デート・ア・ライブ 凜祢アナザーリバーション   作:でぃすぺあー

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 最初の攻略対象がメインヒロインだと思ったか?
 そうは行くかっ

………って感じで正妻でない七罪さんをなんとなくイメージ。

 でも書いて見返すとあれってなる子。




EutopiaⅠ 七罪

 

 五河士道にとって七罪という幼馴染がどういう存在であるかと問われれば、回答は一つしかない。

 即ち、守らなければならない―――庇護対象である。

 

 幼い頃より、というかそうでない時代を思い出せないくらい、常に七罪はちょこちょこと士道のすぐ近くにいた。

 

 その指は大抵士道の体のどこか、少なくとも服の一部を握っていたから、士道少年にとって自分の服とは伸びきって形が崩れているものだったし。

 ひとたび士道と引き離されようものなら、まるで二度と会えないと思っているかのように烈火のごとく泣き叫んでいた。

 

 子供とは男子より女子の方が成長の開始時期が早いもので、しかし僅かたりとも士道の身長を追い抜こうとしているような時期が無かったもので、年月と成長に正しく比例する身長差から七罪は次第にまるで士道の影に隠れるようになっていく。

 

 そうなると当然士道以外の他人とのコミュニケーションには支障を来すのだが、七罪は正直士道さえ居ればそれでいいと言わんばかりに、飽きもせずに暇さえあれば士道だけに視線を向けていた。

 それ以外に何もしない―――つまり問題行動も起こさないということだから、どうしても矯正しなければいけないとはなかなかならない。

 

 ライナスの毛布扱いされている士道も士道で、どこに行くにもひっついてくる七罪を鬱陶しがったり嫌がったりしたことが一度もなかった。

 女の子に好かれて嬉しいとか男の子として良いところをみせたいとか、そんな次元を半端無く超越したところでひたすら面倒見がよかったのである、生まれつき。

 

 巡り合わせ次第では人外の超越災害級生命体を何体も周囲に侍らせて全員幸せにしてみせるような菩薩級のオカン力で、士道は求められるがままに七罪を甘やかし続けた。

 

 甘やかしてくれるから懐(なつ)くのではなく、懐いた相手にひたすら甘やかされる。

 因果関係が変に逆転している。

 そしてそんな逆転がどんな堕落を招くのか――――幼い士道に想像しろというのは、果たして酷だったろうか。

 

「なあ、七罪」

 

「なあに、士道」

 

 

「――――――いい加減俺の部屋に引きこもるの、やめない?」

 

「やだ」

 

 

 家にも帰らずに常に他人の部屋で布団か士道にくるまっているミノムシ一丁出来上がりであった。

 なお、士道にくるまるというのは日本語がおかしいわけではない。

 膝の上で体を丸くしていっぱいに士道の体温を感じている様子がそうとしか表現出来ないのだ………例えば、今の七罪の体勢とか。

 

 決して短くはない思い出のそれとさして変わらない七罪の小さな体を抱き止め、あちこち乱れる癖毛を慣れた様子でするする梳りながら、何十度目かの引きこもりの矯正を試みる。

 効果は薄いのを承知の上で―――それが何故なのかには思い当らないせいで余計に効果が薄い状態で。

 

「ほら、頑張ったらなんでも作ってやるから。イチゴムースの乗ったミルフィーユとかどうだ?」

 

「…………やだったらやだ。お外怖い」

 

「ったく。なーつーみー?」

 

「きゃうっ!?」

 

 お菓子につられながらも堪えて駄々を捏ねる、本格的に子供っぽい七罪を抱きしめたまま伸しかかるように体重を掛ける。

 それが原因だ―――とは、嬉しそうに目を細める七罪の顔が角度的に見えてない士道には、いつまで経っても気付かれることはないだろう。

 

 身悶える、といった程度でろくに抵抗も出来ない(抵抗するとは言ってない)七罪を抑えながらひとときじゃれついた。

 

「この、そらっ」

 

「にゃ、………ふふ、えいやっ」

 

 腕を上げようとしたら肩を抱き、ぐいと体で押し込んでくれば好都合とばかりにより深く腕をまわして抑え込む。

 いたいけな少女になんという怖ろしい行いをする、まるで悪魔の所業である。

 そんなことをされる七罪の表情は、嬉しそうというか楽しそうというか、この世の至福と言わんばかりにきらきらしたものだが。

 

 間。

 

 いい運動になった、と軽く息の上がった士道が、いやそうじゃないと当初の目的を思い出して話を戻す。

 

「七罪、外出しようぜ。何も誰かと会えとか言わない、ただ散歩するだけでもいいからさ」

 

