ラバウルで折れてしまった刀の事で定期的に悩んでいたエドガー
新しい刀は必要ですが、彼には行きたくない理由がありました
エドガーの過去が結構明らかになります
季節外れですがお楽しみ下さい 笑
「…」
「何してんですかキャプテン…」
執務室で風呂敷の前で正座し、今まで見た事の無い位渋い顔をしているエドガーがいる
「は…はは…アレンさん…何もありませんよ…」
どう考えても何かに怯えているエドガー
震えた手で何とか煙草に火を点ける…
「何ですか、これ」
風呂敷の上には折れた刃物が置いてある
「この間、ロシアに行ったでしょう、私」
「はい」
「その時に戦車…斬りまして…」
「折ったんですか??」
「折れたのではありません!!勝手に2つに分かれたのです!!」
「あっ…はい…」
エドガーの必死の弁明も、まだアレンは事の重大さが分かっていない
「この刀は特殊な刀なのです。あぁ…手入れしていなかったとか怒られるでしょう…」
「打てる奴に心当たりが??」
「えぇ…今横須賀にいます。行きたくないんですよ…」
「なら一緒に行きましょうか??自分も向こうに用があるので」
「お願い出来ますか。一人で行くのはしのびないんです…」
エドガーがここまで言う相手だ
よっぽど怖いのか、よっぽど頑固なのか…
横須賀に着いても、風呂敷を持ったエドガーの足は重い
「アレン。パイロット寮に向かって先を歩いて下さい」
「りょ、了解…」
執行人と恐れられた男の影は一切無く、ただ何かに怯えている
「レイに貰った刀では駄目なんですか??」
「彼に貰った刀は立派です。ですが…やはり長年使い熟したコレでなくては…」
「おはようございます、大佐さん、大尉さん」
「おはようございます、大鯨さん」
「はっ!!はひゅっ!!」
エドガーは急に過呼吸になる
「気にしないで大丈夫です。いつもの事なので」
アレンはいつもの"発作"と思っていた
「こ、これを…」
「私にですか??」
大鯨さんに風呂敷を渡すと、すぐに開けようとした
「ここで開けてはなりません!!どこか人目につかない場所で…」
「では、私の部屋に…」
大鯨さんに案内され、パイロット寮に入る…
その道中、ふとした瞬間風呂敷の中から
カチャ…
と、音がした…
「はぁーーーっ!!」
エドガーが急に過呼吸の限界みたいな声を出す
「…大尉さん」
「はい」
「食堂で朝食の余りがあるんです。よければどうぞ??」
「さっき食べたばかりで…」
その時、エドガーからは見えないでいたが、アレンからは大鯨の顔が見えていた
「あーっ!!は、腹!!減って来たなー!!」
「ふふっ!!美味しい焼き魚ですよ??」
「い、頂きまーす!!」
アレンは食堂へと足を運ぶ…
そこにはエプロンを着た涼平がリチャードとマーカスの朝食を並べていた
「おはようございます、アレンさん!!」
「お??珍しいな??こっちで飯か??」
「座れ座れ!!涼平の横だぁ!!」
二人に促され、涼平の横に座る
「キャプテンの付き添いで来たんだが…」
「エドガーはどこ行った??」
「それが…」
アレンが事の事情を説明していた矢先だった
「折ったやろゴルァ!!」
「すみませんすみません!!」
女性のドスの効いた声と、男性のか弱い声が寮室から聞こえて来た
「えぇ…大鯨さん…ですよね??」
「何したらあんな声出るんだよ…」
「ナンパしたんだナンパ!!いや待て…あのロリコンの事だ、そりゃねぇな??」
「やっぱり行った方が良いですか??」
アレンが立ち上がるが、リチャードが止める
「俺だったら行かねぇな??」
「何斬ったらこんな事なるんや!!このウスラトンカチが!!」
「ごめんなさいごめんなさい!!戦車を斬りました!!」
「命が幾つあっても足り」
「戦車なんか斬ったらこうなるの…分かるやろが!!」
「はい!!仰る通りです!!」
「女の怒りってのはな、一旦収まるのを待たんと話す事すらままな」
「お、ま、え、の、あ、た、ま、は…何が入ってるんやーーー!!」
「あばばばば!!」
「よし行こうか」
止めていた本人が向かう事になる
「リチャードだ。入るぞ」
「どうぞ〜」
いつもの大鯨さんの声がドアの向こうから聞こえる…
「凄い怒号が聞こえてな??」
「リチャードさんはご存知でしょう??私達の"裏のお仕事"を…」
「ま、まぁな…」
「ヒック…エグ…」
執行人と呼ばれて来た男が、女の目の前で小さく縮こまり、顔を上げずに泣いている
「許してやってくれ…この刀で、エドガーは命を救ったんだ」
「…」
大鯨の睨み、リチャードの真剣な眼が交差する…
「リチャードさんにはかなりお世話になっています…今回だけ、大目に見ます」
「エグエグ…」
「申し訳ありませんが、エドガーを連れて行くのと、他の二人を呼んで来て頂けませんか」
「分かった。よしエドガー、おじさんとキャンディー買いに行こうな??」
