艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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特別編 ドイツの魔女(5)

「ちょっと、背中見せて下さい」

 

「んっ」

 

革ジャンとタンクトップをまくり、背中を見せた

 

背中には、若干だが凍傷の痕が残っていた

 

「あ〜‼︎やっぱり‼︎スティングレイだったんですね‼︎」

 

「気付けバカ‼︎」

 

「じゃあ、その女の子って…」

 

「あ…あんまり恥ずかしい事言わすな。行くぞ」

 

先に歩き始め、若干間が空いた後、プリンツが横に来た

 

「嬉しいです、私‼︎」

 

「俺もさ。ありがとうな」

 

「ふふっ…」

 

「えいっ‼︎」

 

左腕が掴まれた

 

あれ⁇プリンツは右側に居たんじゃ…

 

「浮気ですか〜⁇」

 

掴んで来たのは鹿島だ‼︎

 

一応でも何でも無い‼︎これは完全な浮気だ‼︎

 

「違います‼︎」

 

意外にも反発したのはプリンツだった

 

「私、今日の事の御礼をしてたんです‼︎」

 

「本当〜⁉︎」

 

何もかも見透かされた様な目で、俺達を見詰める

 

「ぐぬぬ…」

 

プリンツが後退し始めた

 

そして、とんでもない事を言った

 

「私、スティングレイが好きです‼︎」

 

あまりにも恥ずかしかったのか、そのまま駆け足で場を後にした

 

「レイ⁇」

 

「はひ‼︎」

 

鹿島に握られた腕に力がこもる

 

だが、痛くは無い

 

「嫉妬はしてません。レイは悪くないです」

 

「悪かった…」

 

「謝る必要は無いです。でも…少しだけ、こうさせて下さい」

 

「あ…あぁ…」

 

正直、プリンツが来るまでは鹿島に指輪を渡そうと思っていた

 

現に、今も内ポケットに入っている

 

だが、今になって揺らぎ始めた

 

俺は一体何をしてるんだ…

 

最初は、グラーフに恋をした

 

だが、あまりにも素っ気ない態度の繰り返しの為、脈が無いとかなり前に分かった

 

実は向こうも満更では無かった様だったが…

 

その隙間を埋めるようにジェミニに付き合って貰って、プリンツと出会って…

 

そして、鹿島に愛して貰っている

 

鹿島に関しては疑いを持つ程、俺に愛を向けてくれている

 

最低な男だ…俺は…

 

隊長みたいに、あっさり決められたらなぁ…

 

「お前は、プリンツをどう思う⁇」

 

「いい子と思いますよ。ライバルですけどね…」

 

「あはは…」

 

鹿島は思っていた

 

私はきっと、レイのこういう所が好きなんだと

 

側から見れば、優柔不断の浮気者

 

だけどそれは、皆を均等に愛したいという表れでもある

 

私は、そんな彼を尊敬してる

 

だから…好き…

 

「帰ろう。俺達の家へ」

 

「えぇ」

 

 

 

 

演習から一週間が経った

 

プリンツはあの演習で自信を取り戻し、元の優しく明るい性格に戻っていた

 

鹿島はと言うと…

 

「レイ⁇ご飯が出来ましたよ⁇」

 

「すぐ行くよ」

 

「レイ⁇おやつの時間ですよ⁇」

 

「分かった」

 

「レイ⁇背中を流します」

 

「…うん」

 

「レイ…来て下さい…」

 

「…待て」

 

そう。ベッタリだ

 

恐らくプリンツに取られたく無いんだろう

 

常に傍に置かれてる気がする

 

「嫌…ですか⁇」

 

「嫌じゃない‼︎すっごく嬉しい‼︎」

 

「ならいいじゃないですかっ‼︎」

 

鹿島に押し倒され、ベッドにイン

 

「今日は本気ですよ…うふふっ」

 

赤みがかった彼女の顔から目を逸らす

 

しかも今日に限ってたいほうも来ない

 

「あ〜。これが交尾かぁ〜…ありです‼︎」

 

ベッドの下から聞き慣れた声がする

 

