空に上がると、既に星が見えていた
夜はいい
神経が高ぶる気がする
深呼吸をした後、はっちゃんが話しかけて来た
《マーカス様。音楽をかけてもよろしいですか⁇》
「良いのを頼むぞ」
俺は単独飛行の時、よく音楽を聴きながら飛ぶ
AIの載った機体に乗る時なんて特にだ
それはきそも知っている
きそはよくゲームのBGMを勝手に流しながら飛ぶ
時折BGMに合わせてテンポ良く敵機を落とす位だ
はっちゃんは何を流すかな…
「へぇ」
流れて来たのはムーンリバー
今のこの状況にピッタリだ
「そういやぁ、さっき何か言いたそうだったな⁇」
《…》
何故かはっちゃんは黙ってしまった
余程言い難い事なのだろうか⁇
《マーカス様》
「ん⁇」
《…月が綺麗ですねぇ》
何となく分かった
これは告白だ
随分前に、はっちゃんがAIの時に読み聞かせた本に出て来たセリフだ
言われたならば、答えを返さなければならない
「悪いな。死ねない体なんだ」
《ふふっ。マーカス様らしいお答えです。安心しました》
はっちゃんは察してくれたみたいだ
だが、その気持ちは充分伝わった
嬉しいの一言だ
「ありがとう」
《忘れないで下さい。はっちゃんの心は、いつもマーカス様のお傍にあります》
良い子を持ったな、俺は…
《マーカス様。ジェミニ様から通信が…切り替えます》
無線が切り替わり、横須賀の声が聞こえた
《浮気⁇》
「出歯亀は良い趣味とは言えんな」
《まぁいいわ。夜間戦闘の演習に付き合ってくれない⁇アンタ丁度いい場所にいんのよ》
「何機だ」
《三機よ。終わったら横須賀で補給してもいいから。ねっ⁇》
「ったく…遅えんだ…よっ‼︎」
喋っている間に、震電がグリフォンを横切って行く
《マーカス様。はっちゃん、戦闘機として戦うのは初めてです》
「やってみるか⁇」
《やってみます》
「よしっ。とりあえず一機に撃墜判定を出してみろ。二機目は俺が代わる。三機目は応用ではっちゃんが落としてみせろ」
《むっ。頑張りますね》
ムーンリバーが流れたまま、グリフォンがオートに切り替わる
普段きそが中に入っている時は、セミオートにしている為、完全なオートはヘラ以来だったりする
はっちゃんの操縦するグリフォンは、きその操縦する時の体当たりの様な鋭さは無いが、キチンと狙ってキチンと撃墜判定を出す、と言った丁寧な戦い方をしている
一定の距離を取り攻撃
ロックされればすぐさま離脱
几帳面な戦い方をし、震電の一機に撃墜判定を出す
《操縦を渡します》
「オーケー」
操縦を代わり、近くにいた一機に狙いを定める
「フーン、フンフーン…」
ムーンリバーを鼻歌で歌いながら、敢えて震電を背後につかせた
「見てろはっちゃん。こういう戦い方もある」
一機にブレーキをかけ、操縦桿を引く
《うわっ‼︎わぁっ‼︎》
グリフォンはまるで後転するかの様に、震電の頭上を越えて後ろ向きに回転
その一瞬の隙を突いて、機銃のトリガーを引き、撃墜判定を出す
「今のがフルバックだ」
《凄いです…マーカス様はいつもこの様な戦い方を⁇》
「たま〜にだ、たま〜に。さっ、操縦を渡すぞ」
《フルバック…した方が良いですか⁇》
「しなくていい‼︎あぁいった起動もあるってだけだ‼︎」
《いきます‼︎》
はっちゃんは先程よりも鋭さを増した飛び方で震電を追い込む
震電とはいえ、やはり最新鋭機には勝てなかった様だ
…ちょっと複雑だな
《やりました‼︎》
「よくやった‼︎」
《ありがと。横須賀に来て頂戴》
演習が終わり、横須賀に向かう
のちにこの演習は”ムーンリバーの教え”と呼ばれ、無人機教育の教本に載る事となる…
「レイっ‼︎」
横須賀に着くと、すぐに横須賀が来た
