工廠では、スティングレイと妖精達が作業を進めていた
「こっちはオッケーだ」
”でけたで”
「ちょっと一服だ。疲れた…」
工廠の隅に置かれた机の上にあるタバコの箱を取り、火を点けた
離れてはいるが、修理と改装が施された二つの艤装が見える
”一本くれ”
「取れよ」
箱の中からタバコを一本取り出し、先をバーナーで炙って順番に吸い始めた
「…美味いか⁇」
”美味いで‼︎タバコはみんなで吸うから美味いんや‼︎ありがとうな‼︎”
「まぁ、いいけど…」
タバコを咥え、ジュースサーバーのボタンを押す
コップが現れ、コーラが注がれる
”またコーラか⁉︎”
「飲むか⁇」
”ちょうだい‼︎”
小さな紙コップにコーラを入れて渡すと、またみんなで飲み始めた
「電探…ありゃあ、新調しなきゃ無理だな…」
”せやなぁ…だいぶ古かったからなぁ…”
「…やるか⁇」
”やろうや‼︎”
俺は妖精達と目を合わせ、無言で頷いた
タバコの火を全部消し、再び艤装の修理に取り掛かる
「上手く行きゃあいいんだが…」
数時間後…
「…おい」
”やってしもたな…”
目の前には新型の電探が置かれている
「…これ、確かまだ開発不可能だったよな⁇」
”せ…せや…”
妖精の言葉から、しばらく互いに無言が続く
数時間前、俺達は調子に乗って一番難易度が高い設計図のレーダーを造り始めた
それは横須賀でさえ造れなかった代物であり、一応ここにも設計図だけはあった
途中で手を加え、多少の追加効果がある程度の別の電探が出来上がる予定だった
が、思ったより作業は好調
まさかの起動実験まで通り、電探としては最高傑作の出来だった
「か、隠すか⁉︎」
”ど、どないしょ…えらいこっちゃで‼︎”
「レイ、調子はどう⁇」
定時報告にでも来たのか、前触れも無く横須賀が入って来た
「布を被せ妖精共‼︎」
”ラジャー‼︎”
咄嗟に指を指し、妖精達に命令した
「何隠したのよ」
「あ、新しい便器とウォシュレットだよ‼︎な、なぁ⁉︎」
”せや。トイレが壊れたんや”
上手く口裏を合わせた妖精
ナイスだ
「見せなさいよ」
「便器見て何が面白いんだよ‼︎」
「あんた作のウォシュレットの性能を見たいの」
ジリジリと此方に近付いて来る横須賀
「…絶対外部に漏らさないか⁇」
「約束するわ」
アイコンタクトを妖精に送り、布が外された
「嘘でしょ…Fumoレーダー造ったの⁉︎」
「プリンツの電探が古かったから、新しいのを造ってやろうとしたらこれだよ…」
「譲っ…」
「や〜だね〜‼︎」
横須賀が言う前に返した
「もう、造れないの⁇」
「造る気もないし、造りたくもない‼︎」
横須賀はため息を吐いた
余程効果が高い電探らしい
「ま、良いわ。アウトローと呼ばれたあんたも、多少は良い所あるわね」
「アウトロー…だと⁇絶対やらねぇ‼︎金輪際、7.7mm機銃でもお前にやらん‼︎」
「ふふふ…」
横須賀は胸元をはだけさせ、こっちに寄って来た
「俺に色仕掛けは効かん‼︎」
横須賀は俺の顔を掴み、色っぽい声で囁いた
「色仕掛け⁇違うわ。既成事実を造るのよ。んで、あんたを追い込んでやるの…これを鹿島に言ったらどうなるかな〜…うっふっふっふ…」
悪女だ…
悪女がいるよ…
中途半端にスタイルも良いし、抱き心地も良さ…
仕方無い、折れるか…
「…一個だけだぞ」
「やったぁ‼︎スティングレイ大好き‼︎チュッチュッ‼︎」
首に手を回し、二、三回頬にキスを貰う
「やめんか‼︎はい、出た出た‼︎こっから先は企業秘密だ‼︎」
横須賀を外に出し、シャッターを閉めた
「め…面倒くせぇ野郎だ…」
”やるか⁇”
「仕方無い…上手く出来るといいが…」
一時間後…
「何でだよ‼︎」
”何でや‼︎”
妖精達と共に、コンクリートの床を叩く
目の前には、二つのFumoレーダーが
二つ共、完璧な仕上がりだ
これはマズイ
横須賀に二つ共持って行かれる…
「…約束は一つだけだったよな」
”一個だけや”
「どう⁇出来た⁇」
横須賀が来た
毎度毎度タイミングがいい
「持ってけ」
出来上がった電探を親指で指し、タバコに火を点けた
