ぶるっくりんが横須賀に"還って来る"少し前、マーカスは大淀から調査の依頼をされます
そこには、霧に覆われた古城がありました
横須賀研究室
そこには様々な設備が備えられており、カプセル、艤装、試作品の数々…
そして、世界の至る所の情報を受信可能な装置も備わっている
大淀さんとレイ君が良く座っているのはここだ
「出た…」
数時間前から、太平洋の一部分で濃霧が発生している
普通は偏西風で流れていくのだけど、留まるのは不思議だ
それに、これは今に始まった事じゃない
一年に数回、毎回同じ場所に濃霧が発生している
一体何だろうか…調査が必要かも…
しかし、そうとなると船じゃ間に合わない
突然現れては、突然消えて行くからだ
航空機を扱えて、尚且現地でそれ相応に対応可能な人員がいる
「博士」
「あっ‼レイ君!!」
2つ共兼ね備えた人員が来た
レイ君はすぐに大淀さんの見ているモニターを見た
「濃霧か…しかも定期的に同じ場所に出ると」
「調査をお願いしたいんだ。軍が意図的にやってるならいいけど…ここにも深海がいるかも知れない」
「分かった」
レイ君は早速準備に取り掛かる
「不思議な事が一つあるんだ」
「何だ??」
「生体反応があるんだ」
「そんないつ出るかも分からないのにか??」
大淀さんは過去のデータを出した
それでも数回分しかないけど、確かに何かいる反応を示している
「毎回そうなんだ。しかも年に数回出れば多い。今回が絶好のチャンスだ。生体反応の信号をキャッチする機器を貸したげる」
レイ君に生体探知機の小型タブレットを渡す
これなら数キロ圏内の生体反応をキャッチして、信号音でレイ君に知らせる事が出来る
「ありがとう。陸上機じゃない方がいいな。水上機を借りて来る」
「無線はずっと繋げておくから、いつでも言ってね??」
「オーケー。早速ちょっと借りる」
レイ君は大淀さんの前にある無線を手に取る
「マーカスだ。誰かいるか??」
《隊長??どうしました??》
繋げたのは工廠、出たのは涼平君だ
「涼平か。水上機を一機確保出来るか??」
《少し待ってくださいね》
数分開けた後、涼平が戻って来た
《良い機体がありますよ!!》
「よし。そいつの座席に医療キットを積んどいてくれないか??」
《了解です。座席の下に仕舞っておきますね!!》
レイ君が無線を置き、革ジャンを着直す
「あ…レイ君??」
「どうした??」
「う…ううん!!帰って来たら、大淀さんがお礼に何かご馳走するよ!!」
「今度こそパフェ食おう!!」
ホントの事は言えなかった
革ジャンを着直して本気の目に変わったレイ君を見た時、また好きになっちゃった事を…
「こっちです!!」
涼平が確保してくれていた水上機の所に来た
「強風か!!確かに良い機体だ!!」
工廠のドックには、いつでも出れる様に整備してある強風があった
「アタイのなんだぞ!!ちゃんと返せよ!!」
朝霜が来て、俺に歯を見せて威嚇する
「秋津洲さんに聞いて作ったんだぞ!!擦ったら父さんのグリフォン貰うかんな!!」
この強風は秋津洲と朝霜が作ったらしい
つまりニトロがある
「擦らないさっ。どれっ!!ちょっとお散歩に行きますかっ!!」
強風に乗り、医療キットを確認してハッチを閉め、大淀博士に借りたタブレットを機器の空きスペースに置く
「涼平、朝霜、ありがとうな」
《後で感想聞かせてくれよな!!》
《何かあったらすぐに行きます!!》
二人に見送られ、横須賀を発つ…
操作確認をしておこう…
とはいえ、大体は同じか…
「ゔっ…」
やっぱりある"ニトロ"ボタン
正直凄い押したい…
どうしてこう、心くすぐるボタンなんだろう…
《ワイバーン、此方クラーケン。聞こえる??》
「聞こえるよ。今緊急の調査に向かってる」
《大淀から聞いたわ。定期的に現出する濃霧ねぇ…》
「生体反応があるから尚更だ」
《何かあったらす…》
「クラーケン??クラーケン応答しろ、クラーケ…」
急に無線が切れ、同時に生体反応を知らせるソナー音に近い音がタブレットから出た
