しゃ〜
地上に降りると、時刻は夕方
夜間模擬戦に控えて少し休めとのお達しがあり、間宮でコーヒーだけ口にしている
その横で日進が何か食べながら本を読んでいる
「日進」
「ん〜⁇なんじゃ⁇」
「何食べてるんだ⁇」
「”しゃ〜”ベットじゃ‼︎冷うて美味いぞ⁇」
「何読んでるんだ⁇」
「”しゃ〜”ロックホゥムズじゃな。面白いぞ⁇」
「…そっかっ‼︎」
日進はしゃ〜しゃ〜言う時のイントネーションが独特だ
この前もラバウルでコロちゃんとお絵描きしながら、”しゃ〜ぺん”で”しゃ〜く”を書いていたしな…
そろそろ準備するか…
「行くのかえ⁇」
「雷鳥を狩るには、前以て準備しないとな」
「よしっ‼︎父上がそう言うなら‼︎」
再び格納庫を目指す
今度は武者震いと共に…
「おっ‼︎きたきた‼︎」
本気の目をしたアレンが来た
日進は何処となく気楽に構えている
「負けないよ‼︎」
「手加減して勝てる相手じゃない。いいか、日進⁇」
「任せちょけ‼︎」
「必見の模擬戦になるわね」
何か手に持った横須賀も来た
「勝った方にこれあげるわ」
「ぷすすすす…」
俺のデスクに白い陶器が置かれた
きそがニヤついているのを見ると、横須賀と共に仕組んだイタズラっぽいな
「中身は内緒よ。とても貴重な物が入ってるわ」
「よしっ‼︎やるぞ‼︎」
「絶対勝つからな」
机の上に置かれた陶器を見てから、アレンの顔が変わった
これはいつも以上に本気の目だ
中身はなんだ…と気になりつつ、二機は夜空に上がる…
《空中管制機の役割は親潮が務めます。宜しくお願いしますね》
「頼んだぞ」
《任せたよ》
だんだん親潮のオペレーターが様になって来た
声もクリアで聴きやすいしな
《今回はお二方に平等になる様、親潮は最小限の事しか申し上げません》
「オーケー。んじゃ…始めっか‼︎」
《来い》
無線から聞こえるアレンの声を聞いただけでも分かる
アレンは今、暗殺者に戻っている…
《うわ‼︎》
「どうした⁇」
急にグリフォンが声を出した
《刑部…レーダーに映らないよぉ…》
グリフォンに搭載されているレーダーはそこそこ強力
余程の妨害電波でも受けなければ、そうそう機能停止には陥らない
《此方からは見えてるぞ、ワイバーン》
「チッ…厄介な野郎だっ‼︎」
左旋回し、その場から離れつつ目視でも刑部を探す
「何処に行きやがった…」
《ワイバーン、ミサイルです‼︎避けて下さい‼︎》
「アイツっ‼︎やりやがる‼︎」
模擬戦なのでミサイル本体は勿論来ないが、アレンは此方側のアラートが鳴ると同時にミサイルを放って来た
「くっ…そ…」
急いでグリフォンを捻らせる
《ワイバーン、ミサイル回避》
当たらないとは分かってはいるが、ミサイル本体が見えないだけで恐怖も倍増している
《どうしたワイバーン。いつもの威勢は》
「ちょっと待ってろ‼︎すぐに炙り出してやる‼︎」
とはいえ、目視でもレーダーさえも映らない機体
どう探せば…
「グリフォン。後部カメラの一部を赤外線に切り替えろ」
《オッケー‼︎》
何処にいるか分からない刑部の動きに警戒しつつ、赤外線カメラの索敵を待つ
《いた‼︎8時方向‼︎熱源反応だ‼︎》
「そいつをマークして目を離すな。そいつがアレンだ」
《オッケー‼︎マークしたよ‼︎》
「こうなりゃこっちのもんだ‼︎」
マークした位置に機首を向け、機銃のトリガーに指を掛ける
《バッカス、狙われています。主翼にダメージ》
「何処にいやがんだ⁉︎」
機銃が命中したとの報告は上がるが、刑部が何処にいるか全く見当が付かない
近くには必ずいる
《お返しだ、ワイバーン》
「うわっ‼︎」
再びいきなりのミサイルに襲われ、今度は命中判定を出された
アレンの恐ろしい所はこれだ
此方側が完璧に死角やアウトレンジの場所から突然攻撃を仕掛けて来る
前触れも何もない。気付けば死んでる
《オッケーオッケー…燃えてきたよ…》
「もう一回行けるか⁇」
《任せて。もう見えてるから》
グリフォンの声のトーンが低くなる
《レイ。僕に一発だけやらせて⁇》
「分かった。オートに切り替える」
セミオートの操縦をオートに切り替え、グリフォンに渡す
「うおっ…」
撃墜判定を受けたのが余程気に入らなかったのか、グリフォンは急加速し始めた
《ちょこまかちょこまかと‼︎大人しくしな‼︎》
グリフォンは一瞬のタイミングでミサイルを放ち、インメルマンターンをしながら様子を伺う
《バッカス、被弾しました》
