暗殺教室~狂気の惨殺劇~   作:秋実 怜土

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拒絶の時間

しかし────まだまだ惨殺事件は続いた。

2日か3日おきに、何度も何度も。対象は動物だけてはなく、虫や魚もだ。あるときは大量の蝶の羽がばらばらにされていて。またある時は小鳥の口にビニールが突っ込まれていて。その手法は様々で合ったが、唯一「生物」ということだけは共通していた。

さらに、それに比例するように倉橋さんの元気は無くなっていく。あれ以来倉橋さんが笑顔になることはなかった。そして、これと関係があるかどうかはわからない――――いや、無いなんてことはないと思うけど、倉橋さんが休むことも出てきた。狭間さんも少し体重が増えたらしい。

みんなどことなく倉橋さんに気を使って、微妙な雰囲気が教室に流れている9月下旬。蝉の声はすっかり聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

「なあ後で喫茶店いかないか?」

「ああ、ごめん、今日親出張でいなくて………………」

倉橋さんは今日もいない。みんなその状況に慣れはじめてきていて、今となってはいつも通りのこの教室、会話をしながら昼休みを過ごす。

 

ガラッ

突然前の扉が開いた。。

突然扉が開けばだれだってそこに注目する。それが、倉橋さんなら尚更だ。

教室がシーンと静まり返った。

「あ、陽菜乃ちゃん今日は来れたんだ」

「……………」

茅野さんが話しかけても答えはない。以前は話し掛けられたら答えるぐらいには話していた。しかし、今では殆ど言葉を発しない。本当に必要な時以外、倉橋さんが話しているのを見たことが無い。

そして―――――それはみんなから離れていくことを意味する。

教室の空気が一気に淀んだものに変わった。

誰もそこからまたしゃべりだそうとしない。倉橋さんは、小さくため息をついた後自分の席に座った。

「おうおういい加減やめたらどうなんだ、あぁ?」

一番最初に限界が来たのは――――――寺岡君だ。みんなの視線が二人に集まる。

確かに、倉橋さんが暗いせいか最近の教室はどことなく雰囲気が暗い。みんな気にしないようにしてるけど、それでもやっぱり倉橋さんに気を使っちゃう。

「………………」

寺岡君に糾弾されても尚倉橋さんは喋ろうとしない。

「おいなんかいったらどうなんだ!」

寺坂君が倉橋さんの胸ぐらを掴む。

いつもだったら誰かがすぐに止めに入るところだけど、今日ばっかりは誰も動こうとしない。ただ、眺めるだけ。僕らの教室の中で―――――二人だけが他人―――――いや、二人の教室の中で、僕らが他人。

「……………寺坂も人を殺してみれば?」

「あ?」

人を…………殺す?

ようやく口を開いた倉橋さんからでた言葉はとても黒いというか、それだけ重みと冷たさがあった。それは寺坂君が少したじろぐ程に。

ただし、言葉の意味は取れない。人を殺してみれば…………。

「へぇ、面白いこと言うね。」

更に口を挟んだのはカルマ君だ。

「まさか、そのままの意味じゃないよね?」

「さあ」

それだけ言って席を立ち、また扉の近くまで行った。

僕は咄嗟に動き出そうとしたカルマを止めた。

「やっぱり今日は帰る。一応せんせーに伝えといて」

それだけ言って―――――倉橋さんは本当に帰ってしまった。

「…………………なんかさ、変わった、というか…………どうすりゃいいんだろうね」

誰かがさらっと呟いた。

その言葉を境に、みんな元々やっていたことに戻っていく。

 

その後カルマ君が僕に聞いた。

「…………なんで最後に俺を止めた?」

「…………なんとなく…………えっと…………………」

―このままカルマ君が何かすると、本当に倉橋さんが離れてしまうような気がして。

言葉には出さないで心の中で言う。

「………………まぁ、確かにあいつをちょっと殴るか鼻にわさびつっこむかとは考えてたけど」

「………………やっぱり止めて正解だったかも………」

もう10月だというのに、解決の糸口は何も見えない。

 

 

 

放課後の校門前

いつものようにカルマ君と杉野君と一緒に帰っていた。

「あ、ごめん、教室に忘れ物したから先いってて!」

はっと筆箱を机の中に入れっぱなしだったことに気がつく。

「いや、待ってるよ、どうせすぐ戻ってくるだろうし」

「ごめーんすぐ戻る!」

そう言って校舎の方へ駆け出した。

本当は駄目だけど開いてる窓から廊下に飛び込む。体が小柄だからこそできることだ。……………………ちょっと悲しくなってくるからこの考えは止めよう。

すぐさま教室に入り、自分の席を探る。

─ふー、あったあ…………

鞄に筆箱を放り込んで教室から出ようとした時、ずっと嫌な音がしているのに気がついた。

何かに何度も何度も刃物を突き立てるような───────

─これは………………何?

