自分の中では普通なんだけどね
見るとき気をつけて
それは、この荒廃した世界で唯一と言える人間の住める場所である。
荒廃した世界は大気中に汚染物質が空気中を常時、舞い続ける世界で、人間は防護スーツを着なければ外に出られない。
都市の外に生身で出れば、普通の者なら5分と保たず体を焼くような痛みが襲い、やがては死に至る事になるからだ。
この膜が外の汚染物質を排除し、空気を中に入れる事を可能にしており、それこそ
丸型の都市を支えるように地面に建っている何本もの足は固定するためではなく移動するためだ。
移動を繰り返し、ある時期になると都市同士が近づき、
多くの人が住むこの都市も何も動力が要らないわけではない。
都市の移動にはセルニウムという金属が必須となり、純度の高いセルニウムが埋まっている鉱山の保有権を奪い合う為の戦争だ。
クロウディアとレイフォンが向かうのは学園都市ツェルニ。
クロウディア達が入学してきた年のセルニウム鉱山保有数は1つを残すのみだ。
なぜこんな危うい都市に来たかと言えば理由は至極簡単だ。
レイフォンが合格できなかった。
理由はこれだけだ。
そして今、クロウディア達は都市間を移動するためには欠くことの出来ない乗り物、放浪バスに乗り、ツェルニへと向かっていた。
「何で合格できないかねぇ…」
呆れ顔のクロウディアの目線は変わらず外を向いているが、レイフォンに聞こえるように呟かれていた。
「うっ…すいません…殿下…」
明らかに落ち込んでいるオーラを放ち、 小さくなっているレイフォンに周りの乗客、というよりも放浪バスの乗客全員が(もうやめてあげて!!)と思っていたがクロウディアの異様な雰囲気に当てられ、何もすることができなかった。
それもそのはず、クロウディアはアルシェイラに分からぬよう、落ち込んでいたのだ。
クロウディアの計画ではグレンダンの中にある学校に通い、アルシェイラと離れるつもりは毛頭なかったのだ。
それをまさかのレイフォンの学力の問題により都市外の学園都市に行かざるを得ない状況になったのだ。
それによりクロウディアはアルシェイラの近くに居られなくなったため、アルシェイラの前ではなくなったこの放浪バスの中で、レイフォンでも分かるくらい落ち込んだ。
「まさかここまでバカだったとはな…」
「すいません…」
「まぁ…今更嘆いても結果は変わらんか…」
「はい…」
さらに小さくなったレイフォンを乗客は見守っていたがやがて意識をそらし、眠ることにした。
「仕様がないな!
こうなったら学園都市を満喫することにするか!
レイフォンも落ち込むのやめて友達作ること考えな。」
「はい…!頑張ります!」
落ち込んでいた子犬のような表情をしていたレイフォンは、クロウディアの言葉で元気を取り戻し、キラキラしていた。
その後はクロウディアは周りを警戒したり本を読んだりし、レイフォンは一生懸命勉強をしていた。
よっぽど分からない内容はクロウディアに教えてもらって時間を過ごした。
「……っ!」
静かに本を読んでいたクロウディアは突然顔を上げ、窓から外を見た。
レイフォンは勉強に疲れ、ぐったりとした姿勢で深い眠りについていた。
(汚染獣…この気配は…遠ざかっているのか…)
クロウディアは類い希なる戦闘スキルにより、並みの念威繰者よりも早く気配を察知し、未来予知にも似た危険予測をするようになった。
それでもデルボネより劣っていることを悔しく思っており、日々、気配の探知を心がけている。
その危険予測に引っかかった汚染獣は、放浪バスにとっては幸いと言うべきか、放浪バスとは反対方向に進んでおり、やがてクロウディアの察知圏内からはいなくなった。
(良かった。
さすがに負けはしないがグレンダンの紋章の入った都市外戦装備は気軽には使えないからな…)
クロウディアは、汚染獣の気配はないまま、目視で学園都市ツェルニが見える位置にまで近付いてきたのでレイフォンを起こそうとしたが改め、少しでも長く休ませるため、着いてから起こすことにした。
寝過ぎて汚染獣が来たことにも気付かなかったレイフォンは、ずっと起きていたクロウディアと交代する約束を破ってしまったため、ツェルニに降りた瞬間土下座して謝り、クロウディアはそれに困るという構図ができあがったが。
場所は変わって学園都市ツェルニ。
