艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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185話 子が紡いだ恋の行方(2)

「お嬢ちゃん」

 

「ひっ…外国人…」

 

女の子の前に屈むと、ボールを持ったまま怯え始めた

 

「お嬢ちゃんのお名前は⁇」

 

「は…春風…」

 

「そっか。神風って人を探してるんだけど…知らないか⁇」

 

「お母様に何するの⁇」

 

やはり神風の子か

 

どうりで似ていると思った

 

「やっぱりな…俺はリヒター。お母さんの知り合いなんだ」

 

「ホント⁇酷い事しない⁇」

 

「約束する。絶対」

 

「こっち」

 

「ギザギザ丸、行くぞ」

 

「あ、あぁ…」

 

春風と手を繋ぎ、屋敷の中に入る

 

「”早霜さん”‼︎お客様連れて来たよ‼︎」

 

春風が玄関から叫ぶと、数秒後に返事が来た

 

「はい。ただいま…」

 

手を拭きながら現れたのは、髪の長い女中

 

女性と言うより、少女の方が正しいかも知れない

 

「あら…珍しい。外国人のお客様ね⁇」

 

「お母様に用事があるんだって」

 

「なるほど…私が案内しましょう。春風様、台所にオヤツがありますので、お召し上がり下さい」

 

「ありがと‼︎」

 

「此方へ…」

 

早霜に案内され、ギザギザ丸と共に屋敷の奥へ向かう

 

「マーカス様は神風様とはどう言うご関係で⁇」

 

「昔の知り合いなんだ。アランはどうした⁇」

 

「アラン様ともお知り合いでしたか…アラン様はしばらくアメリカに渡られました」

 

「そっか…」

 

「その間、私が神風様と春風様の身の回りのお世話をしています」

 

早霜は背中で語る

 

見た限り、外見も性格も結構暗い感じがする

 

ギザギザ丸は何かを感じたのか、さっきから俺の腕にずっとくっ付いている

 

早霜が急に足を止め、襖を開けて中に入った

 

「少々お待ちを…」

 

中で話している声が何度か聞こえた後、早霜が戻って来た

 

「お通り下さい」

 

「ありがとう」

 

襖の奥にギザギザ丸と共に入る

 

「神風っ」

 

「リヒターさん…‼︎」

 

神風は床に伏せていた

 

布団の横に座ると、神風は俺の手を握って来た

 

「逢いたかった…」

 

「俺もさっ…」

 

神風の手を握り返す

 

随分と歳を取り、随分と弱ってしまっているが、当時の面影は何処と無く残っていた

 

「リヒターさんも、ギザギザさんも、変わらないのね…⁇」

 

「まぁなっ…」

 

「アタイを知ってるのか⁇」

 

「えぇ。勿論。火事の時は、助けて頂いてありがとうございました」

 

「ギザギザ丸。神風には本当の事話していいか⁇」

 

「…一つ約束してくれ」

 

「何でしょう⁇」

 

「アタイ達の事は誰にも内緒にしてくれ。それなら、話してもいい」

 

「勿論内緒にしますよ」

 

神風の目は自然と上目遣いになり、俺の手に指を絡ませる

 

この癖…未来の子孫も同じ癖だ

 

私を信じて…

 

未来の子孫も同じ事をしていたな…

 

「ビックリするかも知れんが、俺達は未来から来たんだ。俺はリヒターって名前じゃなくて、マーカス・スティングレイって言うんだ」

 

「やっぱり…」

 

神風は弱々しく微笑む

 

「私の子孫は、ちゃんといますか⁇」

 

「あぁ。未来で俺が嫁に貰った」

 

「わぁっ‼︎嬉しい‼︎」

 

神風はこの日、最初で最後のとびきりの笑顔を見せてくれた

 

「私の子孫も、マーカスさんの事が好きなのね…良かったぁ…」

 

「神風と一緒で、一昔前は赤い髪の毛でな。まっ、性格は似てないが、容姿は何処と無く似てる」

 

「お父さん。ホラッ」

 