《オーケーオーケー。ナイスだグリフォン》
《そろそろ姿見せたらどう⁇僕には見えてるよ》
アレンとグリフォンの会話が終わった瞬間、夜空に一機の戦闘機が現出した
「な…」
《夜間光学迷彩だよ。あれと刑部のステルス合わされちゃ分かんないよ》
《ワイバーン。そろそろタイマンと行こうか》
「よし、来い。受けて立つ」
俺もアレンも、深い深呼吸をする
互いに距離を取り、加速したまま突っ込んで行く…
《ヘッドオンです‼︎撃って下さい‼︎》
ほぼ同じタイミングでミサイルを放ち、ほぼ同じタイミングで右に機体を向ける
《ワイバーン、バッカス。撃墜判定です》
「だとよっ」
《一勝一敗一分か》
「これが最後だ。次の一撃で決まる」
《日進。行くぞ》
先に動きを見せたのは刑部の方
《…いいんだね、レイ》
「あぁ。悪いな」
《気にしなくていいよ》
グリフォンも再び加速して行く…
数分間に渡り、攻めつ守りつの戦いが続く
背後に着いては着き返し
追い掛けては追い掛けられ
そして、そのせめぎ合いに勝ったのは…
「…ちっ」
《終わりだ、ワイバーン》
背後を取ったのは刑部
「あぁ。いいだろう」
《ワイバーン、被弾しました》
軍配は刑部に上がった
《演習終了です。流石ですね‼︎親潮もつい声が出てしまいました》
《いやぁ〜負けちゃった負けちゃった‼︎》
《わしも腕を思い出せそうじゃ‼︎》
AIになった互いの娘の声を聞きながら、横須賀へと戻って来た
「はいっ‼︎おめでとうアレン‼︎」
降りてしばらくすると、横須賀が”アレ”を持って来た
「誰が作ったんだ⁇」
「全部飲んだら教えてあげるわ⁇」
「飲まなきゃダメか‼︎」
「飲まなきゃダメよ。命令よ」
アレンは”アレ”を中身を知らずに飲もうとしていたが、知っている今、飲みたくなさそうな顔をしている
容器位は持っていても何かしらに使うから良いが、中身は…
「…頂きます‼︎」
意を決してアレンはソレを飲んだ‼︎
「どう⁇」
「…甘くて美味しい」
「それ、間宮の新作よ⁇」
「つぶつぶがある…」
アレンは口をモグモグしている
「意味深な容器に淹れたタピオカミルクティーはどう⁇」
「美味しい…」
何故かアレンは残念そうにしている
「因みに誰のお酒だと思った⁇」
「案外ネルソンがやりそうなんだよ。ネルソンはこういった伝統にあんまり否定的じゃないからな」
「じゃあ今度ネルソンに頼んどくわ‼︎」
「やめろ‼︎俺が悪かったから‼︎」
「冗談よ‼︎いいデータが取れたわ。明日の朝、ラバウルの二人が来るから、一緒に帰りなさい」
横須賀が先に戻り、俺達はようやく晩御飯を食べる為に繁華街へと足を向けた
手前にはきそと日進が楽しそうに話しながら歩いている
「ありがとうな」
「何がだ⁇」
互いに前を見ながら口を開く
「わざと負けてくれて、だ」
アレンは気付いていた
最後の一発、あれはわざと当たったのだと
「気にするな。最初からきそと決めてとんだ。勝つ感覚を教えるってな」
「お前らしいなっ」
「まっ‼︎飯食って千代田に耳かきして貰って寝る事だな‼︎」
「ん‼︎それは良い‼︎そうさせて貰おう‼︎」
こうして、演習が終わった夜は流れていった…
夜間戦闘爆撃機 XFB-002”刑部”がSS隊に配備されました‼︎
夜間戦闘爆撃機 XFB-002”刑部”
対空+13
爆装+13
命中+8
回避+12
行動半径11
XFA-001”グリフォン”の派生であり、爆撃機能を強化した機体
性能自体はグリフォンとほぼ同じだが、パイロットのアレンに合わせて安定性が高く造られている
本来グリフォンにも配備する予定のあった各箇所のハードポイントを刑部では追加。装備可能の爆弾及びミサイルの搭載量が一回り増えた
グリフォンのMSWは付いていないが、その分シンプルに仕上がっている為、戦闘機としても爆撃機としても今までになかったハイスペックを誇る
特筆するのは夜間光学迷彩
刑部本来のステルス性に加え、夜間時に機体が周りの風景に溶け込む特殊な技術を外装に施してある為、目視は不可能に近い
深海からの技術提供の為、その開発方法は一部技術者しか知らない
今回のお話でアレンが狐好き、巫女好きと分かりました
アレンがAIや製造した物に付ける名前、全て狐が関連しているのにお気付きでしたか⁇
諸説ありますが、刑部もその一つです
もしかすると、日進は”アレンの本当の好み”に合わせて産まれて来たのかも知れませんね