艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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323話が終わり、次のお話です

ある日、突然現れた1台の車が基地に許可無く入って来ます

中から降りて来た人物は少し事情があるようで…

※結構グロテスクなシーンがあります。ご注意下さい


324話 怒りの矛先

「何だ⁇」 

 

ある日、ワシントンと親潮と駄菓子屋に来ていると、横須賀に見慣れない車が入って来た

 

「ちょっとここで待っててな⁇」

 

「わかった」

 

「畏まりました」

 

今日は外注の予約は無いはず

 

それに、仕入れなら何かしら横須賀に連絡が行くはずだ

 

それが無いとすれば…

 

ジープの発着場に停車したので、車のパワーウインドを軽く叩く

 

「何です⁇」

 

「ここの基地の者だ。今日は横須賀に面会の者は居ないんだが⁇」

 

「あぁ、抜き打ちですから。ちょっと邪魔です」

 

「おっと…」

 

いきなりドアを開けられたので、少し後ろに下がる

 

「行くぞ。降りろ」

 

「はいっ」

 

助手席には、まだ若そうな女性が一人乗っていた

 

「で⁇貴方は私にどの様な用事で⁇」

 

「あー…そうだな…自己紹介がまだだったな‼︎俺は…」

 

「結構。覚える気も無いので。では」

 

手を前に出され、お前の自己紹介は必要無いと言われ、そのまま発着場から出て行った

 

「なーんだいけすかねぇ‼︎ベロベロバー‼︎だ‼︎」

 

「何なんすか、あの失礼な奴」

 

「誰が停めて良いって言ったんだよ」

 

ジープの発着場に居た、整備士の二人も御立腹

 

「怪しいな…ちょっと様子を見てくる。このいけすかねぇ車、確保出来るか⁇」

 

「勿論‼︎お任せ下さい‼︎」

 

「タイヤにロックしときますよ‼︎」

 

車を二人に任せ、先程の二人の跡を付ける…

 

「どうも、ジェミニ・コレット」

 

「あら。今日は誰も面会の予定は無いはずだけど⁇」

 

先程の男は執務室に来ていた

 

「連絡を入れていませんからね。今から抜き打ちの調査をします」

 

「お断りします。何処の誰かも、自己紹介も組織も言わない奴に調査の許可はしません」

 

「“国税局”と言っても⁇」

 

「あら」

 

「横須賀‼︎」

 

「話の途中ですが⁇先程から貴方は何ですか」

 

「丁度良いわ。彼にも付き添って貰います」

 

横須賀は席を立ち上がり、同行する準備を始める

 

「…まぁ、良いでしょう」

 

「悪いけど、此方からも条件を出すわ」

 

「貴方の意見は一切通りません」

 

「なら調査はお断りするわ。さ、どっち⁇」

 

「…どうぞ」

 

国税局の男は機嫌の悪そうな顔をしつつ、横須賀の話を聞く

 

「もし、何も出なかったり、貴方がここで何らかの騒ぎを起こした場合、貴方もそれなりの責任を取って貰うわ⁇」

 

「ご心配なく」

 

「そ⁇ならいいわ⁇行きましょ」

 

「おっ…」

 

横須賀にいきなり手を引かれ、執務室を出る

 

「…なんなの、あのいけ好かない絶倫みたいな顔‼︎」

 

「…何か怪しいな」

 

「…それに、あの横にいる女の子は何⁇」

 

「…分からん。自己紹介もしない男だ」

 

「早くしてもらえますか」

 

「はいはい、こっちです〜」

 

ドアを開け、二人を案内する

 

「貴方、私より年下ですよね」

 

「まぁな…」

 

国税局の男は、ため息交じりで言った

 

「もう少し、目上の人に対しての言動を考えた方が良いかと」

 

「なっ…こんのっ‼︎」

 

「…レイっ‼︎」

 

「ごめんなさい…彼、いつもあぁなんです…」

 

男の後ろを着いて行っていた女の子が口を開いた

 

「さ、行きましょ」

 

「…ありがとな⁇」

 

女の子は小さく頷き、男の後ろを歩く

 

「これは固定資産税が…」

 

「あー、重量税ですね…」

 