「来たか…」
いつの間にか濃霧が目の前に来ていた
どれ、まずは上から確認してやるか
軽く上昇し、真上から濃霧の中を確認する
…何も見えない、か
仕方ない、やるか…
いざ、濃霧の中へと入る…
「信号が近いな…」
タブレットから出る音の間隔が短くなり、霧が薄くなる
「何だ…アレは…」
霧が晴れ、同時に小島が現れる
小島には、小さな城の様な建造物がある
行ってみなければ分からない、か…
小島の小さな砂浜に強風を停め、機体から降りる…
「なるほど…」
空を見回すと、小さな城を囲む様に霧が発生している
霧がこの城を隠しているみたいだ
霧の原因も、この城にあるはず…
医療キットが入ったリュックを背負い、城に向かう
「やっぱり…」
城に入る手前で、タブレットの信号がここに生体がいると示す
タブレットを切り、リュックに仕舞う
ここにいるのは間違いないみたいだ
いざ、入り口の重い扉を開ける…
鉄が擦れる音と共に扉が開く
広間の中に一歩足を踏み入れ、ピストルを構える
ここから先は孤立無援
もし何かに襲い掛かられれば、自分で対処せねばならない
が、長い間使われていないのか、辺り一面ホコリが被っている
誰かが生活している形跡も、この広間にはない
広間を抜けると、両脇に階段がかかる大広間に来た
数歩、足を前にやる
パシャッ…ガボンッ…
足元に水があるのに気付く
それも、飲めそうなくらい澄んだ水だ
「…真水か??こんな所に??」
こんな海の上に建つ城の中に??
靴に影響はない…
毒やら酸の類いではないみたいだ
不思議に思い、屈んでピストルを持った手とは逆の左手で水に触れてみた
「違う…こいつは!!」
《レイ君!!あぁ良かった…やっと繋がったよ!!どうだい??》
「大淀…」
《何かあったかい??》
「あぁ…ここで何をしていたか分かった…」
立ち上がり、辺りを見回す…
「人はここで…"人造の神"を造ろうとしたんだ!!」
水質に気付いたと同時に、ピストルを左の階段に向ける
「貴方は母なる海に還るのですか」
杖なのか足音なのか、コツン…コツン…と音を立て、女性は階段を降りて来た
《レイ君!?今ピストル構える音聞こえたけど!?》
「話は後だ。用事が出来た」
通信を切り、階段を降りる彼女にピストルと視線を向け続ける…
「銃を降ろして頂けませんか。私は貴方の敵ではありません」
女性に言われた通り、ピストルを下げる
「ここは何だ??何故ここに修復液がある…」
「はて…修復液。この泉を満たしているのは、生命の源ですが」
「見てろ」
新調したナイフを取り出し、軽く手の平を切り、すぐに泉に手を浸す
数秒した後、泉から手を出して傷が塞がっているのを彼女に見せる
「これは俺が生成した液体だ」
「そうでありますか」
まるで他人事の様に返す彼女
「私はずっとここを見守っています。ある時は灯台として…ある時は母として…そして…」
彼女は膝を曲げ、泉の水に手を浸し、また泉へと返す
「ある時は、ここの墓守として…」
「ここで死んで行った奴がいるのか??」
「戦いに疲れた者…傷を負ってしまって治す術がない者が、この泉へと還ります」
彼女は手で水をすくっては、また泉へと返す
「空母…戦艦…巡洋艦…ここには数多の命が眠っています」
「はっ…」
よく見ると、壁の至る所に深海の艤装が掛けられている
そのどれもが美しいまでに佇んでいる
まるで、毎日誰かに手入れされているかの様に…
「これはアンタが…」
「私が出来る手向けですから。おや…」
泉の水に気泡が出始める
彼女も俺も、すぐにその方向に目を向ける
「おや、珍しい…」
「これは??」
「貴方はご存知では??」
泉の中から、小さな手が出て来た
「よいしょっ…」
出て来た小さな手を抱き上げる
「ピギャッ!!ピギャー!!」
「…」
泣いているのか、威嚇しているのか…
「良い子だ…」
彼女はそれを不思議そうに眺めている
「貴方に呼応して産まれたようです」
「俺にか??」
「この泉から産まれるのは、誰かに触れたい、話したい…そして、愛されたいと思った命です」