「今は、でしょ?二段目を踏む気なんかないから、一段目も当然見ない振りするわよ」

 

「そう言うなって。少しでも外出ないと、運動不足がクセになるぞ」

 

「今運動したばっかりじゃない――――なんなら、もっと激しいの、する?」

 

「……………その言い方は語弊があるので、次からはもっと気を付けて発言するように」

 

「………、にゃっ!?ち、違う、そういう意味じゃないわよ!しどうのばか、えっち!」

 

 急速に赤くなった顔を、七罪は全力で士道の反対方向へ向ける。

 耳まで染まってしまっているので、あまり意味は無かったが。

 

 しかし、だ。

 

 やはりというべきだが七罪の引きこもり矯正計画の効果は芳しくなかった。

 このまま時間だけが過ぎ、結果出かけるような時間帯ではなくなってしまう。

 

 過去の経験からそういうパターンに入っているのを察知し、士道はやはり過去の経験から奥の手を持ち出すしかないかと観念した。

 

…………正直あまり使いたくないのだが。

 

 

「俺、七罪とデートしたいんだけどなー」

 

 

 耳元で心持ちトーンを湿らせた声で囁く。

 どこのキザ男だ、と一番ツッコみたいのは士道本人である。

 だが、七罪にとってはこれがお気に召すようで。

 

「し……仕方ない、わね。しどうが、そこまで言うなら……」

 

 ちょろい、と背景に書いてありそうなくらいあっさりと前言を翻す七罪。

 顔はやはり背けられたままなので見えないが――――取り敢えず耳は相変わらず真っ赤だった。

 

 

 

 

…………。

 

 七罪と士道の外出は、それこそ語るようなことは大してなかった。

 どこへ行くでもなく、近所の住宅街を散歩するくらい。

 大した距離だって歩いてはいないし、ただのんびりしたペースでゆっくり時間を掛けていた。

 

 歩幅の分、小さい体の七罪の歩くペースは遅い。

 だから当然士道は気を遣ってかなりゆっくり歩くのだが、七罪としては正直歩く理由など士道に付いていくというだけのものだ。

 自然に士道のやや後ろを定位置にするので、歩くペースは更に遅くなる。

 士道もそれに合わせて更にゆっくり………という具合で、どんどん進みは亀のように鈍くなる一方だった。

 

 お互い、それで構うことなど別段無かったが。

 見飽きた近所の景色から抜け出すこともなく、刺激的な何かを見つけることもなく。

 

 そんな停滞こそ、或いは七罪の最も望んでいることかも知れなかった。

 だって、イマに止(とど)まるのであれば、士道が自分を置いていく事などない。

 

 けれど、それが不可能なことであるのにも、きっと気付いている。

 

 塗料の剥がれたカーブミラーの角を曲がり、見えた小さな公園で息をつく。

 近くにもっと大きくて遊具もある公園があるせいで、今そこにいる人影は二人分だけ。

 

 立ち止まった七罪は、ゆっくりと口火を切った。

 

「ねえ士道、分かってるんでしょ?」

 

「何がだ?」

 

 

「無駄なんだ、って」

 

 

「…………」

 

 乏しいやり取りで黙りこむ辺り、突然の七罪の一言の意味が一発で通じたことの証明だった。

 

「私の引きこもり――――違うわ、“依存癖”を治す?無理なのよ」

 

「それは………」

 

「慣れとか強がりで、多少マシに見えるようには出来るかもしれない。でも根本的なことは何も変わらない」

 

 色を失った顔で、淡々と語る。

 生まれた時からの、七罪の真理〈欠陥〉を。

 

 

「私にとっての本当は、士道と士道が関わるものだけ。それ以外の世界の全てはウソ」

 

 

 どうしてこうなったのかは分からない。

 きっと、生まれつき感覚が、世界の感じ方そのものがなにか間違っているのだ。

 

 士道の姿が見えれば、その温もりを感じられれば幸せで、その世界で生きていたいと思える。

 だが、士道がいないなら世界など、モノクロの無声動画以下の代物――――いやそれよりもっと酷いか、色や音がそこにあるのかどうか自体がどうでもよくなるのだから。

 

「急にどうしたんだよ、そんな事言い出して………?」

 

「別に。ただ、そろそろ訊いておかないと、って思ったから」

 

 子供から大人へと成長する途上。

 七罪は世界そのものとも言える士道とどうしても離れなくてはならなくなっても、泣き叫ぶことはなくなった。

 代わりに、全ての希望が失われた死んだ目でただ士道の布団にくるまり残り香と体温の名残だけを感じて自分を慰め、また士道に会える時をじっと待つ。

 それが、他人の部屋に引きこもる奇妙な七罪の生態の正体だった。

 

