぶっ壊されたか…
しかも数分しか持たなかった…
後にこの鳥のぬいぐるみは、別の歌を歌っていただけでぶっ壊れた訳では無かった事に気付く…