「きそ、階段はどうだ」
きそはペリスコープの様な物を取り出し、物陰から階段を覗いた
「ん〜…そこに一人いる。上は分かんないね」
「よし…」
階段の下にいる男に近付き、物言われる前に首を曲げて気絶させる
「いいぞ」
「初月にCQC教えたのって…レイ⁇」
「まぁな。俺のはシンプルで使い易いらしい」
きその緊張感の無い話し方は逆に助かった
二階に上がり、一旦壁に隠れ、きそはまたペリスコープを取り出し、廊下の様子を伺う
「うは〜…いっぱいいる」
「てかそれなんだ⁇」
「これ⁇きそスコープ。僕が造ったんだよ」
「で、何人いる⁇」
「5人は居るね…」
「はっちゃん達がいるのはその先か⁇」
「うん。執務室だね」
「…世話のかかる野郎だ」
俺は壁に隠れるのを止め、男達に向かって行く
一人を殴って気絶させた後盾にし、近場に居た一人は顎を蹴り飛ばしてダウン
残り三人は遠距離の為、腰にいつも付けている対艦用のピストルで足を撃ち抜く
「ちょっとでも反撃したらブッ殺すからな」
「うは〜…こわ〜…」
「もういいぞ。そいつらの武器集めとけ」
「おっ、オッケー‼︎」
きそは倒れた連中の武器を集め、両手に大量の武器を抱えて俺の所に戻って来た
「一人起きたから叩いちゃった…」
「今更一人殴った所で変わらん。行くぞ」
「うんっ‼︎」
恐らくはっちゃん達が居るであろう部屋の前に来た
「ここか…」
「いい、レイ。捕まえるんだよ⁇ブッコロはダメだからね‼︎」
俺はきその忠告を無視し、ライフル片手に扉を蹴り飛ばした
扉が開き、中にいた男性が此方に振り向き何かを言った
「誰だって⁇当ててみろよ。ビキニ環礁に招待するぜっ‼︎」
男性が持っていた銃を俺に向けた瞬間、俺はライフルの引き金を引き、持っていた銃を弾いた
「何故言葉が分かる…」
「日本語話せんのか⁇なら最初から話せ‼︎」
「お前は誰だ‼︎」
「俺⁇俺は”娘”を助けに来ただけのただの父親さ」
「マーカス様…」
「レイ‼︎」
「くそっ‼︎」
「あっ‼︎」
男ははっちゃんを掴み、喉元にナイフを突き付けた
「テメェ…」
「この女がどうなってもいいのか」
「マーカス様。はっちゃんは大丈夫です」
「お前も所詮は子供に弱い出来損ないだな」
そう言って、男はおもむろにはっちゃんの胸を揉みながら頬を舐める
「お嬢ちゃんもつくづく運が無いな。助かったと思ったら、助けに来たマーカス様まで人質になるとはねぇ」
「…今、何と言いましたか⁇」
「あん⁇ぐぁっ…」
目の色が変わったはっちゃんは、男の首を持ち、腕の拘束から逃れた
「今、マーカス様をバカにしましたねぇ」
「なんっ…」
「はっちゃん、マーカス様をバカにする人…許せないんです」
はっちゃんが腕を捻ると、男ははっちゃんの顔に血を吐いた
よほど怒っているのか、膝から落ちた男に追い討ちで顔面に右フックをかます
「これでトドメです。さようなら」
はっちゃんは足元に落ちていた銃を拾い、そのまま男の胴に銃弾を浴びせる
「はぁ…」
弾倉が空になると、はっちゃんは銃を床に捨て、此方に戻って来た
「マーカス様、お怪我はありませんか⁇」
「あ…あぁ…」
ニコッと笑うはっちゃんの顔には、返り血が付いており、その無邪気な笑顔がとても怖い
「とつにゅーーー‼︎」
きその掛け声と共に、屈強な兵が雪崩れ込んで来た
「犯人を確保‼︎重傷者一名‼︎軽傷者多数‼︎」
鹿島や棚町さんの拘束も一瞬で解かれた
「ふぅ…」
「硬質ゴムの弾で命拾いしましたねぇ」
「ありがとう、はっちゃん」
「はっちゃん、マーカス様に降り掛かる火の粉は…」
はっちゃんが話している途中で頭に手を置き、そっと撫でる
