暗殺教室~狂気の惨殺劇~   作:秋実 怜土

5 / 10
泊まりの時間

午後9時────。残業帰りのサラリーマンや塾帰りの学生でまだまだ街は賑わっている。

とはいってもそれは駅前の話。住宅街では街灯がつき、たまに人が通るぐらいでひっそりしていて、聞こえる音といえばどこかの家の環境音だけだ。。

僕はテレビをつけながら紅茶でものんでまったりしようと思っていた。

キンコーーーン

突然玄関の鐘が鳴り響く。

─こんな時間に………宅配便が届くとは聞いてなかったけど………。

不審に思いながらインターホンを見る。

「え!?倉橋さん!?」

インターホンの画面にはふわぁっとした髪型の────紛れもない、倉橋さんがそこにいた。

『渚……………お願い!一晩だけ泊めてくれない?』

「え………。ちょ、ちょっと待って。今鍵開けるから」

急いで玄関まで走る。ちょっと事情が飲めないけど、何か重大なことがあったのは間違いない。母さんがいなくて本当に良かった。

ガチャ

「く、倉橋さん!」

「こんな時間にごめん………………お願い、一晩だけ泊めて!」

「えっ………と………………とりあえず上がって。親いないから…………まぁ大丈夫」

「あ、ありがと……………」

 

そこで僕は違和感に気がつく。

「あれ?荷物それだけ?」

倉橋さんの荷物は小さなカバンに収まる程度しかない。教科書が入るスペースは殆ど無さそうだ。

「うん、荷物は本当に着替えとかだけにしてきたし。教科書とかは置けるだけ学校に置いて後は隠しておいたの」

「ああ、うん」

すごく豪快だな、とつくづく思う。

倉橋をひとまずリビングまで案内した。

「ここがリビング。今日は母さんがいないから…………大丈夫かな?」

「本当にごめん。………………実は渚が話してるの盗み聞きしたんだけどね」

「…………なるほどね」

何だか今の倉橋さんは最近に比べて明るい気がする。とはいっても以前と比べたら全然暗いままだけど。

「とりあえず一息ついてよ。今何か淹れてくる。紅茶でいい?」

「うん、お願い」

もともと淹れようと思ってたから沸騰は早い。本当ならカップを温めたりティーコゼーだの92℃だのあるみたいだけどめんどくさいし違いがわからん。

できた紅茶を小皿に乗せてソファー前のテーブルまで運ぶ。

「はいお待たせ」

「ありがと」

僕も倉橋の横に腰かけた。

一息の沈黙の時間が流れる。その時間は聞きたいことを遠ざけてしまいそうだ。

「………………」

「…………」

─でも、ここで聞かなきゃ多分機会はない。

「……………………今日うちに来たのも最近のことと関係あるの?いや………………最近何があったの?」

「………………やっぱり言わないと駄目だよねぇ……………………………………あぁ、ごめんお風呂借りられる?多分この後私の方が持たないから」

「そこの扉を出て左に曲がったすぐ右手にあるよ。バスタオルとかは…………適当に置いてあるのを使って」

「ごめんね、何から何まで」

倉橋さんが荷物を持って部屋を出ていく。

その時に、「また駄目だ」と呟くのが聞こえた。

 

倉橋さんが風呂に入っている間に、何を聞こうかと思案する。

─ひとまず…………やっぱり最近何があったか、かなぁ。

しかし、あの様子から察するにとても楽しい話とは思えない。何せ、あの倉橋さんがここまでになってしまったのだ。並大抵のことではない。そう思うと、やっぱり聞くのも躊躇われる。倉橋さんだって、そんなこと話したくないだろう。

─でも……………学校でああ言っちゃったしなぁ……………。やらないわけには……………。

 

 

倉橋さんが風呂場から帰ってきた。

「お待たせ渚。それで何から言えばいい?」

「……………やっぱり、最初から。夏休み明けから何があったか………………」

倉橋さんが僕の隣に座る。

「りょーかい。最初は夏休み明けっていうか夏休み明け手前なんだけど…………」

倉橋さんが何があったのか語りだした。

 

 

「だから………!」

「うるせぇ!………………!」

─はぁ。

私はため息をつく。

─またやってるよ、うるさいなぁ。

夏休みに入って、何があったのか両親の仲が急に悪くなった。毎日毎日、顔をあわせる度に怒鳴り合い。最初は止めに入ったこともあったけど、それももう止めた。意味が無いし、むしろ火に油を注ぐ結果になることもあったからだ。

外に出掛けたいけど……………あの前を通るのも………。

出掛ければ誰かに会うこともあるだろうに。茅野ちゃんとか絶対うろついてるよ。でもそうはいかない。

窓から出ることも考えたけど、ちょっと降りられそうにないし親に誤魔化すのも面倒だ。

だからこうやって部屋で退屈するしかない。

─はぁ……………早く学校始まらないかな~。

学校が始まれば少なくともこれからは逃れられる。この時は本当に学校が始まるのが待ち遠しかった。

 

 

状況が一変したのは始業式の前日の朝。急に静かになったと思ったら二人してドカドカと階段を上がってきた。

「え……………何…………?」

バーンと勢いよく扉が開く。

「陽菜乃、あなたはここに残りなさい。ただし、もしこのクソが何かしたら直ぐに連絡すること。いいわね?」

「あ?てめぇに誰が頼るってんだ?」

「はい?クソは黙ってればいいのよ?」

ちょ、何始めてるんですか。

「ま、待ってよ、言ってること全然わかんないよ」

急に残れ、だの……………どういうこと?

