艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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214話 暗夜の航路(2)

「マーカスサン…ココニイル⁇」

 

「あぁ。ここにいるよ」

 

ヌ級が心配そうにレイに話し掛け、レイはヌ級の頭を撫でながら小さな手を握った

 

ジェミニが子供に対して母親の顔をしているのなら、レイはこう言う時、父親の顔をしている

 

自分の息子に言うのもなんだが、自分より父親らしい顔をしている、と、リチャードは思った

 

ヌ級が鼻ちょうちんを出しながら眠り始め、ヲ級も寝息を立て始め、レイは革ジャンからタバコとライターを抜き取った後、ヲ級にそれを掛けた

 

雨は降り続き、トンネルの縁から滴り落ちている…

 

レイもリチャードも適当な場所に座ってタバコに火を点けた

 

「親父」

 

「何だ⁇」

 

「初めてレイって呼んでくれたな」

 

「無線、聞こえたのか⁇」

 

「あんだけ近寄りゃぁ、嫌でも入るさ」

 

「まっ、焦ってたからなっ…」

 

紫煙を吐きながら、レイはリチャードの載って来た機体を見た

 

「…5Nightか」

 

「良い機体だぞ。今度、貸してやるよ」

 

「指揮機として使っていいか⁇」

 

「あぁ。指揮機としてはバッチリの機体だ」

 

リチャードは自分の機体をいつも黒くする

 

コルセアだって、リチャードのだけは黒い

 

「そういや、ここまでどうやって来た」

 

「あぁ。瑞鶴に妖精にして貰って発艦して貰った」

 

「そっか…」

 

タバコ片手のレイがリチャードの横に腰掛け、リチャードとは反対方向である外を眺めながら、タバコを吸い続ける

 

「…母さんには黙っといてやるよ」

 

「頼む」

 

レイは知っている

 

艦娘とパイロットは深い絆で結ばれると、艦娘はパイロットを妖精に変える事が出来る事を

 

人から妖精に、妖精から人へと、自由に変える事が出来る

 

それをリチャードは瑞鶴でする事が出来る

 

一番手っ取り早い方法は、互いが愛し合い、体を重ね合わせる事

 

恐らくリチャードは瑞鶴を抱いている

 

「帰ったら瑞鶴を観るよ」

 

「すまん…」

 

レイは苦笑いを見せた後、再び外に目を戻した

 

「後の見張りは俺に任せて、少し休んでくれ」

 

「分かった…」

 

レイにそう言われ、リチャードは壁にもたれて目を閉じた…

 

レイは何度もタバコを吸いながら、三人の様子を見ていた…

 

 

 

 

翌朝…

 

リチャードは何かを動かす音で目が覚めた

 

「マーカスサン、アリガトウゴザイマシタ」

 

「気を付けて帰るんだぞ⁇」

 

「オレイハゴジツオモチシマス」

 

「気にするな。これが俺の仕事だ」

 

ヌ級とヲ級は何度もお礼をしながら、トンネルから出て行った…

 

「行ったか…」

 

「あぁ」

 

二人が見えなくなるまで、レイは二人の背中を見続けていた

 

「俺達も帰ろう」

 

「あぁ‼︎心配掛けさせたからな‼︎」

 

T-50と5Nightがトンネルから出て、空へと戻って行く…

 

 

 

 

「はぁ…」

 

横須賀の執務室では、横須賀はため息を吐き、隊長が貧乏ゆすりをしている

 

執務室の中央には、立体レーダーが展開されているが、時々基地周辺で飛んでる哨戒機が映るだけで、二機が映る気配は無い

 

「エドガー、出よう」

 

「待って隊長。もう少しだけ…」

 

「ぐっ…」

 

横須賀は四人を信じていた

 

もし瑞鶴が発艦したリチャード機がレイを見つけていれば、台風が過ぎ去った今なら連れ帰って来るはず

 

だが、そのリチャード機でさえ反応はロスト

 

「父さんも爺ちゃんも何してんだよ…」

 

「お父様、どこ行ったの⁇」

 

「心配しなくていいわ早霜…」

 

