艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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彼女達が深海と気付くが、敵対意識がないと主張する涼平

彼は良き理解者と共に、大人達を説得に向かいます


特別編2話 焚き火が上手い理由

「あぁ…」

 

「…チッ」

 

病院の前には人集り

 

二人の嫌な予感は的中した

 

狭い島だ

 

噂が広まるのも早い

 

「ちょっとすみません‼︎」

 

「通してくれ」

 

人集りを掻き分け、二人は病院に入る

 

「おぉ、涼ちゃん。さっきの子なんだがな…」

 

「何だこの騒ぎは」

 

老人の先生が何かを言おうとしたのを遮り、マサ兄が口を開く

 

「マサ君か。それがだな、さっきの子はどうも報道されていた“深海”らしいんだ…」

 

「治療は終わったのか」

 

「怪我はどうなりました⁉︎」

 

そんな事より、二人が気になるのは怪我の具合

 

「それは何とか…何せ、自然治癒が早くてな…」

 

「そうか。どっかの奴が見て噂して騒いだんだろ…」

 

「すまんな、二人共…」

 

「ここにいるより、向こうの方がいいかな⁇」

 

「その子は歩けるのか⁇」

 

「アルケ、マス…」

 

当の本人が奥から出て来た

 

片側の髪をロールした、まだ幼く見える女性だ

 

「先生、一晩だけ頼みたい」

 

「そりゃあ構わんが…」

 

「この騒ぎじゃ連れ出せない…明日、必ずみんなの所に連れて行く」

 

「アリガトウ…アナタモ、アリガトウ…」

 

「涼平。説明しに行こう」

 

「うんっ」

 

あまりにも事が大きくなってしまった為、急遽島の中心にある集会所で会議が開かれた…

 

 

 

「あれは敵だぞ‼︎ニュースで見た‼︎」

 

「国の機関に報告した方が良いんじゃないか⁇」

 

「いや、自衛隊が先だろう‼︎」

 

「涼ちゃん、何処で拾ったんだ⁇」

 

大人達が正論をぶつけ合う中、矛先が涼平に向く

 

「海岸で倒れてたんだ。助けない訳には行かなくて…」

 

「人を見てから助けなさい。涼ちゃん、君は良い子過ぎるよ…」

 

「敵意はなかったんだ‼︎それに、ニュースで見たみたいに武器なんて持ってなかった‼︎きっと、事情があってここに来たんだよ…」

 

「隠してるかもしれないぞ‼︎」

 

「そうなれば俺も、涼平も、今ここに居ないはずだ」

 

責め立てられた涼平のカバーに入ったのはマサ兄

 

マサ兄の一言で、大人達は一瞬黙ってしまう

 

「俺は理解のある大人と話がしたいんだ。頼む、分かって欲しい」

 

「いや…しかしだ…」

 

「幾らマサ君が言ったとはいえ…」

 

「…分かりました。自分が責任を持ちます‼︎」

 

涼平はマサ兄が反論しているのを見て、腹を括った

 

「自分は今日から夏休みです。彼女達と一緒に暮らします。もし何かあれば、自分が真っ先に死にます。それでどうか…」

 

「涼ちゃんまで…」

 

「よっしゃ涼ちゃん‼︎そしたら、島の反対側を使いなさい‼︎」

 

そう言ったのは、団扇片手に話を傍聴していた漁師の一人

 

「島の反対側はホントに使われてない‼︎あそこなら、使ってもえぇやろ‼︎なぁ‼︎」

 

そう言うと、渋々頷く大人が何人かいた

 

「しかしだ、涼ちゃん。お前も男なら、最後までやる事‼︎えぇな⁉︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「マサ‼︎お前もやぞ‼︎」

 

「勿論」

 

「よしっ‼︎そしたら、ワシらは約束する‼︎誰にも言わん‼︎これでえぇんちゃうか‼︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「よしっ‼︎そしたら涼ちゃんが男を見せた祝いに、ごちそうや‼︎」

 

結局宴会の様な形になってしまい、夜は更けて行く…

 

 

 

朝、涼平は一番早く起き、プレハブに向かう

 

「…」

 

集会所の畳の上で横になっていた、昨日鶴の一声をくれた漁師の男性が、その姿を感じ取っていた…

 

涼平は一晩、自分なりに考えた

 

まずは最初は何から手を付けようか

 

雨風凌げるプレハブ以外の何かを作ろうか

 

それとも、水や食べ物とかのライフラインが先だろうか

 

それよりもまず、皆手伝ってくれるだろうか…

 

涼平が不安を抱きながらプレハブの前に着くと、何かが擦れる音が聞こえた

 

「コウ⁇」

 

「そっ‼︎そうやってっ、木を切るんだっ‼︎」

 

プレハブの前では、黒髪の女性二人がノコギリで木を切っていた

 

美人に似合わない力仕事なのだが、妙に上手く、涼平は数秒間だけ立ち尽くして魅入ってしまう

 

「涼平。涼平はあの人と材料を作ってくれないか⁇」

 

「マサ兄、ありがとう‼︎」

 

「乗った船だ。出来る事はやろう」

 

涼平はマサ兄の反対側にいた、ギャルの所に来た

 

「どうやってするの⁇」

 

「コレヲマゼルノ。オモシロイヨ」

 

ギャルの手元には木の棒があり、鉄の缶に入った何かの材料を混ぜている

 

「コレヲ、コウヤッテスルノ」

 

涼平はギャルに教えて貰いながら、材料をかき混ぜ始める

 

