艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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328話が終わりました

今回のお話は、少しだけ物語の核心に触れるお話で、かなり重たい描写があります

ある日、マーカスは休暇の申請の為にジェミニの所に訪れます

何処へ行くのかを聞いて、ジェミニも同行する事になります

そこは"名も与えられない無名の艦娘"が眠る場所でした…



今回のお話はジェミニの目線が多いお話です


329話 ブリキの兵隊

「ジェミニ。明日休暇くれないか??」

 

「いいわよ。何か用??」

 

「あぁ。時期的にそろそろ墓参りに行きたい」

 

「そうね…じゃ、私も行こっかな!!」

 

その日、レイは珍しく休暇申請を出して来た

 

ホントはもっと休んで欲しいのだけど…レイはいつも何度言っても出してくれない

 

患者がいるから、子供がいるから、いつもそう理由を付けて休むのに…

 

レイと私は次の日、グリフォンで大阪のお寺に向かう

 

この場所に"お墓"があるからだ

 

「ジェミニ」

 

「ん??」

 

「あの子達は…ちゃんと眠ってるのか??」

 

「そうね…ここで眠ってるわ??」

 

「そっかっ」

 

レイの両手にはお菓子とお花、それにおもちゃがいっぱいだ…

 

 

 

 

この戦争が始まる少し前

 

まだ深海が出始めた頃のお話

 

その頃は艦娘に名前が無くて、みんな無名の戦士として海を駆けて行ってた

 

勿論、隊長や私やレイも空で戦った

 

私と隊長は、戦いが終われば報告書を書いてお休み

 

だけど、レイは違った

 

空から戻って報告が終わると、いつも白衣に着替えて無名の艦娘達を待っていた

 

いつだってそうだった

 

時には埠頭まで行って待つ事もあった

 

今日みたいに手にいっぱいお菓子を持って待つ事もあった

 

レイはいつだって、今日だって、誰かを救ってる

 

そんな彼にだって、救えない事もある…

 

日に日に大怪我を負って帰る子が増える…

 

日に日に帰って来ない子が増える…

 

何とかレイの所に来て、救ってくれと懇願する…

 

それでも、救えない命はあった…

 

私はいつだって、そんな彼の背中を見る事しか叶わない…今も"昔も"ずっと…

 

今日はちょっとだけ、私が見たレイの背中の話をしようと思う

 

 

 

 

「よーし、良く頑張ったな!!診察おしま〜い!!」

 

「しぇんしぇ〜、あたちよくなった??」

 

「よくなったぞ〜??もうちょっとで元気になるからな??」

 

無名の艦娘がレイの診察を受けている

 

舌っ足らずで、甘えん坊で、絵に描いた様な小さな女の子

 

「将来は何になりたい??」

 

「しぇんしぇ〜のおよめしゃん!!」

 

「はっはっは!!そうかそうか!!ならっ、俺はもうちょっと君が大きくなるまで待たないといけないな??」

 

「…」

 

「…おい」

 

名も与えられ無いまま、その艦娘は最後の最期まで気丈に振る舞い、目も半分開いたまま、レイの手を握って短い人生を終える…

 

「頼む…頼むからっ…」

 

「レイっ…」

 

レイが何かをしているのに気付き、アタシは医務室に入った

 

「頼むっ…お願いだからっ…」

 

「レイもういいわ…」

 

「何で眠ってくれないんだ!!お願いだ…目を閉じてくれ…」

 

「大丈夫…大丈夫よ…」

 

人は思い残す事があると、目を閉じないまま永遠に眠ってしまうと聞いた事がある…

 

その無名の艦娘も、半分目を開いたままだ

 

レイは何度もその子の目を閉じさせようとしていた

 

だけど…閉じる事は無かった…

 

幸せそうな顔のまま眠っているのがせめてもの救い…

 

最期に愛されてると分かったまま、この子は…

 

「また…救えなかった…」

 

「いいのレイ…アンタは悪くないわ…見て。この子、最後にレイに会えて嬉しかったのよ…」

 

「許してくれ…」

 

無名の艦娘の前で膝から落ちたレイを、私はしばらく抱き締める事しか出来なかった…

 

「大尉。そこを退いて下さい」

 

三人の男性が医務室に来た

 

中央にいたのは高官だ

 

「…連れて行くのか」

 

「えぇ。使えない兵士は不要ですから」

 

「…またなっ」

 

レイは涙を拭いて、その子の頭を撫でた後、立ち上がってその子から離れた

 

「…いつか同じ目に遭わせてやる」

 

