「行きましょう」
「やる様になったな…ははは」
健吾と俺の足元には、数人の老人が倒れている
「生きる為に殺す…食べるのと一緒ですよ。行きましょう」
健吾に救われる日が来るとはな…
昔は無愛想ないけ好かないガキだと思ってはいたが、北上や大和ど出逢って随分変わったみたいだ
銃声が響いた直後、ラバウルさん達のいる部屋では、ラバウルさんときそがパラオの提督の確保に移ろうとしていた
「ふふっ…やはり当たりでしたね」
「さっ、確保に移ろう‼︎」
きそとラバウルさんはほぼ同時に立ち上がり、パラオの提督の両サイドに着こうとした
「ケツの青いガキが…わしを確保するなんざ100年早いわ‼︎」
パラオの提督は机の下に隠していた軍刀できそに切り掛かった
「危なっ‼︎」
きそは間一髪でしゃがんで軍刀を避けた
「危ないじゃんか‼︎」
「貴様の様な上下関係もままならぬ若僧が、わしに楯突くとは大間違いじゃ‼︎」
「レイが年寄り嫌いな理由が分かったよ…」
「死ね‼︎小童‼︎」
大振りの構えできそを斬ろうとするパラオの提督
きそはパラオの提督の目を見続けている
いざ振り下ろそうとした瞬間、鉄と鉄がぶつかる、形容し難い音がした
「…私の友人に…手を出しましたね⁇」
「貴様…」
ラバウルさんは壁に掛けられていた日本刀で、パラオの提督の脇から軍刀を鮮やかに止めていた
「キャプテン‼︎ビンゴです‼︎鹿島…」
「キャプ…テン⁇」
「何だ⁇」
帰って来た俺達は、異様な光景に息を飲む
ラバウルさんは下を向き、重なり合った二振の刀がカタカタと音を立てている
「きそちゃん‼︎こっちおいで‼︎」
「う、うん‼︎」
健吾に呼ばれ、きその安全が確保される
「…私を怒らせましたね⁇」
「フン‼︎この程度で何を言うか‼︎」
パラオの提督はラバウルさんの日本刀を弾き、体勢を立て直した
「貴様等…もう逃げられんぞ。外にはベテランの連中が船、そして航空機に乗って臨戦態勢だ」
「…質問に答えろ」
ラバウルさんは下を向いたまま、パラオの提督に話し掛けた
「貴様‼︎目上の人間に対してその態度は何だ‼︎」
「私の質問に答えろと言ってる。聞こえないのか…」
「答える義務はない」
そう言った瞬間、パラオの提督の軍刀を握っていた指が落ちた
「ギャァァァア‼︎」
「年だけ無駄に食って、態度だけ大きくなったみたいですねぇ…」
「こ…このガキ…」
「…耳の穴かっぽじってよく聞け老害野郎」
初めて聞くラバウルさんの敬語じゃない喋り方に、何故か全員が一歩背後に下がる
ラバウルさんの目が完全に開くのを初めて見た…
いつも笑っている印象が強いラバウルさんは、笑うと目を閉じる
本当はほんの少し開いているのだが、パッと見は閉じている様にも見えていた
それが今、完璧に開いている
「本当ならこの場で八つ裂きにしてやりたいが、貴様には聞かなきゃならん事が山程ある。指だけで済んだだけマシだと思え…返事は‼︎」
「…」
パラオの提督はそっぽ向いて返事をしない
ラバウルさんはこれ見よがしに、パラオの提督の左手の指を一瞬で落とした
「も、もう止めてくれ‼︎頼む‼︎」
パラオの提督は土下座をしてラバウルさんに謝罪をする
「私はね…悪人が地べたに頭を擦り付けてる姿を見ると、叩きのめしたくなるんですよ…貴方の様な品の無い低脳な老人が血を吹き出して、それを全身に浴びる…考えただけでも身震いしますねぇ」
ラバウルさんは恍惚の表情を浮かべている
「きそちゃんは見ちゃダメ」
「うわっ」
きそが健吾に目を塞がれた
「まっ…とりあえずはこの辺で良いでしょう。健吾、もう大丈夫ですよ」
健吾はきその目元に置いていた手を離した
ラバウルさんは日本刀を鞘に仕舞い、きその前で膝を曲げた
「怖い思いをさせてしまいましたね…」
「ううん。ラバウルさんが助けてくれるって信じてたもん‼︎」
「ふふっ…きそちゃんは強い子ですね‼︎」
ラバウルさんはきその頭を撫でた後、俺にも謝罪してくれた
「マーカス。きそちゃんに迷惑を掛けてしまいました…申し訳ありません」
「気にしないでくれ。きそを助けてくれてありがとう」
「助けられたのは此方です」
ラバウルさんの目が元の薄目に戻っていたのを見て、少し安心した
「貴様等…覚悟は出来ただろうな…」
パラオの提督には最後の切り札が残っていた
外に待機している戦闘艦だ
「貴様等全員皆殺しだぁ‼︎」
「後は総司令に任せましょう‼︎帰りますよ‼︎」
パラオの提督をその場に残し、全員で施設から出る
「やられた…」
「袋の鼠ですねぇ…どうしましょうか…」
案の定、表には戦闘艦が待機しており、泊地を囲む様に配置されていた
主砲が此方に向けられている所をみると、証拠ごと抹消するつもりなのだろう
老人が考えそうな事だ
奴等、自分さえ良ければそれで良いからな…
この状態なら、一歩動けば確実に蜂の巣
各々の戦闘機に走ろうが、絶対間に合わない
俺が深海化しようが、全員は護れない
万事休すの事態…
生唾を飲んだその時、タブレットに通信が入った
通信の相手の名前は二つある
”い”
”ひ”
こんな時にイタズラかよ…
そう思った時、タブレットから聞き覚えのある声が聞こえて来た