「人数分の市民税も…」

 

出るわ出るわ税金の数

 

横須賀が全部「あっそう」としか返していないのが怖い…

 

「まだ回る場所がありますが…日も暮れて来たので」

 

「では、パイロット寮の一室をお使い下さい」

 

「どうも」

 

「貴方は此方に。女性のみの寮の一室がありますので」

 

「同じ部屋で結構です」

 

「お断りします。風紀に関わりますので。もし同じ部屋にするなら、それ相応の処置をしますが」

 

横須賀が無理に女の子を引っぺがした

 

「さ、行きましょ」

 

「…ありがとうございます」

 

「どうしてお礼を言うの⁇」

 

「あの…何処か個室はありますか⁇」

 

「えぇ」

 

横須賀はその女の子を連れて執務室の近くの来客用の部屋に向かう…

 

「こっちだ」

 

「言葉遣い」

 

「此方へどうぞ‼︎」

 

何様だと思いつつ、男をパイロット寮の前に連れて来た

 

「ひっ…‼︎」

 

「迅鯨⁇」

 

外で櫻井を待っていた迅鯨が、急に怯えて中に入ってしまった

 

その時、横顔で男の顔を見た

 

いや、見てしまった…

 

何かを見つけた時の恍惚の表情を一瞬見せたその横顔で、俺はパイロット寮に宿泊させるのをやめた

 

「パイロット寮は満室みたいだ、残念」

 

「いや⁇端の一室が開いている。そこでいい」

 

「隊長‼︎ただいま戻りました‼︎」

 

涼平と櫻井が哨戒から戻って来た

 

いや、戻って来てしまった…の方が近い

 

「駆け落ちした奴がこんな所に居たか」

 

「どういうつもりだ」

 

今まで一度たりとも怒った事がない櫻井が、今目の前で怒りの表情を見せている

 

察した涼平が既に臨戦態勢に入っている

 

「女の一人も守れない男が逃げた先はここか。は…御誂え向きだな⁇」

 

「なんだと。もう一回言ってみろ」

 

「あぁ何度でも言ってやる。駆け落ちして‼︎女の一人も守れない男が‼︎逃げた先はここなんだな‼︎」

 

「野郎‼︎武藤‼︎」

 

「落ち着いて‼︎櫻井さん‼︎」

 

「離せ涼平‼︎あいつだけは殺す‼︎」

 

「早く案内してもらえますか」

 

「謝れ」

 

「は⁇」

 

「何度でも言ってやる。謝れと言ってる」

 

「ごめんなさい。これで気が済みましたか⁇」

 

心にも思っていませんとでも言いたそうな謝罪を櫻井に向ける

 

「私は謝りました」

 

「隊長、良いんじゃないですか⁇パイロット寮に宿泊させて」

 

涼平のアイコンタクトが見えた

 

…何かするつもりだ

 

「分かった…」

 

武藤と呼ばれた男を連れ、パイロット寮に入ろうとした時、涼平に羽交い締めにされている櫻井に向かって武藤は呟いた

 

「ありがとう。これで迅鯨は私の元に帰る」

 

そう言って肩を二度叩き、パイロット寮に入った…

 

「涼平‼︎離せ‼︎あいつだけは‼︎あいつだけは殺す‼︎」

 

「隊長」

 

「いいぞ。ありがとな」

 

涼平が手を離し、櫻井を落ち着かせる

 

「迅鯨が危ない‼︎」

 

「涼平、迅鯨さんを頼む」

 

「了解です。櫻井さん、いざとなれば深海化してでも守ります‼︎」

 

「…涼平」

 

「なんです⁇」

 

「…すまない」

 

「何言ってるんですか‼︎友達じゃないですか‼︎では‼︎」

 

櫻井はハッとした顔をした後、俺の方を向いた

 

「話してくれるか⁇」

 

「分かりました…」

 

櫻井から全てを聞いた

 

もし、櫻井の言う通りになるのなら、深夜迅鯨は奴の部屋に行くはず…

 

いやらしい奴だ。自分からは決して行かない

 

全ては迅鯨の責任にするはずだ

 

そして、深夜…

 

「…」

 

