艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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特別編 貴方に恋した一週間(6)

街が見渡せる小高い丘まで来た

 

至る所で黒煙が上がっている…

 

「街が…」

 

言葉が出ない

 

自分達が今までして来た事の下では、こんな事になっていたのか…

 

「リヒターさん…」

 

「なんだ⁇」

 

「これが…戦争なのですか⁇」

 

「そう。悲惨なものさ。何もかも奪って行く…」

 

頭上では、弾を撃ち尽くした航空機達が撤退して行く

 

情け容赦ないな…

 

手当たり次第に落としては、何食わぬ顔で帰って行った…

 

撤退して行く航空機の巻き起こした風が、灰で少しくすんだゲルダの金色の長い髪を揺らす

 

ほんの少しだけ、ゲルダの顔が勇ましく見えた…

 

「戻りましょう、リヒターさん。街の人を救わないと」

 

「分かった。行こう」

 

攻撃が止み、未だ部分的に燃える街へと戻って来た

 

死体、悲鳴、泣き声、死体…

 

口には出さないが、地獄絵図と化していた

 

「倒れてる人を広場まで運ぼう」

 

「えぇ」

 

気丈に明るく振る舞うゲルダは、もういなかった

 

そこにいるのは、ただただ無心で道に倒れている人を運ぶ華奢な少女

 

見ていて胸が壊れそうになる

 

そんなゲルダを横目に見ながら、ふと考えた

 

母さんや第三の男の行方を探っていたが、それはもう良い

 

その代わり、もう少しだけゲルダと一緒にいよう

 

せめて、ゲルダが生きて行ける場所に行くまでは…

 

どうしても、見捨てる事が出来なかった

 

そんな矢先、事件は起きた

 

俺がほんの一瞬、ゲルダから目を離した瞬間だった

 

倒壊した家屋にいた何人かの人が、焦った様子で出て来た

 

「不発弾だ‼︎」

 

声が聞こえた方にゲルダが首を向けたその瞬間

 

不発弾は役目を思い出した

 

俺が顔をそちらに向けた時、ゲルダが身を避ける姿が一瞬だけ見えた後、家屋が倒壊した際に舞い上がったチリやホコリの中に消えて行った

 

「げ…ゲルダ…」

 

運んでいた人を降ろし、一瞬停止した思考をすぐに戻し、現場に走る

 

辺りに舞う白いモヤを掻き分け、ゲルダを探す

 

「ゲルダ‼︎何処にいるんだ‼︎」

 

「り…ひた、さん…」

 

か細い声が聞こえ、視線を落とす

 

「ゲルダ‼︎」

 

地面に突っ伏したゲルダを見つける事が出来た

 

「すぐに助けてやるから、ジッとして…」

 

ゲルダは何故か俺の足を掴んだ

 

「あ、足が…」

 

「足が痛いのか⁇」

 

「見て…頂けませんか⁇」

 

「分かった。大丈夫だからな‼︎」

 

ゲルダが痛むと言う、足元に来た

 

それを見て、俺は腰が抜けた

 

家屋の柱が落ちてきたのか、木材がゲルダの足に直撃しており、膝から下が潰れていた

 

「リヒターさん…」

 

「…」

 

ゲルダの声は、既に入って来なかった

 

考えろ…

 

どうすればいい…

 

………

 

…カプセルだ

 

現代に戻れば、カプセルに入れられる

 

誰にも分からない、目の届かないカプセルに入れられれば、誰も知らないままゲルダを治せる

 

思い当たる場所が一つだけある

 

それを思い付いた直後、俺はゲルダの所に戻って来た

 

「ゲルダ…少しだけ我慢してくれ」

 

ゲルダは俺の目を見た後、小さく頷いた

 

すまない朝霜…

 

…お前を裏切った父さんを許してくれ‼︎

 

ゲルダを抱き上げ、地面をバットの先で突いた…

 

 

 

 

モヤが晴れた後、一時的に避難していた市民達が戻って来た

 

「いない…」

 

「さっきの女の子は…」

 

「木っ端微塵になったのか…」

 

そこにはゲルダはいなかった

 

いたのは、ゲルダが運んでいた人だけ

 

「助けに入った異国の男もいないぞ‼︎」

 

「可哀想に…」

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