「あんまり人は殺すんじゃないぞ⁇味を占めたら…クセになっちまう」
「はい…分かりました」
「謝る必要は無い‼︎現に俺達は助かった‼︎だから謝るんじゃない。いいな⁇」
「はいっ、マーカス様‼︎」
はっちゃんは素直で良い子だ
だが、素直過ぎる故、俺の言う事は何でも遂行しようとしてくれる
今回だってそうだ
俺が「いつでもいいから、あの二人の情報が手に入れば教えて欲しい」
と言った次の日にこうして事件に巻き込まれた
ちゃんとした意思疎通をしなければ、もし俺が万に一つ誰かを「殺したい」とでも言ってしまえば、はっちゃんは素直だから、そいつを殺しに行くだろう…
「さっ、お家に帰るぞ」
「あっ、レイさん‼︎せめてお風呂と食事位は‼︎」
そう言われ、はっちゃんの顔を見る
「ん…そっ、そうだな‼︎このまま帰ったら心配されるな‼︎よしお前ら、風呂行って来い‼︎」
俺がそう言うと三人は「分かった‼︎」と言い、パタパタと走って行った
残ったのは気不味い三人…
「まぁ…その、なんだ。済まなかったな、ウチの娘が」
「いえ、助かったのは此方です‼︎テロリストも確保出来ましたし、不審船の拿捕も出来ました」
「そっか。んじゃっ‼︎俺はお言葉に甘えて食事でもしますかねっ‼︎」
ライフルを背中に仕舞い、背伸びをしながら執務室を出ようとした
「あっ…あのっ‼︎レイ‼︎」
此処に来てから、俺は鹿島を視線に入れなかった
今も鹿島に背中を向けている
「…なんだ⁇心配するのは俺じゃなくて、そっちにいる奴だろ⁇」
「来てくれてありがとう…」
「俺は娘を迎えに来たんだ」
「あ…」
鹿島と棚町は黙っている
俺は一呼吸開け、言いたくなかった事を言った
「…一度惚れた女だ。惚れた女は守る。それだけだ。じゃあな」
「あ…」
あまりあの二人の傍に居たくなかった
棚町は好きだ
鹿島も好きだ
だが、それは”人として”だ
棚町も鹿島も、俺を恨んでいるだろう
「ふぅ…」
「マーカス様」
執務室を出ると、はっちゃんが立っていた
「出歯亀は良い趣味とは言えんぞ⁇」
「ごめんなさい…あの…」
「どうした⁇」
「はっちゃんの顔、洗って頂けませんか⁇」
はっちゃんは返り血の所為であまり前が見えていなかった
多分、今の俺の顔もぼんやりと見えているだけだろう
「よしよし。行こう」
はっちゃんと手を繋ぎ、浴場に向かう
浴場に着くと、中からきそとしおいが騒いでいる声が聞こえた
「マーカス様は立派な体をされていますね」
「たま〜に言われるよ」
そうは言うが、言われたのはりさ一回のみである
服を脱いで浴場の扉を開けると、きそとしおいが浴槽に飛び込んで遊んでいた
「お湯全部出すなよ‼︎」
「うはは〜‼︎分かった〜‼︎」
きそもしおいも、俺が入って来る事に何のためらいも無い
普段一緒に入る事が多いからか、子供達は普通の事だと思っているみたいだ
「よ〜し、シャワー出すぞ〜」
「お願いします」
はっちゃんの顔にシャワーを当てると、ドンドン血が落ちて行った
柔らかい顔を手の平で拭うと、いつものはっちゃんの顔が出てきた
ある程度血が落ちると、はっちゃんは顔を振るわせ、水滴を落とした
「俺の顔が見えるか⁇」
「はいっ。見えます」
「後は出来るか⁇」
「はい。お手数おかけしました…」
「気にするな。血塗れじゃ、可愛い顔が台無しだからなっ」
はっちゃんの横に座り、俺も体を洗い始める
「マーカス様、はっちゃんが背中を流します」
「おっ‼︎頼めるか⁉︎」
「はいっ‼︎」
一応はっちゃんの手にしている物を見る
…普通のゴシゴシタオルだ
プリンツの一件から、背中を流して貰う時、チョットビビっている
あの鉄タワシは痛かった…