「なるほど…食わせるのか」
「そっ」
「よし、もう一回やらせてくれ‼︎」
武蔵は再び魚を掴み、構える
目線の先にはアザラシがいる
「あのブツブツの生物を”狙う”行け‼︎」
「待て待て待て‼︎あ〜…」
魚が直線で飛んで行く
また直撃か⁉︎
そう思っていたが、猛スピードで飛んで来た魚を、アザラシは上手にキャッチし、口に入れた
「流石は”ゴマちゃん”だ‼︎ははは‼︎」
「武蔵…今、なんて…⁇」
「ん⁇あれはゴマちゃんだ。私が一番好きな生き物だ‼︎」
「…」
武蔵がまだ私の彼女だった時、実は何度かここに来た事がある
その時彼女は、ゴマフアザラシの事をゴマちゃんと言っていた
数秒前には、ブツブツの生物とか言っていたのに…
私は、一縷の望みを託し、武蔵に聞いた
「武蔵…俺の名前は⁇」
「ん⁇提督は提督だろ⁇」
「ん、そうだ」
やはり、記憶は戻っていなかった
「さぁ、次は何処へ行こう⁉︎」
一瞬思い出しては、消えて行く…
武蔵の記憶は、ずっとそんな感じだった
「ちょっと休憩…ふぅ…」
備え付けられたベンチに座り、一息つく
「あいすくりーむだと」
目の前の店の看板を見て、武蔵は食べたそうにしている
「食べるか⁇」
「うぬ」
ポケットから小銭を出し、武蔵に渡す
「提督は何がいい⁇」
「イチゴのミックスだ‼︎」
「うぬ‼︎」
しばらくすると、アイスクリームを二つ持った武蔵が帰って来た
「ちべたくて美味いぞ‼︎」
帰って来た武蔵は、既に自分の分を口にしていた
「ちゃんと手洗ったか⁇」
「そこに水道があった‼︎」
「俺も洗って来るよ」
水道で手を洗い、魚の生臭さを落とす
ハンカチで手を拭きながら戻ると、武蔵が目を逸らした
「ただいま〜っと」
「お…おかえり…」
「アイスちょうだい」
「は…はい…」
返って来たアイスは、半分無かった
明らかに食べた跡がある
「食べたか⁇」
「は…鳩が持って行ったのだ‼︎」
武蔵は必死に抵抗する
こういう武蔵は見ていて面白い
「口にいっぱい付けて…」
「なっ‼︎」
武蔵は何も付いていない頬と口周りを拭いた
「ははは‼︎引っかかったな‼︎」
「すまない…美味そうだったから、つい…」
「いいよ」
再びベンチに腰を下ろし、アイスを食べる
しばらく食べていると、武蔵が口を開いた
「提督よ」
「ん〜⁇」
「私は過去に、ここに来た事がある」
「え…」
武蔵の目線は私ではなく、小さな花壇に向けられていた
真ん中には、おそらく白雪姫であろう人形が建てられている
「大切な人に連れて来られたんだ…だから、うっすら覚えてる」
「どの辺で思い出した⁇」
武蔵は指で数えながら思い出す
「ゴマちゃんだろ…あいすくりーむだろ…そして、ここだ」
「ここで何したか、覚えてるか⁉︎」
武蔵はすぐさま答えた
「写真を撮った。その人は、珍しくここで写真を撮った」
「…」
私の机の中に仕舞ってある写真…
そして、居住区の家の書斎に置いた写真…
両方、ここで撮った物だ
「その人はいつも笑っていた…私とは、中々逢えないから…だから、私は彼の傍に居たいと…そう願った…」
「武蔵…」
心の中で思う
もう少し…
後一歩…
もう目の前まで来ている
後は、その”彼”を思い出すだけ…
「彼の名は…」
生唾を呑む
恐らく、出て来るのは私の名前だろう
その為に、今日この日まで名前を隠していた
「………ダメだ。もうそこまで来てるのに…すまない」
落胆する武蔵の背中に手を置き、ゆっくりさする
「いいんだ。少しずつ思い出せばいい…」
「色んな事を思い出す時があるんだ…ぷりんつと戦ってた時だって、今だって…なのに、何故名前が出て来ないのだ…」
「いいんだ…もう。パンクしちまうぞ⁉︎」
「提督よ…貴方はいつも優しいな」
「バカ。提督と艦娘の関係以上に、私達は夫婦だろ⁉︎」
「夫婦…か。そうだな‼︎」
武蔵の目に、少し輝きが戻る
「だが、一つだけ覚えておきたい」
武蔵は立ち上がり、花壇の前に立った
「ここは、私とその人を繋ぐ場所だ」
「武蔵」
振り返った武蔵を一枚、写真に収める
「おいおい‼︎ちゃんと体制立てさせてくれ‼︎」
「もう一枚撮るぞ」
レンズの向こうで、武蔵が微笑む
あの時と変わらない笑顔で…
シャッターを下ろしながら、私は涙を一粒だけ流した
「撮れたか⁉︎」
「撮れた撮れた‼︎出来たら見せてやるよ‼︎」
「うぬ‼︎では、皆の所に戻ろう‼︎」
「もういいのか⁇」
「あまり提督を独り占めしたら駄目だ。たいほうも、レイも、基地の皆が、貴方を待ってる」
「…分かった‼︎」
私達は皆のいる場所へと戻った
今はこれでいい…
焦らなくてもいい…
その思いが、余計私を悲しくさせていた…