「隊長、ストップ」
「何だ⁉︎」
隊長は焦っていた
理由は聞かなかったが、こんなぬ寒い中、汗が流れているからだ
「深呼吸だ…吸って吐いてだ」
隊長が深呼吸するのと同時に、俺も深呼吸をする
二、三回深呼吸をした後、隊長は蟹瑞雲の暖簾を分けた
「よく来たな。好きな席へ…」
「待ち人がいる」
「お…おぉ…そ、そうか…」
久し振りに見た、隊長の殺人眼力
多分無意識に出ているのだろうが、流石の日向もたじろいでいる
日向に謝りつつ奥に行くと、グラーフ達空母会のメンバーが居た
その中には、見慣れない女性が一人居た
バブル景気からそのまま来ました‼︎見たいな風貌をしているその女性は、何処と無く隊長と似ている気がする
「あ〜っ‼︎サンダーバード隊の二人じゃん‼︎何やってんの⁉︎通りすがり⁇」
瑞鶴もいる
「よっ。今日は寿司じゃなくて鍋か⁇」
「空母の人集めて歓迎会してるのよ‼︎二人も座って座って‼︎」
「マーくんっ‼︎こっちこっち‼︎」
俺はサラの横に座ったが、隊長は立ったままだ
隊長は肩を落としながら、深いため息を吐いた
「…お袋っ‼︎」
「え''っ‼︎ウィリアム⁉︎」
アクィラの目と隊長の目が合った
「何やってんだよ、こんな所で…」
「こっちに配属になったのよ⁇お父さんもいるんでしょ⁇」
「いない。最近定年になって再婚した」
「あら…」
「良いじゃねぇか。もう離婚してんだろ⁇よいしょ…」
隊長はアクィラの横に座り、ポケットから煙草とライターを出した
「吸っていいか⁇」
「どうぞどうぞ‼︎お疲れ様‼︎」
「マーくんは⁇」
「んじゃあ、俺も…」
サラは相変わらず俺のタバコの火を点けてくれた
「まぁ…何十年も別れたままになっちゃったら、仕方ないよね⁇」
「国があんな状態だったんだ。親父を責めないでくれ」
「んっ。大丈夫よ‼︎それよりウィリアムは⁉︎結婚した⁉︎」
「した。子供も一人いる。こっち配属したなら、その内会うだろ」
隊長の母親であるアクィラは、結構能天気な話し口調でいた
隊長も隊長で、何十年も離れ離れだったのに泣きもしない
やはり、そこは上に立つ人間の気質なのだろうか…
いや、横須賀はボロ泣きしてたな…
「マーくんっ、はいっ、あ〜んっ‼︎」
「あ〜ん」
サラの手から、ほぐされた蟹を口に入れて貰う
「ウィリアムもしたい⁇」
「いいよ…」
「たいほうがしてあげる‼︎はい‼︎」
「んっ。んん⁉︎」
いつの間にかたいほうが来ており、隊長の横にチョコンと座っていた
「たいほう‼︎トラックさんの所に居たんじゃないのか⁉︎」
「うんっ‼︎もんぶらんおいしかったよ‼︎」
俺はこっそりアプリを開き、トラックにいる連中の一人にお礼を言った
リヒター> たいほうに食わせてくれてありがとう
そう打つと、すぐに赤髪のキャラの頭上に!マークが付き、反応を示した
まろん> いいって事よ‼︎たいほうちゃんは横須賀に着いたかい⁇
リヒター> 着いた。今横にいる
まろん> たまたま定時便がトラックに来たんだ。んで、大佐の基地に連絡を入れたら横須賀にいるってモンだから、横須賀に送ったんだ
リヒター> 助かったよ。今度、何かお礼をさせてくれよ⁇
まろん> 楽しみにしてっぜ‼︎んじゃな‼︎
まろんさんがログアウトしました
タブレットを仕舞い、蟹鍋をつつく
「たいほう。おばあちゃんだ」
「たいほうのおばあちゃん⁇」
「アクィラよ‼︎」
「あたしたいほう‼︎」
家族のやり取りを見ていて、ほんの一瞬箸が止まる
「マーくんにはサラがいるでしょ⁇」
「そうだな。すまん」
サラは何でもお見通しだ
横須賀と結婚したので、サラは義理の母に当たる
母である事に変わりは無い
甘えん坊な、普通の母だ
「たいほうのお母さんのお名前は⁇」
「たかこ‼︎」
「あら、日本の方と結婚したの⁇」
「そっ。話せば長くなる。貴子もその内会うさ」
「…マーくん。サラと出よっか⁇」
「いいよ。このままで」
「だ〜めっ‼︎このままじゃ、マーくん、サラとお話ししてくれないもの。みんなゴメンね〜‼︎マーくん借りま〜す‼︎」
「行ってらっしゃ〜い‼︎」
「また誘うからね‼︎」
無理矢理サラに手を引かれ、蟹瑞雲を出た
「いいのか⁇空母の集まりなんだろ⁇」
「…マーくん」
サラが此方に振り返る
その顔は、少し怒っている様に見えた
「空母の人達とは、いつでも逢えるわ⁇」
サラは俺の顔を掴み、額を合わせて来た
「だけど、それ以上にもっと大切なのは、パイロットのケアなの…」
「あ…」
この人も貴子さんと同じ感じがする…
これが…母性…
「サラがマーくんの好きなモノ作ってあげるわ‼︎来て‼︎」