昨日と打って変わり、ギャルは少し楽しそうにしている

 

「これなんだろうね⁇」

 

「ワカンナイ。デモオモシロイ」

 

一時間、二時間と材料を混ぜる涼平とギャル

 

その反対側では材木が出来上がり、マサ兄が軽トラックで何処かに運んで行く

 

「何処行ったんだろ…」

 

「サァネ」

 

マサ兄が帰って来るまでの間、ギャルは黒髪の女性の所に行き、木を切るのを手伝い始める

 

「リョーチャン、ヤロ」

 

「うんっ」

 

ギャルに言われ、ギャルに教えられ、涼平は木を切り始める…

 

 

 

昼になり、休憩の時間

 

「おっ‼︎おったおった‼︎性が出ますな涼平さん‼︎」

 

「タツさん‼︎」

 

昨日鶴の一声をくれた男性が来た

 

タツさんと呼ばれた男性は軽トラックに何かを乗せて来た

 

「昼飯食わそう思てな‼︎涼ちゃん、焼けるやろ⁇」

 

「はいっ‼︎」

 

タツさんが持って来てくれたのは、お肉とお魚

 

涼平は早速準備に取り掛かり始める

 

「タツさん」

 

そこにマサ兄が帰って来た

 

「ちょっと様子見に来ただけや‼︎すぐ帰え…」

 

「食べて行って下さい」

 

マサ兄の手には人数分より少し多い数の飯盒があった

 

マサ兄は木を何処かに持って行った後、何処かでご飯を炊いて持って来てくれた

 

「松阪牛ですか」

 

「今朝本土に行ってな。ま、気分や‼︎」

 

「食べて行って下さい」

 

「甘えさせて貰おうか‼︎」

 

マサ兄が頑なにタツさんを場に留めたのには理由があった

 

「ほ〜…なるほど…」

 

「これを穴に流して地盤を固めようかと」

 

「ホンマにやる気やな…よっしゃ‼︎手隙の奴向かわせたる‼︎ど突かれたら言うんやぞ‼︎」

 

「助かります」

 

タツさんはまさか二人がここまでやる気とは知らず、本気で彼女達を思っているのを今知った

 

涼平も薄々気付いていたが、この材料、家を建てるつもりだ

 

それも、まずは小さな家を一つ

 

「よしっ‼︎焼けた‼︎食べましょう‼︎」

 

涼平の言葉で、皆が集まる

 

涼平は火の扱いが上手く、普段漁師達が魚介類を獲って来ると涼平が美味しく調理してくれ、お酒のつまみになっている

 

「コレハナァニ⁇」

 

「これは牛のお肉や‼︎」

 

昨日覚えたお箸を使い、皆器用に食べる

 

「病院にいる子を迎えに行って来る。涼平、行こう」

 

「うんっ‼︎」

 

ご飯を食べ終え、作業を任せて軽トラに乗る

 

タツさんも同時に軽トラックに乗る

 

「面白い事になりそうやな‼︎」

 

「タツさん。ありがとうございます」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「涼ちゃんの言う通り、困ったら助けないとな‼︎ほな‼︎」

 

タツさんと別れ、涼平とマサ兄は病院へと向かう

 

 

 

 

「コチラヘドウゾー」

 

「…」

 

「オネツヲハカリマスネー」

 

「…」

 

白衣を着て、患者を案内する片方ロール髪の少女

 

涼平もマサ兄もまさかの事態に黙って目で追う

 

「…馴染んでるな⁇」

 

「…馴染んでるね」

 

「おぉ‼︎涼ちゃん‼︎マサ君‼︎いやぁ助かるよ‼︎昨日のお礼がしたいと言ってくれてな‼︎」

 

「型に嵌ってるな」

 

診療所の先生であるおじいさんの先生は、昨日と打って変わって顔が明るい

 

「あの子さえ良ければ、ウチに居てくれないもんかね…勿論それなりの給金は出すし、何かあればここならある程度は見れる」

 

病院の先生であるこのおじいさん

 

子供がおらず、何年か前に妻に先立たれ、今は一人

 

もしかすると、子供が欲しかったのかも知れない

 

「昨日はどうかと思ったけど、診療所が明るくなったねぇ」

 

「そやなぁ。おってくれた方がえぇなぁ」

 

患者の老人達でさえ、彼女を認めてくれ始めている

 

この島は噂が広まるのも早ければ、馴染むのも早い

 

「ア、オニイサンタチ」

 

彼女が二人に気付いた

 

「君はどうしたい⁇」

 

「迎えに来たんだけど、ここに居たい⁇」

 

「ミンナハ…」

 

「皆の心配は要らない。俺達と動いてる」

 

「ワタシ、ココニイタイ」

 

「分かった。先生、頼みます」

 

「此方こそ‼︎」

 

「また顔を見に来るからな」

 

「ウンッ‼︎」

 

彼女はここに置いておく事にした

 

馴染んだ場所に身を置くのは大切な事だ

 

プレハブに戻って来ると、大量に材料が出来上がっていた

 

「は、早いな…」

 

「僕達じゃ無理だね…」

 

彼女達と出会ってから、驚く事ばかりだ

 

スピードもパワーも自分達より桁違い

 

これなら早く家が建ちそうだ

 

「彼女なんだけど…診療所に馴染んでいたんだ」

 

「ソッカ。イバショヲミツケタンダネ」

 

「アリガトウ、リョーチャン、マサクン」

 

マサ兄は小さく頷いた

 

その時、涼平は初めてマサ兄が笑う顔を見た…

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