入学式のある講堂へと足を進める二人、クロウディアは武芸科の制服を、レイフォンは余りに一般教養がなくクロウディアがキレたため普通科の制服を着ている。
「ん~っ!はぁ~…」
長い間座り続け、凝り固まって筋肉を腕を広げ伸びをするクロウディアにレイフォンは苦笑をしてみている。
「よし! んじゃ、行くとするか!」
「はい。」
クロウディアの言葉にレイフォンは頷き答え返し。
二人は周りにいる新入生の波に逆らわず歩いていった。
入学式の行われる講堂の前まで行くと何やら人混みが出来ており、クロウディアとレイフォンは二人して顔を見合わせ人混みを…スルーした。
二人の思考はいたって平和思考であり、 何か出し物をしているのではと思いスルーをしたのだ。
そして通り過ぎようとした瞬間、クロウ ディアの耳には確かに聞こえた。
「
明らかに出し物としてはそぐわない言葉が聞こえた。
レイフォンは考え事をしていたようで聞こえていなかったらしく、止まったクロウディアを頭をひねって見ていた。
クロウディアはそんなレイフォンには気付かず、ただ人混みの中を見据えていた。
やがて人混みの中の声が大きくなってきた。
それと同時にクロウディアの雰囲気も悪くなっていく。
そんなクロウディアの雰囲気にレイフォンは青くなっていく。
そして人混みをかき分けるように念威端子が飛んできて声を届けたのがクロウディアの引き金となった。
「危ない…!」
ドンッ!という音とともに残されたクロウディアのカバンは宙を舞いレイフォンがキャッチをして人混みの中へとクロウディアを追いかけた。
中を見たレイフォンが見た光景は倒れた女の子を助けた状態で俯いたまま止まっているクロウディアだった。
――数分前――人混みの中――
学園都市ツェルニに入学する生徒、その多くが講堂に行く際、喧噪に包まれた場所で足を止めていた。
武芸者の卵を育てる科、武芸科の新入生二名が喧嘩をしていた。
理由は些細なことでしかなかったが、お互いが武芸者、そして頭に血が上りやすいことが失敗だったのだろう。
あっと言う間に言い合いでしかなかった事が小競り合いまで発展した。
事は一般人からすれば最悪の事態へと転がる。
「
双方が
そのことがきっかけで動揺した野次馬の新入生は動揺し少しでも下がろうとした。
その余波を受け、長髪の女性が押し出され、その女性は喧嘩をしている二人に近づいてしまった。
二人はその事に気付かず喧嘩を続けていた。
女性は逃げようと講堂に入るための扉とは別の扉へと走ったが焦りすぎたため、足がもつれ、転倒してしまった。
そして、女性の上にある天井を支える支柱に片方の攻撃が当たり、周りに緊張が走り、悲鳴が上がった。
その事で喧嘩をしていた二人もようやく気付いたが二人とも咄嗟のことに体が緊張状態に陥り動くことができなかった。
瓦礫に潰れてしまう…!
その場の全員がそう思い、瓦礫と化した天井が女性に落ちた。
いや、そう
土煙が上がり、その中心は見ることができない。
いや、見たくもないだろう。
その場の全員が女子生徒が瓦礫に潰され、下には赤い血が広がっていることを想像し青くなるか、茫然として誰一人として動こうともしていなかった。
「何の騒ぎだ!」
その場に漂う静寂を破ったのは金髪の女性だ。
だからこそ変化に気が付くことが出来なかった。
金髪の女性生徒が声を荒げながら近寄ってくる前から土煙を渦状に巻き始めていた事に。
ようやく気が付いた突然の事態に、一帯が騒然となり慌ただしくなるが突如、渦を巻いていた土煙がほどけ、強風となって辺りを襲った。
皆が一度目をつぶり、風が止み、目を開けると全員の予想が裏切られる光景が広がっていた。
瓦礫は中心を残した周りへと追いやられ、その中心には被害をかぶることになった女性を、黒髪の長髪の男性、クロウディアが女性は抱えるように座り、喧嘩をしていた二人には見向きもせず俯いていた。
「殿下!」
俯いているクロウディアにレイフォンは近寄っていった。
「レイフォン…俺の思いは…願いは…おかしいのか…間違っているのか…?」
俯きながら縋るかのように吐き出される言葉にレイフォンは胸に確かな痛みを覚えた。
「そんなことはありません。殿下。
殿下の思いはグレンダン全員の思いです。」
精一杯、気遣われたクロウディアの雰囲気は少し柔らかくなるのを感じた。
レイフォンにクロウディアは女の子を少しばかり傾きを直し、レイフォンへと渡そうとする仕草をした。
