艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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イタズラで体中に爆弾を巻かれたイーサン

イーサンを正義だと分かっている艦娘、そして博士と医者が必死に救おうと奮闘します


258話 死神に戻る朝(2)

「母さん。父さんがジェットスキーで出たぜ」

 

「暴走族と一緒よ。夜に血が騒ぐのよ」

 

アトランタを抱っこしながら窓の外を眺める朝霜が俺の存在に気付いた

 

アトランタはアトランタで窓に手を伸ばしている

 

そんな横須賀は、椅子に踏ん反り返ってシュークリームを頬張っている

 

「大淀さんもいるぜ」

 

「レイの先生みたいな人だから一緒よ」

 

「元帥‼︎報告が‼︎」

 

ドアがノックされ、横須賀は口を拭いて体勢を直す

 

「よいしょっ。開いてるわ」

 

先程と同じ整備兵が横須賀の元に来た

 

「近海で体中に爆弾を巻かれたイーサンが発見され、現在、マーカス大尉、大淀博士、雷電姉妹が解除及び救助に向かっています」

 

「なんですって⁉︎」

 

事態に気付いた横須賀は、すぐに無線を取った

 

「レイ‼︎聞こえる⁉︎レイ⁉︎」

 

応答はない

 

「あぁもう…親潮は寝ちゃったし…」

 

《お母さん⁇》

 

レイの無線からきその声が聞こえた

 

「きそ‼︎レイがイーサンの体に巻かれた爆弾解除しに行ったのよ‼︎」

 

《話は整備兵の人から聞いたよ。僕達が出来るのは、レイ達を信じて待つ事しかないよ…》

 

「きそは今何処にいるの⁇」

 

《僕は工廠にいるよ。イーサンの治療する為に待ってるんだ》

 

「そう…頼んだわ」

 

《出来る限りの事はやってみる》

 

横須賀が無線を切り、深いため息を吐く

 

「…朝霜」

 

「分かってるさ。谷風には言うな、だろ⁇」

 

「えぇ…」

 

朝霜は父親達を信じているのか、真っ直ぐな目で窓の外を眺め続ける…

 

 

 

 

「暴れたらダメなのです‼︎」

 

「落ち着いて‼︎すぐにマーカスさんが来るわ‼︎」

 

「コワイヨォ‼︎ボクシンジャウノ⁉︎」

 

「死なないのです‼︎マーカスさんが助けてくれるのです‼︎」

 

「電‼︎雷‼︎良く頑張った‼︎」

 

「来てくれたわ‼︎」

 

「もう大丈夫なのです‼︎」

 

イーサンの近くでジェットスキーを停める

 

「よーしよしよし。イーサン、大丈夫だからな⁇」

 

イーサンのボディを撫でながら、恐怖する理由がすぐに分かった

 

体中にワイヤーか何かで雁字搦めにいくつもの時限式爆弾が巻き付けられている…

 

「レイ君。安定剤を」

 

「イーサン。ちょっと我慢だぞ…」

 

イーサンの舌に安定剤を注入

 

「コワイヨォ…」

 

少し震えながらも、イーサンは落ち着きを取り戻した

 

「大丈夫。大丈夫だからな…」

 

落ち着いたイーサンを見て、爆弾の処理に取り掛かる

 

「レイ君。これは随分厄介だ。ワイヤーがどれか一本切れる…もしくはタイマーがゼロになるかのどっちかで爆弾は爆発する」

 

「爆弾の内部のタイマーに繋がってる線がある。そいつを切断した後、信管を液体窒素に入れて作動しないようにする。いいな⁇」

 

「オッケー‼︎」

 

イーサンの体に巻き付けられた爆弾は、一つや二つではない

 

何十個も巻き付けられた上、どれか一本ワイヤーが切れた途端に連鎖反応て全て起爆する

 

一つ一つ爆弾自体を分解した上で、信管を取り除くしかない

 

「随分とお粗末な仕掛けだ…」

 

爆弾自体の解体は時間を掛ければ出来る

 

問題は解体作業を行っている二人が海の中に半身を浸けているという事

 