「キャンディー…キャンディー食べる…スンスン…」
リチャードはエドガーを連れて退室
「マーカス!!アレン!!長鯨と迅鯨に連絡してくれ!!大鯨の所に来いって!!」
「分かった!!」
「了解です!!」
二人が連絡を入れると、近場にいた二人はすぐに大鯨の部屋に入る…
「我々一族に代々伝わる製法で打った刀が折れた…」
「それはよろしくない…我等"鯨一族"の誇りに関わる。しかし、この刀はどうも折れた事に後悔はしていない様子…」
「打ち直しましょう。この刀には折れても尚、怨念がこもっています…」
「それは奴が悪だけを斬って来た証拠…憎むべきは奴ではなく、奴に殺意を向けた人間…」
「では…二度と折れぬ様に強力な玉鋼を…」
「更に強力な火で叩きます故…」
「よし…しかし、残るは炉…」
「その問題はご心配にあらず。マーカスの乳母が用意した物を一つ拝借出来るかと…マーカスの乳母に具申して参ります」
「砂鉄は折ったエドガーに収集させよ」
「はっ。では、私は水の手配を」
長鯨と迅鯨は部屋を去る
「さてっ…忙しくなりますねっ!!」
大鯨は背伸びをし、準備に取り掛かる…
「パースさんっ!!こんにちはーっ!!」
「長鯨ちゃん、どうしたパース??」
「実は折り入ってのお願いが〜…」
説得に来た長鯨は、事の一端をパースに説明する…
「なるほど…牧場の離れの納屋に一つあまりがあります。それでよければ」
「ありがとうございます!!あ、パンくーださい!!」
「いらっしゃいパース!!」
話が終わり、パースも長鯨も顔が変わり、いつもの二人に戻る
所変わって迅鯨…
「これを腰に付けて下さい」
「はい…」
エドガーの腰に付けた紐の先にはそこそこ大きめの磁石が付いている
「この袋がいっぱいになるまで砂浜を走って、砂鉄を収集して下さい」
「はい…」
エドガー、地獄の砂鉄収集ランニング開始
「リチャードさん、よろしくお願いいたします」
「一応聞いておくが、旦那と行かなくて良いのか??」
「鯨一族の伝統ある刀製法は、旦那にも知られてはならないのです」
「俺はぁ??」
「恩があるが故にお頼みしているのです。お礼もします」
「俺は人妻は抱かないんだよん!!さ、行くぞ!!」
「では、失礼しますね??」
「おうっ…」
迅鯨が後部座席に乗った瞬間、独特の重さで機体がほんの少し沈む
「どうされました??」
「いやぁ…久々の感覚だなと思っただけさっ」
リチャードと迅鯨が水の回収に向かう…
「ぜーはー…ぜーはー…」
2時間走り詰めで、流石のエドガーも体力的に辛くなって来た
「えっほ」
「うっほ」
「はぁ…はぁ…ひとみさん、いよさん…お手伝いに来てくれたのですか…」
エドガーから少し離れた位置で、同じ様な装備を付けたひとみといよが走り回っている
「こえど〜しゅう??」
「みて、もあもあ!!」
ひとみといよの磁石にも砂鉄がいっぱい付いている
「あそこにいる涼平さんの袋に…はぁ…少し休憩です…」
エドガーが前屈みで息を整えている時、タブレットに通信が入る
たいげー
殺
ちょうげー
呪
「クソッ…何処から!!」
「エドガーさん、ちょっと休憩しましょう??」
「流石はマーカスの教え子…休憩の大切さを知ってますね…」
「こんな炎天下じゃ、水分補給は大切ですよ??」
「いよにもくだしゃい!!」
「ひとみも!!」
「はいっ、どうぞ!!」
流石のエドガーも、いつも涼平が座っている流木に腰掛け、スポーツドリンクを頂く
「はぁ…私ももう少し普段から運動しましょうかね…」
「ちおちぁんとすう??」
「だいえっと!!」
「そうですね。それは名案です!!」
涼平は三人を見てニコニコしている
「そう言えば、今日はマーカスはどうしました??」
「えいしゃん、て〜きけんちん!!」
「くちくのこ!!」
「そうでしたか…さて、もうひと頑張りしますか!!涼平さん、上着を置いておくので、見ていて下さい」
「はいっ!!」
「ごちそうさまでした。よしっ!!」
「あいあと!!いくれ!!」
「ここにおいときあす!!ごちそうさあでちた!!」
「いってらっしゃーい!!」
マネージャーがいるので、砂鉄は集まりそうだ…
所変わって岐阜県…
「リチャードさん、今お幾つですか??」
「永遠の17歳だっ!!よっ!!」
迅鯨もリチャードも、川の近くの整備されていない場所を飄々と登って行く
「どこの水取るんだ??」
「揖斐川の上流の水です。そこで採取した水で打つと良い刀が打てます」
「なるほどっ…」
「ちょっとお尻押して貰えますか??」
「ほらよっ!!」
迅鯨のお尻を押し、ようやく水が湧き出る場所に着く
「そこそこデケェ滝だな…ふうっ…」
そこには滝があり、その横に水が湧き出る場所があった
「ここは私達鯨一族に伝わる地です…すぅ…はぁ〜…」
