「お父様‼︎」
「お父様」
清霜と早霜とが飛び掛かって来るのを抱き止める
清霜もセーブしてくれているのか、最近慣れて来た
「お父様⁇」
「お父様はお母様の旦那さんでしょ⁇」
「…」
「アンタが私の旦那ぁ⁇あはは‼︎ないない‼︎」
椅子に座り、横須賀は引き出しからポテトチップの袋を出し、それを食べ始めた
「お母様…さっき、ケーキ食べたばかり」
「き〜ちゃんもケーキ食べたい‼︎」
「アンタ、どこ所属よ」
「ここだ」
「ふ〜ん…何が目的かしら⁇」
机の上に肘を置き、口元に置いた状態でジッと此方を見つめる横須賀
本当に忘れるんだな…
「お母様、何かおかしい…」
「若くなった気がするけど、何か怖い…」
清霜と早霜の、俺の足を抱き締める力が強くなる
「まっ、いいわ⁇私、着替えて来るから、それまでに出て行きなさい。まだ居る様なら、憲兵に突き出すから。分かった⁇」
力強く扉を閉め、横須賀は出て行った
「聞く必要ない…」
「き〜ちゃん達と遊ぼ‼︎」
「おと…」
お父さんはお母さんを〜と言おうとしたが、二人がジッと見つめながら結構な力を入れて引っ張って来たので、それに従う事にした
「ビーダーメンにしましょう」
「お父様”マト”ね‼︎」
「ウソちょっと待っ…」
二人がおもちゃ箱に向かう
娘を信用しない訳ではないが、清霜の言う事だ
何となく嫌な予感がする…
「はいっ‼︎」
清霜の手には、悪そうな顔をした男が描かれたプラスチックの人形がある
「お父様は…それを動かして、ビー玉避ける」
「よかった…」
清霜にオモチャのマトを渡され、一安心する
どうやら二人が持っているプラスチックの人形から発射されるビー玉を避ければ良いらしい
「よし来い‼︎」
床に座り、マトを動かす
「行くよ〜‼︎」
「えい」
伏せ状態の二人が笑顔でビー玉を撃ち出す…
ビー玉を撃ち出した瞬間、二人の長い前髪が上がり、
パリーン‼︎
バンッ‼︎
と、背後で破壊音が聞こえた
「あっちゃ〜ハズレ〜」
「調整…し過ぎた⁇」
「おおおおお…」
恐る恐る背後を振り返ると、窓ガラスが割れ、壁にビー玉がメリ込んでいた
壁にメリ込んだビー玉は煙を上げ、未だ回転を続けている
《横須賀基地‼︎此方ペトローバ隊‼︎訓練中の機体が何者かに機銃攻撃を受けた‼︎》
「ちょっと待ってな…」
緊急の無線が入り、人形を置いて無線を取る
「此方横須賀基地、ワイバーン。ペトローバ隊、何処からの攻撃か分かるか⁇」
《横須賀基地方面からだ‼︎誤射ならキツく言っておいてくれ‼︎》
「…すまん。多分、清霜のビー玉だ…」
方向的に、多分清霜が飛ばしたビー玉だ
まさか戦闘機に当たって機銃攻撃扱いされるとは…
《ならしょうがない‼︎被害は軽微だ‼︎航行に問題は無い‼︎》
「了解した。念の為、着陸後に被弾箇所をチェックさせてくれ」
《了解した‼︎》
無線が切れ、再びマトの人形を取ろうとした
「まだいる…」
「横須賀。ちょっと話が…」
「初月‼︎」
制止虚しく、横須賀は初月を呼んでしまう
「ここに」
天井をひっくり返して初月が降りて来る
「コイツをひっ捕らえて頂戴‼︎」
「ははは。提督。面白い冗談を」
「何よ。逆らうつもり⁉︎」
「幾ら提督の命令であれ、提督の旦那…しかも僕自身もお世話になってる人を捕まえる事は出来ない」
「何よ…みんなしてコイツが私の旦那旦那って…」
