数日後、たまたま会ったアレンと話しながら歩いていると、いつの間にか教会の前に来ていた
そしてまた、あの曲が聴こえてくる
「随分懐かしい曲だな」
「お前も知ってるのか⁇」
「まぁな。キャプテンが作曲して、軍楽隊に提供したのを覚えてる」
「ラバウルさんが作ったのか⁉︎この曲を⁉︎」
「作っただけだってキャプテンは言ってた。曲名付けたのは軍楽隊のメンバーだって」
「来い」
アレンと共に教会に入る
教会の中には、やはりきぬがいた
「相変わらず精が出るな」
きぬはオルガンを弾く手を止め、声がする方に顔を向けた
「その声は…」
「きぬ。その曲を作った人が分かったんだ」
「エドガーさんですよね⁇」
「知ってるのか⁉︎」
「えぇ。きぬはエドガーさんからこの楽譜を貰いました」
きぬの前には、点字で書かれた楽譜が置いてある
恐らく、世界で一つしかない楽譜だ
「きぬが会いたいのはエドガーさんじゃないのか⁇」
「エドガーさんにも勿論会いたいです…でも、この曲を一番最初に教えてくれた人に会いたいです」
ますます謎は深まる…
基地に帰ってもそれは同じだった
「えいしゃんおなやみ⁇」
「ひとみたちがきいたげう‼︎」
まさか子供達に心配されるとは…
二人はいつものように俺の膝の上に乗る
目の前では、たいほうがピアノのオモチャで遊んでいる
「すてぃんぐれい、このまえのおうたおしえて⁇」
「あぁ。おいで」
ひとみといよを膝の上に乗せながら、たいほうの後ろからピアノに手をかける
「ここはこう」
「こう」
たいほうは物覚えが早い
あっと言う間に最初の部分を覚えていた
「たいほうはピアノ好きか⁇」
「たいほうぴあのすき‼︎」
「えいしゃんすごい…」
「なんでもできう‼︎」
膝の上ではしゃぐ二人を見て、俺はふと思い出した
過去にこうして教えた事がある…
…まさか‼︎
次の日の早朝、俺は早速教会に向かう
相変わらず、あの曲が流れている
俺は教会に入り、きぬに近付く
「神はいたか⁇」
オルガンをさすりながら、きぬの隣に来た
「あっ‼︎おはようございます‼︎」
きぬはいつもの様にオルガンを弾くのを止め、声のする方を見る
「いつも途中で止まるのな」
「あ、あはは…実はこの先は分からないんですよ…あまり聞いた事も無くて、楽譜も無くて…」
きぬは後頭部を掻きながら笑っている
「ここはだな…」
「あっ」
きぬの手を取り、鍵盤に触れさせる
鍵盤を押すと、教会内に音が反響する
数秒後に静かになり、また鍵盤を押す
それを繰り返す
「思い出したか⁇」
「貴方、マーカスさんですか⁇」
「マーカス・スティングレイは俺の名前だ」
「あぁっ…」
きぬは笑っているが、目からは涙が落ちていく
「きぬ、ずっとマーカスさんに逢いたかったんです‼︎だから毎日お祈りして‼︎それで…」
「神は残酷だな」
「へ⁉︎」
俺はタバコに火を点け、きぬに背を向けた
目の前には、御神体がデカデカと置かれている
「目の前に逢いたい人がいるのに、その人を見る事も出来ない」
「いいんです…この目は、神様がきぬに与えた試練ですから…」
「ならっ…きぬは望んだのか⁇その試練とやらを」
「いえ…」
「俺は神を信じてない。平等を謳って、結局屁理屈でそれを捻じ曲げて、人の上に人を作るからな」
「そんな事…言わないで下さい…」
きぬの声に覇気が無くなって来た
「きぬはそんな神に何を望む⁇」
「きぬは…目が見える様になりたいです…」
「目が見えたら何をしたい⁇」
「マーカスさんの顔を見たいです‼︎それに、いっぱいいっぱい楽譜を覚えて、人に聞かせてあげたいです‼︎」
その答えを聞いて、俺は肺に溜めた紫煙を吐き出した
「だったら、俺がお前の神になってやる」
「マーカスさんが…神様に、ですか⁇」
「望まない試練を与える奴より、今お前の目の前にいる奴を信じろ」
「マーカスさん…」
「事が終わったら、俺はもう一度同じ事を聞く。その時は答えを聞かせてくれ」
「…はいっ‼︎」
きぬの返事を聞き、俺はきぬを抱き上げた
「へっ⁉︎何処に行くんですか⁇」
「黙って掴まってろ」
きぬを抱き上げたまま、俺は教会を出た
そんな二人の様子を、誰かが天井から見ていた
「うっはぁ〜…メッチャカッコいい…」
その誰かは、手に握っていたT-爆弾を仕舞い、二人が教会に出るまで天井から見届けていた
「拉致なのです‼︎」
「マーカスさん…そんなに溜まってるの⁇」
外に出ると、運悪く雷電姉妹に出くわした
「急用だ。医務室まで道開けられるか⁇」
「仕方無いのです」
「分かったわ‼︎」
聞き分けは良いんだけどなぁ…
雷電姉妹が道を開けてくれたお陰で、医務室まですぐに着けた
「お前ら、チョットそこで待ってろ」
「電はもう行くのです」
「待ってるわ‼︎」
俺が医務室に入ると、雷電姉妹は軽く口論を始めた
「おい‼︎何で待つ必要があるのです‼︎」
「命令かもしれないじゃない‼︎」
「…仕方無いのです」
雷電姉妹は近くに備えられたベンチに座り、足をプラプラしながら俺の帰りを待ち始めた
きぬを診療台に寝かせ、俺は機材を準備する
「怖いか⁇」
「怖くないです。目の前に神様がいますから」
「その調子だ。目を閉じて…」
きぬは言われた通りに目を閉じた
きぬに酸素マスクを付け、全身を溶液に浸して行く…
「一時間したら目を開けてご覧」
「分かりました」
修復材に浸されたきぬは眠りについた
俺の仕事はここまでだ
「明石」
「はい」
「後は任せる。一時間後にシスター達をここに呼んでくれ」
「畏まりました」
もう大丈夫だ
あの液体にしばらく浸かれば、目位は見える様になる
医務室から出ると、雷電姉妹はちゃんと待っていた
「待ってやったのです」
「あの人は大丈夫なの⁇」
「もう大丈夫だ。行くぞ」
雷電姉妹は顔を見合わせ、不思議に思いながらも俺の後を着いて来た
「どこ行くの⁇」
「ん〜⁇たまには何か買ってやろうと思ってな」
着いたのは繁華街にある雑貨屋
「いらっしゃいませ〜」
ここならある程度のモノは揃っている
「好きなの持って来い。今日の御礼だ」
「行ってくるわ‼︎」
雷は嬉しそうに行くが、電は何故か俺の足元で渋っていた