「いた‼︎」
海上に落ちた南山が見えた
「ファイヤナイト‼︎森嶋‼︎応答せよ‼︎」
しかし、森嶋からの応答は無い
《今はスカイラグーンに降りよう。どの道戦闘機じゃ救助は難しい》
「了解」
スカイラグーンに降り立った俺達の目に映ったのは、慌ただしく動いてくれていた深海達
「イマ、ピーティータチモダシタ」
「集積地か。助かるよ」
「キニスルナ。ワタシハレンラクヲココデマツ」
「ヒッパレー‼︎」
「オイショー‼︎」
森嶋より先に南山が上がって来た
「コレ、キタイ‼︎」
「ナオス‼︎」
「パイロットサン、モスコシマッテネ」
「あぁ。ありがとうな」
深海達が南山を格納庫に置く為に、下に車輪等を置きながら数十人で牽引してくれている
「俺達より早く動いてくれてたのか…」
そう呟くと、口に綱を咥えた駆逐艦ハ級
のハリルが、一瞬だけ咥えた綱を放した
「トモダチダモン」
「な…」
ハリルはまた綱を咥え、南山を牽引し始めた
「サンダースノヒト、オカシクレル‼︎」
「ナデナデシテクレル‼︎」
「バイバイスルトキ、トチューマデイッショ‼︎」
そう言いだしたのは、横須賀の学校に通っている深海の子供達
「そんな事してたのか…」
サンダースの連中は、皆心の何処かに傷を負っている
涼平が一番分かりやすいかも知れない
一度失ったからこそ、何かを大切に出来る
今自分達がやるべきは何か…
それを全員、何となく把握している気もする
「キュウナンシンゴウ、イドウチュウ」
横に居た軽巡級の深海がレーダーを表示したモニターを持って来てくれた
俺と隊長は、深海軽巡の左右に屈み込んでモニターを覗き込んだ
「おかしい。こんな速さで動けるはずがない」
「誰かに担がれてるのか⁇」
「ナンダロネ」
異様な速さで森嶋の救難信号が移動して行く
「森嶋の治療をしに来たはいいが、当の本人が何処行ったか分からんのはキツイな…おっと」
タブレットに通信が来た
「どうした⁇」
《創造主様。森嶋少尉はトラック基地に向かわれております》
「トラックだと⁉︎」
《創造主様とウィリアム様の航空視認、横須賀からの救助隊、スカイラグーンからの救助隊より早く救助なされました》
「分かった。すぐに行く」
「私が残る。レイは森嶋を頼んだ」
「行って来る‼︎ありがとな‼︎」
「ウンッ‼︎」
親潮との通信を終え、スピーカー越しに話を聞いていた隊長がスカイラグーンに残ってくれる事になり、森嶋のいるトラック基地を目指す為にグリフォンに乗る
《ねぇ、レイ⁇》
「どうした⁇」
グリフォン状態のきそと話すのは久方振りな気がする
きそは最近、きそでいる事が多い
最近は大規模な空戦も少なく、今の内に普段からグリフォンに慣らしておく為に、はっちゃんやゴーヤが乗る事も多いからだ
しかし、今日の様な本気の時は、やはり最高の相棒で良かったと思う
離陸した後、グリフォンは話を続けた
《さっき、お母さんと親潮の音声データを確認したんだけど…救助してくれたのは蒼龍さんみたいだよ⁇》
「そりゃあマズイな…」
《再生するね》
再生された音声データには、本当に大変マズイ単語が残されていた
”美味しそうですねぇ〜”
「ヤバイ…蒼龍からしたら森嶋は筋肉質でご馳走だ‼︎」
《返して欲しいならぁ〜私を倒してくださいぃ〜とか言われたらどうするの⁇》
「そん時ゃっ、お前に頼るさっ‼︎」
《へへ、オッケー‼︎じゃあ行こう‼︎》
俺達はトラックへと急いだ…
「ただいまぁ〜」
「おかえりなさい、蒼龍⁉︎」
「おかえりなさ…ど、どうしたの⁉︎」
帰って来た蒼龍を見た衣笠と飛龍は、蒼龍を見るなり駆け寄った
肩にパイロットらしき人物を担いで帰って来たのだ
「天津風ぇ〜、浦波ぃ〜」
「蒼龍さん、おかえりなさい」
「おかえりです、蒼龍さん‼︎」
「ほぉ〜れ」
「わ‼︎ちょ‼︎」
蒼龍が二人に投げたのは、タウイタウイモールのビニール袋
「仲良く食べるんですよぉ〜」
中にはお菓子がミチミチに入っている
トラックさんのお菓子も勿論美味しいが、たまにはジャンクなお菓子も食べたくなる
そんな頃合いに、蒼龍は何故かいつも子供達にお菓子を買って来てくれる
「ありがとうございます。その方は⁇」
「蒼龍のご飯ですぅ〜」
「う、浦波‼︎ダメよ‼︎蒼龍さん、ありがと‼︎」
「はいはぁ〜い」
「ちょっ、蒼りゅ…」
「衣笠。ここは蒼龍を信じましょう⁇ねっ⁇」
「うん…」
衣笠の言葉に耳を傾けず、蒼龍は自室に入ってしまった
制止しようものなら蒼龍に余裕でパワー負けする衣笠と飛龍は、ただ見守る事と、パイロットの無事を祈る事しか出来ずにいた…
「お服脱ぎ脱ぎしましょうねぇ〜」
