艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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187話 貴方と私の宝物(3)

数日後、朝霜が工廠に居るので清霜早霜の二人も工廠の入り口付近の床で遊んでいた

 

「おトイレ行って来ます」

 

「き〜ちゃん居なくて大丈夫⁇一人で出来る⁇」

 

「大丈夫」

 

車のオモチャを置き、早霜は一人トイレに向かった

 

清霜は遊ぶのを一旦止め、車のオモチャを置いて工廠の中に入り、水筒のお茶を飲んでいた

 

その時、工廠の前を一台のジープが走って来た

 

工廠の前を通り掛った時、バキバキと何かを踏み潰す音がした

 

「何か踏んだみたいだな…」

 

「確認して来ます」

 

ジープから男性が一人降り、タイヤの確認に向かう

 

それと同時に、清霜の悲鳴が響く

 

「あーーーーーーーーーーーっ‼︎」

 

ジープのタイヤの下には、大切にしていた、レイに買って貰った車のオモチャが2台ともペチャンコになっていた

 

「酷い‼︎き〜ちゃんの宝物なのに‼︎」

 

「ご、ごめんよ…」

 

「新しいの買ってあげるから。ねっ⁇」

 

ジープに乗っていた二人は、半泣きで表に出て来た清霜に気付き、必死に宥めようとする

 

「あ…」

 

トイレに行っていた早霜が戻って来た

 

「早霜の車…」

 

「す、すまない…」

 

早霜はジープの下から自分の車を取り出し、胸に抱く

 

「お父様に買って貰ったのに…早霜の宝物なのに…」

 

二人に対して背を向けていた早霜の髪が逆立ち、毛先が白く変色して行く

 

「は…早霜ちゃん…⁇」

 

異変に気付いた男性二人はジリジリと後退する

 

「ゆるサナイ‼︎」

 

振り返った早霜の眼は赤く光り、男性二人に敵意を剥き出しにしていた…

 

 

 

 

 

工廠付近で大きな音が立つ

 

巨大な物が倒れる音だ

 

「何だ⁉︎」

 

たまたま横須賀の格納庫に居たレイが異変に気付く

 

「お父さん‼︎」

 

息を切らした朝霜が格納庫に飛び込んで来た

 

「どうした⁉︎何か横転でもしたか⁇」

 

「は…早霜が…」

 

「案内してくれ」

 

朝霜の口から早霜と出た瞬間、レイは革ジャンを羽織り、朝霜の先導する場所を目指す

 

「あれだ‼︎」

 

朝霜が指差す先には、見るも無惨になったジープ、そして怒り狂った早霜が居た

 

「ハヤシモノタカラモノナノニ…オトナハスグニウバウ‼︎」

 

「ヒィッ‼︎」

 

「ごめんなさい許して‼︎」

 

「…」

 

レイは早霜の姿を見て息を飲んだ

 

早霜は一人の男性の首を持ち、そのまま持ち上げていたのだ

 

「ハヤシモノタカラモノヲトッタンダカラ…ハヤシモモタイセツヲモラウ‼︎」

 

「うわぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

早霜が空いている手を構え、持ち上げている男性の腹に狙いを定め、男性は悲鳴を上げた

 

「ゔっ…」

 

「エ…」

 

早霜が突き出した手は、一人の男の腹に突き刺さる

 

「オトう様…」

 

「た、大尉‼︎」

 

レイのお腹からは血が流れ出している

 

早霜は掴み上げていた男を降ろし、レイを支えた

 

「どうしてお父様が…」

 

「は…やしも…」

 

レイはお腹を抱えながらも、早霜の頭を撫でた

 

「力を、見誤る…な…」

 

「担架だ‼︎担架持って来てくんな‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

薄れていく意識の中でレイは、立派に成長した長女を眺めながら目を閉じた…

 

 

 

 

「まぁ、あれだな。早霜の力の抑制はしっかりしてやらんとな」

 

「そうね」

 

「しっかしまぁ、力の抑制となると早霜に結構な負担を掛けるかも知れんな…」

 

「そうね」

 

「深海の血が強いのはよ〜く分かった」

 

「…一つ聞いていい⁇」

 

「んぁ⁇」

 

「何でピンピンしてんのよ‼︎」

 

私の横でレイが人のドーナツをムシャムシャ食べている

 