迅鯨は深呼吸し、綺麗な空気を肺いっぱいに入れて吐き出す
「ちくしょう…着替えがありゃ入ってんだがなぁ…」
「私達鯨一族は、夏になるとここで遊んでいましたよ??」
「昔っから今みたいな体型なのか??」
「どうでしょう…ふふっ、私達の若い時の写真をお礼にしましょうか??」
「人妻に興味ないんだよーん!!うおりゃ!!」
結局リチャードは服を脱いで川に入る
「かぁー!!気持ち良い!!」
「ちょっと休憩していきましょうか」
ボトルに水を入れ、迅鯨は川岸の近くで腰を下ろす
「リチャードさん??」
「なんだ??」
「私は櫻井さんが好きです。大好きです」
「知ってるよーん!!」
「でも…その次に貴方の事が好きです」
「ありがたいこった!!」
「救ってくれて、ホントにありがとうございますっ」
「どうだ??今の生活は」
リチャードが迅鯨の前に寝ながら流れて来た
「私が求めていたのは、今の生活なんです。好きな人がいて、好きな人の為に動ける…」
「…そっかっ。大事にしろよ、好きな奴の事」
「リチャードさん…貴方過去に何か…」
「男も女も秘密が多い方が良いんだよ〜ん!!」
「…スイカ、食べましょうか!!」
「おっ!!いいね!!」
川から上がり、迅鯨の割ったスイカに齧り付く
「これが日本のあれか"なつやすみ"か??」
「そうです。いっぱい遊んで、甘い物を食べて、沢山思い出を作る。それが日本の夏休みです」
「思い出ねぇ…」
「…」
迅鯨は優しく微笑む
大人になっても子供心を忘れない男
その男は自分を何度も救い、自分の愛している男も救ってくれた
彼と迅鯨は、ほんの少しだけ長い時間をそこで過ごす…
「ぜぇ…ぜぇ…」
「のろかあいた…」
「あっちっちですえ…」
真夏の炎天下の中、三人は走り続ける
流石のひとみといよでさえ疲れが見えている
「りょ〜へ〜くんのとこいきあしょ!!」
「おらへん」
「そんなハズは…」
「いやーっ!!助けてーっ!!」
「悪いようにはしませんから!!」
簀巻きにされた涼平が誰かに連れ去られようとしている!!
「待ちなさい!!涼平さんを離しなさい!!」
「ヤバッ!!早く来なさい!!」
「あーっ!!」
「おるぁ!!」
いの一番に駆け出したいよが脳天に魚雷バットを叩き込む
「むこういけ!!」
むこういけ!!と言いつつ、同じ魚雷バットを膝の裏に叩き込むひとみ
「あいたぁ!!」
「だえや!!」
「も〜、痛いですよぉ!!」
「「ちょげぴ〜しゃん!!」」
麦わら帽子の下の顔は長鯨
「ちょっと涼平君必要なんです!!では!!」
「まてこあ!!」
「おいてけ!!」
長鯨は軽々と涼平を担ぎ上げ、何処かに行ってしまった…
「のろかあいた!!」
「おわい!!しぅ〜りぉ〜!!」
飲み物もついでに持って行かれたので、ひとみといよの怒りは、理由はどうであれ長鯨に向く
「確かに喉乾きましたね…」
「ここれまっててくらしゃい」
「たたきのめしてある!!」
ひとみといよもそのまま何処かに行ってしまう…
「おるぁ!!ちょげい〜こんにゃろ!!」
「ここにおったんかちょえぴ〜!!」
長鯨と涼平がいたのは、牧場の離れの納屋の中
そこに一個、炉に使えそうな物がある
「わ!!ちょっ!!待ってって!!」
「あかん!!」
「こえはかえちてもあう!!」
二人が取り返したのはクーラーボックス
砂浜にいる三人にとっては生命線
これをついでに持って行かれては砂鉄も集められない
「設計図は此方に」
「は〜…凄いや…」
建築に詳しい涼平がうなるレベルの炉の設計図を手渡される
「了解です。何とかしてみます!!」
「さっすが涼平君!!良い子でちね〜!!」
「しぅいしゃんにいいましぉ」
「ちょえぴ〜もしまいれすえ」
「あわわわ!!ちょっと待ってよぉ〜!!」
ひとみといよはそのまま出て行ってしまう
向かった先は…
「こえみて。ちょえぴ〜のひえひえのあつ」
「ちぉ〜だいしあ〜す!!」
長鯨のクーラーボックスの前に来たひとみといよは早速フタを開け、中を物色
「び〜う!!」
「かんつ〜はい!!」
「こえもいえとく」
「こえは、あとでいただきあしょ」
ビール、チューハイ、お茶、サイダー、そして凍らせてあるオレンジジュース
一本だけ残してその全てをパクる、もとい頂戴する
そして二人がかりで頭上で抱え上げ、そそくさと逃げる…
「えっほ」
「うっほ」
「おかえりなさい、お二人さん」
「あいっ!!」
早速クーラーボックスから缶を取り出し、エドガーに渡す
暑さにやられて、エドガーは正常な判断が出来ず
ひとみといよは"大人が元気の出るジュース"を優しさで渡す
夏が弾ける音が3回鳴り、ようやく一息入れる
「くぁ〜っ!!夏はやはりこれですよ!!」
「ひとみといよちぁんは、さいら〜れす!!」
「くぁ〜!!」
一息入れて、またエドガーは走り出す…