音は廊下と反対側の窓の外からする。

─誰?

音をたてないように慎重に窓際まで歩いて行─────こうとした時に限って机に足ぶつけたりとかするんだよね。

ガラッシャン

「わっ………痛っ………」

それを聞き付けてか、走り去る音がした。

「あ、待ってよ!」

さっきと同じように、窓を開けて外に飛び出す。

右を向くと、血塗れの野うさぎがいた。

野うさぎは辛うじて形を止めていて、まだ生きているようにも見えた。でも――――――もう助かるとは思えない。全身の血が抜けきったんじゃないかってぐらい周りは血で染まっている。

「あぁ…………」

近づいて見ると、やはりまだ動いてはいる。

「なんで…………こんな結末しか…………」

僕は見たものがすぐには信じられなかった。あの光景は、それほどに僕に衝撃を与えた。

「もう少し早く気づいていれば……………」

この野うさぎが死ぬこともなかったろうし、彼女も生物を殺さずに済んだ。もう少し早く気づいていれば、もしかしたら取り返しのつかないところまでいかなかったかもしれないんだ。そんなの、後の祭りだって解ってるけど…………やっぱり…………。

 

 

 

どれくらいそこに立ち尽くしていたかはわからない。ただ、カルマ君と杉野君が僕に声をかけるまでは、ずっとそうしてたらしい。

「渚君!」

「ああ…………カルマ君と杉野君…………ごめん、待たせちゃって

「そんなことは今は気にしてる場合かよ!それよりこっちの方が重大だろ!」

杉野君がもう息は無い野うさぎに目をやる。

「どうして…………渚君、犯人、見たんじゃない?」

一瞬ドキッとした。

だからこそ――――どうしていいかわからない。

「…………わかんないよ………………………………」

こんなの、絶対におかしい。

「そう……………………」

 

その後僕たちは野うさぎを近くに埋めた。

 

 

 

放課後の職員室──────この場には先生三人全員揃っている。

「何故お前が動かない」

烏間先生が殺せんせーを問いただす。

「ええ、あのままだと間違いなく壊れるわ」

イリーナ先生も同じように。

二人もプロだ。この二人の先生が異変に気づいていない訳がなかった。

「えぇ……………………今すぐにでも動きたいのですが……………………確か私は部外者とは、特に生徒の親とは会ってはいけない、でしたね?」

「勿論だ。生徒が暗殺に関わっていると知って口を挟まない親などいないだろうな。それと何か関係があるのか」

殺せんせーが頷く。

「はい、間違いありません。その上、だいぶ厄介なことになっています。解決を急ぐと……………………………この教室から倉橋さんを失うことになりかねない……」

「ちょっと、どういうことよ」

「ここからどう動くかは私にもわかりません。ただ、今日大きく変化するでしょう。それだけは間違いない」

「…………それは良い方向にか?」

殺せんせーは返答に少し迷った。

「…………良い方向であると信じたい」

イリーナ先生がため息をつく。

「それにしても、生物を殺して回るだなんて、正気を疑うわ」

「いけません」

殺せんせーがイリーナ先生の肩に触手を置く。

「イリーナ先生…………その言葉が‘彼女’を追い詰めるのです。彼女はこの事に関して自分を責めている。その結果、自分を保てなくなりまた凶行に及んでしまうのです。原因は別にも有りますがね」

「…………わかっわよ、その子にも事情があるってことね」

「彼女は今周りを拒絶している。しかし、それは私たちも彼女を拒絶しているからなのですよ」

「…………成る程、ようやく理解した。お前が対処に困るのも納得だ」

「え?烏間も理解したの?解ってないの私だけ?」

「イリーナ先生にもわかるはずです」

「……………………ちょっと待って」

イリーナ先生が手を頭に当てて考える。

「あの子なら全部当てはまるけど…………そんな、生物を惨殺なんてあの子にとって一番辛いことじゃない!」

「ええ………………」

殺せんせーは空を見上げる。

「だから…………動けないのですよ…………」

 

 

─渚君、後は頼みましたよ─────

 

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