艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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176話 生贄の少女達(3)

《誰だ⁇》

 

緊迫した空気の中、気の抜けた声が無線から聞こえた

 

《ドキなさい‼︎》

 

《戦艦棲姫⁇》

 

キャノピー越しに戦艦棲姫が見えた

 

だが、様子がおかしい

 

彼女からも、艤装からもポロポロと何かが落ちている

 

あんな身体で砲撃なんかしたら…‼︎

 

《Fer‼︎》

 

「バッカヤロ‼︎」

 

戦艦棲姫、最後の砲撃が唸る

 

戦艦棲姫の砲撃は、側面の機銃群を一撃で破壊し、防空網に穴が開いた

 

《うっ…ク…》

 

砲撃が終わった直後、戦艦棲姫は海上に倒れた

 

「馬鹿野郎‼︎何でそんな身体で来た‼︎」

 

《まー…カ、ス…》

 

弱々しい戦艦棲姫の声が無線を通じて耳に入る

 

「なんだ…」

 

《やく…に、たっ、た⁇》

 

「充分だ‼︎もう引き返せ‼︎」

 

《後は我々に任せろ‼︎》

 

《ありがとう、戦艦棲姫‼︎》

 

隊長、アレンからも感謝の言葉が届く

 

《これで少しは…償えた…か、な…》

 

戦艦棲姫の体が沈んで行く…

 

《罪を償ったら死ぬのは甘ちゃんの考える事ダズル‼︎》

 

《えっ…》

 

聞き覚えのある最恐の艦娘が、沈み行く戦艦棲姫の腕を取り、海上へ引き戻す

 

「は…榛名‼︎」

 

戦艦棲姫の腕を取ったのは、あのメガネを掛けた榛名

 

榛名は久々に合法的に暴れられると聞き、遂行中の遠征を無視し、ニムと共にここに駆け付けてくれた

 

《話は聞いたダズル‼︎航行不能にすれば良いんダズルな⁉︎》

 

「そうだ‼︎頼む‼︎」

 

《分かったダズル‼︎ニム‼︎この死にたがりを頼むダズル‼︎》

 

榛名は戦艦棲姫をニムに任せ、空母へと向かう

 

 

 

 

「さぁ、これを飲むニム」

 

「ありがと…」

 

彼女はニムに応急修復剤のパックを貰い、中身を飲む

 

「綺麗な外人さんニムね〜」

 

「え⁇」

 

「金髪ちゃんニム」

 

彼女は海面を見た

 

見知らぬ金髪の女性が此方を見返しているのが見える

 

「私…一体…はっ‼︎」

 

「ニムっ‼︎」

 

沈みかけている禍々しい艤装のベールが剥がれ、中から美しい主砲が現れた

 

彼女はすぐにそれを取り、海上へと引き戻す

 

「これは…」

 

「きっと神様からのご褒美ニムよ。罪を償ったから、新しい人生を歩めと言ってるニム」

 

「新しい…人生…」

 

彼女は艤装を撫でながら決意を固める

 

「救わなければ…彼等を‼︎」

 

「ニムと一緒に行くニム‼︎」

 

彼女は美しい金色の髪を潮風になびかせながら艤装を手に取り、帽子を被り直しながら艤装を装着して行く

 

「…あら⁇」

 

艤装を装着している途中、主砲に文字が彫られているのに気が付いた

 

「Ri、che、lieu…」

 

彼女の名前は、戦艦”リシュリュー”

 

リシュリューは艤装を装着し終わると、もう一度ニムの顔を見た

 

「よく似合ってるニム‼︎」

 

「ありがとう。第二の人生…ね⁇」

 

ニムは言葉さえ発しなかったが、笑顔で頷いた

 

「さぁ‼︎行くわよ‼︎」

 

「ニムッ‼︎」

 

ニムとリシュリューが空母へと向かう…

 

 

 

 

 

「だぁーーーっはっはっはぁ‼︎榛名にかかればこんなモンチョロいダズル‼︎」

 

十分もしない内に、空母は榛名一人に占領された

 

舵はバラバラにされ、エンジンルームも再起不能

 

電子機器は画面を叩き割られ、カタパルトも破壊

 

榛名は思う存分暴れ回った後、捕虜として大量の乗組員を逮捕

 

「ぬっ⁉︎」

 

それでも数人が最後の足掻きで機銃で空を叩く

 

「Fer‼︎喰らいなさい‼︎」

 