迅鯨は武藤がいる部屋の前に来た

 

「来るのが遅い」

 

武藤はすぐに迅鯨を暗い部屋に入れ、鍵を掛けた

 

「ほ…本当に…櫻井さんの前に現れないでくれるんですね⁇」

 

「迅鯨次第だ」

 

「ひうっ…」

 

武藤は迅鯨を背後から抱き締め、うなじに鼻を当てる

 

「ずうっと待ってたよ、迅鯨…」

 

「やめて下さい…」

 

「櫻井が大事なんだろう⁇抵抗したらどうなるか」

 

「うぅ…」

 

「お前の主人は誰だ⁇迅鯨」

 

「…」

 

「はーいっ‼︎そこまででーっす‼︎」

 

嫌悪感に震える迅鯨に気付いたかの様に、いきなり電気が付き、ベッドにリチャードが座っていた

 

「迅鯨ちゃん‼︎カモン‼︎」

 

「はいっ‼︎あっ‼︎」

 

リチャードが指でこっちへ来いと合図し、迅鯨は武藤の手を振り解こうとしたが、武藤はそれを許さず、迅鯨の首元に手を回す

 

「私の妻に何か」

 

「人妻にそゆこと言う⁉︎私でも人妻はちょっと…ごめんなさぁいですね‼︎」

 

「それは奴が勝手に言っている話なだけだろう。そんなもの、すぐに揉み消せる」

 

「へーすごーい‼︎偉いねぇ君‼︎これで気は済んだか」

 

拍手の途中で、リチャードの顔が変わる

 

「その子の手を離した方が無難だぞ」

 

「書類上は私の妻だ」

 

「一応聞くけど〜、迅鯨ちゃんはどう思う⁇」

 

脅されているのか、迅鯨は荒い呼吸を吐きながら肩を震わせ、首を振らない

 

「いいか坊主」

 

リチャードが立ち上がり、ポケットに手を入れたまま近付く…

 

「何です」

 

「暴力で手に入れた愛なんざ、何の価値もねぇぞ。やめとけ。今の内だ」

 

「私は迅鯨の旦那だ‼︎」

 

「そうかい。なら、さよならだ。櫻井」

 

「武藤」

 

武藤の背後から、櫻井がチョークスリーパーを掛ける

 

「いいのか櫻井っ…軍人が一般市民に手を出してっ‼︎」

 

「今しがた櫻井は軍を辞めたが…」

 

リチャードの一言で、武藤は自分が置かれた立場が非常にまずい事に気が付く

 

「この絶倫野郎が…」

 

「さ、迅鯨ちゃんはこっち〜‼︎は〜い見ない見ない‼︎」

 

今度はリチャードが迅鯨の背後から目を隠し、出入り口に向かう

 

「あの…リチャードさん。ありがとうございました…」

 

「美人が助けを求めるのは断らない主義だ。迅鯨ちゃん。あいつと何があったか教えてくれるかい⁇」

 

「…櫻井さんには、言わないで頂けますか⁇」

 

「勿論‼︎」

 

迅鯨の目から手を離し、此方に振り向かせる

 

次に迅鯨の口から出た言葉で、リチャードは踵を返す…

 

「二度と私達に近付くな。いいな⁇」

 

「奪ったのはっ…どっちだかな‼︎」

 

櫻井がチョークスリーパーを外さないまま、武藤は反論を続ける

 

その時、リチャードが戻って来た

 

「櫻井。お前が手を下す必要はない」

 

「は、はい…」

 

この時櫻井はリチャードの何を見たのか、一瞬で腕を離した

 

「げほっ…ごほっ…暴行罪で訴え…ぎぁ‼︎」

 

武藤が喉の調子を整えている最中に、リチャードはいきなり武藤の右足に発砲

 

「痛いか」

 

「痛いに決まってるだろ‼︎何しやがぐぁ‼︎」

 

今度は右腕に発砲

 

「櫻井。迅鯨の所へ行け。私はこいつと話がある」

 

「は、はい‼︎」

 

櫻井が行ったのをドアが閉まる音で確認し、リチャードの目線は床でのたうち回る武藤に行く

 