横須賀は心配そうに自分を見つめる早霜の頬を撫でる

 

「はっ‼︎来ました‼︎」

 

「見せなさい‼︎」

 

親潮のPCに電文が来た

 

PCには、座標と何度も送ってくれたであろう電文が打ち出されていた

 

 

 

”ケガシタヤツガイル チリョウシテクル”

 

”キュウキュウキットガタリナイ ヨコシテクレ”

 

”キイテンノカ アホジェミニ”

 

”モウイイ ヒトリデスル アホ”

 

 

 

「あは…‼︎すぐに救急キットを運んで頂戴‼︎」

 

「ジェミニ様。既に此方に向かっている様子です。この電文は昨夜の午後に打たれたもので、電波障害が解消された今、まとめて来た模様です」

 

「明石‼︎立体レーダーの索敵範囲を広げて‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

執務室の中央に、立体レーダーが更に大きく展開される

 

「いた‼︎あれだ‼︎」

 

レーダーの隅に二機が映った

 

「はぁ…」

 

「ふぅ…」

 

そこに居た全員が安堵の息を吐き、腰が抜ける

 

すぐに立ち直り、横須賀は無線を手に取った

 

「ワイバーン‼︎聞こえる⁉︎」

 

《聞こえるぞ‼︎心配掛けたな‼︎》

 

元気そうなレイの声が執務室のスピーカーから聞こえた

 

「怪我はないか⁉︎」

 

続いて隊長が無線を手に取る

 

《怪我は無いけど、腹減った‼︎》

 

「レイだな」

 

「レイね」

 

「ケプリ。応答願います」

 

《私も大丈夫だ‼︎寿司が食いたいね‼︎》

 

「中将ね」

 

「中将だな」

 

再び全員が安堵の息を吐いた

 

「滑走路を開けて頂戴‼︎その後哨戒機を全機呼び戻して‼︎」

 

「はいっ‼︎ジェミニ様‼︎」

 

ようやく笑顔を見せた親潮が、滑走路を開けるように指示を出す…

 

 

 

 

「え〜…疲れたぁ〜…」

 

「寿司奢ってやるよ…」

 

前屈みになり、ダラけながら俺達が機体から降りて来た

 

「レイ‼︎」

 

待っていた隊長が、俺をキツく抱き締めた

 

「すまん、心配掛けた…」

 

「気にするな‼︎帰って来ただけで充分さ‼︎」

 

「横須賀…」

 

隊長の手から離れた俺は、横須賀の所に来た

 

横須賀は俺を睨んでいる

 

「横須賀、すま…ぶべら‼︎」

 

横須賀のビンタが炸裂した後、ギュッと抱き締められた

 

「どれだけ心配したと思ってんのよアホレイ‼︎」

 

「悪い悪い…」

 

横須賀は俺の胸に顔を埋めたまま、小さく震えている

 

そんな一人の母親を抱き締め返す

 

「よく分かったよ…お前が母親の顔をする意味が」

 

「…ごめんなさい。アンタが妬いてるとは思わなかったわ…」

 

「いいんだ…」

 

「さ〜てさてさてさてぇ⁉︎俺に飛び付いて来てくれるギャルはどっこかなぁ〜‼︎」

 

親父のアホのおかげで少し場が和んだ

 

「瑞鶴がいないな…あ‼︎寿司屋だな‼︎」

 

「中将待って‼︎」

 

誰も自分を慰めてくれないので、親父は一番手っ取り早く慰めてくれる瑞鶴の所に行こうとした

 

横須賀は俺の体から離れ、何故か親父を止めた

 

「なんで‼︎スパイトも瑞鶴もリシュリューだっていないじゃないか‼︎」

 

「今行くと後悔します」

 

「はは‼︎しないしない‼︎」

 

「中将待って‼︎お願いですから‼︎」

 

「じゃあな〜」

 

リチャードはケラケラ笑いながら繁華街へと向かって行った…

 

「瑞鶴、何かあったのか⁇」

 

「えぇ…」

 

隊長と顔を見合わせ、頷き合った後、横須賀と共に繁華街へと走る

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