「ピギャー!!ピギャー!!」
「そっかっ…」
何処かで聞いたセリフを聞き、ここに来てようやく微笑む
手元でピギャーピギャー泣く、人なのか艦娘なのか…はたまた深海なのか…
それでも、そう思って産まれて来てくれたのには違いない
「それで、貴方は何を探しに」
ようやく本題へと移る
「年に数回、この城の周りに濃霧が発生するから、調査に来たんだ」
「風を浴びさせないと、城も遺物も朽ちて行きますから」
「なるほど…」
「あるとすれば…今日の様な出来事がある、特別な日、ですかね」
彼女は俺に産まれたての子を寄越せと手を前に出す
その子は彼女の手に行き、ゆっくりと揺さぶられる
「ここから命が産まれると言う事は、やはり貴方は何かの力をお持ちのはず…」
「…普段は産まれないのか??」
「滅多な事では。私がここを任されて以来、数度程しか…」
「どんな子だ??」
「はて…貴方は既にご存知のはずですが」
「俺がか??」
「はい」
ここから産まれ、そして俺の知ってる奴がいると言う
「一人、不可思議な子がおられるかと。出生も分からぬ子が、一人…」
「脛に傷持つ奴も多い。俺もそうだ。聞かない事にしてる」
「そうでありますか。そんな貴方だからこそ、彼女は貴方を信頼している…違いますか??マーカス・オルコット」
自己紹介をしていないのに、彼女は俺の名前を当てた
「何故俺の名前を??」
「ベルリンで貴方と同じでしたが…」
「そっ、か…」
それは知っていてもおかしくないな…
ここに来て彼処にいた奴と会うとは…
「忘れたとでも」
「忘れちゃいないさ…忘れちゃいない…」
彼女は赤ん坊を抱きながら、蔑んだ目で俺を見る
「アンタの名前は??」
「名前…私には名前はありません。ずっと、この先も…そう、この子には名前を付けて下さい」
「そうだな…帰るまでに考えておくよ」
「少しですが、飲み物とお茶菓子でも…どうぞこちらに」
彼女が来た階段を、彼女を先頭に上がり、扉に入る
「意外に俗世的なんだな…」
中は生活感がある、広めのスペースがあった
彼女がピギャーをベッドに寝かせると、すぐにシーツを握って眠り始めた
俺はその横に座り、背中をさする
「時折、誰かがここに物を置いて行ってくれます。深海なのか、それとも人や艦娘なのか…いつか礼をせねばなりません…」
彼女はコーヒーを淹れながら背中で語る
「マーカス。貴方も災難なお方…ベルリンを離れてから、戦士になったと風の噂でお聞きしました」
「そうだなっ…随分っ、遠くまで来た気がする」
座り直しながら、外の景色を眺める
まだ濃い霧が立ち込めてはいるが、海は青い
「あそこにいた子供達は、ほとんどが艦娘に…もしくは、ほとんどが兵士になりました」
「聞いたよ」
「あれは、シスターのはからいでした。あの後、あそこも戦場になり、今はもうありません。どうぞ」
「ありがとう」
「ふふっ…その子は随分貴方に懐いています」
いつの間にかピギャーは俺のズボンを握っていた
「私は知りたい…何故貴方は双方に好かれるのか…」
急に彼女が体を近づけて来た
「それが分かってるなら良かったんだがな」
臆せず彼女の目を見返し、コーヒーを飲む
「そういう所でありますな」
彼女は体を離し、お茶菓子を持って来た
「これくらいしか、ここでは出来ませんので」
木のボウルに入っているクッキーは、どうやら彼女が焼いた物
「ありがとう」
「ピ、ピギ…」
いつの間に起きたのか、ピギャーは俺のクッキーに手を伸ばしている
「お前はまだ早いぞ!?」
「ピギ…」
「クッキー」
「ピッギー…」
彼女の顔を見る
今ピギャーは確かにクッキーと言った
「誰かに言われた事はありませんか。貴方の横にいると、母性が芽生えたり、成長が早くなると…」
「あるな」
「私はそれが知りたい…この子はそれに呼応したのですから…」
「食べれるのか…」
俺の太ももをテーブルにして、ピギャーはクッキーを小さな口で頬張る
何口も何口もかかるが、食べさせていたら大人しい子だ
