艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、213話が終わりました

行方不明になってしまったレイ

全員がとある壁に当たる中、一人だけ艦載機を発艦させます


214話 暗夜の航路(1)

レイが消息不明になった報は、すぐに隊長にも告げられた

 

 

 

「レイがか⁉︎分かった。付近を捜索してみる」

 

無線を切り、首を落としてため息を吐いた

 

レイが行方不明だと…

 

「貴方…」

 

「ウィリアム…」

 

貴子と姫が心配そうに私を見つめる…

 

「子供達には黙っておいてくれ…」

 

「ん…分かったわ…」

 

「マーカスをお願いします」

 

「…行ってくる」

 

「すてぃんぐれいおそいね⁇」

 

「えいしゃんまらかあ〜」

 

「かえってきたあ、すごおくすうの‼︎」

 

外を出ようとした時、子供達の言葉が胸に刺さった…

 

その時、ふと気付いた

 

「ひとみ‼︎いよ‼︎レイが何処にいるか分かるか⁉︎」

 

ひとみといよはレイが何処にいても居場所が分かる‼︎

 

「えいしゃんあっち‼︎」

 

「じゅ〜っとむこう‼︎」

 

ひとみといよが窓の先を指差した‼︎

 

「偉いぞ‼︎行って来る‼︎」

 

「いってあっちゃ〜い‼︎」

 

「き〜つけてな〜‼︎」

 

すぐにクイーンで基地から飛び立った…

 

 

 

 

 

 

 

横須賀に五機が降り立つ…

 

途中、一報を聞いてすぐに飛んで来てくれたラバウルの連中と合流し、共に捜索を始めたが、壁にブチ当たった

 

台風だ

 

それも強力な台風

 

流石の私達でも、暴風域に突っ込んで行くのは自殺行為だ…

 

「クソッ‼︎」

 

格納庫の壁を殴り、荒くなった呼吸を何とか落ち着けさせる…

 

「この台風じゃ無理です…貴方達まで…」

 

「レイを失う訳にはいかん‼︎」

 

「ウィリアム…痛い位気持ちは分かりますが、私達まで行方不明になっては元も子もないです…」

 

「…クソッ‼︎」

 

そこに居た全員の思いを分かっているかの様に、横須賀にも雨が降り始めた…

 

それに、もう夜だ

 

更に危険になる…

 

ここは待つしかない…

 

 

 

 

雨はバケツをひっくり返した位に土砂降りになり始めた

 

「…」

 

ドチャ…ドチャ…と、足音を立てながら、男は歩く

 

深く帽子を被り、脇に地図を挟んで、男は歩く

 

「誰か飛ばせる空母と艦載機は無いのか‼︎」

 

「こんな嵐の中じゃ無理だ‼︎」

 

合羽を着て、必死になってレイを探そうとしてくれている皆を横切り、男は歩く

 

ガラガラガラと扉が開けられ、男は一件の店に入る

 

「中将⁉︎ビショ濡れじゃない‼︎」

 

女は男の元に駆け寄る

 

「もう…無理しないでよ…」

 

男の体を布で拭き、女は気付く

 

男の体が震えている事に…

 

「…力を貸してくれ」

 

「中将…」

 

底抜けに明るく、底抜けに優しい男が、女の前で恥じらいもなく床に頭を置いた

 

その姿を見た女は、全てを察した

 

「…いいよ、中将。私の命、中将にあげる」

 

女は後一回だけ、天翔ける力を残していた

 

それを今、男の為に使おうとしている

 

「そこまで誘導したげるわ‼︎」

 

「今こそレイさんにお礼を返すのです‼︎」

 

偶々腹ごしらえをしに来ていた、二人の小さな姉妹

 

「機体はあるんだ。頼むみんな。俺に力を貸してくれ」

 

男は姉妹にも頭を下げた

 

「中将…」

 

「なら行きましょ‼︎」

 

「頭を上げて欲しいのです‼︎」

 

男は立った

 

男の名前は、リチャード

 

女の名前は、瑞鶴

 

姉妹の名前は、雷、電

 

四人は今、暗夜の航路へと向かおうとしている…

 

 

 

 

 

 

 

「これだ」

 

「綺麗…」

 

「強そうなのです‼︎」

 

「F6F-5Night…」

 

リチャードがいざという時に持って来た機体が、そこにあった

 

黒いボディーのこの機体は、多少の雨風なら何の心配も無く飛べる頑丈な機体

 

その機体が、使うべき時が来た

 

「分かった。中将を引っ張って行く」

 

「頼んだ…あぁ、雷、電。少しだけ目を閉じててくれ」

 

「キスするのね‼︎」

 

「ブチューっと行くのです‼︎」

 

そうは言うが、二人はキチンと目を閉じてくれた

 

「中将。一つ約束して」

 

「ん。何だって聞く」

 

瑞鶴はリチャードの顔を両手で持ち、ほんの少し微笑み、耳元で囁いた…

 

「…来世では、もっと私を好きんなってね⁇」

 

「瑞っ…」

 

唇を重ね合う二人…

 

リチャードの体がみるみる小さくなる…

 