しかも早霜がDMM化して一、二時間後の事だ

 

腹部に重傷を負って担架で運ばれたハズなのに、もう完治している

 

「ま、無敵だからな」

 

「心配掛けさせないでよ…」

 

「ジープの二人は大した怪我じゃない。数日もすりゃ治んだろ」

 

「人の心配する前に自分の心配しなさいよ‼︎」

 

「喧嘩してるの⁇」

 

二人で話していると、清霜が帰って来た

 

「してないしてない‼︎」

 

「清霜は大丈夫か⁇」

 

「うん…でも、き〜ちゃんの車…」

 

「また買ってやるよっ」

 

「うん…」

 

清霜はあの車のオモチャがお気に入りだったので、ショックも大きいだろう

 

ショックが大きいのはもう一人…

 

「お…お父様…」

 

「早霜。こっちおいで」

 

「…」

 

怒られると思っている早霜は、執務室の入り口から中々こっちに来ない

 

「よし。早霜が行かないなら俺が行く」

 

椅子から立ち上がり、レイが早霜に寄る

 

早霜の前まで来ると、レイは膝を曲げ、早霜は執務室の扉を後ろ手で閉めた

 

「ビックリしたな⁇」

 

「早霜…どうしてあんな事…」

 

「いいんだ。早霜の力は立派な力だ」

 

レイは早霜の頭を撫でながら話を続けた

 

「いいか早霜」

 

「はい」

 

「力には二通りある。破壊する力…それと、誰かを護る力。早霜は、さっきの自分の力を見て、どんな気分だった⁇」

 

「とっても…嫌な気分…」

 

「ならその力は、誰かを護る為に使った方が俺はカッコ良いと思うぞ⁇」

 

「お父様…」

 

早霜はレイの目をジッと見返した

 

「ん⁇」

 

「早霜は…お父様の本当の娘⁇」

 

「そっか。早霜はまだ知らないか…」

 

レイは左手の手袋を取り、早霜の目の前に出して見せた

 

真っ白な、深海の腕だ

 

「お父さんな…深海棲艦なんだ」

 

「わぁ…」

 

数時間前の自分と同じ様な腕を見て、早霜は胸を撫で下ろす

 

「早霜は俺の事嫌いか⁇」

 

「嫌いな訳ない‼︎早霜、お父様好き‼︎」

 

早霜は産まれて初めて、産声以外の大声を出した

 

「ホントか⁇」

 

「空軍は嘘を吐かない…お母様言ってた」

 

「そっか…」

 

「お父様は、早霜の事…好き⁇」

 

「勿論さ‼︎早霜は良い子ちゃんだろ⁇お父さん、良い子ちゃんは大好きだ‼︎」

 

産まれて初めて、早霜は歯を見せて笑った

 

…私のギザ歯がちょっと遺伝してる

 

「車は今度買ってやるから、今はこれで我慢してくれ」

 

レイは内ポケットから白いリボンを取り出し、艶やかな黒に戻った早霜の長い髪を纏める

 

「んっ。よく似合ってる」

 

「ありがとう」

 

「清霜にはこれだな‼︎」

 

「やったぁ‼︎」

 

清霜にはオマケ付きのキャラメルを渡す

 

見ていない様で娘の好みを良く知っている

 

レイは最後に二人の頭を撫でた後、私にウインクを送る

 

「ほらっ。レイを送りに行くわよ」

 

二人を連れ、基地に帰るレイを見送る

 

「気を付けてね⁇」

 

「あぁ」

 

今日のキスは、心配のキス

 

「早霜もしたい」

 

「コラコラ。今だけはお父さんとお母さんの時間だ」

 

たまたま近くに居た朝霜が、走り出した早霜を止める

 

タービンを回し始めたグリフォンに、そこに居た皆が手を振る

 

特に清霜が力強く手を振る

 

グリフォンが飛び立ち、私は軽いため息を吐く

 

「さっ‼︎お腹空いたでしょ⁇おばあちゃんの所でご飯にしましょう‼︎」

 

娘達が元気良く返事をする

 

サラの所に向かう道中、私はもう一度空を見上げた

 

一本の飛行機雲が、ずっとずっと先の水平線へと向かっている

 

「置いてくぞ〜‼︎」

 

私はそれを見てほんの少し微笑んだ後、娘達が呼ぶ所に戻って行った…

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