昼下がりにはようやく砂鉄が溜まって来た
「この位で良いでしょう…」
「よく頑張ってくれましたね、お二人さん」
大鯨が砂鉄を回収し、早速軽く改修された炉に向かう…
「ただいま戻りましたっ」
「たっだいまぁ〜!!」
「全員揃いましたね。では始めましょう!!」
迅鯨の水が到着し、鯨の一族は着替え始める
「炉は突貫でしたので、上手く行けば良いのですが…」
「充分です。ありがとうございます、涼平さん。死人が出るので一度執務室に向かいましょうか」
「え!?あ、はいっ!!し、死人!?」
エドガーに言われるがまま、涼平は着いて行く
執務室では俺とひとみといよがいる
「おかえり。どうだった??」
「はいっ。炉は突貫でしたが、何とかなりそうです」
「砂鉄と水も充分かと」
「でも分かんないモンね…あの優しそ〜な鯨達が武器作れるって」
「優しくないですよ。おっかない鯨です」
どうやらエドガーは何か知ってる様子
「過去に何かあったのか??」
「えぇ。私はあの鯨一族に剣術を教えて貰いましたからね」
「聞いた事ないぞ…」
「話したく無かったのです。私が年増から何かを教えて貰うのは恥晒しですから」
「…んまぁ飲んでくれ!!涼平さんも!!」
「ありがとうございますっ」
「頂きますっ!!」
二人は朝霜からコーヒーを受け取る
「もしかしてエドガーがロリコンの理由って…」
「鯨一族に散々扱かれまくった結果ですね」
「やっぱり…」
本人が言うのだから間違いない…
「私からすれば恐怖でしかありませんが…昔と比べてあれでもまだ丸くなった方です。体型はあのままですが」
「たいげ〜しゃんのおりぉ〜りきあい??」
いよの一言で流れが変わる
「料理は…そうですね、いよさんの言う通りです。鯨一族の料理は最高に美味しいです…あのクオリティでジェーナスさんやジャーヴィスさんが作ってくれたら幾らでも食べられるのですが…」
エドガーが一人でブツブツ言い始めたので、今度は涼平と話す
「あの、元帥、隊長。ずっと気になっていたのですが…」
「なぁに??」
「どうした??」
「大鯨さんって、たいげいじゃないんですか??」
涼平が急に訳の分からない事を言い始めた
熱でやられたか、長鯨にどつかれたか??
「違うわよ??」
「やっぱり…」
「違うのかよ!!」
「マーカスはたいげいと思っていたのですか??」
「たいげいさん!!って呼ぶと反応するからな…」
「ちょっと待ってね…え〜と…あった!!」
ジェミニは1枚の書類を出す
大鯨の顔写真と、ここの登録書だ
「ほら、ここ」
「ホントだ!!」
大鯨の上に書かれたふりがなは違った物だ…
「なら何でたいげいで反応してるんだ??」
「自分の事呼んでるって分かってるんじゃない??」
「その…マーカス。彼女は少し漢字に弱いと言いますか…強過ぎると言いますか…」
エドガーは眉間を掻きながら言う
「後で分かると思います…」
「そ、そっか…」
「ここまで来ると考えるんですが…櫻井さん、どうやって射止めたんですかね…」
「大鯨さんであれ、迅鯨さんであれ、あんなに美味い美味いと作ったご飯を食べて貰えれば好きになりますよ」
「「なるほど…」」
「どれ、ちょっと行ってみるか…」
「…マーカスは好みでしょうね」
エドガーの小言を聞き、鯨の鍛冶場に向かう…
近付くにつれ、カァン!カァン!と鉄を打つ音が聞こえて来た
エドガーは何故か数歩遅れているので、俺と涼平が先に見に行く
「うぉ…すげぇ…」
「凄い…」
そこには汗を散らしながら鉄を打つ鯨三人がいた
「その…なんだ…す、凄いな!!」
「凄いです!!」
俺達の語彙力が死ぬ
あの体で汗だくで動き回るんだ
そりゃもうスンゴイ揺れる揺れる…
クラッと来そうな匂いもしてる…
「よく見れますね!!」
めっちゃ離れた位置からエドガーが言う
「来ないのか!?」
「私は死にたくないのでここから!!」
「絶対来ないんですね…」
「よっぽど怖いんだろうな…」
「お前なんか怖かねぇ!!」
建物の陰に隠れて吠える、史上最高に情けないエドガーを初めて見た…
「だったら来なさいエドガー!!」
大鯨さんにそう言われるが、エドガーはビビってまた隠れる
「私はね!!忙しいんです!!では!!」
そう言って、今まで見た事ないスピードでエドガーは逃げ去った
「マーカスさん、涼平さん」
「あぁすまん…見学に来た」
「こうやって刀が出来るんですね…」
「ふふっ…長鯨は未婚ですよ??」
大鯨には全て見抜かれている気がする…
「旦那さん!!欲しい!!でちね!!」
その長鯨は力強く鉄を打つ
もう段々と形がそれらしき物になっている…
「加工が終わる前に、エドガーを捕まえて来て貰えますか??」
「分かった!!」
「分かりましたっ!!」
大鯨に言われ、エドガー捕獲に繰り出す
「…凄かったな??」
「はいっ…なんかもう…はいっ…」