「ホントだよ‼︎お父様はお母様の大切な人なんだよ‼︎」
「早霜達を…護ってくれる」
「なら旦那らしい事して頂戴‼︎」
「してる」
「お父様してるよ⁇」
「これ以上に何を求めるんだ」
「うっ…」
三人から反論され、横須賀は言い返す事が出来ない
「大尉は良いお方だ。横須賀に居ない時にだって、提督や子供達を心配している」
「へ、へぇ〜…」
「お母様だって、お父様が来たら嬉しいって言ってるじゃん‼︎」
「…」
「早霜も…お父様好き。いっぱい、遊んでくれる。それに、助けてくれる…」
俺にベッタリくっ付いている三人を見て、ようやく横須賀は俺が旦那だと思い始めたみたいだ
「じゃあ…アンタホントに…」
「そうだ」
「ふ…ふ〜ん…なら私の男には変わりないわね⁇」
「まぁな」
「ならデートなさい」
「良いぞ。何処行きたい⁇」
「へっ⁉︎そっ、そうね…」
答えがすぐに返って来て、横須賀は少し驚いている
まさか本当にデートしてくれるて思ってなかったのだろう
「ふっ、服でも買って貰おうかしらっ⁉︎」
「分かった。清霜、早霜。お留守番出来るか⁇」
「出来る‼︎」
「悪い人来たら…ビー玉で撃つ」
「良い子だっ」
「ただいま〜っとぉ‼︎あっ‼︎お父さん‼︎」
「谷風‼︎」
谷風が帰って来た
「朝霜姉さんが呼んでたよ‼︎」
「多分練習機の事だろ。ありがとう、行ってくるよ」
「お父さんはお母さんとデート⁇」
「そ…そんな所よ…」
「かぁ〜っ‼︎いいなぁ〜っ‼︎谷風もデートしたいなぁ〜‼︎」
「今度間宮で美味いもん食おうな⁇」
「うんっ‼︎」
執務室を出て、横須賀と共に格納庫に向かう
「悪いな、付き合わせて」
「別に。私が言ったんだもん」
そう言う横須賀はそっぽ向いている
…可愛くねぇの
「お疲れ様です、大尉」
「どの機体だ⁇」
「此方です」
整備士に案内され、ペトローバ隊の機体であるF4Uのところへ向かう
「おぉ、来てくれたか。お父さんは何だと思う⁇」
F4Uの周りには既に数人の整備士と朝霜がいた
「破損箇所は⁇」
「左主翼の中心だ。綺麗にブチ抜いてやがる」
立て掛けられたタラップを上がり、破損箇所を確認する
朝霜が言った通り、何かが綺麗に貫通している跡がある
「修復は何とかなりそうだな。問題は何が当たったか…だな⁇」
「だな」
「しかし、当該時刻、当該場所で対空演習をしていた艦娘も兵もいません」
「ジャン‼︎」
ポケットからくすねて来たビー玉を出す
「ビー玉…ですか⁇」
「これを破損箇所に合わせると…」
破損箇所にビー玉を合わせると、多少広がりはあるが、ほぼピッタリと一致した
「原因は清霜と早霜のオモチャのビー玉だ」
「ビー玉にコルセアの主翼を貫通させる程の威力があるでしょうか⁇」
「暇があったら遊んでやってくれ。その時に、ビーダーメンで遊ぼうって言ったら分かるさ。それと…」
タラップを降り、整備士に全員に頭を下げた
「申し訳なかった…清霜がとんでもない事を…」
「い、いやいやいや‼︎頭上げて下さい‼︎」
「そうですよ大尉‼︎原因が分かって良かったです‼︎」
「アタイからも注意しとくよ…すまなかった‼︎」
朝霜も頭を下げてくれた
「頭を上げろマーカス、朝霜。子供のやった事に罪は無い」
現れた男性を見て、整備士達の背筋が伸びる