「…ベルリンを出た後、私は日本の軍隊の施設に行きました」
「…」
ピギャーの背中をさすりながら、彼女の話を聞く
「私はそこで艦隊化計画の手術を受け"観測艦"としての役割を頂きました」
あまり聞かない艦種だ
「なら、ここは奴等の基地か??」
「いいえ。ここはずっと昔に建てられ、そして放置された場所…艦隊化計画始動の際、ここを見付けました。深海の子達は、ここを一時住処にしていた様です。ここで産まれ、ここで終わる。そういった場所です」
「なら、あの液体は…」
「数多の深海が産み出した、次の命を産み出す場所です」
「やっぱり…」
今の会話で分かった
ここにある修復液は、数多の深海の死骸が作り出していた
「彼等は深海が産まれるとここに捨てて行きました。その中でも異質と言われたのが"艦娘"…艦隊化計画で産まれた艦娘は、数多の犠牲の上で産まれて来たのです」
「その中から産まれて来た艦娘がいると…」
「えぇ。貴方の良く知る艦娘が…」
「ピギ…」
ようやくクッキーを食べ終えたのか、ピギャーもう一枚欲しがる
「それ食べたらなにか飲もうな??」
木のボウルからクッキーを取り出し、もう一枚渡すと、すぐに食べ始めた
その間、ピギャーはずっと俺の太ももに上半身を置いている
「いつからここにいる」
「はて…長い命を与えられた日から、随分経った気がしますが…いつの日か数えるのを辞めました」
「もう一度聞きたい。どうやって霧を出した」
「私にも良く分かりません…ただ、時折こうして霧が出た日は、風に当たりたいのか、こうしてお客が来るかのどちらかです」
「普段はどうしてる」
「はて…気付いたら霧が出ていますので…」
どうやら霧の正体は、突然発生しては何かを隠している
「…おや。貴方をお迎えに来た子が」
「何処にだ??」
「先程の泉に。今日は客人が多いですね…参りましょう」
ピギャーは彼女に抱かれ、下に向かう
ピギャーの時と同じく、気泡が出て来ている
「ここを転送装置の代わりとして使いますか…」
「誰が来るんだ??」
「電子の海を征き、貴方を一番心配している子です」
電子の海と言っていたので、恐らくAIから産まれた子だ
「ふふっ…この感じ…やはり貴方は好かれている。艦娘や深海に"心配される"のは、貴方位では」
「何故知ってる」
最後の疑問を彼女に当てる
「私は観測艦…ずっと貴方を…いえ、深海を見ています。度重なる生と死、その中で数多の貴方の記憶を垣間見ました」
「予測も可能だってか??」
「深海の子達の貴方の記憶は優しくて温かいものばかり…愛を知らぬ子には愛を…救いを求める子には救いを…」
「…」
「最期に貴方に抱かれた記憶を何度も見ました。その度に貴方は涙を流した。あぁ、自分の為に涙を流してくれる人間が、まだいたのだと…幸せなまま、ここに還って来ました」
「そんなつもりはなかったんだがな…こうなるつもりもなかった…」
「こんなとこにいたのね??」
泉の中から艦娘が出て来た
見慣れた、優しい艦娘だ
「叢雲‼」
そっか、叢雲が一番心配してくれてるのか…
「どこほっつき歩いてんのかと思ったわ??もぅ…」
「おや…意外そうなお顔を」
「はは、いや…何となく予想はついてた」
「アンタの子達は、アンタが帰って来ると確信してんのよ。調査は終わったの??」
ジャバジャバと音を立てて近付き、俺の前に立つ叢雲
彼女が抱いていたピギャーに目が行く
「…アンタもお盛んねぇ??」
「違う‼」
「違います」
二人同時に答える
「ふふっ‼ま、いいわ??」
「…帰ろうかっ!!」
叢雲は頷く
対して彼女は少しだけ寂しそうな顔をする
「今度は私がピギャーと共に遊びに行きます」
「いつでも来いよ??"八幡丸"も連れてな??」
彼女はハッとする
名前を付けて欲しいと頼まれていたので覚えていた
「そう…八幡丸と言いますか」
「日本の弓矢の神様の名前だ」
「八幡丸、バイバイをするのです」
「ピギ…」
俺が手を振ると、八幡丸は俺を真似て右手をニギニギし返した