途轍もなく冷たく、そして残酷な目をしたリチャード

 

先程櫻井はこの目のリチャードを見て、体が言う事を聞かなくなっていた

 

武藤の頭の上で無言で、そして武藤を一点で見つめながら、手元のピストルに弾を込める

 

「こんな事して…分かってあぎゃ‼︎」

 

今度は左腕に弾が当たる

 

「お前のした事は分かっているのか」

 

「知らん…」

 

「そうか」

 

今度は武藤を見る事も無く、窓の外を見ながら左足を撃ち抜く

 

「今度は何処に当たるか分からん。腹か、それとも心臓か」

 

「話せば、いいんだろ…」

 

「いいや、話さなくて結構。心からの反省の言葉が聞きたいんだよ、小僧」

 

「はっ。死んでも断る。この人殺しが…」

 

「褒めてもお前にはそれなりの責任を負って貰う」

 

リチャードにとって“人殺し”との言葉は褒め言葉でしかない

 

今、彼の足元でのたうち回っている男を殺そうが、どうとも思っていない

 

「失血死まで小一時間あるな。しかし、何故か両手両足は動けない。絶好の尋問の機会な訳だ」

 

「殺してみろ…それでも迅鯨は私の妻だ‼︎」

 

「いいだろう。言い分があるなら聞いてやる。さ、どうぞ」

 

リチャードはベッドの縁に腰掛け、煙草に火を点ける

 

武藤は話し始める…

 

櫻井が迅鯨と付き合っていた、昔の話だ

 

武藤はずっと迅鯨を好いていたが、迅鯨に振り向かれる事がなかった

 

そして二人の縁談の話が来る少し前、武藤は親の権力を使い、迅鯨の両親を強請った

 

二人の縁談は破談になった

 

それでも迅鯨と櫻井は愛し合い、共に逃げる事を選んだ

 

再び迅鯨の両親に強請りを掛け、遠く離れた場所で暮らしていた迅鯨を地元に連れ帰る

 

迅鯨はそこで、自分で書いた覚えのない婚姻届を提出させられていた事に気付いた

 

本来ならば許されるはずのない行為だが、この武藤と言う男の親は、その土地の権力者の様で、これが許された

 

しかし、迅鯨は武藤に体を一切許す事無く、二年の月日が経ったある日、迅鯨は地元から痕跡を消した

 

櫻井の居場所をようやく見付け、文無し、身包み一つでここまで来た

 

その時、その言葉とボロボロの迅鯨を見て匿い、基地の外に一時的に安心出来る場所を提供したのが、今武藤に銃口を向けているリチャードだった

 

何故ここに迅鯨が来たか…

 

基地で櫻井が迅鯨の写真を見ていたのに気付き、迅鯨を探し出して櫻井の居場所を密告したのがリチャードだ

 

「一つだけ、肩を持ってやる。確かに迅鯨は可愛い。初めて見た時、若い頃を思い出した」

 

「人の嫁に手を出さないんじゃないのか…」

 

「どうだか。迅鯨はまだ未婚だ」

 

「…見逃してくれ」

 

ここに来て、ようやく命乞いを始める

 

「なら小僧。はっきり嘘偽りなく言うんだ。迅鯨に固執する理由はなんだ」

 

「体だよ‼︎見りゃ分かるだろ‼︎」

 

「そうか。地獄でペルセポネに同じ事言うんだな」

 

乾いた銃声が一発響く

 

「終わりましたか〜⁇」

 

「おー‼︎終わったぞ‼︎失血死まで半時間はある‼︎麻酔打ったから運ぶぞ‼︎」

 

涼平に言われて来ていたので、ドアの前に来た瞬間に銃声が聞こえた

 

パッと見ただけでも分かるな

 

両足アキレス腱断裂、両腕の腱もやられてる

 

これじゃあ両腕両足動かんな…

 

こんな奴、治したくないんだがな…

 

一時間後…

 

「終わり‼︎終了‼︎エンド‼︎」

 

「中将、涼平。ありがとうございます…」

 

「気にしない気にしない‼︎ご飯食ったか⁉︎」

 

「そうですよ‼︎何か食べましょう‼︎」

 

