暗殺教室~狂気の惨殺劇~   作:秋実 怜土

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限界の時間

深夜───

街はすっかり寝静まり、オケラの声だけが聞こえる。

僕は何故かふと目覚めた。時計を確認すると午前3時過ぎ。

─こんな時間に………なんで目が覚めたんだろ………。

もう一度寝ようかとも思ったが、なんとなく気になるので一回リビングまで行ってみることにする。

布団を剥いでベッドから降りた。

─このまま起きちゃうのも………ありかな。

下まで降りると、何か音が聞こえてくる。

─え……………なんの音?

急いでリビングの扉を開けた。

ソファーのほうを見ると、ソファーの近くの床に倉橋さんが踞っている。

「倉橋さん!?」

倉橋さんが顔を上げてこっちを見て────そして泣きながら転ぶように駆け寄ってきた。

僕もそれにあわせてしゃがむ。

「もう…………………嫌だよ……………」

止めてくれ、と言いたかった。

泣いている倉橋さんを見ると──────罪悪感しか感じない。

「なんで、こんな…………………」

お願い、そんな顔しないで───────なんて言える立場に僕は居ない。

原因は何?

それは倉橋さんの父さんだ。

じゃあ、ここまで倉橋さんを追い詰めたのは?

それはきっと僕達だ。

 

無言は人の不安を掻き立てる。倉橋さんが語らないのを良いことに、逃げていたのは僕達だ。

倉橋さんが喋らなくなってみんな不安になった。それと同じように、みんなが倉橋さんに喋らなくなって倉橋さんも不安になった。

それも一人じゃない。みんなが一斉に倉橋さんに不安を与えた。

一つなら平気なものでも、それが20にもなったらどうだろう。元々悩みが積み重なっていた上に、さらに20の不安が重くのし掛かる。

そんなの、死にたくもなるよ。

ある時殺せんせーは言った。

─人が誰かに拒絶されていると感じた時、それは自分がその誰かを拒絶している時である、と。

拒絶していたのは倉橋さんであり、僕達だ。

「倉橋さん……………………」

「………………助けて、渚」

「え?」

それは聞き逃しそうな程小さな声。

「もう……………私は駄目だよ」

こんなに倉橋さんが苦しんでいるのに───────それなのに、倉橋さんが明確に僕を頼ってくれたことが何より嬉しい。

最低だ。

自分から拒絶しておいて、それで相手が苦しんでいて頼られて嬉しいだなんて。

でも─────自分がした後始末は自分でしなければいけない。

「……………………」

なのに。

 

何で言葉が出ないんだろう。やるべきことは解ってる。さっき殺せんせーに気づかされた。それなのに、今何も出来てない。

「自分から拒絶しといて都合のいいこと言ってるのはわかってるけど………………」

「違う!」

思わず大きな声が出る。

倉橋さんの言うことを遮らないと、堪えきれなくなりそうで。

「違う……………違うよ………」

「な………何が?」

「違う…………最初に拒絶したのは倉橋さんじゃなくて僕たちなのに…………」

最初は倉橋さんは確かに自分に対して怒っていた。

 

でも、そこまでだ。

 

倉橋さんが本当に僕たちを避けるようになったのはもっと後。それは、僕たちが倉橋さんを避けるようになった後。

僕たちが避けるようにならなければ、きっと今違う展開を迎えていたはずだ。

「違う…………怒るのは僕じゃないのに!ああもう!」

そこでようやくハッと気がつく。何やってんだ、僕は。

「ご、ごめん倉橋さん、なんかよくわからなくなって」

「…………ねぇ、渚は私のこと恨んでる?」

「え?な、何をいきなり!」

「恨んでるに決まってるよね…………あれだけ教室引っ掻き回して……渚にも辛い思いさせちゃってるし…………」

「そんな、──────」

違う、とはっきり言えない自分が悔しい。そう言われただけで、僕は完全に揺さぶられてしまった。─もしかしたらどこかで恨んでるのではないか?そんな疑念が心の中を渦巻く。

「…………やっぱり、もう殺してよ…………私なんていない方が良かったんだから…………」

「それはさっきも─────!」

「じゃあ、さっきと同じようにしてよ……」

駄目だ、と解っていても体が動いてしまう。包丁を取りに行ったら、倉橋さんはもうそれを受け入れてしまうだろう。それだけの覚悟が出来上がった上であれをやるのは完全に逆効果だ。

それでも、引き返せない。言われるがままに包丁を持って倉橋さんの前に立つ。

「……本当に死にたいの…………」

「うん、もう受け入れたよ。そうしたほうがみんなのためにもなる」

「本当に殺すよ………………」

嘘だ。この殺す、は日常生活で使われる軽い殺す、だ。暗殺者の使う殺す、では断じて無い。

「…………もう生きるのが辛い。早く殺してほしい」

さっきと同じように振り上げ────さっきと同じように取り落とす。

「…………っそんなの無理に決まってるだろっ!」

倉橋さんが顔を上げる。

「どうして?私を殺せば今の苦労から解放される。私も苦しむことはなくなるんだよ?」

殴り倒す。

 

 

もう理性なんて無い。

 

 

もう知らない。

 

 

全部投げ出したくなった。

 

 

「ふざけるなっ!僕が今まで何のために、何でこんな苦労してきたかわかってんのかよ!苦労から解放されたとして残された僕はどうなるんだよ!何で、何でそうやって自分だけが楽になる道を選ぼうとする!そんなの何の解決にもならないってことが何で理解出来ないんだよ!」

 

 

 

言い終わってから、ようやく自分が何をしているかに気がつく。

──僕は…………倉橋さんを殴り倒して怒鳴り散らした…………?

思わず倉橋さんから飛び退く。

──何を…………したんだ…………?こんなの、同じじゃないか。

「駄目だ…………」

倉橋さんが立ち上がった。

「な、渚………………………」

そのままゆっくりと近づいてくる。

「止めろ…………」

僕は一歩後ずさった。

「ね、ねぇ…………」

「もう僕に近づくな!」

言ってしまった。もう終わりだ。積み上げてきたもの、全部無に帰った。打ち砕かれたような倉橋さんの顔。

あぁ、最高だ。もうどうにでもなってしまえ。

そのまま背を向けて走って階段を上がり、自室にこもって鍵をかけた。

 

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