「杖を取ってくれ」
「はい」
「悪いな」
これじゃあまるで、介護されているみたいだ
空は遠いな…
「ゆっくりでいいわ」
「大丈夫。じきに慣れる」
朝が一番辛い
体が中々覚えてくれないのか、しばらくは真っ直ぐ歩けない
「着いたわ。いいリハビリになったかしら⁇」
病院から海は目と鼻の先にある
それでも埠頭まで30分程かかった
「あぁ…ちょっと疲れた」
「今日は座っても楽しめる物を持って来たわ‼︎これよ‼︎」
ビスマルクの背負っていたリュックサックから、釣竿が出て来た
「なるほど…これなら楽しめるな」
「じゃあ、私はここで絵を描いてるわ。しばらくしたら、レストランでお昼にしましょ」
釣り糸を垂らし、ボーッとウキを眺める
後ろでは、ビスマルクが何かを書いている
「早く釣りなさい」
「言われて釣れるもんじゃない」
またしばらくの沈黙が続く…
ビスマルクは黙々とペンを走らせ、私は時たま揺れるウキに何度も反応していた
「ねぇ…」
ビスマルクが急に口を開いた
「ん⁇」
「私は、戦う為に産まれたの⁇」
「…」
ビスマルクの急な質問に、息が詰まりそうになった
「隊長さん⁇」
「ビスマルクは、戦いたいか⁇」
「そうね…戦いはした事無いけど、私はお絵かきしてる方が幸せかな⁇」
私はウキを見ながら、あの日の事を思い出していた
「俺は…もうゴメンだ」
「そんなに辛かったの⁇」
「…昨日、一緒に笑って、一緒にビールを飲んだ仲間が、次の日にはもう居ないんだ。二度と相見える事もない。戦いってのは、そんな事が日常で起きる。ビスマルクは、明日俺に会えなくなったら、どう思う⁇」
「困るわ‼︎誰が私に色んな事を教えるのよ‼︎」
「それがビスマルクの答えだ。戦いは、好きな奴にやらせればいい」
「そう…」
「来た‼︎」
ようやくウキが沈み、竿を引き上げた
「お…」
「あら、小さい」
釣り上げたのは、小さな小さなイワシみたいな魚だった
「行け」
針を外し、そのまま海へ返した
「ご飯にしましょう‼︎横須賀君から、ちょっとだけお金を貰って来たわ‼︎」
「それくらい出してやる。よいしょ…」
釣竿を片付け、ビスマルクに返すと、スケッチブックを渡して来た
「上手かしら⁇」
ビスマルクが描いていた絵は、釣りをしている私の後ろ姿だ
「これは…」
「もちろん隊長さんよ‼︎男前に描きすぎたかしら⁇」
「これ位が丁度良い」
「さ、行きましょ」
病院の近くに建てられたレストランに向かう道中、またしてもスクランブルの機体が上がって行く…
「あの機体は⁇」
「あれはF-22。名前はラプターだ」
「T-50と形が似ているわ」
「T-50はロシア、F-22はアメリカの戦闘機だ。どっちもステルス性能が極めて高い」
「ステルスってのは、レーダーに映らないのよね⁇」
「勤勉だな」
「さ、着いたわ」
店内は空調が効いていて、とても涼しい
「私はハンバーグ。隊長さんは⁇」
「俺はスパゲッティ」
店員が去ると、ビスマルクは何かを取り出した
「これは何て機体⁇」
「これはMig-29。名前はファルクラム。量産機だ」
ビスマルクが出したのは、小さな戦闘機のおもちゃだった
「これは⁇」
「これはF-16。名前はファイティングファルコン。マルチロール機だ」
「ホントに詳しいのね‼︎」
「俺は…」
Mig-29のおもちゃを手に取り、ビスマルクの前に出した
「こんな機体を、何十何百と相手して来た。嫌でもその内分かった…」
「…」
ビスマルクはため息を一つ吐くと、おもちゃを仕舞い始めた
「ご飯が来たわ‼︎」
「あぁ…」
その時私は何故か分からないが、Mig-29のおもちゃをポケットに入れてしまった
「美味しいわね‼︎」
「俺のも食べるか⁇」
「いいわ。食べて強くなりなさい」
「それは俺のセリフだ」
「ご飯を食べたら、私は帰るわ」
「そっか…」
私はゆっくり食べた
何度もドリンクバーに行き、時間を費やす
昨日の横須賀君の言葉が、どうしても気にかかったからだ