「ここまでして貰ってなんですが…今日は迅鯨の傍にいてやりたいんです」

 

「そう言ってくれて良かったです‼︎」

 

「じゃなきゃ櫻井をパーン‼︎してたかもな‼︎ははは‼︎はばっ‼︎」

 

リチャードがパーン‼︎と言ったと同時に、雑誌を丸めてリチャードの頭にパーン‼︎したイントレピッドがいた

 

「どこ行ってたのよ晩御飯の連絡も無しに‼︎出掛ける時は言いなさいって言ったでしょ‼︎」

 

「いやあの〜ずっと寮にですね〜…」

 

「明け方までいなかったじゃない‼︎さ‼︎オシオキよ‼︎」

 

「ヤダー‼︎罰が重いーっ‼︎あーっ‼︎涼平‼︎助けあーっ‼︎」

 

リチャードはイントレピッドの部屋に連れて行かれた

 

「自分、お腹空いたので流石に何か口に入れて来ますね⁇」

 

「今度、必ずお礼をする。ありがとう、護ってくれて」

 

涼平は駆け足で櫻井の方を向き、笑顔を見せて手を挙げ、間宮の方に走って行った…

 

「目覚めは最悪か」

 

「お前は…」

 

嫌々カプセルで治療し、工廠の隅に仕切りを作り、そこに椅子に縛り上げた

 

「離せ‼︎」

 

「それを決めるのは俺じゃない」

 

俺の後ろに立っていた女性が姿を見せる

 

「大鯨…」

 

「自分の口から言うんだな。そうすれば、俺は許すよ」

 

「た、大鯨を売った‼︎娘も‼︎あいつが妬ましかった‼︎」

 

この男、迅鯨が振り向かないとなり、その向こう側で大鯨と仲睦まじく夫婦生活を送る櫻井を妬み、大鯨と松輪を研究機関に売っていた

 

「櫻井がどれ程…」

 

「櫻井さんがどれ程苦労されたか知っていますか」

 

大鯨が話し出す

 

「貴方に全てを奪われ、ようやく辿り着いたこの場所も奪われようとしている。分かりますか」

 

いつもイタズラ好きで、櫻井に婿殿‼︎と言っている印象しかない大鯨を、これ程冷たく睨ませる

 

「資本主義の社会だ‼︎金と権力が物を言うんだ‼︎」

 

「では…私達夫婦が全て悪いのですね…お金も大して無い、土地も無い、権力も無い…それでも仲睦まじく夫婦生活を送っていた櫻井さんと私大鯨が、全て悪いのですね」

 

「そうだ。金の無い奴に物言う権利は無い‼︎外せ、今なら許してやる‼︎」

 

「見なかった事にする」

 

大鯨は大きく頷き、手に出刃包丁を構えた

 

「最後に言っとく。見た奴が懐に仕舞えば、罪は罪で無くなる」

 

「待て‼︎待ってくれ‼︎ま、マーカスさん‼︎」

 

「死ね‼︎死んで詫びろ‼︎この‼︎この‼︎消えろ‼︎消えろ消えろ消えろ‼︎」

 

武藤が叫ぶ間も無く、大鯨が出刃包丁を振りかざし、叫ぶ

 

音で分かる…

 

何度も何度も執拗に刺し、抉る

 

女の恨みは怖いと言うが…これは仕方ないな…

 

「あちゃー‼︎もう終わったか‼︎」

 

遅れて親父が来た

 

「今真っ最中だ」

 

「どれどれ…」

 

涼しい顔して親父は中に入る

 

「オーケーオーケー…大鯨ちゃん…オーケー…」

 

「ハァッ‼︎ハァッ‼︎ハァッ‼︎」

 

大鯨の背後から出刃包丁を持った右腕を掴み、グッと抑える

 

荒い呼吸をしながらも、一旦は落ち着きを見せる大鯨

 

「貸してご覧⁇」

 

大鯨は無言で親父に出刃包丁を渡す

 

「たす、けて…」

 

「まだ生きてるね、大鯨ちゃん」

 

「こんな奴‼︎消えてしまえばいいんです‼︎」

 

「ダメだよ大鯨ちゃん。美人がそんな事言っちゃあ」

 

