艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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141話 神様なんていない(2)

次の日の朝…

 

俺は急用があり、また横須賀に来ていた

 

大した事では無く、用はすぐに済んだ

 

朝ご飯もまだだったので、俺は繁華街で何か腹に入れようとした

 

その道中に教会があった

 

おれは早歩きで教会の前を通り過ぎようとした

 

「ん⁇」

 

教会の中からオルガンの音色が聞こえた

 

とても綺麗な音色で、聞き覚えのある曲が耳に入る

 

入りたくなかったのだが、聴き入る程の音色だ

 

どうしても気になった俺は、教会の扉を開けてみた

 

教会の中はヒンヤリとした空気に包まれており、昨日の雰囲気とは少し違う

 

あぁ、これが神の御前って奴か…

 

俺は教会の中でも関係無くタバコに火を点け、オルガンの主に近付いて行く

 

教壇の近くにオルガンはあり、一人の少女が鍵盤を打っていた

 

俺はオルガンを撫でながら少女に近付いて行く

 

「懐かしいな…」

 

「だぁれ⁇」

 

顔を上げた少女は、目の前にいる俺をキョロキョロして探す

 

どうやら盲目の様だ

 

「神様だといいな」

 

「神様⁉︎マジパナイ‼︎」

 

あ、結構明るいのな…

 

「随分懐かしい曲が聴こえてな。ちょっと寄ってみたんだ」

 

「そうですか。この曲は”きぬ”が昔住んでいた街を救ってくれた人が教えてくれた曲なんです‼︎」

 

「俺もどっかの街でその曲を覚えた。懐かしいな…」

 

「元々は軍楽隊の人が作った曲らしいんです。その人は、その軍楽隊の人の為に今でもこの曲を色んな楽器で弾いているとか」

 

「…」

 

俺が急に口を閉ざすと、きぬはキョロキョロし始めた

 

「あの…急に黙られると怖いです」

 

「あ…あぁ、すまん。その人とは会った事あるのか⁇」

 

「顔は見た事ありません。きぬは目が見えませんから…」

 

「そっか…邪魔したな。また来るよ」

 

「いつでも来て下さい。きぬはここに居ます‼︎」

 

きぬに別れを告げ、俺は教会を出た

 

「へぇ〜…アンタが神に祈るとはねぇ」

 

教会を出ると横須賀が待っていた

 

「違ぇよ。懐かしい曲が聴こえたから入っただけさ」

 

「そっ。コーヒーでも飲みましょ」

 

俺は横須賀に腕を組まれ、間宮に向かった

 

間宮の朝は忙しい

 

沢山の工兵や遠征前の艦娘が、ここで体を温めて行くからだ

 

俺達はいつも座っている席が空いていたのでそこに座ってコーヒーを注文する

 

「マーカス大尉‼︎」

 

注文を待っていると、呼ばれ慣れない呼び方で誰かに呼ばれた

 

「初月か⁇面と向かって会うのは久しぶりだな⁇」

 

「中々挨拶出来なくてすまない」

 

出会った当初とは、性格が打って変わった

 

最初こそ手に負えないボンバーちゃんだったが、最近では俺が横須賀に来た時に隠れた位置からしっかりと警護してくれている、立派なボディーガードだ

 

「初月は今日はお休みなのよね⁇」

 

「そうだ。だが心配するな。マーカス大尉と提督の警護はしっかりと遂行している。今現在もな」

 

「誰だ⁉︎」

 

全く気配がしない

 

見られてる感じもしない

 

と、言う事はよっぽど隠れるのが上手な奴だ

 

「今日は今から繁華街でお買い物をするんだ」

 

「気をつけてな。そうだ‼︎チョットだけ小遣いをやろう」

 

「構わん。僕のお金で買う」

 

「なら昼飯代にでも回せ…あ、そっか、俺達はタダか…」

 

「ふふっ。だから要らないと言ったんだ」

 

初月が笑う

 

初月の笑顔を見れるのは結構珍しい

 

「では、行って来ます」

 

「楽しんで来なさい」

 

初月は俺達に手を振り、間宮を出た

 

「変わったな、初月」

 

「初月は私達を護衛する事に価値を見出してるの。ボンバーちゃんの癖が抜けたら、結構大人しくて可愛かったわ‼︎」

 

ついでに横須賀も変わった

 

コイツ、少し前までは身分にモノ言わせて自堕落な生活をしていたのに、娘が産まれてから変わった気がする

 

前までの横須賀なら、誰が休みとか一人も把握していなかったハズだ…

 

「コーヒーお待たせしました‼︎」

 

間宮にコーヒーを貰い、角砂糖とフレッシュを入れ、かき混ぜる

 

「シスター達の様子はどうだ⁇」

 

「アンタが心配してる程じゃないわ。アンタと違って、艦娘の子は神を信じる子は多いわ」

 