「はいっ‼︎良いわよ‼︎」

 

「じゃあ行きましょ‼︎」

 

「命令なんてクソ喰らえなのです‼︎」

 

リチャードを載せた瑞鶴、そして雷電姉妹が嵐の中を進み始めた

 

瑞鶴の胸当ての中に詰められたリチャードは、一人考えた

 

もしかして瑞鶴は…

 

そう考えた後、リチャードは胸一杯に彼女の匂いを肺に入れた…

 

 

 

 

「凄い雨風だわ‼︎」

 

「あはははは‼︎雷もヤバイのです‼︎」

 

「中将‼︎ポイントに近付いたわ‼︎」

 

”発艦出来るか⁉︎”

 

胸当ての中から顔を出し、瑞鶴に話し掛ける

 

「出来るよ…やったげる‼︎」

 

”頼む‼︎”

 

瑞鶴が弓を構える

 

「リチャード機、発艦‼︎」

 

”発艦‼︎”

 

矢は雨を退けるかの様に真っ直ぐに放たれ、一機の航空機へと姿を変えた

 

「行った行った‼︎」

 

「瑞鶴さん凄いのです‼︎瑞鶴さん⁉︎」

 

「くっ、そぉ…」

 

発艦の影響で、瑞鶴の艤装に亀裂が入る

 

「待たなきゃ…あの人、帰る場所、ないじゃん…」

 

「もう無理なのです‼︎」

 

《ありがとう、瑞鶴‼︎雷、電‼︎瑞鶴を連れて帰ってくれ‼︎》

 

「分かったのです‼︎」

 

「帰るわよ‼︎」

 

「中将…ごめん…私、ここまでみたい…」

 

力無く雷電姉妹に肩を持たれ、瑞鶴達は航路を戻って行く…

 

 

 

 

「生きてろよ、レイ…」

 

リチャードの手には、ひとみといよから聞いた場所の地図があった

 

この辺りの海域には、ボーキサイトが採れる島がある

 

レイはそこにいると踏んだ

 

もし墜落したのなら、早急に助けが必要だ

 

救急キットも持った

 

大した事は出来ないが、レイなら救急キットがあれば自分で治せるだろう

 

「…あった‼︎」

 

思惑通り島があった

 

「滑走路は…おっと‼︎」

 

観測用の航空機が止まる滑走路を探しながら、揺れる機体を立て直す

 

「あった‼︎」

 

滑走路を見つけ、着陸態勢に入る

 

「滑るっ…‼︎」

 

何とかブレーキを掛け、機体を止める事が出来た

 

キャノピーのロックを外し、一瞬で降りてすぐに閉じた

 

そして、すぐに叫んだ

 

「マーカーーース‼︎」

 

「あ⁉︎親父⁉︎」

 

すぐに反応があった

 

「何やってんだ‼︎」

 

「早くこっちに来い‼︎」

 

滑走路の先はトンネルになっており、レイはそこからリチャードを呼んでいた

 

「機体引っ張って来てやるから待ってろ‼︎」

 

「すまん‼︎」

 

レイはすぐに機体をトンネルの中に入れてくれた

 

「これで一安心だ…おい…」

 

リチャードはレイを力強く抱き締めた

 

「馬鹿野郎…心配掛けさせるな‼︎」

 

「無線とレーダーが効かないんだよ。しかもこの嵐だ」

 

「未確認機はどうした‼︎」

 

「そこにっ」

 

レイの目線の先には、T-50

 

そして、深海側の戦闘機が三機、雨宿りをしていた

 

「敵じゃなかったのか⁇」

 

「そっ」

 

「マーカスサン…」

 

トンネルの奥から声が聞こえる

 

それも、案外近くから

 

「起きるな。まだ傷は癒えてない。それにこの雨だ…」

 

レイはすぐに歩み寄り、声の主の前でしゃがみこんだ

 

「その子は…」

 

「帰り道の途中で怪我したんだ」

 

そこに居たのは、軽母ヌ級

 

足を怪我している

 

そして、目の赤い空母ヲ級

 

スカイラグーンに居た子とは違うみたいだ

 

「艦載機を飛ばして、助けを呼びに来てくれたんだ」

 

「そっか…なら良かった…」

 

「親父、救急キットあるか⁉︎」

 

「あぁ‼︎あるぞ‼︎」

 

救急キットをレイに渡すと、すぐにヌ級の手当てを始めた

 

「よしっ‼︎これでオーケーだ‼︎」

 

「アリガトウ‼︎」

 

「ゴメイワクヲオカケシマシタ…」

 

「良いんだ…ヌ級は子供か⁇」

 

「ソウ。ワタシノコドモ…」

 

膝に来たヌ級の頭を優しく撫でるヲ級の顔は、横須賀と同じ、母親の顔をしていた

 

「…なるほどなっ」

 

「マーカスサン⁇」

 

「違うんだな…母が子に充てる愛と、男に充てる愛は…」

 

「ソウ…チョットチガウ。ヤッパリ、ハハオヤハ、コドモヲアイシテシマウノ…」

 

「帰ったら謝らなきゃな…」

 

レイのその顔は、何処か優しさに満ち溢れていた

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