「…」

 

「美人にそんな事を言わす男は…ハ級のエサにしちまおう」

 

一瞬優しかった親父の顔が、冷たいものへと変わる…

 

「マーカス、お前も来い‼︎」

 

「なんだ⁇」

 

「いいか⁇人を苦しませて殺すにはな…ここを、ゆっくり刺すんだっ…」

 

親父は左胸にゆっくりと出刃包丁を刺す

 

「おーら痛いか坊主‼︎お前の罪は地獄でも消えんぞ耐えろ‼︎」

 

既に虫の息だが、ここまで生きているのも敵ながら天晴れだ

 

「これでっ…終わりだっ‼︎」

 

最後にグッ…と刺し込み、一瞬暴れた後、動かなくなった

 

「あの、私…」

 

「刺してない。私がやった。分かったな」

 

「ありがとうございますっ…」

 

「決まりましたリチャード選手‼︎渾身の俳句です‼︎」

 

「…」

 

終わっても大鯨の目は、これ以上にないくらい怒りに満ちた目をしている

 

「大鯨ちゃん。良い事を教えてやろう」

 

「何でしょう」

 

「悪い奴は中々死なせてくれない。これは私達パイロットでも同じだ、何故か知ってるか??」

 

「いえ…」

 

「死神は男とは限らん。優しい男なら、死神からもモテて早めにその手に落ちる」

 

「コイツが優しいとでも」

 

怒りの目が親父に向けられる

 

普段の大鯨では考えられない、怒り、そして殺意に満ちた目だ

 

「だがな、死神でさえ見捨てる悪い奴がいる。死神の手中に納めたくない無いからじゃない、関わりたくないからだ」

 

大鯨はチラッと俺を見る

 

俺は大鯨に首を傾げ、軽く笑みを送る

 

「俺は死神じゃない」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「そんな死神でさえ見捨てた奴は誰が裁く??ま…知らなくてもいいのかも知れないな…」

 

「必ず誰かが鉄槌を下す、それだけさっ」

 

「これからの人生に幸あれ…」

 

「俺達からの遅めの婚約祝いだ…」

 

「ありがとう…ございますっ…」

 

殺されて祝われたこの男…

 

相当な悪人だったんだな…

 

大鯨の肩に手を置き、処理に入る…

 

 

 

 

「さてと…」

 

"事故"の処理も終わり、寮に戻るとお付きの女性がホールにいた

 

周りには親父やヴィンセントを含めた高官がいる

 

「本当にありがとうございます…どうかここで働かせて下さい…」

 

「まだ貴方を信じた訳じゃないの、ごめんなさいね」

 

ジェミニの言う事もごもっともだ

 

幾ら怯えていたとは言え、あの男が連れて来た女だ

 

何かあってもおかしくはない

 

「この基地に知り合いはいるか??」

 

「櫻井さんがいます!!姉の旦那さんです!!」

 

「櫻井を呼んでくれ」

 

「今日だけは許さん」

 

「…お前が言うなら分かった。元帥、マーカスは確か自白の手段を持っていたはずです」

 

「レイ、丁度良かったわ」

 

「ん」

 

"(`・ω・´)ゞ"

 

言われると思って、前もってボーちゃんを連れて来た

 

「行き場所が無いなら、とりあえずこの子抱っこしてみなさい」

 

「はいっ」

 

女性はボーちゃんを胸の下で抱く

 

《話しても大丈夫??》

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

《めっちゃ幸せかも!!》

 

「可愛いでちね〜、よしよし!!」

 

"(。>﹏<。)"

 

「じゃ、頭の上にそれ乗せて頂戴」

 

「こうですか??」

 

「自己紹介して頂戴」

 

《私は長鯨!!迅鯨の妹です!!》

 

「おぉ!!凄い!!」

 

長鯨は驚いているが、ジェミニは淡々と聞く

 

「どうしてあの男の横にいたの??」

 

《姉さんの行方が分からなくなって…大鯨さんもいなくなって…それで、櫻井さんまで…みんなを探そうと思っていた時に彼がコンタクトを取って来たんです》

 

「どうやって??」

 