ホントに語彙力が死ぬ
なんかもう凄かった
あれでご飯3杯はイケる気がする…
エドガーはすぐに見つかった
「おあたせしあした!!」
「ありがとうございますっ」
悠長に飲茶丹陽でゴマ団子とウーロン茶を飲んでいる…
「幼女がチャイナドレスというのも素晴らしい物です」
「大鯨さんがお呼びです」
「大佐、貴方を連行します」
エドガーのサイドに付き、演技を始める
「私に触れたらどうなるか…分かってるな??」
エドガーは腰に掛けている、予備の刀を手にする…
「覚悟の上です、大佐」
「我々と共に来て下さい」
「…短い人生でした」
「そんなに嫌なのか??」
俺と涼平は余っていた席に座る
ここまで落ち込むエドガーは初めて見たのと、なんか面白くなって来たのとで行く先を見届けたくなった
「えぇ…マーカス、介錯を頼めませんか??」
「駄目ですって!!」
「アイツらのせいで!!アイツらのせいで!!私はね!!ううっ…」
その後に続いたエドガーの言葉に、俺も涼平も背中を擦る…
「羨ま…怖かったな…うん…」
「最こ…大丈夫ですよ…辛かったですね…」
「うん…うん…スンッ…ごめんね…グスグス…」
当の本人はガチ泣きしてるが、俺も涼平も笑いを堪えるのに必死
鯨の鍛錬は、それはそれは厳しい物だったのは本当らしい
傷だらけになろうが、疲労困憊で立てなくなろうが、そんな物は関係無い
不屈の闘志で立ち上がり、相手をこの世から抹殺するまで殺意を収める事はない
それを何度も叩き込まれる
ただ、エドガーがへこたれる男ではないのは皆が知っている
問題は鯨一族に襲われた事
飴と鞭の差があまりにも激しいと言うか、その辺の理解はかなりしてくれている
それは俺達でも普段見ているから伝わる
エドガーはその件で年齢二桁以上を受け付けなくなり、致し方なく幼女を好きになったものの、不触の誓いを立てているので決して邪な目で見る事はない
実際は千代田と結婚しているので、出る所が出てる女性自体は嫌いではない
ただ鯨一族が苦手なだけだ…
「丹陽さん」
「はいっ!!なんれしょう!!」
「毒ありませんか毒」
「ないれす!!はい!!」
「やはりマーカス、介錯を…」
「死ぬ気なら行けると思うんだけどな…」
「死んだ方がマシです!!」
「じゃあ自分が長鯨さん貰います!!」
涼平が言った言葉で、俺とエドガーが固まる
「やめておきなさい??悪い事は言いませんから…ね??シュリさんとタシュケントさんの所に行きなさいって…」
「柔らかそうですし…」
「確かに柔らかいです、鼻血物です」
「マジ??」
「えぇ。最高です」
「よし涼平。死ぬか!!」
「はいっ!!一番幸せな死に方を!!」
俺と涼平は席を立ち、意気揚々と丹陽を出ようとした
「待って!!止まれ!!お願いですから!!」
エドガーが俺達の腰に手を回し、地べたに腹を付けて引き摺られながら止める
「行〜ぐ〜の〜っ!!」
「比較的まだマシな死に方ですがら〜っ!!」
「やっぱりそんなに良いものではありません!!イントレピッドさんの方がまだマシです!!」
「俺だぢは穏やがにじにだいの〜っ!!」
「せめていぢばんぎらぐにじにまず〜っ!!」
「行〜ぐ〜な〜っ!!」
エドガーが尋常じゃないパワーで停めて来るので一旦止まる
「じゃあ行く??」
「もーっ!!やだやだやだやだーーーーっ!!」
「えぇ…」
あのエドガーがスーパーでお菓子を強請る子供みたいに駄々をこね始めた
「行かない行かない!!やだやだーっ!!死にたくないーっ!!」
「何やってるノー??」
タイミング良くジャーヴィスが来たので、前に屈んで事の説明をする…
「ジャーヴィス。あのな??エドガーお兄さんな??呼ばれてるのに行きたくないって…」
「さ、行きましょう。マーカス、涼平さん!!鯨なんか叩っ斬ってやりますよ!!わーっはっはっは!!」
何が何でも幼女に情けない姿を見られたくないのか、エドガーはすぐに立ち上がって鯨の鍛冶場に向かう
「エドガーさん、怖いノ??」
「こここ怖くありましぇんよジャーヴィシュしゃん…」
エドガーは声も震えて目も泳いでいる
「ジャーヴィスと行コ!!ねっ??」
ジャーヴィスは自然とエドガーの手を握り、笑顔を見せる
「はいっ!!ジャーヴィスさんっ!!」
ジャーヴィスに先導され、やっと鯨の鍛冶場に向かう
「あれで良いんですか…」
「あれで良いんだ…エドガーには一番効く特効薬だからな…」
俺達もエドガーの後を追う…
「ジャーヴィスさん。ここから先は私一人で参ります」
「大丈夫??怖くなイ??」
「大丈夫です。ジャーヴィスさんに勇気を頂きましたからね??」
ジャーヴィスの手からエドガーが離れる…
普通逆なのだが、エドガーに限ってはこの構図が許される
「エドガー。やっと来ましたか…」
「あ!!クジラさんダ!!」