男性の言う通りに頭を上げると、そこには清霜がビー玉で主翼をブチ抜いたF4Uのパイロットであり、ペトローバ隊の隊員がいた
「君の父にはいつも世話になっている。それに、これ位なら修復だって効く。心配する必要は無い」
「アンタペトローバの…」
「父上は立派なお方だ。どんな人種であれ、どんな国籍であれ、分け隔て無く接してくれる」
「…良い所もあるんだな」
「しかし、だ…」
一瞬にして場の空気が重くなる
「何故あの様な美人の妻を嫁にした上で浮気なんぞするのか‼︎」
男性がその場で地団駄を踏み、全員肩の荷を降ろす
「瑞鶴の事か…」
その頃、親父と瑞鶴と母さんは…
「いつもむすこがおせわになってます」
「私の事は覚えてくれてるんだ…」
チゲ鍋を食べ終えた三人は教会に来ていた
母さんは左手を瑞鶴、右手を親父とそれぞれ手を繋ぎ、二人の間にチョコンと座っている
「りちゃ〜どさんは、かみさましんじる⁇」
「我々の部隊は女神の加護を受けているから落ちないんだ」
リチャードの目は本気の目をしている
俺と違い、親父は神を信じている
だから時折こうして教会に足を運んでいる
「むすこはしんじてないの。かみさまなんて、いやしない。って」
嬉しそうに俺の話をする母さんを
「スパイトに似たんじゃないか⁇」
「わたしに⁇」
「スパイトさんは神様はいると思う⁇」
「いないとおもうわ。かみはしょせん、にんげんのそ〜ぞ〜ぶつだ〜って
、むすこがいってたもの」
「神の形をした人形にすがるなら、目の前の人間に頼るね。だろ⁇」
「よくしってるわね‼︎」
「息子だからな」
「そう言えばマーカスさん、前に言ってたわ⁇もし神が居るなら所詮金で動く現金な奴だ。日本にはそれをせびる箱まで置いてある〜って」
「…賽銭箱の事か⁇」
「むすこはときどきぬけてるの」
リチャードはスパイト「お前と一緒だな」と言い返そうとしたが、息子の話をされて嬉しそうなスパイトの顔を見て口を閉ざした
「ようこそいらっしゃいました」
シスター・グリーンが来た
口周りにお菓子のカスが付いているのを見ると、どうせまた裏で茶でもすすっていたのだろう
「お祈りですか⁇それとも懺悔ですか⁇」
「お祈りだっ」
「畏まりました…」
シスター・グリーンが聖書を出し、三人は数分間目を閉じながら内容を聞く
数分後、シスター・グリーンが聖書を閉じ、お祈りが終わる
「ふふっ…中将もお盛んな様で」
「”ユーグモ”も少しは祈ったらどうだ⁇シスターなのにマーカスに惚れるのは不純だぞ⁉︎」
「私がマーカス君に向ける愛はただの性的な愛ですので心配なく…」
「それを不純って言うんだ‼︎」
リチャードとシスター・グリーンは互いに笑い合う
親子共々、話易さは変わらない
リチャードだって、中将らしからぬ話易さだ
「”ゆ〜ぐも”。”はるさめ”は⁇」
「奥で昼寝をしております」
「知り合いなの⁇」
「ユーグモとハルサメはマーカスの面倒を見ていてくれたんだ」
「じゅ〜ねんいじょ〜もね」
「へぇ〜…」
「わたしのむかしからのしりあいなの‼︎だからむすこをたすけてもらったの‼︎」
「って事はシスターって結構…」
「まだよんじゅっ…‼︎」
歳を言おうとしたシスター・グリーンの口を、リチャードが咄嗟に塞いだ
「読者からの怒りのメールが来るからやめとけ‼︎」
「ぷぁ…マーカス君と同じ事するのね⁇」
シスター・グリーンの年齢は永遠に不明である…