「サンキュー」

 

朝霜にタブレットを返して貰い、神風に横須賀の写真を見せる

 

「見えるか⁇」

 

「えぇ。この子が⁇」

 

「そっ。ジェミニって言うんだ」

 

「ジェミニ…良い名前ね⁇ギザギザさんはもしかして…」

 

「マーカスとジェミニの間に産まれた子供さっ。朝霜って言うんだ‼︎」

 

「ふふっ…マーカスさんにそっくり。よいしょ…」

 

「無理するな」

 

神風が起き上がろうとしたので、それを支える

 

「朝霜ちゃん。ちょっとだけ、抱っこさせて⁇」

 

「ん⁇アタイ⁇いいよっ‼︎」

 

朝霜は嫌がる素振り一つ見せずに神風の前に座った

 

神風は朝霜を抱き締め、背中をポンポンと叩き、頭を撫で始めた

 

「あっ…」

 

「ありがとう…私に逢いに来てくれて…」

 

朝霜の体から一気に力が抜ける

 

自分の母親のやり方と丸っきり同じなのだ

 

朝霜はホッとしたに違いない

 

朝霜も軽く神風を抱き返した後、今度は俺の方に手を伸ばして来た

 

俺も嫁の先祖に甘える事にした

 

「私の子孫をお願いしますね⁇」

 

「んっ…」

 

まるで横須賀やサラに抱き締められた様な感覚に陥る

 

先祖代々、包容力の高さは変わっていないみたいだな…

 

「コホッ…」

 

俺を離した後、神風は咳き込んだ

 

無理をさせたみたいだ

 

「マーカスさん、朝霜ちゃん。ありがとう。安心したわ」

 

「無理させたな⁇」

 

「いえ…マーカスさん。最後にワガママを言っても良いですか⁇」

 

「なんだ⁇」

 

「頭を撫でて貰えませんか⁇」

 

「んっ。分かった…」

 

あの日の別れ際と同じ様に、神風の額の髪を分け、顔を見た後頭を撫でる

 

「ふふっ…不思議な感覚ですね…遠く離れた未来から来た子孫の旦那に頭を下げ撫でて貰うのって。」

 

「長生きするんだぞ⁇」

 

「うんっ…」

 

神風は最後に弱々しく笑顔を見せた後、俺の手を離した

 

俺が襖から出る寸前まで、神風は布団の中から手を振っていた…

 

 

 

 

神風のいた部屋から出て、先程の道を引き返す

 

「横須賀とソックリだったな⁇」

 

「あぁ‼︎抱き方までソックリだった‼︎あ〜…でさぁ、何でアタイの事知ってたんだ⁇」

 

「話せば長くなるけど、俺とお前は小さい頃の神風に逢った事がある」

 

「自分から聞いといて何だけど、メンドッチイ話はパスだ。要はアタイが未来から来て、お父さんとその時代に行ったんだろ⁇」

 

「そんな所さっ」

 

「実はアタイも、実験がてら過去に行って来たんだ。設計図とか持ってな。いやぁ〜、全然基地変わってないな‼︎」

 

あの時の話だ

 

やはり未来はしっかりと動いている

 

ここで一つ気になった

 

あの日は未来では”いない”と言っていた子の事だ

 

「たいほうはいたか⁇」

 

「ん⁇あぁ、いたよ。ひとみといよとかはいなかったな…考えると、あの二人がいないと案外寂しいモンだなぁ⁇」

 

「ふっ…横須賀みたいな事言うな⁇」

 

「まぁな‼︎」

 

朝霜は照れ臭さそうに鼻の下を掻いた

 

「おかえりなさいませ…玄関までご案内します」

 

「ありがとう」

 

途中まで早霜が迎えに来てくれていた

 

「楽しかったぜ‼︎あぁ、そうだ‼︎思い出した‼︎聞きたい事あんだけどさぁ」

 

「分かる範囲であれば何なりと…」

 

朝霜は笑いながら早霜に言った

 

「何でお父さんの名前知ってんだ」

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