波の影響で非常に手元が狂いやすく、夜の為に視界も悪い

 

「これならどうなのです⁇」

 

「助かるよ」

 

「大淀さんは私が‼︎」

 

「ありがとね‼︎」

 

残ってくれた雷電姉妹が、探照灯を使い手元を照らし始めてくれた

 

「よしっ…一個完了‼︎レイ君、行けそうかい⁇」

 

「大丈夫だ。イーサン、誰にこんな事されたんだ⁇」

 

「ニンゲンノオトコノヒト…サンニンイタヨ…」

 

「何処の連中だ⁇」

 

「ニホンノグンタイノヒト…」

 

「好戦派か…」

 

今は考えるのはよそう

 

とにかく、爆弾の処理が優先だ…

 

 

 

 

あれから数十分…いや、一時間は経っただろうか

 

大方の爆弾はなんとか処理できる目処がついて来た

 

「後は海中に繋がってる奴だ。イーサン、もう少しだからな⁇」

 

「もうすぐ終わるからね‼︎」

 

「ウン…」

 

いざ海中に潜り、イーサンの腹部に巻かれた爆弾を解除しようとした

 

それを見て、俺も大淀博士も驚く

 

 

 

なんだ…これは…

 

何…これ…

 

 

 

先程まで解体していた爆弾とは桁違いにデカイ爆弾がそこにあった

 

こんな物が爆発したら、イーサンどころか基地の一角が消し飛ぶ

 

タイマーも残り数分しかない

 

…もう、間に合わない

 

一度海上に出て、息を整える

 

考えろ…どうすればいい…

 

「…電、雷。大淀を連れて横須賀の所へ行け。後は俺に任せろ」

 

「レイ君⁉︎君は何を‼︎」

 

「行けと言ってるんだ」

 

「…分かったのです」

 

「お別れは言わないわ」

 

「レイ君待って‼︎」

 

大淀は雷電姉妹に引っ張られ、横須賀へと向かって行くのを見届け、イーサンの方に振り返る…

 

「イーサン」

 

「ン…」

 

いつもの様に…

 

いつも朝、イーサンにそうしている様に、イーサンの頭に手の平を置いて撫でる

 

「シンジャウノ⁇」

 

「大丈夫。死なせないさ」

 

友好的な深海の子供の、あまりにも残酷な最期

 

俺が今出来るとすれば、最期を迎える時まで一緒にいてやる事しか出来ない

 

「絶対外してや…」

 

「マーカスサン、アリガトウ」

 

「…やめろ、イーサン」

 

イーサンの体が沖の方を向く…

 

「ムコウニイッテ‼︎ジャナイトボク…ボク…」

 

俺から数メートル離れた位置で振り返り、イーサンは口の砲を俺に向けた

 

「撃て、イーサン。憎いだろう…」

 

このままイーサンに撃たれて、一緒に死んでやったら、イーサンは寂しくないだろうか…

 

「ダメダヨ…マーカスサンハ、ミンナノオトモダチ」

 

イーサンは恐怖に震える体を、再び沖に向けた

 

一人で死ぬつもりだ…

 

「…イーサン、待ってくれイーサン‼︎」

 

イーサンの泳ぐ速さは、とてもじゃないが追い付かない

 

「オカアサン…おかあさーーーん‼︎」

 

 

 

 

最期の最期に、イーサンは人間らしさをみせた…

 

最期の最期で、イーサンは子供らしさをみせた…

 

誰よりも人間らしく、そして誰よりも命を大切にした心優しい深海が、目の前で散る…

 

 

 

「イー…サン…」

 

数秒が何時間にも思える

 

理解出来なかった

 

イーサンの残骸が俺の周りに流れて来るまで、ただただイーサンが散った方を向いていた…

 

「お父様‼︎しっかりなさい‼︎」

 

「イーサンが…」

 

異変に気付いたヒュプノスが来てくれた

 

「大丈夫。お父様は頑張ったわ…」

 

「どうすれば良かったんだ…」

 

「帰りましょう…体がこんなにも冷えてるわ…」

 

ヒュプノスに連れられ、俺はショックで気を失う…

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