「うわぁ〜‼︎凄いじゃない‼︎あんた、本当は天才なの⁇」
「”なの”じゃない。天才なんだよ
」
「貰ってもいいの⁉︎」
「一個な‼︎一つは試験用に取っておく」
「ケチ‼︎」
「気が変わった。そこの妖精、こいつの相場は幾らだ⁇」
”せやな…”
「分かった‼︎分かったわよ‼︎お礼は何がいい⁇」
「要らねぇよ‼︎それ持ってさっさと行け‼︎」
「でも…」
「あ〜…」
タバコを持った逆の手で後頭部を掻いた
「なら…か、艦娘とケッコン出来る指輪を…だな…」
「そんなのでいいの⁉︎」
「ありゃあ、アレだろ⁇提督しか手にする事が許されてないんだろ⁇」
「まぁ…そうだけど…」
「特別に認めてくれるなら、二つ共持って行っていい」
「契約完了ね‼︎はいコレ‼︎妖精さん、これをタンカーに運んで〜‼︎」
突然渡されたのは、紛れもなくケッコン指輪
数秒思考が止まる
「は⁉︎え⁉︎何で持ってんだよ‼︎」
「いやぁ〜あんたそろそろ言い出す頃かなって思って、ずっと持ってたのよ」
「あっそ…ま…サンキュー」
「安い買い物よ。で‼︎誰に渡すの⁉︎やっぱり鹿島⁉︎」
「さぁな」
「教えなさいよ〜」
「言わん‼︎さっさとどっか行け‼︎」
「ケチ〜‼︎」
「はいはい」
とにかく、指輪を手に入れた
とりあえず、一旦戻ろう
タバコ三本とコーラを置き、工廠を出た
”やっぱり置いてくれてある”
”パパもスティングレイも、よー似とるな”
妖精達がタバコとコーラの元にワラワラと集まり、それぞれが楽しみ始めた
基地に戻ると、子供達が積み木で遊んでいた
相変わらず武蔵は怪獣役の様だ
「お…」
プリンツが大人しく何かを読んでいる
膝の上には、たいほうとしおいが乗っている
「たいほうに負けて、逆らえなくなったみたいだ」
隊長は隊長でローマと共にコーヒーを飲んでいる
「一応、修理は終わった。俺もコーヒー飲んでいいか⁇」
「横須賀がくれた美味いのがあるぞ‼︎」
「淹れます」
「やったね‼︎」
はまかぜにコーヒーを淹れて貰っている間、プリンツのデータを見る事にした
・駆逐艦に対しての暴行、暴言
・基地内でギャンブル。男性から金を巻き上げる
・味方輸送船に誤射
・一般市民を恐喝
・基地内の売店で万引き
・日本にいた経験…あり
他の項目については、まぁやっているだろうな、程度だったが、最後がどうも気になった
「プリンツ」
「はい」
プリンツを横に座らせ、一つ聞いた
「お前、日本にいた事あるのか⁇」
「う…うん…」
どうも気まずそうだ
「お前が非行に走り始めたのは、日本から帰って来てからだ。こりゃ何でだ⁇」
「…聞いてくれる⁇」
「もちろんだ。先に言っておくが、責めてる訳じゃない。俺達はお前をもっと知りたいんだ」
「分かった…」
プリンツの話はこうだ
前に日本に来た時、凄く嫌な提督だった
体も触られたし、襲われそうにもなった
そして改装後の私の装備だけ取ったら”用済み”と言われ、装備だけ取られたまま、本国へ強制送還された
と、言う訳だ
「見た所、あの装備は改装されてないみたいだな…」
「うん…本国に戻った時にもう一度造って貰ったんだ…」
「そっか…辛かったな…」
プリンツの頭を撫でると、大粒の涙を流し始めた
「アドミラルにも、言えなかった…だから…一人で考えるしか…」
「もう大丈夫だ」
泣き喚くプリンツを抱き締めた
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「もう、イタズラはしないか⁇」
「うん…」
それ以降、プリンツは大人しくなった
れーべとまっくすは、最初は怯えていたが、段々と懐き始めた
れーべとまっくす曰く、日本に行く前は今の様に優しかったらしい
そして三日後、ミハイルがやって来た
「大佐、プリンツはどうですか⁇」
「見ての通りです。いい子ですよ」
「ほぉ…あの子が子供の面倒を見るとは…」
「私の力ではありません。彼です」
隊長は、格納庫で作業をしていたスティングレイの方を見た
「彼が…」
「口は悪いですが、人一倍他人に気配りが出来る自慢の部下です」
「彼を呼んで頂けませんか⁇」
