俺は数日間、横須賀に滞在する事になった
理由は明白だ
《犬。何をしてるの⁇》
「プリン食ってんだよ。オヤツだオヤツ」
《犬は草で充分でしょ⁇》
「たまには甘いもんも食いたくなるんだよ」
ヘラは俺を引き剥がそうとする連中全てに火器を向けていた
見兼ねた横須賀は俺を引き止め、必要最低限の生活用品は誰かに運んで貰っている
《犬。機関砲が何か変よ。見て》
「開けるぞ⁇」
《…》
ヘラは無言で機銃部分を開けた
《モゾモゾするわ…》
「カナブンが入ってた。ほれ」
《外に放してやって》
「へぇ〜…」
ニヤつきながら、カナブンを外に放つ
《無益な殺生は好まないわ》
「優しいんだな、ヘラは」
《当たり前でしょう⁇》
「ほら、閉じるぞ」
機銃部分を閉じ、俺はパソコンに向かう
キーボードを叩き、設計図を書き上げて行く…
《犬はエンジニアだったわね》
「そう」
《どうしてパイロットになったの⁇》
「空は俺の帰る場所だ。それだけさ」
《私と一緒ね…》
「何だ⁇飛びたいのか⁇」
《…》
急に黙り込むヘラ
空を飛びたいのは本心で間違い無いようだ
「どうした⁇」
《…一緒に来て》
ヘラはキャノピーを開け、電子機器を起動した
「乗って良いのか⁇」
《黙って主人の言う事聞きなさい》
「へいへい…」
ヘラに乗ると、彼女はエンジンを吹かした
《乱暴な乗り方したら、途中で弾き出すわ》
「心配すんな。女はみんなデリケートに扱う」
《…行くわ‼︎》
格納庫からヘラが出る
もう無理矢理だった
格納庫でエンジンを吹かし、辺り一面に書類が舞う
「良いねぇ。これでこそ戦闘機だ‼︎」
ゆっくりと滑走路に近付くと、横須賀から無線が入った
《グレイゴーストに乗ってるの⁉︎》
「そうだ。ようやく姫の許可が下りた」
《ちゃんと面倒見てあげて‼︎彼女、飛ぶのは…》
突然無線が切れた
「ヘラ、お前か⁇」
《これ以上話す事があるの⁇》
「ふっ…そうだな。行こう‼︎」
運転はマニュアルになっている
再びエンジンを吹かし、離陸した後、高度5000まで上がる
「誰もいない…フリーダム‼︎」
両手を操縦桿から離し、思い切り上げた
《うるさいわね。ちゃんと操縦桿を握りなさい》
「よし、操縦を渡すぞ」
《嫌よ。今回は犬の散歩。犬が操縦して、飽きたら犬の操縦で帰りなさい》
「ヘラ。お前の空戦起動を見たい」
ヘラはしばらく悩んだ後、操縦をオートマチックに切り替えた
《…一回だけよ。失神したり、へばったりしたら承知しないわ。いいわね⁇》
「あぁ」
《しょうが無い…行くわ‼︎》
ヘラはスピードを上げ、旋回したり宙返りを繰り返し見せてくれた
「ほぅ…中々やるじゃないの」
《気絶しないのね。タフさは気に入ったわ》
「よし、仕上げは高起動ドローンを撃墜しよう。相手は二機出来るか⁇」
《私を誰だと思ってるの⁇》
フィリップでもまぁまぁ苦戦
隊長や俺達みたいな有人機でも苦戦必至の高起動ドローンだ
多少は苦戦するだろうな、とは思っていた
だが、ヘラはミサイルを使わず、機銃だけで二機をあっと言う間に撃墜した
「射撃の腕はピカイチだな‼︎」
《目が良いのは自慢よ》
そう言うヘラは何だか嬉しそうだ
彼女にとっては、初めての戦闘だったからだ
自分の力が、これでようやく示されたのだ
「帰ろう。みんな待ってる」
下を見ると、基地の連中が大勢手を振っていた
《ゴミに待たれても嬉しくないわ。機銃でも撃ちましょうか⁇》
「そう言ってやるな。着陸するぞ」
《えぇ》
着陸すると拍手で出迎えられた
あの高起動ドローンを歴代最速で叩き落としたのだ
しかも初戦でだ
《ゴミ達は何を喜んでいるの⁇》
「お前が凄く速くてカッコいいからだよ」
《レディに向かってカッコいいは無いわね。もう少し扱い方を学んだら⁇》
「じゃ、俺が言ってやろう。ヘラは凄く速くて可愛い、淑女な戦闘機だ‼︎」
《犬に言われても嬉しくないわ⁇》
「くっ…」
ヘラは再び格納庫に入り、俺は彼女から降りようとした
が、キャノピーが開かない
「あれっ…あらっ⁉︎」
《誰が出ていいって言ったの⁇》
これが隊長の言ってた”女王の反逆”か…
「よ〜しヘラ。お話しようか」
こうなった場合、満足するまで出してくれないらしい
《貴方、家族はいるの⁇》
「いるよ。ホラ」
内ポケットから鹿島の写真を出し、カメラの部分に向ける
《まぁまぁ綺麗なお嫁さんね…子供は⁇》
「居ないな…戦争が終わりゃ、一人二人欲しいな」
《犬に似たら最悪ね》
「嫁に似て欲しいよ…ほんと」
《明日も来てくれる⁇》
「来るよ、絶対。きそも呼んでいいか⁇」
《えぇ。あの子も犬を取られて退屈してるでしょうからね》