「レイっ…」

 

すれ違いざまにレイはその高官に敵意を剥き出した

 

「体が半分無くなった兵士に!!何の利用価値があると言うのだ!?」

 

わざとらしく、大声でその高官はレイに言う

 

「バカの相手しないの。行くわよ」

 

「…」

 

「命も救えんのに、医者を語るな小僧…持って行け!!」

 

担架に乗せられた無名の艦娘が横切る…

 

左半身が無くなっていたのが見えた…

 

レイはあの子を痛みもないまま楽園へと送ったんだ…

 

救えないと分かっていても…

 

 

 

 

レイはその日の夜、酷く酔っ払っていた

 

食堂の隅っこで、兵士に混ざってお酒を飲んでいる

 

「飲み過ぎよアンタ…」

 

「放っといてくれ。それとも何だ??姉のつもりか??」

 

「なっ!!」

 

既にビールも何本も空けている…

 

「こんな楽しみさえ知らずに、あの子達は死んで行く…」

 

「…」

 

「何の!!快楽も!!知らずにだ!!」

 

「ちょっとレイ…」

 

レイは机をひっくり返して暴れる…

 

溜まっていたストレスがここに来て爆発してしまったのかしら…

 

「うるせぇぞ軍医が」

 

「何だテメェ…」

 

「レイもういいから…」

 

「あ??表立って戦いもしねぇテメェでも酒は飲めんだな!!ははは!!」

 

その瞬間、割れた瓶が兵士のつむじに刺さる

 

「お前悪いけどよ…あの子達の手向けに死んでくんねぇか…えぇ??」

 

「レイ!!何してんの!!」

 

「大尉!!悪かった!!悪かったから離してやってくれ!!」

 

数人の兵士がレイを止めに入る

 

「イッてぇなぁ…クソ野郎が!!」

 

つむじを割れた瓶で刺されて頭から血が出ても、この兵士はレイに殴り掛かる

 

ふと、レイの目を見る…

 

うっすらと青く光っている…

 

「いいか…よく覚えとけ。お前ら人間は刺されりゃくたばる。だがな、あの子達は刺されようが体が半分になろうが、苦しんで苦しんで苦しんで死ぬ。ちったぁコレで分かったろ」

 

「うっ…」

 

いつの間にか、割れた瓶は兵士の胸に刺さっている

 

「レイ…なんて事したの…」

 

「どうせすぐ生き返る」

 

冷たい顔をしたまま、何の感情も抱かないまま、レイは兵士の髪の毛を掴んで引摺り、食堂を去る…

 

「散って」

 

「あ…あぁ…」

 

私の一言で止めに入ってくれた兵士も元の位置に戻る…

 

「ジェミニ。大丈夫か??」

 

異変に気付いて駆け付けてくれた隊長が来た

 

「レイが喧嘩売られて刺したんです…」

 

「…これで少しは奴等も分かっただろ。ジェミニ、今日は休め。いいな??」

 

「…もう少し、あの子のそばにいます」

 

隊長から離れ、レイを探す…

 

きっとあの子は一人にしちゃいけない…

 

全部、抱えてしまう…

 

「やってくれたな、大尉」

 

「退け」

 

一番最初にレイに喧嘩を売った高官がいる

 

「誰に向かって物を」

 

間髪入れずにレイの鉄拳が飛ぶ

 

「邪魔だと言ったろ。聞こえないのか」

 

「ううっ!!」

 

「ああっ…もぅ…」

 

レイが向かっていたのはカプセルの保管室

 

空いているカプセルに刺した兵士を放り込み、キーボードを叩いている

 

「ジェミニ」

 

アタシの肩が上がる…

 

いつの間にかアタシの存在に気付いていた…

 

「何してんの??」

 

「こいつの本来の使い方だ。よく見ておけ」

 

キーボードを叩き終わると、モニターに時間が表示される

 

「こいつの傷の処置の時間だ。後は放っておけば治る」

 

「何で使い方知ってんの…」

 

その時、レイはやっと笑ってくれたのを覚えてる

 

タバコに火を点けながらその辺にあった椅子に腰を降ろして、紫煙を吐きながら言った

 

「俺がこのカプセルの設計者だからだ」

 

「嘘よ…だってアンタ、お医者さんだけどそこまで頭無いでしょ??」

 

「元々エンジニアだぞ。忘れたのか」

 

「あっ…」

 

ここで初めて知る、カプセルの設計者がこの子だと…

 

「おい。いつまで歯ぁ抑えてんだ。ちょっと来い」

 

