今度は森嶋から蒼龍に送る視線となります
蒼龍の知能はあの日のまま、ほとんど動く事が無かった
たいほうやひとみといよは長時間カプセルに入っていた為、知識の吸収は早いが、体の成長が著しく遅い
蒼龍は違った
ある程度の体の成長がしきってはいるものの、頭を撃ち抜かれた際の損傷が治りきっていなかった
トラックさんが初めて蒼龍に出逢った時、蒼龍がまだ小さかったのは、外見は治ったものの脳の損傷が治りきっていないまま蒼龍がカプセルから勝手に出て来てしまったからである
人を食べたりするのも損傷した脳の部位が影響している可能性が高い
それが森嶋といる時、うっすら治りかけている
確かに森嶋を食べようとは思ってはいる
だが、ご飯を作ったり、抱き締めたり、ご飯を食べている顔を見つめて”嬉しい”と感じたりしている
一瞬瞳に光が戻ったのも、嬉しいと感じた瞬間
それが森嶋と横に居る時、瞳に光が戻る…
「ミミズさんですねぇ〜」
「…」
森嶋の反応は無い
お尻を地面に置き、足を広げて地面をほじり始めた蒼龍
「ダンゴムシさんですねぇ〜」
「…」
地面からほじくり出した虫をその辺に置きながら、蒼龍は森嶋の方を見た
森嶋は寝転びながら空に手を向けていた
「お空…」
蒼龍も森嶋と同じ空を見る
深海側の航空機が三機、編隊を組んで飛んでいる
「おっ…」
森嶋の腹に蒼龍の頭が置かれ、枕になる
蒼龍の手にはダンゴムシが両手に一匹ずつおり、こねくり回して遊んでいる
「ダンゴムシくるくる全回転〜」
森嶋は子供の様な蒼龍を見て微笑み、蒼龍の頭に手を置いた
「ん〜」
蒼龍はくすぐったそうにはしているが、嫌がってはいない
そして、大好物の指が目の前にあるはずなのに、何故か噛み付こうとしない
蒼龍は産まれて初めて赤の他人に甘えている
「ねぃびぃちゃんみたいですよ」
「ねぃびぃちゃん嫌いなんですぅ〜」
ダンゴムシを手の平でコロコロしながら、森嶋の問いに答える蒼龍
「人の好みはそれぞれですからね」
「蒼龍のお母さんなんですよぉ〜」
「そうでしたか…」
「蒼龍を置いて行ったのにぃ〜今更お父さんとベッタリなんてぇ〜、許せませんねぇ〜」
森嶋は何も返さず、ただ蒼龍の頭を撫で続ける中、蒼龍の髪を掻き分けて何かを探している様にも見えた
「蒼龍のお母さんはぁ〜衣笠だけなんですよぉ〜」
蒼龍に愛情を教えたのは、紛れも無い衣笠の存在
何でも無い時にギュッと抱き締めてくれたり、蒼龍に絵本を読んでくれたりする
無闇矢鱈に人を食べてはダメだと教えてくれたのも衣笠だ
「蒼龍のお母さんは衣笠だけなんですよ」
衣笠の話をした途端、蒼龍の目が輝く
「そうでしたか…」
蒼龍が今、複雑な立ち位置に居る事がよく分かった
あの日、自分を置いて行った母親
今、自分に愛情を教えてくれる母親
どちらを愛するかは一目瞭然だった
「戻りましょうかぁ〜」
また一瞬で蒼龍の目が暗くなる
「また遊んで下さいねぇ〜」
蒼龍はダンゴムシをちゃんと自然に帰し、手を振った
帰り道は蒼龍と横一列になって基地に戻る
「蒼龍さんは何が好きですか⁇」
「内緒ですよぉ〜」
蒼龍は森嶋の方を向くが、ほぼ真顔
だが、何処と無く微笑んでいる気もする
「おかえりなさい蒼龍‼︎」
「ただいまぁ〜」
基地に戻って来ると、衣笠が迎えてくれた
「もう大丈夫なんですか⁉︎」
「動かないと体が鈍ってしまうので」
「そっかそっか‼︎蒼龍⁇虫さんで遊んだの⁇手、泥だらけじゃない‼︎」
「ダンゴムシさんで遊びましたねぇ〜」
「ちゃんと手を洗って、うがいしたらお昼にしましょう⁇」
「は〜い」
まるで母親と子供の会話を見ているような…そんな風景が森嶋の目の前に映る