無線を付け、スティングレイを呼んだ
「オヤツの時間だぞ」
《やったね‼︎》
無線を切り、ものの数秒でスティングレイが来た
「ミハイルさん‼︎お久し振りです‼︎」
「スティングレイ、プリンツをありがとう」
「いい子でしたよ」
「ふむ…」
ミハイルは不思議そうな目で、俺を見つめた
「彼女は何故か此処に馴染んでますね…前の時は、あんなに楽しそうではありませんでした…」
「聞きましたよ。装備だけ取られて本国へ突き返されたって」
「耳に入ってましたか…彼女、帰って来た時は泣きじゃくっていましたからね…」
「み、ミハイルさん‼︎頼みがあります‼︎」
「はい⁇」
「プリンツを…俺に下さい‼︎」
俺は頭を下げて頼み込んだ
その場が静まり返る
「スティングレイ、顔を上げて下さい」
「はい」
「我々の国は、同盟国である貴方がたの国を補助する為に、艦娘を造っています。ですが、前回のプリンツの一件から、前もって研修期間や調査をし、その人が適正かどうか判断をしなければいけません。ですから…」
ミハイルは話しながら、一枚の書類を俺に渡した
「此方からお願いしたい。重巡洋艦プリンツ・オイゲンを、貴方に引き取って頂きたい」
書類には”移送手続承諾書”と書いてあり、プリンツの名前が書いてある下に、空欄があった
「勿論です‼︎」
俺は二つ返事で名前を書いた
「これで完了です。あぁ、勿論お金とかは要りませんので‼︎」
「ありがとうございます‼︎」
「プリンツ、ちゃんと言う事を聞くんだよ⁇」
「はいっ‼︎」
「ではまた‼︎」
ミハイルは帰って行った
後から聞くと、実は隊長は最初から知っていた
もしかしたら隊長ではなく、俺にならプリンツの性格を治せる…と
その暁には、安心して俺の為に役立って貰える…と
前の提督の狙いが、あのレーダーである事も分かった
「知ってたか⁇ミハイルは日本各地を渡って、どの基地が適切か判断する凄い奴なんだ」
「ヤバイですね…」
「もう敬語はいい‼︎」
「あぁ…や、ヤバイな‼︎」
「でだ。今度、各基地を招いて、横須賀で演習がある。一基地から出れるのは六隻。どうだ⁇出るか⁇」
「出る‼︎それまでに万全に仕上げてやるよ‼︎」
「ふっ…その意気だ」
俺の所持している艦隊で、戦えるのは二隻
しおい
そしてプリンツ
「プリンツ。どうだ⁇出てみるか⁇」
「うん‼︎出たい‼︎」
「しおいは⁇」
「やってみたい‼︎」
「分かった。プリンツ、装備の改装が終わった。工廠までおいで」
先に工廠に行き、プリンツを待つ
「俺にしちゃ…上出来だな」
”しかしまぁ…よ〜こんなん造ったで”
「来ました‼︎」
しばらくすると、プリンツが来た
「お前の装備を全部取っ替えた。まずはこれ」
最初に見せたのは、二対の主砲
「火力と安定性を底上げしている。問題は命中率だ。そこで目となるのがこれだ」
次は水上機を見せた
「こいつが目となって、命中率は安定する。それに、軽い爆弾を載せたり、小規模の制空戦なら参加出来る」
「ほぇ〜…」
「んで…仕上げはこいつだ」
最後にあのレーダーを見せた
「これは…‼︎」
プリンツの目に輝きが戻った
「このレーダーで敵感知能力、命中率、その他諸々を底上げ出来る」
「これ…ずっと欲しかったんだ…私が付けて良いの⁉︎」
「お前の為に造ったんだ。是非使ってやってくれ。あぁ、俺は前の提督みたいに装備取ったりしねぇから、心配すんな。俺は造る方が好きなんだ」
「す、凄い…」
「あ、そうそう。塗装は軽く迷彩にしてある。まぁ、海上で役に立つか分からんが…」
「ありがとう…スティングレイ…嬉しいよ」
プリンツは他国の人間から初めて愛された
ミハイルは勿論優しかったが、国は同じ
ここの人は、皆温かかった
「ったく…お前と言い、鹿島と言い、何で艦娘って奴はこんなに涙が似合わないかな⁉︎」
「だって…こんなの初めてで…」
「ほら笑え。俺が何でこんなに気合入れたか分かるか⁇」
「何で⁇」
プリンツの肩を掴み、力を込めた
「演習で見返してやるんだ‼︎”貴方が見捨てた私は、こんなにも強いんだ‼︎”って。俺は、その入口まで連れて行ってやる」