次の日の朝…
「ついんて」
ジョンストンはいつものツインテール
「おはようございます…ふぁ…」
タイミング良くフレッチャーが来た
「くぁぁぁあ…」
ジョンストンがあくびの真似をし、フレッチャーが横に座る
「フレッチャー。髪、整えてあげよう」
「あら、ありがとうございます。お願いしますね」
フレッチャーは寝起きの為、髪は下ろしている
いつもは頭のテッペンにタレミミの様に髪を結い、カチューシャを付けているフレッチャー
ヴィンセントはクシとヘアスプレーを手にし、フレッチャーの髪を整えて行く…
10分後…
「こんな感じでどうかな⁇」
「まぁ‼︎素敵‼︎」
出来上がった髪型は両サイドクルクル縦巻きお嬢様ロール
気品が出る髪型であり、ママママ言い張るフレッチャーにフィットしている
「後でママがお菓子を買ってあげましょうね⁇」
「分かった分かった。さっ‼︎行っておいで‼︎」
フレッチャーを軽くあしらい、ヴィンセントも身嗜みを整え始める
「フレッチャー‼︎ほっほー、イメチェンしたのか⁉︎」
洗面所を出てすぐ、フレッチャーはリチャードと鉢合わせたみたいだ
「ヴィンセントにして頂いたの。似合うかしら⁇」
「似合ってる似合ってる‼︎デートしたいくらいだ‼︎」
「ふふっ、また行きましょうね⁇」
「さ〜て、歯磨き歯磨き‼︎おっ‼︎ヴィンセント、ありがとうな⁉︎」
「いいさ。こっちから頼んだんだ」
リチャードとヴィンセントは互いにしばらく歯を磨いた後、ほぼ同じタイミングで髪の毛を整え始める
「さ、終わり‼︎」
「ちょっと待て‼︎」
ヴィンセントがピッチリオールバックを決める中、リチャードは寝癖直しスプレーを3プッシュしてクシャクシャー‼︎としただけで行こうとした
「ちょっと座れ‼︎」
「や〜だね〜‼︎これから瑞鶴の所に行くんだよ〜ん‼︎バイビー‼︎」
「髪の毛整えたらもっとモテるぞ」
「それは聞き捨てならんな」
そこは長年の付き合いにヴィンセント
リチャードを如何に動かすか熟知している
リチャードは大人しくヴィンセントの前に座り、ヘアメイクして貰う体勢に入る
「お前は身嗜みをキチンとすれば倍モテるぞ⁇」
「昨日イントレピッドが言ってたのは本当か⁇」
「本当だ」
それを聞いた途端、リチャードは口を閉じた
その後、数分間髪を整えて貰い、遂に完成
「おぉ…」
ヴィンセントと同じオールバックの髪型になったリチャード
ヴィンセントと違うのは、後ろ髪が長い事
何処かの俳優だと言われてもおかしく無い仕上がりになった
「こんな感じでどうだ⁇」
「気に入ったよ…ちゃんとすりゃ整うモンだな…がっはっは‼︎」
「さ、朝飯だ」
「ミルクだけ飲むかな‼︎」
生真面目で誠実なヴィンセント
自堕落で女にだらしなさそうに見えるが、絶対に一線は越えないリチャード
相反する二人が仲が良いのには、こうして持ちつ持たれつの関係を長年続けて来たからである…
「おはようヴィンセント‼︎ご飯出来たわ‼︎」
「おっ、ありがとう」
「すくらんぶる」
「スクランブルエッグか‼︎」
いつもの様にジョンストンの横に座るヴィンセントに続き、イントレピッドが座っている背後から机に置いてあるミルクの容器を取るリチャード
「あらっ‼︎カッコイイじゃない‼︎」
「似合ってますよ、リチャード‼︎」
「そりゃど〜もっ‼︎」
キッチンの台にもたれながら、目の前で朝食を食べる皆を眺めるリチャード
実はイントレピッドに褒められて、ちょっと満更でもない
「俺は瑞鶴の所に行って来る」
「いってらっしゃい」
スクランブルエッグのカスを口の周りに付けたジョンストンが一番先にいってらっしゃいを言ってくれたのを聞き、ジョンストンの頭を撫でてジャケットを着ながら、リチャードは繁華街へと向かう
「おっはよー‼︎」
「おはよう中将‼︎おっ‼︎結構似合ってんじゃん‼︎」
瑞鶴もリチャードの髪型に反応する
「んっふっふ…俺もまだまだ現役よ‼︎」
「よく似合ってるわリチャード」
「そうだろう‼︎」
美しい声の女性に褒められながら、リチャードは席に座る
「出会い立ての頃みたいよ」
「そうだろう‼︎」
すみっこの席に座っていた女性の方を向いた
「げっ‼︎」
「リチャード‼︎」
リチャードの目の前には、怒り心頭のスパイトがいた
「こっちへ来なさい‼︎」
「やだ‼︎」
絶対に怒られるのが分かっているので、意地でも動きたくないリチャード
「来ないなら私が行くわ」
「行きます‼︎行かさせて下さい‼︎」
流石に来られては元も子もないので、リチャードはスパイトと同じテーブルに腰を下ろした
「ふふっ」
数秒前までブチギレていたスパイトの顔は、リチャードが目の前に座ってすぐにいつもの優しい顔に戻った
「朝飯食いに来ただけだって…」
「知ってます。ちょっとカマを掛けてみただけです」
ビビるリチャードを前に、呑気に緑茶を飲むスパイト
スパイトもリチャードの扱いを理解している
スパイトはリチャードに関して”最後に私の横にいれば良い”と考えているので、瑞鶴との浮気も容認している
しかもスパイトにとって瑞鶴は息子の恩人
瑞鶴本人は気付いていないが、スパイトは何か恩返しがしたいと考えていた
なので、こうして時々お客としてずいずいずっころばしに足を運び、一人で沢山食べては何も言わずに出て行く
「素敵よリチャード」
「は、はい…」
「私と出逢った時もその髪型だったわ‼︎」
「そうだったかな…スパイトは変わらないな⁇」
「ふふっ」
リチャードがそう言うと、スパイトは不敵に微笑む
「そうだスパイト」
「なにかしら⁇」
「あれからもう何十年経ってる。そろそろ”本当の名前”を聞いてもいいだろ⁇」
リチャードはずっと気になっている
”スパイト”と言う名は、何らかの事情で別の名前になった
リチャードはスパイトの前の名前…つまり、本当の名前を知らない
「リチャード」
スパイトはお箸を置き、リチャードの顔を見る
「私はウォースパイトよ。他に何も無いわ」
「…すまん」
この話を数年に一度するのだが、決まってスパイトは言わない
それどころか、真顔で返して来るのでリチャードはいつも折れてしまう
「ごちそうさまでした。ズィーカク、幾らかしら⁇」
「あ、はい‼︎えと…1500円です‼︎」
「俺が出すよ‼︎出させて下さい‼︎」
「リチャード」
「はひぃ‼︎」
「たまには私にも花を持たせて下さい。ズィーカク、これでリチャードの分も‼︎お釣りは…そうね、リチャード、アサシモ達にお小遣いとしてあげて下さい」
そう言って、スパイトはいつもの箱から財布を取り出し、一万円札を瑞鶴に渡した
「い、いいんですか⁇」
「えぇ‼︎また来るわね。リチャード、頼んだわ‼︎」
「か、かちこまりまちた…」
怯えて固まるリチャードを余所に、スパイトは笑顔で店を出た
「中将⁇ほんと大事にしないとバチ当たるよ⁇」
「こ、今度ステーキでも食いに行くよ…」