聞き覚えのない声が聞こえた瞬間、機銃だけが撃ち抜かれた

 

「あの金髪ちゃんは何ダズル‼︎」

 

「榛名さん‼︎もう大丈夫ですよ‼︎」

 

金髪ちゃんが微笑みながら榛名に手を振っている

 

「お…おぉ…」

 

榛名は久々にきそ以外の人にさん付けをされ、チョット驚く

 

「後はお偉いさんにシバかれると良いダズル」

 

榛名は大満足のまま、空母に開けた穴から飛び降りた

 

榛名が空母から飛び降りると、下には金髪ちゃんとニムが待っていた

 

「榛名さん。助けて頂き、ありがとうございました」

 

「元戦艦棲姫ニムよ」

 

「そうダズルか。名は⁇」

 

「戦艦リシュリューです」

 

「リシュリュー。お家に帰るまでがピクニックダズルよ‼︎」

 

「はいっ‼︎リシュリュー、榛名さんに着いて行きます‼︎」

 

「何か調子狂うダズルな…」

 

どうやらリシュリューは助けて貰った榛名を気に入っている様子だ

 

榛名は不思議な感覚のまま、スカイラグーンへと向かう

 

 

 

 

 

榛名が空母をボッコボコにしている時、俺は一旦基地に帰って来ていた

 

「えいしゃん‼︎」

 

「おかえい‼︎」

 

「んっ…ただいま…」

 

息を切らしながら子供達が出入りしている場所から食堂に入ると、何も知らないひとみといよが抱き付いて来た

 

「おかえりなさい。大丈夫だった⁉︎」

 

「あぁ、大丈夫だ。はっちゃんとしおいを呼んで欲しい」

 

「分かったわ‼︎」

 

貴子さんが小走りで子供部屋に向かい、俺がカーペットに座って数分もしない内に二人が来た

 

「おかえりなさい、マーカス様」

 

「おかえり、レイ‼︎」

 

「ちょっと座ってくれ」

 

ひとみといよも俺の異変に気付いたのか、はっちゃんとしおいが座っている横に座り直した

 

「どうしたの⁇」

 

「助けて欲しい子がいるんだ…」

 

「誰をですか⁇」

 

「沈めた船の中に、何人もの女の子がいたんだ」

 

食堂の空気が一瞬で凍り付く

 

「頼む…その子達を救ってやってくれないか⁇」

 

俺は四人の前で土下座をする

 

「俺が不甲斐ないばかりに…」

 

「しおい。すぐに潜行準備を。ひとみ、いよ。ちゃんとはっちゃんに着いて来て下さいね⁇」

 

「わかた‼︎」

 

「ゆうこときく‼︎」

 

「しおいの所で艤装を装着して来て下さい。はっちゃんもすぐに行きます」

 

「そおい〜‼︎」

 

「へうめっろ〜‼︎」

 

はっちゃんの一言で、しおい、そしてひとみといよが準備に取り掛かる

 

「すまん…本当にすまん…」

 

「謝らないで下さい。はっちゃん、ようやくマーカス様に必要とされて嬉しいです‼︎」

 

「はっちゃん…」

 

目に溜まっていた涙を拭き、何度もはっちゃんに向かって頷く

 

「この恩は必ず返すからな」

 

「そうですねぇ…あっ。では、マーカス様が横須賀様に言っている事を真似します。礼ならキスで返して下さい」

 

はっちゃんはそう言って、しおいの持って来た艤装を装着し、海へと向かう

 

「めがね‼︎」

 

「いくれ‼︎」

 

「分かった分かった‼︎」

 

「マーカス君も気を付けるのよ⁉︎」

 

「分かった‼︎じき隊長も連れて帰る‼︎」

 

相変わらずローマに海へと放り投げて貰うひとみといよを見送り、一息も着けないまま、タナトスの待つ海域に引き返す

 

 

 

 

スカイラグーンでは隊長含め、総司令達お偉いさん連中が空母”アーク・ロイヤル bis”の乗組員の事情聴取兼尋問を進めていた

 

乗組員の話によると、レイの言った通り、アーク・ロイヤルbis以外は単独で航行しており、中にいた少女は今暗い海の底にいる

 

「レイ…」

 

窓の外を見て、レイや潜水艦の子達が心配になる

 

乗組員を一人として逃すつもりは無いが、誰一人として少女を助けようとしない

 

彼等にとって、艦娘は道具と変わりないのだ…

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