レイフォンはそれを正しく理解し、レイフォンとクロウディアの鞄を置き、女の子を預かった。
クロウディアはその事を確認すると静かに立ち上がった。
少し前に出たクロウディアは二人を見据えて悲しそうな表情を浮かべる前に再び顔を下げた。
「君ら二人に問う。」
顔を上げたクロウディアの目は喧嘩をしていた二人を見ていた…ように見えた。
しかし、クロウディアには幼き頃の自分、そして両親へと向けられていた。
「武芸者の役割は何だ。」
「え…と、自分を強くすること…?」
「…武芸者のあるべき姿は何だ。」
「……強くあることじゃないのか?」
答えが返ってくるごとに不正解だと言わんばかりのクロウディアのプレッシャーに戦々恐々としながらも答えていく二 人。
何度かこの問答を続け、クロウディアは最後に聞いた。
「 武芸者とは何だ。 」
その言葉にクロウディアは今までの人生のすべてを乗せた重みがあった。
レイフォンは小さくではあるが確かに違った重さに気付いた。
いや、気付いてしまった。
答えを間違えれば殺されると思ってしまうほどの重さにレイフォンは息をする事さえ忘れてしまう。
しかし、二人は気付けなかった。
「…人間の中でも選ばれた人間。」
その言葉は禁句だった。
間違いどころではない、最早爆弾に火をつけたようなものだ。
クロウディアから一切の感情が消えた。
ただ一つ、憤怒を残して。
周りにいる武芸科の制服を着ている新入生も同じ意識なのか誇らしげだ。
それがさらにクロウディアの神経を逆撫でした。
「…おめでたい連中だな。」
ボソッと放たれた言葉は一番近いレイフォンと女の子、そして喧嘩をしていた二人にのみ届いた。
俯いていたクロウディアはそのまま話をする。
「武芸者とはその都市の民間人を守るための存在だ…
武芸者とは他の模範となるべきものだ…
武芸者とは汚染獣と戦うための人間に与えられた武器だ…!
武芸者とは己を律し、民間人に混ざり生きていくものだ…!!
武芸者とは常に己を高める努力を止めぬものだ!
武芸者とは一般人からすれば恐怖の対象になり得るものだ!!
武芸者とは…戦うことを強制的に義務づけられた『モノ』だ!!!」
静かな言葉を発していたクロウディアは最後には吐き捨てるように言った。
「それを選ばれた人間…?
反吐が出るほど甘い台詞だな。
そういう馬鹿げた事を言うやつほど汚染獣戦になると恐怖で体が動かず食われて死んでいく。
だからさ…」
俯いていた顔を上げ、クロウディアは二人を見据える。
「お前たち未熟な武芸者に、誇りあるグレンダンの武芸者として、守るべき存在を蔑ろにしたお前等には償って貰うぞ。」
武芸者の中にある剄を使い、行われる剄技の中でも自身の体に作用する内力系活剄、その中でも多く使われる旋剄は脚力に作用し、大幅な速度の上昇を見せる。
使い手次第でこの速度はどこまでも上げ られる。
クロウディアは二人に旋剄で近付いた。
同じ武芸者である二人にさえ、見る間もなく、いつの間にか消え、現れて数秒経ってからようやく気づくことができた。
「安心すると良い。
剄技はこれしか使わない。
お前等程度に攻撃するのに剄は要らない。」
そう言うとクロウディアは二人へと攻撃を開始した。
言葉をようやく理解した二人は動き始めることはできた。
しかし、次の瞬間、二人の内の片方の姿が消え、ドゴッ!という音が後ろから聞こえた。
残った方が後ろを見ると消えた男は木に張り付けられていた。
クロウディアが男の顔を掴み、木に押しつけたのだ。
そしてクロウディアの姿がまた唐突に消えると木に押しつけられていた男を見ていた男の風景がいきなり変わった。
自分も投げられたと気づいたのはクロウディアが手を離したことにより木から落ち始めた男にぶつかる寸前だった。
「つくづく甘い。」
崩れ落ちた二人を醒めた目で見ていたクロウディアは呟くとレイフォンのいる方へ歩き出した。
後にこの事件がツェルニ中に広がり、クロウディアが何故か憧れられ、都市のほぼ全員から閣下と呼ばれ、不機嫌になるのにそう時間はかからなかった。
そして知らぬ間にUAが1400くらいでした。
こんなつまんないの見てて楽しいかね?
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ええ、気が付かなかったよ。
と言うか4話投稿した時間にアクセス200て…
ありがとうございます。
頑張って書きます