気を失ってはいるが、ちゃんと呼吸をしている森嶋の服を、蒼龍は一枚一枚丁寧に脱がして行く
「んんっ‼︎美味しそうですねぇ‼︎」
先程までおっとりとした話し方をしていたのが、筋肉を見た途端におっとりさが消えた
「つ、つまみ食いしても大丈夫ですよねぇ〜…いやいや、ここは我慢…」
どうやら蒼龍、もう少し筋肉を付けさせてから森嶋を頂きたいみたいだ
「うっ…」
独り言をボヤいていた蒼龍の声を聞き、森嶋が意識を取り戻した
「寒いですねぇ〜」
「何で自分服を…」
「海に落ちてましたからねぇ〜」
「あ…」
「お着替えしましょうねぇ〜」
話しながらでも、蒼龍はテキパキ服を脱がせて行く
「お父さんの服を頂戴しましたぁ〜。これを着ていて下さいねぇ〜」
蒼龍はシャツと上着、下着とズボンを森嶋に渡す
トラックさんの服だが、今は着ていないので森嶋が着ても大丈夫な服を蒼龍は見繕っていた
「あ…ありがとうございます」
「何か温かい物を作って来ますねぇ〜。それまでぇ〜」
「ゔっ‼︎」
蒼龍はいきなり森嶋の肩を掴み、ベッドに倒した
「ちゃんと横になってて下さいね」
蒼龍の声のトーンが低くなり、顔付きも真顔になる
「は、はひ…」
蒼龍に言われるがまま、森嶋はベッドで横になった
森嶋を自室に寝かせ、蒼龍は厨房で料理を始めた
「そ、蒼龍⁇」
「何ですかぁ〜⁇」
横須賀から連絡を受けたトラックさんが厨房に入って来た
「さっきの方は⁇」
「落ちてたから拾ったんですよぉ〜」
「横須賀のパイロットさんらしいな⁇」
「胃に入れば関係無いですねぇ〜」
トラックさんの顔を見向きもせず、蒼龍はお粥とスープを作り続ける
「落ちてたから蒼龍のモノですよぉ〜」
「そ、そっか‼︎蒼龍のモノだな‼︎そうだそうだ‼︎」
冷や汗を流すトラックさんが肯定し始めた時に、ようやく蒼龍はトラックさんの顔を見た
「蒼龍のアネキ‼︎横須賀のパイロットさンの様子は⁇」
「心配無いですよぉ〜」
カウンター越しに話し掛ける江風に反応はするが、目をやる事なく蒼龍は料理を作る
いつもは江風と目を見て話すのに、今日は料理を見て話している
蒼龍にとって、森嶋は久々に転がり込んで来た上玉の肉
それも筋肉質で大変美味そうな肉
美味しい食事でブクブク太った政治家の肉も蒼龍は好きだが、シンプルに筋肉質の肉も蒼龍は好きだ
本当は今すぐにでも歯を立ててムシャぶり付きたい
だが、ほとんど無抵抗な人を食べるのは面白くは無い
蒼龍は知っていた
助かったと思わせたその瞬間に噛み付き、肉を喰らう
ストレスから解放され、全身に血液が回ったその瞬間が、一番美味しい瞬間だと
…
「さ〜、出来ましたねぇ〜」
「何のスープだ⁇」
「お肉のスープですよぉ〜。さ、蒼龍は行きますねぇ〜」
「あ…頼んだぞ…」
お粥、スープ、スプーンをお盆に乗せ、蒼龍は厨房から出て行った
「だ、大丈夫なンか⁇」
「蒼龍の部屋に入る勇気あるかい⁇」
「…ねぇな‼︎」
トラック唯一の蒼龍ストッパーでさえ、蒼龍の自室に入る事はスプラッターなお家に行くより怖い事だ
トラックさんはコーヒー
江風はイチゴミルクを飲みながら、厨房近くの席に座った
「演習では大人しいのになぁ〜」
「美味しそうじゃないからじゃないか⁇」
「有り得る…」
「それに、ここ最近蒼龍が艦娘を食べているのを見た事がない」
「アタシが来る前は食ってたンか⁉︎」
「遠心分離機に天津風を入れてあんかけを絞り出したり、浦波達を煮込んで芋焼酎にしたり、大潮の頭のアレを勝手に飯盒に変えたり…」
浦波の芋焼酎辺りでトラックさんは机に肘を立てて顔を伏せてしまった
「しかしまぁ、江風が来てからめっきり減ったな⁇」
「何でだろな⁇」
当の江風は気付いていないが、トラックさんは知っていた
蒼龍にとって、産まれて初めて自分に意見して、対等に渡り歩いてくれるのが江風
鳥海や衣笠、飛龍達もいるが、蒼龍よりほんの少し上からの目線で話してしまう上、逆らえない
三人にとって、蒼龍は目の離せない…離してはならない妹的なポジションだからた
はたまた、駆逐艦達は蒼龍が面倒を見ている気がある
蒼龍は決して面倒見が悪い訳ではない
普段の行いが非常にヤバいのでそう見られるだけである
「初めて出会った頃はな、建造装置から産まれて来た艦娘をそのまま食ってたんだ…」
「まぁ…今更聞いても普通だな⁇なンも変わりゃしないさ‼︎」
「江風はそこが優しいんだ。いつだって蒼龍を守ってくれる」
「褒めても行かね〜ぜ⁇」
「行くなら私が止めるよ…」
江風はイタズラに歯を見せて笑い、トラックさんもそんな江風を見て、少しだけ口角が綻んだ…