単冠湾の昼食…
「吹雪もご飯ニムよ」
ニムは吹雪を抱き上げ、いつもの机付きの椅子に座らせた
いざ吹雪が椅子の下に付いている小さなタイヤのロックを掛けようとした時だった
「さぁ、吹雪⁇HAGY特製のご飯が出来ましたよ⁇」
HAGYが吹雪のご飯を持って執務室に来た
それを見た吹雪は何とか逃げ出そうと、足で床を蹴って移動し始めた
「ウギャ‼︎イッテェニムゥ‼︎」
タイヤはモロにニムの手を轢き、タイヤ痕がニムの手に付いた
「吹雪⁇どうして逃げるのですか⁇」
HAGYは足で吹雪のタイヤを止め、ロックを掛けた
それでも吹雪は逃げようと前に踏ん張る
そんな吹雪の前に、お昼ご飯が置かれる
「おかゆです」
コト
吹雪はニムを見ている
「肉じゃがの肉抜きです」
コト
吹雪はニムを見ている
「ごぼうと人参のシチューです」
コト
吹雪はニムを見ている
助けてくれ‼︎とでも言いたそうな目でニムを見つめる吹雪
HAGYは料理にほとんど肉を使わない
美味しいは美味しいのだが、味が根菜の味しかしない
吹雪はそれが如何に苦いかを知っており、HAGYの作るご飯を見るなり逃げ出す
最近ではHAGYを見るだけで顔も合わせようとしない
「はいっ、吹雪⁇肉じゃかですよ」
HAGYは吹雪の口元に肉じゃかの肉抜きを持って行くが、口を開けようとはしない
それどころか、意地でも食うか‼︎と言わんばかりに一文字に閉めている
「食べないのですか⁇」
悲しそうに吹雪を見つめるHAGYだが、吹雪は目も合わさず、口は一文字で微動だにしない
「食べなきゃダメですよ」
HAGYは何度も吹雪の口にスプーンを持って行くが、吹雪は絶対口を開けない
「分かりました…」
HAGYはスプーンを置いて、何故かぬいぐるみを手に取った
吹雪のお気に入りのクマのぬいぐるみではなく、ちょっとボロい猫のぬいぐるみに対し、HAGYはスプーンを口に当てた
「はいっ、ご飯ですよ〜」
「いやいや〜、ご飯食べないよ〜」
HAGYの一人芝居が始まる
「どうして食べないの〜」
「これ嫌いだよ〜」
「そう…」
HAGYはスプーンを吹雪の前にあるシチューの前に置いた
「好き嫌いしちゃダメでしょ⁉︎HAGY‼︎HAGY‼︎HAGYYYYY‼︎」
HAGYは突然猫のぬいぐるみを拳で殴打し始めた‼︎
「ちょっ、HAGY‼︎」
「怖いニム‼︎」
いきなりの出来事でワンコの制止も届かず、ニムは咄嗟に吹雪を庇うが、吹雪は豹変したHAGYに釘付け
「ハァ…ハァ…」
「ちょっ、ちょっとやり過ぎニム‼︎」
「吹雪⁇」
流石の吹雪もHAGYの気迫にビビったのか、半泣きの目でHAGYを見つめている
「榛名さんのオラオラを喰らいたいですか」
HAGYの目は本気
吹雪もそれに気付いたのか、小さくだが首を横に振った
「HAGYのハギハギを喰らいたいですか」
これにも吹雪は首を横に振る
「ご飯、好き嫌いせずに食べますか⁇」
吹雪はこれでもかと机を叩き、早くご飯をくれ‼︎と暴れ始めた
「はいっ、食べましょうね〜」
吹雪はHAGYにご飯を食べさせて貰い始めたが、吹雪は一点見つめ状態
こういう事をするから吹雪はHAGYに全く懐かない
「はいっ、よく食べましたね〜」
吹雪は目が点になりながらもHAGYの料理を完食
「後は任せるニム」
「お願いしますね、ニムさん」
HAGYが食器を下げ、吹雪はニムに椅子から降ろして貰い、カーペットの上に来た
「よしよし、怖かったニムね」
カーペットの上でニムに抱っこされた吹雪は、放置された猫のぬいぐるみを指差した
「猫ちゃん可哀想ニムね…」
散々ハギハギされた猫のぬいぐるみを取り、吹雪に渡す
「よしよし〜ってしてあげるニム」
最初はニムがお手本を見せ、猫のぬいぐるみの頭を撫でる
吹雪はニムと猫のぬいぐるみを何度か交互に見た後、ニムの真似をして頭を撫でた
「ニムは子育てに向いてるなぁ」
ワンコから見ても、ニムは子育てが上手い
暇さえあれば吹雪の横に居るのは大体ニムだ
「HAGYがやり過ぎなだけニム。教育に暴力は要らないニム」
「助かるよ、ニム」
「ニムは元から子供好きニム。苦になんてならないニム」
ニムの意外な才能は、子育てにあった
それを教えた…そうなるようにしたのは誰なのか
それを知るのは、ニム本人だけである…
「今日はお休みニムよ」
それでも寝る時はリシュリューの所に行きたがる
「こっちにくリュー‼︎」
吹雪をリシュリューに抱っこさせ、二人はベッドに入った
「お休みニム。吹雪、リシュリュー」
「おやすみなさいリュー‼︎」
ニムが執務室に戻ると、HAGYがワンコに怒られていた
そりゃあそうだ
吹雪の前であんな暴力行為を見せてご飯を食べさせてたのだ
「いいかいHAGY。暴力はダメだよ⁇」
「申し訳ありません…」
「怖がって逆にご飯食べなくなっちゃうよ⁇」
「はい…気を付けます…」
「HAGY」
「はい…」
ニムの呼び掛けに気付いたHAGYの目は真っ赤
「HAGYもHAGYの教え方があって、あぁしただけニム。次からしなきゃいいだけニム」
「そうだよHAGY」
「ありがとうございますっ…」
「んじゃ‼︎ニムはHAGYのウメェニンジンケーキでも頂くニム‼︎ワンコさんいるニム⁇」
「うんっ‼︎頂こうかな‼︎」
HAGYの顔が明るくなった
ニムはフォローも上手い
三人の執務室でニンジンケーキを食べ、その日はそれぞれ就寝となった
この日以降、HAGYは料理の味付けに、ちゃんと調味料を使うようになった…