 ただの引きこもりよりも社会不適合極まりない。

 これで何か特殊な能力でもあれば良かったのだろうが…………あいにく七罪は運動も勉強もできない、凡人以下のただの人間でしかなかった。

 

 または。

 

 もし士道が七罪以外にも何かを抱えていて、それによって大変な思いをしていれば、今度は自分が士道を支えるべく奮起し成長した可能性もあっただろう。

 

 だが士道は七罪に掛かりきりで、ずっと甘え甘やかされ続け、結果既に取り返しの付かないところまで堕落しきっている。

 

 “ここは、そんな世界だ”

 

 そんな中で七罪は、そろそろ確認しておこうと思ったのだ。

 

 

「ねえ士道。

―――――士道が私だけを見てくれる、この優しい日々〈ユメ〉はいつ終わるの?」

 

 私の幸せな人生は、いつ終わるの?

 

 

 幸せ、ああ確かに幸せに決まっていた。

 士道が無条件にくれるものをねだり続ける人生だ、幸せでない訳がないだろう。

 

 ただその分は確実に士道の負担となって山と溜まっている。

 だからいつか彼の重荷となることを止め、それからはどこか遠くで士道に知られずにひっそりと手首を掻き切るまで、今まで幸せだった分まで砂を噛むより味気ない人生を送り続けるだろう。

 

 それは義務であり、覚悟も恐怖も無く七罪はそんな未来をただ無感動に受容していた。

 

 なのに――――なのになんてことだろう。

 

 

 士道は、少し呆れたように笑っていた。

 

 

「ずっと続くさ」

 

 

「…………え?」

 

「俺はずっと七罪の事見てるよ。それを優しいユメだと言ってくれるなら、その夢は覚めることなんてない」

 

「そ、それって………」

 

 現金だ、卑しいと七罪は自分に対して思った。

 さっきまであんなことを考えていたのに―――――士道の言葉一つで、全身に行き渡る高揚が止まらない。

 

 火照って、湯茹った思考がまた士道に甘え、幸せをねだる。

 

「そ、そういう意味に取っちゃうよ?…………いいの?」

 

 そして、やっぱり士道は七罪を甘やかす。

 

 前髪を手の甲で掻き分け、額に触れる『だいじょうぶ』の合図。

 だが、この時は、そしてこの日からずっと追加された動作があった。

 

 身を屈めた士道の顔が近付き、七罪の小さな唇を奪う。

 

「…………っ」

 

 口内をすり抜けて脳に直撃するふわふわとした衝撃に、七罪はマナーや恥ずかしさ関係なく目を閉じ、キスの感覚に全ての神経を集めた。

 

 心地いい、蕩けそう、そんなどこかで見たような月並みな感想しか出てこない。

 

「…………………っぷ、ぁ………」

 

 そしてゆっくりと、本当にゆっくりと唇を離されそれでもなお名残惜しくて仕方ない七罪に、それはトドメを刺すような。

 

 

「好きだ、七罪」

 

 

「ぁ、ぅ…………」

 

 もう、立っていられない。

 ぽすりと、士道の懐の内に飛び込み体を預けた。

 

「私も大好き、士道…………」

 

 かちりと、何かが嵌まったような音がした気がした。

 自分という鎖が、士道の腕に結びつけられた音だと七罪は思った。

 

 もう、絶対離れられなくなった。

 士道が戻ってこない日々をただ受け入れることすら、もう出来なくなった。

 

 これから先、これ以上堕ちてどうなるというのだろう。

 

…………恐怖も躊躇いもなかった。

 

 士道がいるなら、士道に関係ないなら、そんなものどうでもいい。

 幸せ過ぎてどうにかなってしまったまま、七罪は頭上の士道を頑張って見上げ、真っ直ぐに言う。

 

「ずっと一緒だからね、士道」

 

「ああ、約束する」

 

「うん。………後悔なんか、させてあげないから」

 

 なんだかおかしな七罪のその言葉に、士道は優しい笑みを返してくれた。

 

 

 





「そして二人は、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ」

 日の出前の薄紫から、青く白く輝き始める街並み。
 手をついたガラス越しにそれを見つめる凜祢の眼差しは、まるで別世界を見ているかのように焦点が果てしなく遠い。

 じっとぴくりとも動かずに何かを見据え続け………ふと、気の抜けたように突然あっさりとその手を下ろした。
 窓に薄ぼんやりと残った掌の跡に背を向け、誰にともなく言う。

 どこか寂しそうな、力の無い笑顔のままで――――。


「まずは、一人目」


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