「はっちゃんとデート中だったの⁇」
「だな、はっちゃん」
《名古屋港”すいぞっ”館に行って参りました》
「そうだ。子供達にこれをやってくれ」
俺はミサイルハッチを開け、中から袋を出した
「私のはな…アイタ‼︎」
「言うと思った」
言われる前に横須賀の額に箱を当てる
「机の上にでも置いとけ」
「あらっ、イルカのスノードーム…ありがとっ‼︎」
横須賀はいつもの様にキスしようとするが、俺はそれを指で止めた
「デート中だ」
「そうね…ごほん」
《はっちゃんの事はお気になさらず。ささっ、ブチューっと》
「お前最近きそに似てきたな…」
「きそちゃんがはっちゃんに似てるんじゃないの⁇」
「どうだかな…」
その辺はちょっと複雑だ
一番最初に造り出したのは、アイリス…今のはっちゃんだ
だが、はっちゃんのボディを創り出したのはきそだ
考えると分からなくなる
補給を終えて、俺達は横須賀を発とうとした
《ジェミニ様が手を振っています》
「この瞬間は嫌いだ…」
《何故ですか⁇》
「無性に愛おしくなるんだよ、アイツが」
《なるほど…》
いつもは口煩い横須賀だが、見送りとベッドの上ではしおらしくなる
その瞬間が無性に愛おしい
そんな横須賀を横目に、グリフォンは横須賀を出た
基地にグリフォンが帰って来た
「ふぅ…」
《マーカス様。本日はありがとうございました》
「また行こうな、絶対」
《はいっ‼︎》
「えいしゃんかえってきたお‼︎」
「ごはんできてるお‼︎」
グリフォンのタラップを降りると、ひとみといよのお迎えが来た
「すぐ行くって言っといてくれ」
「わかた‼︎」
「はよこいお‼︎」
ひとみといよを食堂に戻らせ、ミサイルハッチからお土産が詰まった袋を取り出し、一旦床に置く
「はっちゃん」
「はいっ」
「こっちおいで」
はっちゃんを手招きし、近寄って来た所で唇を合わす
「マーカス様⁉︎」
「嫌だったか⁇」
唇を離すと、はっちゃんは真っ赤になっていた
「い、いえ‼︎とても嬉しです‼︎」
はっちゃんはテンパって言語がおかしくなっている
「デート中忘れてたからな」
「あ、あああありがとうございます‼︎」
「さっ‼︎飯食うぞ‼︎」
「は、はひっ‼︎」
はっちゃんは俺の後ろをカチカチになりながら着いて来た
夕食を食べ終え、お土産を配る
「いるかしゃんら‼︎」
「ひとみにくえうの⁉︎」
「たいほうのもある‼︎」
ひとみ、いよ、たいほうの三人は、あのピープー鳴るイルカのぬいぐるみを気に入ってくれたみたいだ
現に三人は、イルカのぬいぐるみをピープピープピープと鳴らせながら嬉しそうに振っている
他の子にもぬいぐるみ系のオモチャを渡す
「照月のはないの⁇」
「照月はこっちの方がいいだろ⁇」
照月にはあの小さくてブルブル震えるカピバラのぬいぐるみと、大量のお土産用のお菓子を渡す
「わぁ〜‼︎可愛い‼︎おいひ〜‼︎」
照月は机の上でカピバラをブルブルさせながらお菓子を頬張る
「レイ。私達には無いの⁇」
「お・か・し‼︎」
ローマ以外の大人には好評だ
隊長も貴子さんも母さんもパクパク食べている
「…まぁいいわ。ありがと」
不貞腐れながらも、ローマはお菓子を口にする
こうして、はっちゃんとのデートは幕を降ろした
その日の晩、皆が寝静まった後、俺は誰かの部屋をノックした
部屋の中の人は眠っていた為、俺はコッソリ部屋に入り、ベッドの横の台にネックレスの入った箱を置き、部屋を出た…
好きと言われれば何かしてやりたくなる
だが、彼女は大人だ
子供達の前ではいつもそれを隠している
だからこそ、こうして人目の付かない時に渡すしかない
「おやすみ、ローマ…」
彼女の寝顔を見て、俺は部屋を出た…