「ううっ!!」

 

逃げようとした高官の前の扉を、レイは閉めた

 

「少し話をしよう」

 

「わ、分かったっ…」

 

「まぁ座れ…」

 

レイは椅子を2つ持って来た

 

アタシの分と、高官の分だ

 

「座れっつってんだろ!!」

 

「分かった!!分かったよ…」

 

「分かったからそんな吠えないで…」

 

「…お前に言ってんじゃない」

 

アタシも高官も座った所で、レイはまず自己紹介をした

 

「マーカス・スティングレイ。大尉だ。今は軍医の方がいいか??」

 

「"田淵"だ…」

 

「ジェミニ・コレット…少佐です…」

 

レイは少しアタシを見た後、カプセルを指差した

 

「いいか。アレは本来傷を癒やす為に作った物だ。命を産み出して、兵器を造る物じゃない」

 

「お前は分かっとらん…アレは無敵の兵隊を産み出せる装置だ。無尽蔵に兵士が湧いて出る、使い物にならなくなれば放棄すればいい。権利も何も無い、名を与える必要も無い、都合が良い兵士なのだよ!!」

 

「…お前はまだ分からんのか。お前みたいな考えの奴がいるから、今こんな事になってるんだぞ」

 

「だったら制作した貴様にも責任がある!!」

 

「説明書を勝手に解釈して、用法以外の使い方をして責任を取れだ??お前はあの子達を見て何も思わないのか!!日に日に死んで、日に日に帰って来なくなる!!何も思わないのか!!」

 

「思わないね!!だったらお前はどうなんだマーカス!!弱者の事を熱く語るが、お前はこっち側の人間じゃないのか??えぇ??」

 

「そっち側に着く位なら…俺は人でいたいと思わない…」

 

「分からん奴だ…人権も何も無い兵器に感情を持ってどうする…」

 

「レイ…もう行きましょ…話にならないわ…」

 

「次にお前を見た時が最後だ」

 

「そのまま返してやる」

 

アタシが止めて、レイは席を立ってカプセルの保管室を出た…

 

「すまん…」

 

「いいの…アタシが言ったげる…ありがと、あの子達の為に…」

 

「…ありがとう」

 

「さっ、もう休みましょ??あっ!?一緒に寝たげよっか??お姉ちゃん何でしょ〜??ん〜??」

 

「いいよ…お前イビキうるせぇし寝相悪いし…また明日な??」

 

「また明日ね??」

 

手の掛かる子…

 

ホントに手の掛かる子…

 

だけど、暇しなくて済むわ…

 

 

 

 

それからもレイは毎日名も与えられない艦娘の治療に当たっていた

 

アタシはたまにレイの顔を見がてら診察室に行き、ベッドにいる彼女達とちょっとだけお話をする事もあった

 

「せんせー、けっこんしてるの??」

 

「まだしてないよ〜??」

 

「すきなひといる??」

 

「ん〜…先生の好きな人か…」

 

「…」

 

また一つ、小さな命が消える…

 

「せんせーせんせー、どうしてせんせーはせんせーしてるの??」

 

「好きな人を助ける為だなっ!!お前もその一人だぞ??だから良くなって…」

 

「…」

 

また一つ、レイの手から命が零れ落ちる…

 

何人かは幸せそうなまま…

 

何人かは何かを思い残したまま…

 

共通点はただ一つ…

 

それは今も昔も分からない

 

彼女達は何故か、最後のその瞬間までレイを安心させようとする

 

「搬送しろ…」

 

今日ここに来たのは田淵ではなく、見知らぬ高官

 

何処かオドオドしていて頼りない雰囲気をしている…

 

「…田淵はどうした」

 

「彼は別の基地に着任したよ…あぁ…新しくここに赴任した"上崎"だ。よろしく、大尉…」

 

「…」

 

レイは無言のまま、田淵とポストを代わった彼と握手する

 

「そ、その…まず言わせてくれ…彼女達を…あ、ありがとう…」

 

「なに…」

 

「えっ??」

 

アタシもレイも驚く

 

帽子で顔を隠しながら、上崎はレイに感謝の言葉を述べた

 

「む…無名の兵士とは聞いている…だが…その…産まれて来たのには…何か、意味があるハズなのだ…」

 

「はっ…」

 

「最後位…愛されても…か、構わないだろう…ち、違うか??」

 

レイの医療の理は、恐らくここで決まった

 

"産まれて来たのには、何か意味があるハズ"

 

"たとえ無名であれ、愛されても構わない"

