艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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特別編 貴方に恋した一週間(5)

「あぁ…」

 

「見るな‼︎」

 

ゲルダの目に映る、街中に転がる市民の死体の山

 

数日前に俺にフルーツをくれた、笑顔が印象的な市場のばあさん

 

昨日、余った魚を一緒に食おうと言ってくれた気の優しい中年の男性

 

皆、逃げ遅れていた…

 

俺達の声が届かない位置にいたからだ

 

「ゲルダっ‼︎」

 

「はぁ…はぁ…」

 

次の物陰へと一旦身を潜める

 

先程と同じく、俺が壁に背中を置き、ゲルダを対面で抱き締める

 

第二波が来る…

 

「見るんじゃない…」

 

ゲルダを胸にきつく抱き締める

 

爆破音が何度も繰り返される

 

その度に、悲鳴が聞こえる

 

「心配するな」

 

ゲルダにとって、投下爆弾より恐怖なのは人の悲鳴

 

普段耳にしない音より、より身近な、”人”が恐怖する声の方が恐ろしさは増加する

 

「私達…ここで死にますか⁇」

 

目も合わさず、不安な状態でゲルダは問う

 

「死なない。君が死ぬのは何十年も先の温かいベッドの上だ」

 

その返しに、ゲルダはうっすらと笑みを浮かべた

 

「ねぇ…リヒターさん…私達だけでもお屋敷の地下に行きましょう⁇」

 

「分かった。そこまで行こう」

 

第二波が通り過ぎた…

 

第三波まで、少しだが隙が出来た

 

一瞬だけの静寂は、俺でも恐怖を感じた

 

ゲルダの屋敷まで、もう少し…

 

 

 

「もう少しだ、ゲルダ」

 

逃げる途中、息絶えた軍人が落としたであろうライフルを手にし、ゲルダと共に屋敷を目指す

 

「は…はい…」

 

ゲルダは身体的にも精神的にも疲れていた

 

俺は俺で、頭上を越えて行く航空機に対し、何度もライフルを向け、低空飛行の機体に対して威嚇射撃をしていた

 

そんなゲルダに、最後の槍が突き刺さる

 

「うそ…」

 

屋敷の門の前に来たゲルダは、変わり果てた自分達の屋敷を見て膝を落とした

 

屋敷には爆弾が落とされ、家がえぐれていた

 

「いやぁぁぁぁぁあ‼︎うそうそこんなの嘘よ‼︎ねぇ‼︎誰かいないの⁉︎」

 

とうとうゲルダはパニックに陥った

 

「ゲルダ‼︎ゲルダ‼︎」

 

「ね、ねぇリヒターさん‼︎わわ、私のお家、立派でしょう⁉︎」

 

「ゲルダ…」

 

「そ、そうだわ‼︎リヒターさんに出来立てのワインを飲んで頂かないと‼︎」

 

「ゲルダっ」

 

パニックに陥り、錯乱状態にあるゲルダを胸に寄せた

 

「私どうしたらいいの⁉︎ねぇ‼︎教えてよリヒターさん‼︎」

 

返す言葉が見つからない

 

ただただ、ゲルダを強く抱き締めるだけ…

 

「いいかゲルダ。今は逃げるしかない。みんな避難してるから、また会える」

 

「…本当ですか⁇」

 

「あぁ」

 

「…」

 

無言のまま俺達は手を握り合い、何度も隠れながら街から離れて行く…

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