「アンタ、ピギャーじゃなくて良かったわね??私の"母親"に付けられたらピギャーだったわよ??」
「は…」
叢雲の口から何気なく出た言葉を聞き、適当に名前を付ける女を頭に思い描き、少しだけ笑う
それと同時に安心した
当初はどうしようかと思ったのだが…良かった…
「"宗谷"」
「私でありますか」
「そうだ」
「私は宗谷…なるほど…もう一度呼んで頂けますか」
「宗谷」
「しっかり覚えておきます。それと、このピギャー…もとい八幡丸は私がここで面倒を見ます」
「連れて行こうか??」
そう言うと、宗谷は愛おしそうに八幡丸を抱き、首を横に振る
「一人は寂しいですから…」
「基地の場所は分かるか??」
「…叢雲さん、貴方にもお茶をお出ししましょう。マーカス、貴方も」
先程の部屋に戻り、宗谷は再びお茶を入れる
「アンタも私とおんなじなのねぇ??」
「ピギッギッ」
八幡丸はベッドに置かれ、その近くに俺と叢雲が座る
八幡丸はすぐに叢雲に気付き、授乳スリットに手を伸ばす
「残念ね。お乳は出ないわよ??」
「ピッギッ…」
叢雲に膝に頭を置かれて優しく撫でられ、大人しくする八幡丸
「どうぞ」
「どうもっ」
叢雲は温かいお茶を飲み、一息入れる
「それで、基地の場所は分かるか??」
「大いなる師に聞いてみましょう…」
「「大いなる師…」」
「ピギー」
宗谷の言葉に、一同息を呑む
霧が出る城だ…
何か出て来てもおかしくない
俺も叢雲も、本能的に臨戦態勢に入る…
すると、宗谷はPCの前に座った
「…宗谷??」
「…察しなさいよ‼」
宗谷の言う大いなる師とは、PCの事らしい
「ふふっ…少しばかりのジョークですよ。場所は…」
「ここだ」
PCをいじり、横須賀を指定する
「安心して下さい。わた…宗谷は、マーカスを裏切る事はありません」
「そりゃあありがたいな。そうだ、一つお願いを聞いてくれないか」
「何なりと」
「泉の水を少し頂戴していいか??」
「構いませんよ。貴方なら、悪用する事はないでしょうから…行きましょうか」
八幡丸は再び宗谷に抱えられ、俺と叢雲は下に降りる
持って来たボトルに泉の水を入れ、蓋を閉める
「帰りは霧も晴れているでしょう」
「世話になったな」
ここに来て、ようやく宗谷は薄っすらと笑う
「ほら八幡丸。バイバイです」
「じゃあな、八幡丸??」
「ピギギ…」
先程と同じく、八幡丸は空で右手をニギニギする
「叢雲さん」
「なぁに??」
「彼を宜しくお願い申し上げます…」
「言われなくても分かってるわっ??レイは…一人にするとダメなのよ。誰かが横にいてあげないと…」
宗谷は叢雲にも小さな笑みを送り、小さく頷く
「また来るわ??じゃあね??」
「ピッギギ」
叢雲にも右手をニギニギする…
城から出ると、霧は晴れていた
「さて、帰るか‼」
「アンタの嫁が心配してるわよ‼」
「急ごう‼」
叢雲が後部座席に座り、俺達の乗った強風は、城を後にした…
「そっかそっか‼そんな所にあったんだ‼」
横須賀に戻り、大淀博士に事の報告をする
「サンプルを持って帰って来た。保管室に置いてある」
「新しい薬、作るのかい??」
「…どうだかっ??まだ原液の状態だ。何がどうなるか…」
「あ、そうだそうだ!!間宮ではまかぜちゃんが待ってるよ‼」
「行って来…博士」
一つ約束を思い出した
「何だい??」
「パフェ…近々でいいか??」
「覚えてくれてるだけで十分だよ、レイ君??」
「ちょっと行って来る‼」
「いってらっしゃ~い‼」
大淀に言われたので、間宮に向かう
「マーカスさん。おかえりなさい」
「ただいまっ。ホットコーヒーと…はまかぜは何食う??」
「では…このステーキセットを」
「ステーキセットを」
「畏まりました〜!!」
はまかぜはメニューを見る時以外、ずっと俺を見ている
「…タバコ、吸って来るよ」
「ここで吸って下さい。その為に喫煙席に座りました」
「は、はい…」
はまかぜに言われ、内ポケットからタバコを出して、火を点ける…
はまかぜは何かを言いたそうにしているが、言いたい事は何となく分かっていた