サラに手を引かれ、横須賀の待つ執務室に来た
「あらレイ‼︎お母さんも‼︎」
「ジェミニ‼︎お母さんと来なさい‼︎」
「え⁉︎」
「マーくんっ。一時間したらここに来て⁇サラと約束よ⁇」
「分かった」
サラと横須賀は下にある厨房へと向かった
手持ち無沙汰になった俺は、久し振りに駆逐艦寮の前の広場に行く事にした
中心にある円型のベンチに横になり、タバコに火を点け、宙に向かって紫煙を吐く
周りがどんどん母親や父親と再会を果たして行く
たいほう…
横須賀…
そして隊長…
これだけ立て続けにそんな現場を見ていれば、自分も逢いたくなるのは必然かも知れない…
「やぁ」
初月の顔がアップで映った
「初月か。よっと」
ベンチに座り、初月を横に座らせた
「この前はありがとうな」
「何だ。知っていたのか」
「俺を誰だと思ってる⁇」
「マーカス・スティングレイ大尉。僕達の立派な上官だ」
「俺はお前達の上官じゃねぇぞ⁇」
「提督が言っていた。君の言う事は提督より正しいから、提督に何かあったら、君の所に行け、と」
「あいつ…」
「君は慕われてるんだな。あの聞かん坊な提督の信頼を勝ち取るのは相当な人だ」
確かに横須賀は我が強い
自分がこうと思えば必ず通す
金も好きだし、側から見ればかなりヤバい奴だ
だが、それでも俺に愛情を教えてくれたのはあいつに違いない
「あいつは良い奴だ。俺はあいつのダメな部分も含めて好きなんだ。じゃなきゃ、結婚なんかしねぇよ」
「なるほど…また何かあったら言ってくれ。提督と、君位は護ってみせる」
「ありがとう」
「じゃあな」
初月は立派になっていた
当初の自爆癖も治り、今では横須賀の基地では五本の指に入る程強くなった…
まだ待ち合わせの時刻には少し早いが戻ろう
執務室に戻ると、既に準備が進んでいた
「マーくん。もう出来るからね‼︎」
「待ってるよ」
横須賀がいつも座っているリクライニング付きの椅子に座り、貼ってあるポスターを眺めた
懐かしいな…
考えてみれば、あの頃から横須賀は俺を好いていてくれていたのか…
俺はあの時、グラーフが好きだったからな…
「さぁっ‼︎出来たわ‼︎」
サラの声で視線を前に戻すと、俺の好きなモノばかり用意されていた
フライドチキン
ポテト
コーラ
ピザ
ザ・アメリカの主食みたいな食べ物ばかりだが、俺が好きなモノばかりだ
「さぁさぁ、食べて食べて‼︎」
「いただきます‼︎」
早速フライドチキンを手に取り、口に運ぶ
「美味い‼︎」
「ふふっ。やっと笑ってくれた‼︎」
サラの料理は美味しかった
腹一杯食べさせてくれた
たいほうや照月が居たら喜ぶだろうな…
「マーくん、今子供達の事考えたでしょ⁇」
「何で分かった⁇」
「マーくんの考えてる事なんかお見通しよ⁇」
と、サラはウィンクをする
「レイはホント子煩悩ね…あ、そうだ‼︎明日学校誰来る⁇」
「たいほうだな」
「これ、たいほうちゃんに渡してくれない⁇」
横須賀は俺に原稿用紙を数枚渡した
「宿題か⁇」
「そっ。明日は授業参観でしょ⁇そこで作文を読むの。テーマは”貴方のお父さん、お母さん”よ」
「お父さんお母さん…か」
「ジェミニ‼︎」
「え⁉︎」
サラが吠えたのは、100%俺の為だ
「サラ、いい。俺も書きたい。もう少しくれないか⁇」
「あ、うん」
横須賀からもう少し原稿用紙を貰い、それを丸めて輪ゴムで縛った
「美味かったぁ〜‼︎また作ってくれ‼︎」
「うんっ‼︎サラ、マーくんの為ならいつでも作るわ‼︎」
サラの笑顔を見て、席を立った
「もう帰るの⁇」
「どうせまた明日会えるだろ⁇」
「ん…」
横須賀の額にキスをし、サラにウィンクを送り、執務室を出た
「ジェミニ⁇もう少し気を使ってあげなさい⁇」
「私、何か言っちゃった⁉︎」
「マーくん、お父さんとお母さんいないのよ⁇」
「…しまった」
時既に遅し
だが、本人は横須賀の言葉はあまり気にしていなかった
横須賀がレイに対して暴言を吐き続けた結果が、逆に功を奏したのであった…
数日前、たいほうはちゃんと作文を書いていたのを俺は覚えている
だから、この原稿用紙は俺一人で書こうと思う
先に基地に帰り、工廠の机で作文を書き始めた
「何書いてるの⁇」
パソコンに向かわず、黙々と紙に文字を書き続ける姿は、きそにとっては珍しく見えるらしい
いつもは両方動かしてるからな…
「作文だよ。明日学校で読む」
「出来たら見せて‼︎」
「笑わないって約束したらな⁇」
「多分笑わない」
「なら見せん‼︎」
「ケチー‼︎」
そう言い残し、きそは一人で食堂に戻って行った
結局、俺は作文を書くのに一晩掛かってしまった…