 

ずっと悪口を言われ、利用され続けたレイ、そして名も与えられない艦娘達…

 

誰か一人で良かった…

 

誰か一人で良かったのに、そんな事すら誰もしようとしなかった…

 

上崎の言葉に、随分と救われたのだろう…

 

「あ…ありがとう…アンタの言う通りだ…」

 

「な、泣かないでくれ…きっとそうなんだ…だから、君だけでもどうか、わ、忘れないで欲しい…」

 

レイはようやく涙を落とした

 

彼女達の命が終わってしまっても泣く事が無かったレイが、ここに来てようやく泣いた…

 

「私に出来る事があれば…是非言って欲しい…」

 

「なら頼みがある…」

 

「ん…言ってくれ」

 

「一つでいい…一つでいいから、ここにカプセルを手配してくれないか!!」

 

「…や、約束してくれ…救えるのだな、あの子達を!!」

 

「俺が救ってやるから!!頼む!!」

 

「わ、分かったっ!!任せてくれ!!」

 

オドオドしていて頼りない雰囲気だが、何故か信用出来た

 

数日後、本当にカプセルが一つ手配される

 

「ありがとう…」

 

「マーカス…で、いいのか??」

 

「マーカスでいい」

 

「じ、実は一人、緊急で診て欲しい子がいる…」

 

「アンタの頼みだ。すぐ行こう」

 

「いや、連れて来て良いか??」

 

「勿論だ」

 

「ありがとう、つ、連れて来る!!」

 

しばらくして連れて来られた艦娘…

 

「何よ!!大丈夫だってば!!」

 

「だ、ダメだ…診て貰いなさい…」

 

「レイ…」

 

「ふ…もう大丈夫だ!!」

 

連れて来られたその子は、左側の腹部が抉れていた

 

普通なら救う手立ては無い…

 

それでもレイは救おうとした

 

「すぐに治してやる。ちょっと診せてくれ…」

 

「変態!!触んな!!」

 

「すまん!!抑えてくれ!!」

 

「わ、分かったっ!!」

 

「分かったわ!!」

 

暴れる彼女を3人で抑え、レイは診察に入る

 

「よ〜し…分かった…これ位なら一発だ!!」

 

「殺しなさいよ!!」

 

「殺さない。お前にはっ!!生きて貰おう!!」

 

「ちょっ…」

 

レイは気付かない内に彼女に麻酔を打った

 

「カプセルに運ぶ前に簡単に手術をする。ちょっと待っててくれ」

 

「もう大丈夫だ…」

 

「良かったわね…」

 

眠った彼女の頭を、アタシと上崎は少しだけ撫でる…

 

数十分後、レイはカプセルに彼女を入れて戻って来た

 

「来てくれ」

 

アタシと上崎は椅子から立ち、レイに言われてカプセルの前に来た

 

カプセルの中では、さっきの女の子がいる

 

「失った内臓と腹部の再生を施してる」

 

「な、治りそうか??」

 

「ここの時間が完了の時間だ。2時間もすれば完治する」

 

「あぁっ…良かったっ…」

 

「レイ!!凄いわ!!」

 

「ふ…少し休む。あぁ、上崎"さん"」

 

珍しくレイがさん付けで呼んだ

 

「か、上崎でいい…」

 

「上崎。アンタが救った命だ。ありがとう…」

 

レイはそのまま部屋から出て行った…

 

「信じて良かった…」

 

「レイは…本当は命を大切にする子なんです…」

 

「今分かったよ…彼を信じよう…はぁっ…」

 

上崎は安堵のため息を吐いた

 

レイはこの日、ようやく命を救う事が出来た

 

今まではどうしても足りない資材や薬品を何とか調合して痛みを和らげるしか出来なかった所に、このカプセルが舞い込んで来た

 

その日からレイは何かの研究を始めた

 

カプセルの溶液を用いた何かを作っている

 

「よしっ…出来た!!」

 

嬉しそうに診察室に戻って来たレイの手には、緑色の液体が入ったフラスコが握られている

 

「こ、これは何だ??」

 

「青汁か??」

 

「メロンソーダかしら??」

 

その日は上崎も隊長もいて、比較的怪我の少ない艦娘の子達の相手をしていた

 

「これを飲むんだ…」

 

ベッドにいた子に、フラスコの中身を飲ませる…

 

その子は右腕を欠損していて、今はカプセルに入る順番待ちの状態

 

「せんせ、ありがと」

 

「ちょっとニガニガだったか??」

 

