教養はないので叩かないでね
始まり
すべての始まり
街は闇に包まれ、土砂降りの雨の中、佇む少年が居た。
少年は雨の中、動こうとする素振りはなく、ただただ空を見上げていた。
遠目から見れば泣いているようにも見える。
いや、もしかすれば、本当に泣いているのかもしれないが、すれ違う人々は少年のただならぬ雰囲気に飲まれ、声をかけようとはせず、遠巻きにすれ違うのみだった。
そんな少年に近づく人が二人いた。
「ねぇ、どうしたの?」
「…」
女性の問いかけに少年は沈黙を返すばかりだ。
「おい…」
一緒に居る男性が少年に声をかけようとすると女性に止められ、怪訝な表情で女性を見るが女性は少年から目をはなさなかった。
「…捨てられたんですよ。」
少年は外見と声色に似合わない落ち着いた態度でただただ事実を話した。
男性は眉を一瞬動かしたがすぐに元の不機嫌そうな表情に戻った。
女性は予想していたのか表情が全く動くことはなかった。
やがて少年は語り出す。
「別段、珍しい事ではないと思いますよ。
飢餓に見舞われたこの街で生きる残るために負担を減らすことは至極単純な答えだと思います。
事実、街の裏通りには沢山とは言えずともいるわけですから。」
少年が述べる事に女性は違和感を感じた。
少年の服は雨に濡れているとはいえ、やけに綺麗な状態なのだ。
とても少年の言う裏通りに居る飢餓に苦しみ、捨てられた彼らと同じには見えないのだ。
街が飢餓に苦しんでいるとはいえ、お金をかければちゃんと買うことはできるのだ。
そして、服を買うことができるほどのお金が有れば、当然食料だって買うことができる。
このことから女性は少年が嘘をついていると考え、言葉にした。
「確かにこの街は飢餓に苦しんでるね。
でも…君が家を出た理由はちがうよね?」
女性の言葉に少年は少しばかり興味が湧き、このとき初めて二人の方を見た。
少年は紅い瞳に黒の綺麗な長い髪を後ろで束ねていた。
子供の幼い顔の中にも精悍さが伺える面立ちだった。
女性は20代に見える面立ちながらもどこか無邪気さが伺うことができる。
男性は無精髭を生やし、ボサボサの髪の中から鋭い眼光がのぞいている長身の20代後半の男性だった。
女性は少年の顔、特に眼を見た瞬間、悲痛な表情をうっすらと浮かべた。
やがて女性は口を開く。
「…この子、私が引き取るわ。」
女性の発した言葉に少なからず衝撃を受けた男性は眉をひそめた。
「止めておいた方が良いと思いますが」
女性の言葉に返事を返したのは男性では無く少年だった。
「それは貴方に捨てられる理由があるからかしら?」
遠慮が一切無いようにも聞こえる女性の問いかけに少年は初めて顔を歪めた。
「…僕は化け物なんですよ。」
苦しそうな表情を浮かべた少年が絞り出すように言葉を発した。
「それはどういう意味で?」
純粋なようにも聞こえる問いかけの裏に確信を潜めさせた女性は少年から目を離すことはない。
「強すぎる力は意識せずに他を傷つける。
っと言ったことですかね。」
その答えを聞き、やはりと思い直す女性は少年を引き取ることを改めて決意した。
…その決意が変な方向にはでてしまうが。
「…よし!やっぱり君は私が引き取るわ!異論は認めな~い♪」
男性は最近起こることがなかったいつもの病気が始まったかとため息をついた。
少年は何を言われたのかよく分からず、疑問を浮かべたまま首を傾げていたが女性が少年の手をとり引っ張って歩き出したあたりで気がついた。
そして慌てて女性の手を離そうと試みるも手が離れることはなかった。
そんな女性の手から必死の思いで外そうとしている少年を見かねた男性が引っ張られる少年に声をかける。
「…諦めろ。
こいつは自分で決めたことは滅多に曲げることはねぇ。
それにお前以上に力の使い方を知ってる本物の化け物だ。
五年後くらいならまだしも今のお前じゃ無理だ。
諦めて受け入れろ。」
男性の諦めにも似た達観した表情に呆気にとられ引っ張られ続ける少年の心はいつの間にか暗闇は晴れ、そして日が顔を出し始めた都市の空のように闇が晴れ始めていた。