「言いたくなきゃ言わなくて良い。言っても変わらない。いつも通りのはまかぜのままだ」
「マーカスさんが…今日行った所で産まれて…私が深海でも…ですか??」
「そうだ」
「貴方が好きで…貴方の所に行った事もですか??」
「そうだ」
「ステーキセットとコーヒーです!!」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
はまかぜの前にステーキセットが置かれ、俺の前にコーヒーが置かれる
「貴方の事が好きで…この体を持ったのに…食べ物が美味しくて美味しくて…ご飯に負けたのもですか??」
「そ…そうだっ!!冷める前に食べろ…」
「そうでしたか。いただきます」
数秒前の重い空気が一瞬で破壊されるかの様に、はまかぜはステーキにありつく
「はむっ…むぐっ…んんっ…」
デミグラスソースがかけられた、少し硬めの肉をナイフで切り、すかさずライスを口に入れるはまかぜ
はまかぜの食いっぷりはいつ見ても美味そうに食う
こっちまで腹減って来たな…
「美味いか??」
「んっ…はいっ、たまにはステーキも、いいですね!!」
「ふ…」
コーヒーを飲みながら、はまかぜがフォークで刺して渡してくれたデミグラスソースたっぷりのポテトを食べる
「もう一つ…言ってもいいですか??」
「良いぞ」
「マーカスさんのストックのお菓子、あるじゃないですか」
「うん…」
「あれ、全部食べました」
「そっか…え!?どこの!?」
真面目に優しく聞いていたつもりが、また一気に破壊される
菓子くらいいいんだ
「工廠のです…夜中にお腹が空いてしまって…」
「あ〜…ま、まぁいい!!帰りに買って帰ろう、な??」
はまかぜは一瞬でステーキもライスも胃に落とす…
「行こうか」
「はいっ。ごちそうさまでした、間宮さん」
帰り道、寄り道をしてスーぴゃ〜マーケットへと向かう
その道中、はまかぜが口を開く…
「人造の神、ですか…」
「聞こえてたか??」
「すみません。叢雲さんからお聞きしました…後、あの時近くに綾辻少尉も…」
「涼平が??」
「はい。貴方にもしもの事があった時、すぐに出れる様にと」
「あ、隊長!!」
丁度良く涼平がスーぴゃ〜マーケットから出て来た
「涼平、ありがとうな」
「あ、いえっ!!大淀博士から「レイ君連絡取れなくなっちゃった!!」って言われたので、一応待機してました!!」
「「上手い…」」
涼平の特技と言うか何と言うか…
人のモノマネと言うか、模倣のクオリティーが非常に高い
「叢雲は何て言ってた??」
「はまかぜさん、ちょっとこれを…」
「はいっ」
涼平は持っていた荷物をはまかぜに渡し、咳払いをする
「んもぅ…仕方無い子ねぇ??ま、いいわ、ちょっと行って来るわ!!本物の人造の神になってビビらしてやんの!!どんな顔するか楽しみだわ!!」
腰に手を当てて、片目を瞑る話し方…
これは叢雲だ…
「本当にこんな感じでした!!」
「メッチャ分かり易いぜ…」
「ふぅん??涼平君にアタシはそう映ってんのねぇ??ふぅん??」
「む、叢雲さん…」
またまたタイミング良く叢雲が来た
「叢雲もありがとうな」
「な、何改まって言ってんのよ…別にアンタの為にした訳じゃないから!!ほ、ほらあれよ!!人造の神って良い響きじゃない??信仰心の無いアンタが言う位だもの!!」
「「一番心配していました」」
はまかぜと涼平が声を合わせて言う
「なっ…し、心配なんかしてないわよ!!」
「とにかく、ありがとうな??」
「地球の裏側にいてもとりあえず行ったげるわ??じゃっ、アタシは先に帰ってるわ??」
叢雲は先に基地へと帰って行った
「さて、はまかぜ。好きなの買って良いぞ!!」
「ホントですか!!」
「好きなだけ持って来い。涼平、お前も好きなの買って良いぞ」
「ありがとうございます!!」
涼平とはまかぜにカートを押させ、俺はベンチで一息入れ、タブレットを弄る
リヒター> すまん。お礼をしてなかった
ヘラ> 気にしなくていいわ
リヒター> お菓子でもいいか??