《皆に会いたかったら、俺に従えと。それで半ば秘書の様な形で動く事になりました》

 

「そう…手を出されたりとかは??」

 

《私に興味が無い様子でした。とにかく迅鯨姉さんの事ばかりで…》

 

「分かったわ。ボーちゃん、ありがと。イントレさん、ジュースとお菓子あります!?」

 

「あるわよ!!出してあげるわ、待ってて!!」

 

《ありがとうジェミニさん!!》

 

「ちょっと待ちなさい。ここにお小遣い入れといてあげるわ」

 

ジェミニはボーちゃんの入れ物スペースに小銭を数枚入れる

 

《まつわちゃんと駄菓子屋行くんだ!!》

 

「そっかそっか!!はいっ、入れたわ!!」

 

《ありがとう!!》

 

お小遣いを貰い、ボーちゃんはお菓子にありつき、ジェミニは長鯨に視線を戻す

 

「良かったわね。ここにはそんな奴いないわ??」

 

「本当にありがとうございます…あの、姉さんと大鯨さんは…」

 

「迅鯨は今日はそっとしてあげて頂戴。大鯨は…」

 

「ここにいます。皆様、本当にご迷惑をお掛けしました…」

 

長鯨と共に大鯨は深々と頭を下げる…

 

「この借りは必ずや恩義で報います…」

 

「頭上げなさい。さてっ、忙しくなるわよ!!長鯨、アンタした事あったり、何かしてみたい事はない??」

 

「えっとえっと…一応料理の屋台とケータリングサービスの経験があります!!したい事は…」

 

「いいわ。とりあえず屋台で雇ったげる。涼平!!」

 

「はーい!!すぐ行きますぅ!!」

 

涼平が2階から降りて来た

 

「屋台の設計図ってあるかしら??」

 

「ちょっと聞こえてたのでここに!!」

 

涼平は机の上に設計図を広げる

 

完成したイラストを含めて相変わらず見やすい…

 

「作れる??」

 

「はいっ。何を作るかにもよりますが…こっちにプランがあります」

 

「この…赤チョーチンってのは、なんだ??」

 

「屋台は基本軽食と聞いたが、提灯を売るのか??」

 

親父とヴィンセントが赤提灯に興味を持つ

 

「これは軽くお酒を飲む所になります」

 

「よし長鯨ちゃん。これにしよう」

 

「いいか??ドック付近に建てるんだぞ??」

 

高官二人のせいで勝手に決まりそうになっている…

 

「待ってくれ!!鳳翔が商売上がったりになる!!」

 

「そいつは良くない…」

 

「あの女将は勿体無いな…」

 

「何作ってたの??」

 

「おでん作っていました!!他はお酒のおつまみを作るのが得意です!!」

 

「じゃおでんにしましょう」

 

「おでんで進めますね!!」

 

「待て涼平!!おでんの屋台ってのは…お酒は出るのか??」

 

「ホントそこだぞ」

 

「えっとですね…確かここに…日本酒とビール、後はチューハイ専用の冷蔵庫が付きます!!」

 

「よし進めるんだ」

 

「刺身と一品物は鳳翔で食おう、そうしよう」

 

満足したのか、親父とヴィンセントは二人で部屋に戻って行った…

 

「完成したら一度見せるわ。そしたら、そこでおでん作ってみて頂戴」

 

「はいっ!!ありがとうございます!!」

 

「さてっ。涼平、足りない物があったら遠慮は要らないわ。明日からお願い出来る??」

 

「了解です、元帥!!」

 

「俺は休みますかね…明日、朝一番に工廠に来てくれ。一度診察する」

 

「お医者さんなんですか!?」

 

「彼はマーカス大尉です。迅鯨もお世話になっているこの基地のお医者様です」

 

「これは失礼しました!!」

 

「よろしくな」

 

大鯨の紹介もあり、一波乱あった夜はようやく終わる…




長鯨…おでん鯨

田舎の悪い風習でとんでもない目に遭ってた迅鯨の妹

本職はおでんを作ってその辺で売っていた

ひとみといよがお気に入りだが、当の二人からはおちょくられている

鯨の一族よろしくとても大きな物を持っている。すごいね
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