その日の夜…
「さっ。今日はもうネンネだなっ」
「おやすみ、すてぃんぐれい」
「おやしゅみ‼︎」
「またあちた‼︎」
子供達を寝かせて食堂に戻って来た時、一本の無線が入った
こんな時間に珍しい…
誰だ⁇
「もしもしレイ⁉︎」
無線の先は横須賀
声を聞く限り、焦っている…
「どうした⁇」
「基地が大変な事になってんのよ‼︎すぐ来て頂戴‼︎」
「分かった‼︎すぐ行く‼︎」
無線を切ってすぐに準備をし、大人組がいる食堂に戻って来た
「緊急命令だ。ちょっと長引くかも知れない」
「分かった。行こう」
コーヒーを飲んでいた隊長も着いて来てくれる事になり、二人で横須賀を目指す…
横須賀に着き、機体から降りてすぐに執務室へ来た
「現在位置は繁華街方面‼︎防衛線を張って‼︎」
「バリケード設置部隊は警戒しつつ、作業を行って下さい‼︎」
執務室では横須賀と親潮がPCを睨みながら、慌ただしくキーボードを叩いたり、インカムで何かを話している
「何があった⁉︎」
俺と隊長に気付き、横須賀が此方に目を向けた
「あ、レイ‼︎ヒュプノスが起きちゃったのよ‼︎」
「ヒュプノスが…」
冷や汗が頬を伝う
親潮と話した通り、ヒュプノスはタナトスの数倍強い
その力を抑える為に、元の凶暴な性格を眠らせてあった
その眠りから、ヒュプノスは目覚めた
いや、目覚めてしまった
「隊長。子供達と艦娘達と地下のシェルターに避難誘導をお願いします」
「分かった。レイ、横須賀、無茶はするなよ」
隊長が執務室から出た後、親潮の所に来た
「申し訳ございません創造主様‼︎」
「謝る必要は無いさ。遅かれ早かれ、必ずこの日が来た。ヒュプノスの現在位置は」
「はい。現在繁華街方面へ向かって進行中です」
レーダーで見ると、ヒュプノスは繁華街から本そこまで来ていた
「分かった。教会へ誘導してくれ。横須賀、工廠ではっちゃんを呼んで、お前ははっちゃんと一緒に教会にいてくれ」
「わ、分かったわ‼︎」
横須賀が出た後、革ジャンを羽織り直しながらもう一度位置を確認し、執務室から出ようとした
「創造主様⁉︎何をなさるのですか‼︎」
「俺か⁇俺は娘を止めに行く。それだけさ」
「では親潮も御一緒に‼︎」
正直者で優しい親潮の事だ
必ずそう言うと思った
「横須賀を守ってやってくれ。頼む」
「ですが‼︎」
親潮が産まれて初めて反発をした
ヒュプノスが目覚めた今、基地が大変な状態になろうとしているのは重々分かっている
だが、今親潮が反発をした事が無性に嬉しかった
「親潮は聞き分けの良い子だろ⁇」
「親潮は…」
「自分が悪いと思ってるなら、それは間違いだ。あの子を産んでおいて、放ったらかしにした俺が悪い」
「…畏まりました。親潮、ジェミニ様の護衛にあたります。ですが創造主。危機を感じたらすぐに親潮を呼んで下さい」
「ありがとう」
そう言い残し、ヒュプノスのいる場所へと向かう…
「暴れてやがるな…」
レーダーの位置に近付くにつれ、施設の一部や防御の為の盾がその辺に落ちまくっている
ヒュプノスが目覚めたのは大変マズイ
あの子には”あるプログラム”が組み込まれている
それを破る術はほとんど無い
もしそれが福江の様なシールドなら、まだ策はあったのかも知れない
もしあるとすれば…
「やけに静かだな…」
暴れているはずなのに、横須賀はやけに静かだ
「何処だ…何処にいる…」
何度も辺りを見回すが、見つかる事はない
「いたぞ9時方向‼︎」
「これ以上進ませるな‼︎」
兵士の声が聞こえた
「あっちか‼︎」
音が聞こえた反対方向を向いていた為、体を其方に向けた途端聞こえて来る、鉄と鉄とがぶつかり合う音が聞こえた
まだ抑えられていないみたいだ
いや…抑えられる訳ない、か…
急がなければ…
その場所にはすぐに着いた
「ここをこうすると痛いわよね…あはは…あははははは‼︎」
「いだだだだ‼︎」
ヒュプノスは一人の兵士の盾を紙の様に丸めて捨て、顔を持ち上げて投げ飛ばしていた
「ヒュプノス‼︎」
俺の声に反応したヒュプノスは、首だけ此方に向けた
「あら。これはこれはマーカスさん。今更なぁに⁇私を止めに来たの⁇」
「狙いは俺だろ」
「えぇ。勿論。私を産んだのにすぐ眠らせたのですものっ‼︎」
話の最中に兵士から手を離し、笑顔でいきなり此方に飛び掛かって来た
冷や汗を散らせながら、ヒュプノスを避ける
ヒュプノスに触れてはいけない
絶対に負ける
「やっぱり私を避ける…うふふっ、そう言うのは覚えてるのねぇ⁇」
「そのプログラムは俺が作ったからな。それにお前も」
「こんな体に産んで頂いて、どうもありがとうございます。最悪の気分です」
ヒュプノスの言葉を聞いて、胸が痛んだ
今まで好意を向けてくれる子が多かった分、その言葉は突き刺さった
「私を消す⁇消したい⁇そうよね‼︎」
「ヒュプノス」
「なぁに⁇」
「俺が憎いか」
「えぇ。とっても。だから今から殺すわ。貴方が産んだ子に、貴方は殺されるの。素敵でしょう⁉︎」
「着いて来い」
ヒュプノスの目を見ながら、その場からゆっくり離れる
「あはは‼︎逃げるの⁉︎…逃がさないから」
走って来たヒュプノスに合わせ、俺も走る
ここで追い付かれたら全てが終わる
どうにかして教会へと向かわないと…
「マーカス様‼︎」
教会の前でははっちゃんが待機していた
「数分間だけヒュプノスを頼む‼︎」
「畏まりました‼︎」
はっちゃんにバトンタッチし、教会に逃げ込んだ
「今度はお姉様…お姉様はマーカスさんの味方なのね⁇」
「えぇ。はっちゃんはマーカス様の味方です。この先もずっと」
「そう。ならお姉様も殺すわ⁇」
「ヒュプノス‼︎」
「死ねアイリス‼︎」
ヒュプノスが飛び掛かり、はっちゃんは防御の体勢に入る…
「レイ‼︎」
教会に転がり込んだ俺は、息を整えながら待っていた横須賀に目を向けた
「ありがとう、ヒュプノスを置いてくれて…」
「気にしないで頂戴。私の大切な部下よ。それに、あの子は私達を救ってくれたじゃない」
「そうだったな…」
「その恩を返しましょう⁇」
「分かった…」
ここでヒュプノスを迎え撃つ
力が無理なら、方法は別にある
もし止められるのならば、俺の造った潜水艦全てに当て嵌まる事でやるしかない
「行くぞ」
「えぇ」
横須賀がマイクを持った
俺のピアノの音に合わせて、横須賀が歌い始める…