ヘラ> ジュースも付けなさいな
リヒター> 了解した
「マーカスさん。決まりました」
「よしっ、なら買いに…おおお…」
はまかぜはカートにお菓子をてんこ盛り乗せて持って来た
「俺もちょっと買って来る、ちょっと待ってろ!!」
急いで叢雲のお菓子を決め、ジュースも手に取る
「よしっ、行くぞ…」
「涼平さん、お願いします」
「は、はいっ…フンッ!!」
「もう一つあんのか!!」
「ぴゃ〜…凄い量…」
「大尉!!矢矧の所に片方回して下さい!!」
カートは2台
両カート共てんこ盛りのお菓子
矢矧も応援に入るが、レジが終わるまで30分掛かった…
そして…
「39万8000円です!!」
「えっとだな…ちょっと待ってて下しゃい…」
流石に手持ちが無い、無さ過ぎる!!
「アタシが払うわ。小切手で良いわね??」
「ジェミニ…」
今度はジェミニが来た
既に谷間から小切手セットを出して金額を入れている
「な~んか騒がしいから来たの。矢矧、良いわね??」
「は、はいっ!!」
「じゃこれで」
「なんか…すまん…」
「いいのいいの!!はまかぜ、涼平、特別ボーナスの代わりね!!」
「「はいっ!!ありがとうございます!!」」
「はまかぜの分は明日の便で輸送させるわ??」
「ありがとうございます!!」
はまかぜは持てるだけのお菓子を持って、基地へと帰って行った
「さてとっ…お疲れ様ね、レイ??」
「あんな所があったんだな…」
「一応調べはついたわ。情報通り、自衛隊の使っていた艦隊化計画の廃棄場ね」
「廃棄場か…」
網走で見たあの光景よりマシか…
思い出したく無くて、タバコを咥える…
「にしても、アンタが言ってたのが気になるわね…信仰0のアンタの口から神ねぇ…」
タバコに火を点け、その答えを出す
「だから人造なんだよっ…」
「そう言う事ね、なるほどっ…」
そう言って、ジェミニは俺の左腕に手を絡める
「怖い??」
「あぁ」
廃棄場と言われ、未だあの光景が頭に過る…
「あらっ!!正直に言える様になったの〜!!えら〜い!!よちよち!!」
ジェミニは背伸びをして、俺の頭を撫でる
「なっ!!ぐっ!!」
「ちゃんと言えて偉いわレイ君??」
「がっ!!」
忘れた頃にやってくる、硬直コール
「39万8000円分の働きしましょうね!!」
「ヂグジョー!!」
ジェミニに引き摺られ、久方振りに二人きりの夜を過ごした…
宗谷…ケアテイカー
長年謎の古城でケアテイカーをしていた艦娘
深海棲艦が最期に還る場所をずっと守っており、遺された遺物の管理もしている
済ました顔してたまにドッキリを仕込んで来る
作者はずっと"そうや"じゃなくて"むねたに"と呼んでいたのは内緒
八幡丸…ピギャー
泉の中からマーカスに呼応して産まれて来た艦娘
まだ赤ちゃんだが言葉も分かるし、胸の大きい艦娘を見かけると母乳を飲もうとする
宗谷が暇潰しで焼くクッキーが好物
マーカスに呼応して産まれて来た為、大淀曰くマーカスに何らかの"惹き付ける能力"か"生きたいと思う気持ちを揺する何か"があると確信している
このお話に同じ状況で産まれて来た艦娘が出て来ているが、マーカス以外には語ろうとしないので、八幡丸が会話が可能になった場合、それが何か紐解かれるかもしれない
もしくは"深海の誰か"か、はまかぜが語るまで…