次に事件が起こったのはその三日後だった。見つけたのはイトナ君。訓練中のことだったから、こうなってしまっては隠すことは出来ない。みんなも続々と現場に集まってきた。
―どうしようか・・・。
カルマ君に目配せするが、ただ肩をすくめるだけ。
「かなり無残だな。臓器一つ一つに確実に刺してある」
イトナ君が木の枝でつついているのは猫だったもの。野良猫なんだろうけど、可哀想だ。
狭間さんがにゅっと顔を出す。
「あら随分と派手にやったわねぇ。細かいところもしっかりしていて、なかなか私好みよ」
「……………相当な怨みだな。動物、若しくは猫に怨みがあったか」
「いや~それは無いよ、この前はリスだったから」
カルマ君が急に喋りだした。
「この前!?」
「ちょ、ちょっとカルマ君!?」
「こ、この前ってどういうことだよ、カルマ!」
みんなは「この前」について、僕たちは「公表」したことについて驚いた。みんなの注目を浴びながらもカルマ君は落ち着いている。
「別に、三日前にもあったってだけだよ。あんときは倉橋さんに少し気ぃ使って言わなかったけど。でも―――」
カルマ君が倉橋さんをちらっと見た。
「その元があれだし、こんな訓練中なんかだったら隠しても無駄だろ」
その倉橋さんは俯いて少し離れた石に座り込んでいる。原田さんや茅野さんが話しかけているが、返答があるようには見えない。その姿を見るだけで僕たちも辛くなってくる。
ただ―――――――何故だろう。その姿からは「怒り」よりも「怯え」を感じる。何かを恐れているような……………何か、が何なのかはわからないけど、単純な「怒り」ではなさそうだ。
カルマ君もカルマ君でこの件に関しては怒っているようだ。いつも以上に口調が強い印象を受ける。
――――それは僕も同じ。
そもそも「惨殺」ということ自体受け入れられないし、それがクラスメイトを傷付けるとなったら尚更だ。なんでこんなことをしたのか全くわからないし、やっぱり何か理由はあるんだろうけど、受け入れられない。
だから――――僕は犯人を知りたくない。知ったら、絶対にその人のことを嫌ってしまう。恨んでしまう。それに、倉橋さんがその人に対してなにをするかわからない。いずれにせよ、この教室が崩れ去る危険を伴う。
「まーこんなことやりそうなのっていったら……………」
今度は寺坂君をちらっと見る。竹林君が「チラリズムとはなかなか高尚な趣味をしているね」とかなんとか言っているのは無視しよう。
「お、俺!?俺じゃねーよ!な、なぁ!お前ら!」
後ろを振り返って同意を求めるが反応は薄い。
「おい、適当な事言ってんじゃねーぞカルマ!」
寺坂君が吠えるが相変わらずカルマ君は落ち着いている。悪く言えば余裕ぶっこいてる。
「どうだか~。前もあったしね」
すると、以外にも狭間さんが助け舟を出した。
「あら寺坂じゃないわよ、寺坂にこんな綺麗なこと出来るわけないじゃない」
「あはは、冗談冗談。俺もそう思ってるから」
「っ、趣味わりーぞ、カルマ」
「でも………………どうすんだ?やっぱり殺せんせーに………」
誰かがそう言った。
確かにそれで犯人はわかるかもしれない。でも・・・・・・できることなら止めてほしい。だって、僕はこの教室を失いたくないもの。
突然、大きな声が山に響いた。
「おい、何をしている!まだ訓練中だぞ」
「烏間先生!」
山の奥から高速で烏間先生が現れる。そういや、まだ授業中だった。
「ちょっと…………見ればわかります」
磯貝君が手招きする。
烏間先生がリスの死体と、倉橋さんを一瞥した。
「なるほど……………………しかし、これに関しては俺の管轄外だ。専門である、奴の判断に任せる。訓練は中止。杉野君、奴を呼んできてくれないか」
「は、はい、了解です」
杉野君が旧校舎に向かって走り出した。
どうしよう…………殺せんせーなら一瞬で解決してしまうに決まってる。そうなったら………。
僕の肩をポン、と叩く人がいる。
「大丈夫、心配しなくてもあのタコは絶対そんなことしないから」
「カルマ君!?」
カルマ君は僕が考えてることをわかって…………?
「あのタコは絶対に誰も見捨てない。だから心配無用さ」
カルマ君にそういわれると安心する。一番最初の一件があってカルマ君が殺せんせーを信頼してるように、僕も殺せんせーに関してはカルマ君を信頼することにした。
杉野君を抱えて殺せんせーがマッハで到着した。。
「だ、大丈夫ですかぁーーっ!」
白衣を着て眼鏡をかけてボサボサの髪のカツラを被っている。
―一番大丈夫じゃない人がやってきた………。
「殺せんせー、なんだかいろいろと大変なんだよ、どうすればいい?」
「うむ、確かに訓練中の出来事だが、これに関してはお前のほうが心得てると思ってな」
「ええ…………確かに烏間先生よりは心得ているかもしれませんが…………えぇぇと…………どうしましょう」
殺せんせーはただアタフタしているだけで、何の役にも立っていない。
というよりもむしろ邪魔だ。マッハであたふたされると強風が起こって目に砂が入る。
「殺せんせー!今ばかりは真面目になってよ!」
思わず殺せんせーに意見する。
すると、殺せんせーはあたふたするのを止めて言った。
「落ち着いてください皆さん、せんせーが真面目じゃないときがあったでしょうか」
「今だよ!」
「ど、どこが真面目じゃないというんですか!」
「行動とか!特に格好が!」
何キリッとしてるんだ殺せんせー!
「いや、形から入ると言うのは…………はい、わかりました、先生がわるかったです。謝りますから、ひとまず見せてください」
―まだ見てもいなかったのね…………。
殺せんせーに道を開ける。
「なるほど…………。前にもあったのですね………………………。ところで、皆さんはどうしてほしいのでしょう?」
「どうしてって、犯人を見つけてほしい………」
殺せんせーが頷く。
「確かに、それが一番楽な解決方法ではあります。しかし、それはやった人の立場に立っていない。皆さんは、やった人が分かったとしてその後どうするのでしょう?快く受け入れることができますか?」
「……………………」
誰も答えることができない。
「せんせーは誰一人としてこの教室の人を見捨てたりしませんよ」
それを聞いて少しホッとした。出来れば、このままみんなの記憶から薄れていってほしい。こんなこと、起こるべきじゃなかったし、こんな大事にすべきでもなかったんだ。そうすれば倉橋さんだって…………。
「で、でもどうするの?このまんまって訳にはいかないし………」
「…………………やはり、速さで解決出来ないこともあるのですね。これはせんせーの力不足です」
その言葉はみんなに衝撃を与えた。それは内容にではない。
「殺せんせーが謙虚になった!」
「な!何を言ってるんですか!せんせーは世界一謙虚で寛大な先生ですよ!」
「ははは、世界一謙虚ならそんなこと言わないって」
その言葉でみんな笑顔になった。倉橋も含めて。どこか安心したような顔になっていた。
本当に、このまま忘れ去られれば良かったのに。