「ふふ。こんにちはジャーヴィスさん。エドガーを連れて来てくれたのですね、ありがとうございますっ」
「You're Welcome!!」
ジャーヴィスがこっちに来た
「ダーリン!!エドガーさん送ったヨー!!」
「ありがとなジャーヴィス!!よっと!!」
飛び掛かって来たジャーヴィスを抱き留め、頭を撫でる
「リョーへーさんだ!!」
「おはようございます、ジャーヴィスさん!!」
「ジャーヴィス。ちょっとエドガーの様子見て来るから、これでお菓子買ってくれ!!」
「Lucky!!ダーリンアリガトー!!」
ジャーヴィスはそのまま駄菓子屋に直行
さて、問題はエドガーだ
意を決して鯨の鍛冶場に入る…
「仕上げは…分かっていますね??」
「はい」
「では…」
大鯨が刃物を構え、エドガーが身構える事無く立ち尽くす
大鯨は一瞬でエドガーに間合いを寄せ、刃物を振りかざした
「待て!!」
「何するんですか!!」
異様な光景を見て、すぐに俺達の体が動いた
鉄と鉄とがぶつかる
俺は深海から貰ったナイフ
涼平は支給品のナイフ
それぞれで大鯨の刃物を止める
「良い部下をお持ちですね、エドガー??」
「マーカス、涼平さん、ありがとうございます。しかし、これは最後の工程です。もう離して貰って大丈夫です」
「何するつもりだったんですか??」
涼平がナイフをしまった瞬間、エドガーの胸元が切り裂かれる
足元に用意していた桶に血が溜まって行く…
「ぐっ…」
「ちょ!!何して…」
「失礼しますっ」
「はいは〜い!!止血するでちよ〜!!」
脇から迅鯨と長鯨が出て来て、エドガーを止血する
「それは??」
迅鯨が手にしていたのは何かの塗り薬
それを塗った途端、出血どころか傷口が閉じて行く
「これは鯨の一族に伝わる秘伝の薬です」
「は〜いっ!!痛いの飛んでったでちね〜!!」
「マーカスさん、涼平さん。今しばらくエドガーを頼みます。我々は最後の仕上げがありますので」
「わ、分かった…」
「エドガーさん、横になって下さい…」
「すみませんね…」
またしばらく鉄を打つ音が聞こえる…
その間に、一応エドガーの傷口を見ておく
「塞がってる…」
「愛の力ですよ、マーカス」
「幼女に血は見せられないってか??」
「そういう事ですっ。よいしょっ!!」
エドガーは起き上がってあぐらをかいて、タバコに火を点ける
「それにしても、大鯨さんのあの一瞬で近付く技は…」
「学びたいですか??涼平さんなら構いませんよ。此方に血判を頂ければ、現時刻を持って鯨一族に伝わる鍛錬を…」
そう言って、大鯨は谷間から意味深な巻物を取り出した
「「ダメダメダメダメ!!」」
俺とエドガーが猛スピードで止める
「素質は十二分にありますのに…」
また谷間に巻物をしまう…
「良いですか涼平さん。鯨一族は如何なる手を使ってでも貴方を誘惑して来ます」
「シュリさんに顔向け出来なくなるぞ」
「わ、分かりましたっ…」
「言っている間に完成します。それまでお茶でもどうぞ」
大鯨がお茶を出してくれたので、頂く事にする
「美味い…」
「岐阜県の清流で育った茶葉です」
エドガーの言った通り、鯨一族は料理が一級品ばかり
お茶ですら美味い…
「いいなぁ…自分も鯨さんの武器欲しいな…」
「素材をお持ち頂ければいつでも。涼平さん、そしてマーカスさん。貴方方には一族、大いに感謝していますので」
「涼平はどんな武器好きだ??」
「そう言えば銃火器を使ってる所を見た事はありますが、近接武器はありませんね…」
すると、涼平は俺の方を向いた
「隊長…鎖鎌って…どうですか??」
「俺は使いやすいけど、あれは人を選ぶな??」
「エドガーさん。自分は何が似合いそうですか??」
「そうですねぇ…」
エドガーは結構真剣に悩んでくれる…
「忍者刀はどうですか??」
「忍者刀、ですか??日本刀とどう違うのですか??」
「エドガー」
大鯨が一振りの刀をエドガーに投げ、それを受け取り、鞘から抜く
「これが忍者刀です。刀身が短く、反りが無い…これは人を突き刺すのに特化した刀です。そして私が帯刀している刀は…」
今度は俺が造った方を鞘から抜く
「刀身が長く、反りがある…人を斬るのに特化した刀です」
「要は暗殺に特化した刀ですよ、涼平さん」
俺達の前に追加のお茶が入った急須と、簡単なお茶菓子が置かれる
「もしそれが良いなら、神通が良く知ってる」
「神通を呼びましたか大尉♡」
天井から神通が音も無く降りて来た
「神通さん。忍者刀って、使い易いですか??」
「少し鍛錬をすれば、涼平さんのポテンシャルならすぐに機銃の弾程度なら弾ける様になりますよ」
「これにします!!」
涼平は神通の銃弾弾きを見ているので、即決で決めた
「分かりました。いつでも仰って下さい。申し訳無いのですが、主となる素材だけは御本人の要望を受け付けていますので…」