「おいち、おいち」

 

まるで子供の面倒を見る父親の目をしているレイ…

 

こんなにキラキラした目を見たのは久し振りな気がする…

 

「全部飲めるか??」

 

「ちょーだい」

 

「ふ…ほらっ!!」

 

その艦娘は"右手"でフラスコを握り、中の液体を飲み干した

 

「せんせ、おてて…」

 

「触ってご覧…」

 

右手を不思議そうに見る艦娘…

 

後に"高速修復材"と呼ばれる事になる液体を、この日、レイは生成に成功していた

 

「せんせのおかお」

 

「…」

 

無言で微笑んでいるレイの頬に、涙が伝う…

 

「せんせ、なかないで」

 

「はは…ごめんごめんっ…」

 

「ま、マーカスは凄いな…」

 

「良かったなスティングレイ!!」

 

「やったわね!!」

 

「はは…あぁ!!」

 

この数日後、この基地もとうとう戦火に巻き込まれる…

 

 

 

その日もレイはいつも通り艦娘達の治療に当たっていた

 

「つまんないの」

 

「そう言うな。もう少ししたらっ…美味しいご飯を上崎が食わしてくれるぞ??」

 

「わ、私とか??も、勿論だ!!」

 

「あっそ」

 

カプセルに入っていたあの艦娘は、もう少しの間リハビリの為にここに居る事になった

 

「平和なもんね。海も空も戦ってんのに、内地では未だに平和なニュースやってんの」

 

「平和になったら何したい??」

 

「別にない。アンタを殺すわ」

 

「こ、こらこら…」

 

「殺してって頼んだの!!どうして生かしたの!!」

 

「俺が生きて欲しいと思ったからだ」

 

「えっ…」

 

「産まれて来たからには…何か意味があるハズなんだ。お前はそれを知りたくないか??」

 

上崎の顔を見て、互いに少し微笑んだ後、頷き合う

 

「…どうだか」

 

「なぁ…戦争と夜は一緒なの、知ってるか??」

 

レイはその子の横に座る

 

「知らない…何で??」

 

「戦争も夜もいつか終わる。終わった後はっ、明るい世界が待ってる」

 

「…ホント??」

 

「ホントだっ」

 

「あたし、何にも無いのに??名前も無いのに??」

 

「日本では夜が明ける事を"曙"って言うらしい。いいか??お前の名前は今から曙だ」

 

「曙…」

 

「曙か…良い名前だ!!」

 

曙と名付けられたその艦娘は、レイではなく上崎の目を見ている

 

「…もう一回、呼んでよ」

 

「「曙っ!!」」

 

「あはっ…」

 

いつもツンとしていた曙の顔が明るくなる

 

「少し患者の様子を見て来る。ゆっくり話してくれ」

 

「マーカス!!」

 

「ん??」

 

「か、感謝する!!」

 

「ふ…どういたしましてっ!!」

 

カーテンを閉め、上崎と曙の二人になる

 

「あたしが産まれた意味、か…」

 

「か、必ず分かる。私も、マーカスも、必ず曙の手助けをする!!」

 

「そっ…良かった…」

 

やっと、道が見つかった…

 

やっと、光が見えた…

 

だけど、運命はイタズラ好きだ

 

《緊急警報!!緊急警報!!深海棲艦多数接近中!!応戦可能な人員は即時配備!!繰り返す!!深海棲艦多数接近中!!》

 

「バッカ野郎…こんな時に!!」

 

「スティングレイ!!患者を避難させろ!!空は任せろ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

「アタシも手伝うわ!!」

 

「待て」

 

一人の兵士がレイにピストルを向ける

 

「そいつ等は兵器だ。外に出て戦って貰う」

 

「撃つなら覚悟しろよ…」

 

「黙れ。貴様に何の権限も無い。そいつ等は我々の!!」

 

その兵士が何かを言おうとした瞬間、壁を突き破って巨大な手が現れ、兵士の体を掴んだ

 

「離っ、せ!!この!!えぎ!?」

 

いとも簡単に兵士が握り潰される

 

「レイ!!早く!!」

 

レイは白衣を風になびかせながら、巨大な手の主の目を一点睨む…

 

「…」

 

「…」

 

互いに黙ったまま、互いを睨む…

 

静寂を破ったのは、巨大な深海棲艦の体が海の方へと向いた時だった

 

「今の内だ!!患者を避難させる!!」

 

「大丈夫よ…アタシが着いてるからっ…」

 

「ま、マーカス!!海が!!」

 

