《敵駆逐艦に標準…燃料庫確認…カウントダウン、5…4…》
護衛の駆逐艦に狙いを定め、距離を縮めて行く…
《え…ちょちょちょちょっと待って‼︎》
急にMSWの標準が切れ、グリフォンがオートで高度を上げた
「どうしたんだ⁉︎」
《レイ…あの駆逐艦、女の子が中にいる…》
「何だと⁇」
《今、燃料庫を探すついでにスキャンしてみたんだ…そしたら、生体反応が一つしか無くって…》
「待て…じゃあ、あの駆逐艦は…」
グリフォンの言った事は俺の想像を超えていた
《恐らく、セイレーン・システムの量産型だ。しかも、一人で全部動かしてる》
それならばレーダーに映らないのにも合点が行く
要は中にいる女の子がレーダーを相殺しているのだ
考えろ…
どうすれば良い…
「マタ…オマエノチカラヲカリルトキガキタナ…」
スカイラグーンの地下に保管されていた、巨大な艤装
その前に佇む、一人の女性…
「ウッ…」
その女性は艤装を装着しながら顔を抑える
離した手の平には、何かが欠けた様な小さな塊が付いていた
「ジカン…かぁ…」
彼女はふと艤装を見た
艤装からも、小さな欠片がポロポロと落ち始めている
「イキマしょっ。こレガ最ゴノシュツ撃ヨ‼︎」
目の前のシャッターが開く
彼女にとっての、最後の出撃が始まる…
《通信だ。繋ぐね‼︎》
《レイ、そこにいるのか⁉︎》
「グラーフ‼︎」
勇ましい声の主はグラーフ
上空を見上げると、相変わらず高高度にスペンサーが見えた
《スペンサーの処理能力を以ってしても無理だ‼︎後は目視でレーザーを落とす位しかない‼︎》
「ダメだ‼︎中に女の子がいる‼︎」
《そんな事を言ってる場合か‼︎レイ、貴様が決めろ‼︎レーザーを落として皆を救うか、一人の少女の命を救うか‼︎》
グラーフの言う通りだ
大いなる勝利には、大いなる犠牲が伴う
俺は操縦桿を握りながら、どうすれば良いか…最善策は何かを考える
《レイ。気持ちは分かってやる。後で慰み者にもなってやる。だから…今は目を瞑れ》
「グラーフ…」
《心配するな。私はいつだってレイの味方さ。さっ、その空域から離れて。隊長とアレンも》
隊長とアレンが空域を離れるのが見えた
《あれだな…》
グラーフは高高度から対飛来物破壊レーザーを旗艦である空母に狙いを定め始める
《レイ‼︎レーダーに反応が‼︎》
レーダーを見ると、艦隊に向かって突っ込んで行く一つの反応が見えた
それも、かなりのスピードで空母の方に向かって行く
「なんだ…」
どうやら潜水艦の様だ
潜水艦の反応が敵空母と重なる
《うわっ‼︎な、なに…これ。電子機器が‼︎》
その瞬間、空中を飛んでいる航空機にまで届く程の衝撃波が起きた
《此方イカロス‼︎電子機器が狂った‼︎》
《此方バッカス‼︎こっちもダメだ‼︎》
《此方セイレーン‼︎何が起こった‼︎標準がメチャクチャだ‼︎》
たった一撃の衝撃波で、航空機の電子機器が全て狂い始める
「グリフォン‼︎しっかりしろ‼︎グリフォン‼︎」
《目が回る〜…》
グリフォンの電子機器が少しずつ元の状態を取り戻して行く
「大丈夫か⁉︎」
《らいじょうぶ〜…よしっ、オッケー‼︎クイーン、スペンサー、そっちは大丈夫⁉︎》
《私も大丈夫です》
《此方も大丈夫ですよ》
《アレンさんは⁉︎》
《心配ありがとう。もう大丈夫さ》
AIが目を回す位の衝撃波…
そして、一定時間電子機器をお陀仏にする衝撃波…
敵艦隊のど真ん中に浮上して来た潜水艦に、安堵の溜息を吐く
《何なんでちか此奴等は‼︎》
《タナトス‼︎》
多分、またその辺を回遊していて、俺達の危機に気付いたのだろう
《敵艦捕捉‼︎主砲を放て‼︎》
一隻の駆逐艦がタナトスに狙いを定め、主砲を放つ
《ははははは‼︎タナトスにそんなモンは効かんでち‼︎》
タナトスは撃って来た砲弾を物ともせず、その駆逐艦に艦首を向け全速前進し始める
「ま、待てタナトス‼︎其奴を沈めないでくれ‼︎」
《どっか〜ん‼︎》
「あぁ…」
俺の制止叶わず、タナトスは体当たりで駆逐艦を真っ二つにする
《全員レーダーを見るでち‼︎》
「レーダー…はっ‼︎」
いつの間にかレーダーが復活しており、敵艦の位置が丸分かりになっていた
《いいでちか⁇タナトスが狙いを定めるでち。みんなはそこに痛いのを喰らわせて欲しいでち‼︎》
「…分かった」
こうなってしまえば、もう中の子達は助ける事は不可能だろう
今はタナトスを信じて、撃沈するしかない
タナトスとのデータリンクによる飽和攻撃が始まり、みるみる内に護衛の艦隊が沈んで行く…
複雑な気分だ…
敵にここまで情けを掛けたのは初めてかも知れない…
《敵イージス艦の撃沈を確認‼︎残りは空母だ‼︎》
グラーフの声で、あれだけいた艦隊が後一隻になったと分かった
「うわっ‼︎」
だが、そこはやはり旗艦
データリンクした後の飽和攻撃をしようとしても、山程積まれた機銃で追い返される
《何なんだあの防空性能は‼︎》
《つ、強い…》
隊長がおののく程の防空性能を見せている敵空母
既に近付く事すら出来ない
《せめてあの機銃が無ければ…》
隊長が言っているのは空母の両脇に備えられた山程の対空機銃
あれが行く手を阻んでいる
《誰か近場に支援砲撃可能な艦はいないか⁉︎》
ミサイルではなく、直接の砲撃なら打撃を与えられる
《此奴はヤバイでち‼︎タナトスの爆雷まで破壊されるでち‼︎》
タナトスの攻撃まで防がれると来た
先程からタナトスは何度も体当たりを試しているのだが、あまりに巨大な為にビクともしない
ここまで来て万事休すか…
《てキ・カん・ハッ・けん‼︎》