「そういう事か…」
これから長い付き合いが始まる物だ
工程は鯨一族の伝統の物があるが、素材だけは本人が持って来る事が出来るのか
そう言えば、エドガーは何を主としたのだろう…
「ふーっ!!出来上がったでちよ〜!!」
「此方を…筆と和紙を取って来ます」
迅鯨の手から、産まれたての赤ちゃんの様に出来たての刀を受け取る
「ありがとうございます。エドガー…貴方の新しい"半身"です」
大鯨の手には、布の上に新しい刀がある
主人…そして半身になるので、最初に触れるのはやはり本人と言う事か…
エドガーは新しい刀を手にする…
「前の貴方の刀の玉鋼を半分利用しています」
大鯨は1枚の和紙をエドガーの前に出した
そこには前の刀の名前である"物怪狩"と書かれていた
「もののけがり…そうですか…」
「もののけがり??」
エドガーの言った言葉に、大鯨は不思議そうな顔をする
「えぇ。前の私の愛刀です」
「"でびるすらっしゃー"の事ですか??」
「…ん??」
「ん??」
「今なんと??」
今度は男三人が不思議そうな顔をする
「でびるすらっしゃーですよ??エドガーの前の刀は」
「もののけがりでは…」
「そんな陳腐な名前を大鯨が付けるとでも??」
「は…はは…ま、まぁ終わってしまった事を言っても仕方ありませんね!!」
「ではエドガー…僭越ながら、刀の名前を…」
「此方を…」
迅鯨から和紙と筆を貰い、大鯨は筆を握る
「ありがとうございます。では…」
厳かな空気が和室に充満する…
筆を使い、墨で刀の名前を書いて行く…
「此方で如何でしょう」
大鯨が見せてくれた和紙には"血之華"と書かれている…
「ちのはな…なるほど…」
「ちのはな??」
また大鯨は不思議そうな顔をする…
「ちのはなでは…」
「"ぶらっでぃろーず"ですが??」
「ダッセェ…」
エドガーの口からつい本音が漏れる…
「ダサいですか??」
「別の名前がいいです…」
「ではもう一つ…」
大鯨は至って真面目にまた名前を考える…
「此方でどうでしょう」
今度は"稲妻穿"と書かれている
「いなづまうが…」
「…」
「ではないみたいですね…」
大鯨のジト目でエドガーが気付く…
「"さんだーくらっしゃー"です」
「変えて下さい、今すぐ!!」
エドガーも真面目にチェンジを申し立てる
ここまで来たら俺と涼平は笑いを堪えるのに必死
「マーカス。因みにこの刀の名は??」
「持ち主が決めてくれていい…」
「造った本人が決めるべきです…」
「なら"千代姫"で…読みも"ちよひめ"だ…」
「気に入りました…私の妻の名が入っていますね…」
「いつも一緒だろ??」
「それもそうです!!」
「出来ました」
三度目の正直…
今度はどうなんだろうか…
名前が書かれた和紙を此方に向けてもらう…
"門前払拭"
「読み方は」
めちゃくちゃ真面目にエドガーは問う
「どうせダサいとか言うので決めて下さい」
「因みになので聞かせて下さい」
「"げーとくりーなー"です」
「分かりました。げーとくりーなーとは別の名を付けます」
「ここに書いておきましょう」
「結構です…」
「知られたくないならそれもまた一つの道…分かりました」
大鯨は諦めて筆と和紙をしまう
だが、そこに怒っている様子は無く、本当に一つの道として認識している様子だ
「しかし、感謝は致します。ありがとうございました…」
「此方こそ、善い仕事をさせて頂いた事を感謝致します…」
二人は深々と頭を下げる…
「試し斬りと行きましょうか…」
「ドラム缶で良いか??」
「あの日の様に水を入れて頂けますか??」
「分かった、行こう」
俺達は腰を上げて、玄関に向かう
「あ、そうだ…ちょっとだけ待ってくれ」
出ようとした時、一つ思い出した
「"でかくじら"さん」
「どうされました??マーカスさん??」
「やっぱり…」
ジェミニが見せてくれた書類に書かれていた、大鯨の読み方…
「その…どうして大鯨で反応してたか気になって…」
「私の名前の読み方は本来そうなので…きっと私を呼んでいるのだろうなと。構いませんよ、たいげいで。皆さんがそう呼んでくれるので」
「もしかして迅鯨と長鯨も…」
「どうします??"すぴーどくじら"とか、"ろんぐくじら"とかなら…」
「そ、その時は考えるよ…」
「ふふっ…貴方方の呼称で構いません。我々鯨一族は、常に貴方方と共に…」
ふと気付く
いつの間にか迅鯨長鯨もその場におり、軽く頭を下げてくれている
「それではまた。ご入用の際はいつでも御声掛け下さい」
「ありがとう…」
鯨一族の屋敷を出る…
工廠の裏に来ると、ひとみといよが準備をしてくれていた
「いくれ!!」
「どりぁ!!」
水を入れたドラム缶を、エドガーと涼平目掛けて蹴り飛ばして転がす
「ありがとうございますっ、よっと!!」
「ありがとうございますっ、ほっ!!」