患者を抱きかかえたまま、レイが壁の穴から海を見る

 

人型の深海棲艦が大量にこっちに向かって来ている…

 

「せんせ、いってくる」

 

「…ダメだ」

 

「せんせ、いきて」

 

「せんせ、ばいばい」

 

レイを守る様に、体の何処かを失った名も無き艦娘達が艤装を持って立ち上がる

 

「ダメだダメだダメだ!!もう頑張らなくていい!!」

 

「おねーちゃん、つれてって」

 

「ダメ!!貴方も来るの!!」

 

「おねーちゃん、いって、せんせ、つれてって」

 

この子達は必死でレイの体をアタシの方に押す

 

「ふざけるな!!おい離せ!!言う事を聞いてくれ!!」

 

「せんせ」

 

まるで子供が親に甘える様に、レイの額に自分の額を合わせて少し動く

 

「な…頼む…お願いだから…折角助かったんだぞ…」

 

「せんせ、ありがと」

 

「せんせ、またね」

 

「やめろ!!待って!!待ってくれ!!あぁ…」

 

レイがアタシの前に押し出される…

 

レイはすぐに彼女達を引き戻そうと立ち上がるが、誰かが止める

 

「何やってんのよクソ医者!!」

 

「離してくれ!!行ってしまう!!」

 

「あの子達が産まれて来た意味が!!アンタを護る事なのよ!!」

 

「そんな…」

 

曙の説得に、レイは力無く膝を落とす…

 

「ま、マーカス!!今は生きよう!!君を失ってしまえば!!次君に救われるハズの命は、ど、どうなる!!」

 

上崎の言葉に、レイは何とか立とうとした…

 

《うあー》

 

《うわー》

 

「はっ…」

 

落ちていた無線から気の抜けた声が聞こえた…

 

レイはすぐに手に取り、声を掛ける…

 

「命令だぞ…生きろと言ってるんだ…何で俺なんか護った!!」

 

《せんせ…げほっげほっ…ありがと…せんせっ…しぇんしぇ…》

 

「ううっ…」

 

爆発音と共に、無線が途切れた…

 

最後の最期で、涙を堪えたような声を出した…

 

残ったのはたった数人の患者…

 

心に大怪我を負ったレイは、何とか意思を取り戻す

 

「あそこにトラックがある。上崎、ジェミニ、走れるか??」

 

「よ、よし…後ろにこの子達を乗せる。運転は任せてくれ!!」

 

「アンタはその子を頼んだわ!!」

 

「曙、手伝ってくれるか??」

 

「今回だけよ!!」

 

トラックまで何とか走り、患者を後ろに乗せる

 

「曙、乗るんだ」

 

「危ない!!」

 

曙に押される

 

トラックの近くに砲弾が落ちた

 

「レイ!!」

 

「マーカス!!」

 

この頃から深海棲艦が陸に適応し始めた

 

アタシもそれを見たのはその日が初めてだった

 

両の足をしっかりと地に付け、両手にそれぞれの砲を構えてこちらに向かって来る大人の女性の形をした深海棲艦…

 

対抗策が限りなく少ない今、逃げるしかない

 

「曙!!乗れ!!今しかない!!」

 

「アンタはどうすんのよ!!」

 

「後ですぐに追い付く!!」

 

「…」

 

レイの言う事を聞かず、曙はトラックに積まれていた艦娘専用の砲を構えた

 

「何してんの!!早く乗りなさい!!」

 

「必ずその子達を救ってよ??」

 

「…」

 

「曙、言う事を聞け…」

 

「医者の分際で命令してんじゃないわよ…」

 

「あ、曙!!の、乗るんだ!!」

 

「あたしは大丈夫!!だから"お父さん"!!行って!!」

 

曙は振り返る顔で上崎を見て、笑う

 

「お前を愛しているのを忘れるな!!い、いいな!?」

 

「分かったから!!」

 

「レイ!!必ず来るのよ!!」

 

「それまで患者を任せたぞ!!」

 

トラックが基地から出る…

 

「すまん…こうするしかなかった…」

 

「約束、守って貰うから。産まれて来た意味が何なのか…まだ分かってないから!!」

 

レイがピストルを構え、曙が砲を構える…

 

 

 

 

 

《生き残った者はC区に移動せよ。繰り返す、生き残った者はC区に移動せよ》

 

「起きなさい、クソ医者」

 

「ここは天国か…」

 

「バカ言ってんじゃ無いわよ!!起きろっつってんの!!」

 

「うっ…」

 

「やったわね…」

 