「離婚よ離婚。もうやってらんないわ」

「そういうことだ。つまり、この粗大ごみを追い出すわけ」

「え……………え…でも………ちょっと待ってよ、離婚って本気?」

「あたりめぇだ。もう御免だよ」

頭がクラクラした。急に何を言い出すかと思ったら、「離婚」だなんて。確かに、最近のを見ればそうかもしれない。それでも、離婚だなんて。

「じゃあ……………私は………どうなるの?」

「言ったでしょう。悔しいですが、この家に残りなさい。じゃ、また陽菜乃、元気でね。」

そう言って扉を出て行く。

「え……ちょっと!ちょっと待ってよ!ねぇ!わかんないよ、なんでそんな急に!ねぇ!!……………」

「そういうこった、あれのことは早く忘れるんだな」

そう言ってパパも出ていった。その場には理解が追い付かない私が一人。

実際、ママはその日の夜荷物をまとめて出ていった。

 

 

その日の夜はなかなか眠れなかった。不安、不安、不安──────安心できる要素が見当たらない。だって、そんな急に。意味がわからないよ。私に一言も言わずに決めて、あんなあっさりと。

ひどいよ、なんでそんなこと…………。

様々な想いが頭を巡る。

ただ、学校が始まるという希望を頭にこびりつけて、なんとかその日は眠りにつけた。

 

 

「……………なんて声かければいいかわからないよ」

僕の想像を遥かに越えていた。でも、それは僕にも覚えがあった。父さんが出ていった日─────しっかりと覚えてる。

「あの時はホント私も混乱してたの。どうしたらいいかわからなくて」

「うん…………………」

「でもね、それだけだったら直ぐ立ち直ったっていうか慣れたけど」

「え?」

「あんまり違和感を感じなかった……のかな?」

やはり倉橋さんは胆が座ってる。僕はちょっと時間掛かったのに。

「ホントに…………本当に辛かったのはこれからなんだよ………」

そう言って倉橋さんがまた語りだした。

 

 

 

始業式が終わって家の鍵を開ける。いつもならママがいるはずだけど、もう誰もいな────────え?

酒ビンが転がっている。もう昼過ぎだ。仕事の時間の筈なのに…………。

「ちょ、ちょっと!パパ!仕事は?」

「あぁ?知るか仕事なんてもん!」

バンッ

パパが思い切り机を叩いた。振動で、空の酒ビンが落ちて割れて粉々になった。

「ひっ…………ねぇ仕事は?あるんじゃないの?」

「だから知るかっつってんだろぉが!」

ドスッ

「…………くぁ……あ…………う………」

パパの拳が私の腹の辺りに入る。

痛みで地面に転がった。パパが立ち上がって迫ってくる。

「おい、酒」

「……………え?」

「酒買ってこいってのがわからんかあ!」

頭がクラァとする。

何をされたかは良く見えなかったが、頭を殴られたか蹴られたかしたのだろう。

「む、無理だよ、私じゃ買えないし……」

「あぇあ?てめぇの事情なんか知るかよ?とにかく買ってこいってんだろ!」

何度も何度も執拗に蹴られる。

「………あ…………ぐ…………止めて、止めてよ!」

「だったらとっとと行ってこいってんだろ!」

私は逃げるように家を飛び出した。

 

 

「……そんな感じで今までずっと続いてたの…………」

「………………」

どうしよう。倉橋さんがそんな状況に陥ってただなんて。僕がどうにかできる範囲をとっくに越えてる。

「…………それで、今日はどうしたの?」

「…………逃げてきた。いよいよ殺されてもおかしくなかったから、逃げてきたの」

「殺されるって………まさか」

「うちね、物置として地下室があるの。そこだとほとんど外に音漏れないし」

「………警察に連絡は………」

「…それが出来たらとっくに烏間先生に相談してるよ」

倉橋さんもかなり抱え込むタイプだ。いつものゆるふわの下に、どんな苦労があるか計り知れない。

「………僕には直接助けることは出来ないよ。でも、話を聞くことならできる」

「うん。ありがと、渚」

「だからさ、最後まで話してよ」

これが────どうなるかわからない。でも聞くしかない。

「……………どういうこと?」

「わかってるでしょ、多分倉橋さんも僕が見たのをわかってるから」

「ね、ねぇ渚、一回やめにしない?」

「あの惨殺のこと」

「お願い、ねぇ!やめにして!」

「動物も魚も昆虫もみんな」

「いや!止めて、止めて止めて止めて止めて止めて止めて!これ以上私を追い詰めないで!」

 

「全部、倉橋さんでしょ?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。