エドガーがドラム缶を立てている間にひとみといよは涼平と一緒にコンテナの後ろに逃げる
「隊長、始まりますよっ!!」
「こっち!!」
「ここ!!」
3人に促され、陰でエドガーを見る…
俺が来た時点で、空気が変わる…
暑いはずなのに、涼しくなる…
カチン…と音がした後、ドラム缶の向こうにいたエドガー
あれが本来のエドガーの居合…
動体視力が良いはずの俺と涼平でさえ、目で追えなかった
もう一個のドラム缶にも目に見えない速さで近付き、左右からの袈裟斬り、そして横一閃を披露
ドラム缶がバラバラになった所で、空気が元に戻る
殺気だったのか、あの涼しさは…
「「「「おぉ〜…」」」」
俺達4人は拍手を送る
「ありがとうございます。素晴らしい刀です…」
刃こぼれ一つすらしていない…
「そういや素材を聞いてなかった…」
「"鯨鉄"です。彼女達にしか精製出来ない刀専用の合金です。特定の素材、特定の製法で打った場合にのみ、軽く錆びない、強固な合金になるのです」
「もうぽきんしない??」
「どうでしょう…鯨鉄の唯一の弱点は、持ち主の思いが終わってしまった時に非常に脆くなるのです。私はあの日、一度思いが終わってしまったのでね…」
「ちよちぁんまもう!!」
「ふふ!!ではっ、もう折れる事はありませんね!!」
「よく切れるようで良かったです」
様子を伺っていた大鯨さんが来た
「帰巣本能は変わらずにありますのでご心配なさらず」
「そうでしたか…」
「帰巣本能??」
刀では聞かない能力だ…
「えぇ。先程、私の血を使った場面があったでしょう??あれが帰巣本能を付ける為の工程です」
「エドガーが願いを叶えるまで何処に置いて来ようが、何処に捨てようが、必ずエドガーの所に帰って来ます」
「マーカス。その辺に投げてみて下さい」
鞘に入ったままの刀を渡された
「ホントだろうな…」
「えぇ。なんなら海でも構いませんよ」
「めっちゃいやらしいとこに投げてやんぜ…ほれ!!」
投げたのは工廠の屋根の上
ボールとか引っ掛かるあの理論でほぼ返って来ない所に投げた
「クワ!?」
「あ、バードさん…」
たまたま工廠の屋根の上で休んでいたバードさんが、足で掴んで飛んで来た
「グワ―!!」
エドガーの手元に刀を投げ渡す様に落とし、第三居住区にいるメンツである涼平の頭に降りる
たまにそうしているのか、涼平は反応しない
「ね??」
「す、すげぇ…」
「涼平さんもよければ」
「ホントに良いんですね!?」
「どうぞ。海でも構いませんよ??」
そうまで言われて、涼平は海に向かって構えた
「それーっ!!」
ボチャーン!!と音を立て、結構遠くの海面に落ちた
流石に多分返って来ないとタカをくくっていた俺達
タバコを吸いながら待ち、やっぱり返って来ないと諦めていた時だった
「ふーっ!!あ!!ドクター!!」
工廠の裏にドラムが上がって来た
「な!!な!!見てくれよ!!落とし物見つけたんだぜ!!」
手には刀が握られている…
「アンタのだろ!!もう落とすなよ!!」
「ありがとうございます!!」
ドラムはエドガーに刀を返すと、そのまま海の中で採ったウニやらが入ったカゴを持って執務室のある棟に向かう…
「ね??」
「す、凄い…」
「ふふっ…後でお礼をせねばなりませんね??」
それより凄いのは日本刀を持っているのはエドガーだと、深海からも艦娘からも認識されている事…
バードさんもドラムも、刀を見付けてエドガーの所に返しに来た
俺から見ても何か絵になりそうなだ…
その予感は、数日後に当たる事になる…
「はぁはぁ…ヤッバィ…超カッコイイんですけど!!」
「これっ!!すっごい貴重なのではっ!!」
「そんなにですか??」
「クワ〜」
秋雲と青葉が、肩にバードさんを乗せたエドガーの写真を撮りまくっている
「何やってんの??」
そこにジェミニが来て、二人に写真と動画を見せて貰う
「ヤバッ…カッコイイじゃない!!」
バードさんが飛んで持って来た刀を取り、肩に乗せた後に抜刀し、構えを取る
黒いコートが良く映え、まるで長年連れ添った相棒の様にバードさんが肩で鳴く
「ちょっと後で転送して頂戴。お金は出すわ??」
「やっぱカッコイイですよね!!」
「ふふふ…アタシに考えがあんの!!」
後日、ジェミニはエドガーとバードさんの写真を何枚も刷り、味方の自衛隊の基地に送る
そこには
"暑中見舞い、申し上げます"
と、書かれており、物凄い量のお中元がジェミニの元に爆速で届いた…
バードさん…元深海の戦闘機
ミィムのおともだちバード
戦いよりミィムのお世話をしている方が好きな、心優しい一つ目の深海の艦載機
足を使って器用にバーガーを食べたり、歯磨きもする
配達や伝令をして自分のご飯代位は稼げる
最近は配達したお小遣いでミィムとお菓子を食べてるのを横須賀で見かける