「しおい‼︎」

 

ベッドの下からしおいが出て来た‼︎

 

「鹿島、今日はしおいがレイと寝るんだよ⁉︎」

 

「あらっ‼︎そうだったわ‼︎」

 

「でもでも‼︎鹿島も一緒に寝よ⁇」

 

「いいですよ」

 

しおいを真ん中に寝かせ、俺達はサイドに横になった

 

「えへへ〜。これが川の字ですねぇ」

 

「そうですよっ。お父さんとお母さん、そして子供が一緒に寝るんですっ」

 

「じゃあ、レイがお父さんで、鹿島がお母さん⁇」

 

「そうだ」

 

「お母さん…」

 

鹿島がボーっとしている

 

「お母さん、お歌歌って⁇」

 

「おいで」

 

しおいは鹿島に抱き着き、子守唄を歌って貰う

 

俺はだんだん静かになるしおいの頭を撫で、更に眠気を誘う

 

そして、十分もしない内に、しおいは完璧に眠った

 

鹿島は優しくしおいに布団を掛け、自身も入る

 

「レイの本当の娘なんですよね…しおいは…」

 

「そう。時々、俺の事を”パパ”と言いかけてる」

 

「羨ましいなぁ…」

 

しおいの愛おしそうに撫でる鹿島

 

彼女なら…俺は…俺は…

 

「私もなりたいなぁ…レイの家族に」

 

その言葉を聞き、頭の中で踏ん切りがついた

 

「鹿島。話がある。食堂に来い」

 

「あ、はい」

 

 

 

食堂の椅子に座って、鹿島を待つ

 

物凄く長く感じる

 

内ポケットに入ったケッコン指輪を入れた箱が、とても重く感じる

 

熱いコーヒーを二つ淹れようとするが手までも震え、コーヒーカップがカタカタ鳴っている

 

「話って何です⁇」

 

ようやく鹿島が来た

 

「ま、飲めよ」

 

鹿島が座り、コーヒーを置いた

 

「マッジいなぁ…」

 

「ちょっと苦いですね…」

 

思っていたより苦い

 

と言うか、苦味しかない

 

「淹れ直してくれないか⁇飲めない…」

 

「うふふっ、私はこれでいいです。コーヒーは苦い物ですっ」

 

「俺のは頼む。カフェオレがいい」

 

「わかりましたっ」

 

カップを持って行き、キッチンでカフェオレを淹れている鹿島を、俺はしばらく見詰めていた

 

「もうすぐ出来ます…レイ⁇」

 

顔を上げた鹿島は、俺が居ない事に気付く

 

「レイ⁇あっ…」

 

背後から鹿島を抱き締めた

 

「俺は…死に損ないで、どうしようもない死にたがりだ。そんな奴でも良いのか⁇」

 

鹿島は、俺が回した腕に手を置いた

 

「レイはレイです。代わりは居ません」

 

「これを受け取ったら、さっき、お前が言った願いを叶えてやる」

 

台所にケッコン指輪の箱を置き、開けた

 

中には銀の美しい指輪が入っている

 

「レイ…愛してるわ…」

 

鹿島が指輪を受け取った後、彼女の後頭部に手を回し、長い口づけを交わす

 

「「「おめでと〜‼︎」」」

 

いきなり数本のクラッカーが弾け、ラッパの音が耳を突いた

 

「な、なに⁇」

 

現れたのは、基地にいる全員だ

 

「スティングレイもケッコンかぁ…長かった…」

 

数分前…

 

二人が部屋を出た後、しおいは目を開けた

 

何となく、スティングレイがプロポーズすると思い、まずパパの所に向かった

 

執務室では、武蔵とパパが書類の整理をしていた

 

「パパ〜、レイがプロポーズするよ〜」

 

「何っ⁉︎あいつもついにか‼︎」

 

パパにとっては、書類は二の次だった

 

「相手は誰だ、しおいよ‼︎」

 

「行ったら分かるよ」

 

それからしおいはみんなを起こしに回り、各人が出歯亀を開始

 

そして今に至る

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