ギリギリで深海棲艦を倒す事が出来た

 

曙が撃ち出した砲が急所に当たり、倒れた所にガソリンか何かが引火し、大打撃を与えられたからだ

 

その衝撃で俺と曙は吹き飛ばされ、共にしばらく気絶していた

 

「クルシイ!!クルシイクルシイ!!」

 

「行くわよ…」

 

「ニクイ…ニクイニクイ!!ニンゲンニクイ!!」

 

「…」

 

話せる個体を初めて見た…

 

明らかに此方に敵意を向けてはいるが、確実に言葉を話している…

 

「クソ医者??」

 

深海棲艦を見下げる形で前に立つ…

 

「許してくれ…あの子達を逃がすためだったんだ…」

 

「ウガァァァア!!」

 

瓦礫に押し潰された体だが、腕を振り回して俺を掴もうとする

 

…退けられそうか

 

「一つ約束しろ!!」

 

「…」

 

「救ってやる代わりに、俺達を見逃せ」

 

「イツカコロス…」

 

「曙。手伝ってくれ…」

 

「あぁっ!!もう!!このクソ医者は!!」

 

瓦礫を退け、深海棲艦を引きずり出す

 

「レイハイワナイ…」

 

「待て…」

 

ポケットの中には、予備で持っていた高速修復材があった

 

横たわった深海棲艦の頭を抱え、中身を飲ませる

 

「行け」

 

「…」

 

深海棲艦は俺の顔と曙の顔をしばらく見た後、何もしないまま海へと戻って行った…

 

「それで??全部救うつもり??」

 

「救える奴は救う」

 

「付き合ってらんないわ!!」

 

「…ありがとな、曙」

 

「…ふんっ」

 

そうは言いつつ、曙はC区までレイを連れて来た

 

「あ、曙!!」

 

「暑いったら…」

 

上崎に抱き締められた曙は、口ではそう言うが笑っている

 

「レイっ…」

 

「少し…疲れた…」

 

「あっ…もぅ…」

 

アタシの胸に顔を埋めたまま、レイは疲れ果てて眠ってしまった…

 

レイは数日眠り続けた…

 

あれだけの光景を目の当たりにしてしまったんだ…

 

精神的なストレスが半端なかったんだ…

 

「少佐…大尉は…」

 

「まだ眠ってるわ…」

 

「此方を…これが精一杯でした…」

 

「…」

 

赤ちゃん位のサイズの、布に包まれた物を渡される…

 

「あぁっ!!」

 

「無線で大尉を呼ぶ声が聞こえて…貴方方の元に帰りたかったのでしょう…」

 

布に包まれていたのは、あの時レイを守る為に行ってしまった子達の体の一部分…

 

「頑張ったのね!!ごめんなさい!!ごめんなさいごめんなさい!!ううっ!!」

 

それを抱えたまま、アタシはその場で泣き崩れる…

 

「これは…」

 

「大尉…」

 

レイが起きてしまった…

 

「レイっ!!あの子達、頑張ったわよね!?」

 

「あぁ…頑張ったっ…おかえり…」

 

届けてくれた兵士でさえ、涙を零す

 

「さ…ゆっくり休もうなっ…」

 

「そうしましょう…スンッ…おかえりっ!!」

 

「ありがとう…見付けてくれて」

 

「大尉…どうか気を確かに…」

 

「名前を聞いてなかった…」

 

「"岩井"です…」

 

「そっか…ありがとう…」

 

アタシ、レイ、上崎、隊長、曙で、無名の艦娘を手厚く葬ってあげる事にした

 

その時のレイの背中は見てられなかった…

 

そして、誰も彼女達を受け入れてくれる所は無かった…

 

せめて…

 

せめて最後位、人間と同じ扱いをしてあげたいのに…

 

「…大阪にな」

 

「ん??」

 

「大阪に、無名の子でも受け入れてくれる寺があると聞いた…そこに連れて行ってやりたい…」

 

「行ってみましょう??」

 

そこのお寺で、ようやく人間の扱いをされた

 

簡単にお教を読んで貰って、みんなで一緒にお墓に入った

 

「先生、またここに来るからな??」

 

「お姉さんも絶対来るわ??」

 

無名の艦娘のお墓の前には、レイが一緒に遊ぼうと買って来た"ブリキのおもちゃ"がいっぱい置かれた…

 

 

 

 

上崎はその後、また艦娘を救う為に別の所に配属になった

 

アタシに曙を預けて、必ずまた会うと約束して…

 

トラックに乗せた患者??