「目に見えない奴を信じろ…か…」

 

コーヒーを置き、タバコに火を点ける

 

紫煙を肺いっぱいに入れ、それを一気に吐く

 

「さっき聞いてたオルガンの曲…あれは限られた人間しか知らん」

 

「軍楽隊が演奏してた曲⁇」

 

「そうだ。曲は知ってたとしても、弾けるとなると本当に限られて来る」

 

「イギリスのあの街よね…私もよく覚えてるわ…アンタに壁ドンされた街だから」

 

「いらん事は覚えてるのな…」

 

俺はため息を吐くが、横須賀は笑っている

 

ひとしきり笑った後、横須賀はコーヒーを飲み干して立ち上がった

 

「さっ、私は執務室に戻るわ。アンタは基地に戻るの⁇」

 

「そうだ…なっ‼︎」

 

急に立ち上がり、横須賀に壁ドンしてみた

 

「お前からお別れのキスを貰ったらな⁇」

 

「えっ‼︎チョット…」

 

横須賀の顎を上げ、目を見つめる

 

「たまにはお前からしてみろ」

 

「んん〜っ‼︎」

 

横須賀は必死に背伸びをする

 

「届かない…んん〜っ‼︎」

 

「はぁ…」

 

横須賀の顎を更に上げ、言った通りにお別れのキスをする

 

間宮の店内から歓声が上がる

 

「ヒューヒュー‼︎良いね提督‼︎」

 

「流石はレイさん‼︎憧れるぜ‼︎」

 

艦娘の子も、ゴリゴリの野郎達も一緒になって盛り上がる

 

唇を離し、真っ赤っかになっている横須賀の頭を撫でる

 

「ホラ、行け」

 

「ん…」

 

横須賀は恥ずかしそうに間宮から出て行く

 

出口付近で横須賀は足を止め、此方に振り返った

 

「レイ、ありがと」

 

俺は余ったコーヒーを飲みながら、横須賀に手を振った

 

横須賀は笑顔で間宮を後にした

 

「良いカップルですね‼︎」

 

間宮も勿論事を見ていた

 

「アイツはあぁ見えて、結構乙女だからな…」

 

その時の俺は余程嬉しそうな顔をしていたのだろうか

 

この後しばらく、艦娘や野郎達に散々おちょくられた

 

 

 

 

基地に戻ると、食堂でたいほうとひとみといよがカーペットの上でお絵かきをしていた

 

俺はそんな三人を見ながら、久しぶりに部屋からギターを持って来た

 

「おっ‼︎レイのリサイタルだ‼︎」

 

俺のギターにいち早く反応したのは意外にも隊長だった

 

「あら‼︎レイ君のギター久しぶりね‼︎」

 

その次に貴子さんも反応を示す

 

「あんまり弄らなさ過ぎると悪くなるからなっ」

 

ソファーに座り、ギターを弾く

 

俺は知りたかった

 

今日聴いたあの曲…

 

ここで知っているのは、隊長とグラーフだけだ

 

教会で聴いた曲と同じ曲を、俺はギターで奏でる

 

足元にいた子供達もお絵かきを止め、此方を見ている

 

「懐かしい曲聴こえた」

 

グラーフも来た

 

やはりグラーフも知っている

 

曲が終わると拍手され、隊長が言う

 

「懐かしいな…」

 

「グラーフも知ってる」

 

「やっぱ隊長とグラーフは知ってるか…」

 

「すてぃんぐれい、そのおうたなぁに⁇」

 

たいほうが無邪気に聞いて来た

 

「これはな”恋のマリーゴールド”って曲だ」

 

「まりーごーるろってなんら⁇」

 

「きそしゃんのしゅきな、きいろいしゅわしゅわのじゅーすか⁇」

 

ひとみといよが腕を組んで悩んでいる

 

「この曲はな、俺の友達が遺してくれた大切な曲なんだ」

 

「照月知ってるよ‼︎」

 

照月は山盛りの枝豆を食べながら答えた

 

「お兄ちゃん、この前夜に弾いてたよね⁇それとそのジュースは”現実的ゴールド”だよ‼︎」

 

「しょっかぁ〜‼︎」

 

「げんじちゅてきごーるろかぁ〜‼︎」

 

ジュースの名前を知ったひとみといよは、たいほうの膝の上でゴロゴロし始めた

 

「たいほうのおひざでねんねする⁇」

 

「たいほ〜…」

 

「たいほ〜…ふぁ…」

 

俺のギターを聴いて眠たくなったのか、ひとみもいよもたいほうの膝の上で眠ってしまった

 

「ねんねんころり〜ぶっころり〜」

 

たいほうは二人の頭やお腹を優しく叩いたり撫でたりしながら、スヤスヤ眠る二人の寝顔を見て微笑む

 

歌っている子守唄が怖かったけどな…

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