 

漣でしょ??

 

朧でしょ??

 

あと一人はね…

 

「ウチのボンクラがホントすみません…ほら!!大尉にごめんなさいは!?」

 

「びゃ〜…ごめんなさい〜」

 

「す〜ぐお釣り間違えるんだから!!五千円札なのに千円札返してどうすんのっ!!」

 

「びゃ〜…」

 

「ふふ…ありがとな??酒匂、レジ上手になったもんな??」

 

「ぴゃー!!やっぱりマーカスさんは優しいよ!!矢矧とは大違い!!」

 

「酒匂??」

 

「びゃ〜…」

 

「大尉はね??この矢矧を助けてくれた人なのよ??良い!?失礼の無いようにしなさい!!」

 

「びゃ〜…」

 

「びゃ〜じゃないのっ!!」

 

「はぁいっ!!」

 

「大尉。いつでも矢矧にお申し付け下さい。何処へでも参ります!!」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「酒匂、先に戻ってて良いわ!!」

 

「ぴゃー、ジュース買って帰る!!」

 

酒匂が先に戻り、矢矧はレイに寄る…

 

レイの肩に両手を回し、額を付ける

 

「せーんせっ!!だーいすきっ!!ふふっ!!」

 

「や、やめろよ…」

 

「では‼失礼しますっ!!」

 

時折こうして、矢矧はレイに甘える

 

アタシも姉妹もそれを知っているけど、皆黙っている

 

…そう言えば、レイってちょっと矢矧に似てるのよね

 

…矢矧がレイに似てるのかしら

 

 

 

アタシ達は基地へと戻る

 

その道中、レイは聞いて来た

 

「俺が救える奴は救うと決めたキッカケはあの子達だ…」

 

「そうね…アンタはちゃんと救えてるわよ??」

 

「一つ気になる事があってな…」

 

「なぁに??」

 

「お前が母性に目覚めたキッカケって何だ??」

 

「照月よ」

 

「照月!?」

 

「そっ!!照月っ!!」

 

 

 

アタシは多分、照月で母性が目覚めた

 

秋月と照月は一緒に産まれて来た

 

秋月はすぐに立って歩いたり、簡単な言葉を話せた

 

だけど、照月はヨチヨチ歩く事は出来たけど、言葉を発するのが遅かった

 

秋月と照月を連れておさんぽするのが日課で、1日交代でどっちかを抱っこしてたの

 

その日は秋月を抱っこしてたんだけど、照月は抱っこして欲しくてアタシの足にしがみついてた

 

「だ〜めっ!!今日は秋月の番よ??抱っこばっかりしてたら、歩けなくなっちゃうわよ!!」

 

照月はアタシの後ろをヨチヨチ歩きで着いて来た

 

一生懸命歩いてたわ

 

だけど、途中でポテッとこけちゃったの

 

足を開いて、上向いて口開けて、声が出ないまま泣いちゃった時ね…

 

「あ…あ〜ぁ〜もぅっ…照月っ…ごめんね…」

 

この子がどうしようもなく可愛くなってしまった…

 

その日から照月が確実に歩くまで、おさんぽは照月を抱っこして歩く様になった

 

秋月はしっかりしてるから、歩き始めてからもアタシの横をちゃんと着いて来たわ

 

手の掛かる子程可愛いと香取を筆頭に皆言うけど、その通りだと思った

 

レイが矢矧なら、アタシは照月…

 

 

 

「横須賀さん!!」

 

「あら照月!!遊びに来たの??」

 

「えへへっ!!」

 

アタシしかいない執務室

 

時々照月が遊びに来るの

 

その時、照月はアタシに抱き着く

 

あの日みたいに、照月の頭を撫でる…

 

「あらっ…ふふっ…」

 

「お母さん、だ~いすきっ!!」

 

「よしよしっ…」

 

「行ってきまーす!!」

 

「気を付けてね!!」

 

まだまだあの子も甘えん坊…

 

こうして内緒で、たまに思いっきり甘えに来る

 

 

 

 

「そう言えば、上崎はどうしてんだ??」

 

「あっ、聞きたい??」

 

「あぁ。礼を言いたいからな」

 

「じゃあ今度会いに行きましょ!!この間、連絡が来たのよ!!元気にしてるわよ!!」

 

「そうかそうか!!良かったよ!!分かった!!会いに行こう‼」

 

こうして、アタシとレイのお墓参りが終わる…

 

いつか平和になったら…

 

またアタシもレイも…

 

いえ…皆でここに来るわ!!

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